感情労働とは?看護師や介護士が疲弊する原因とストレス対策

働き方改革に伴い、様々な労働問題に焦点が当たる中、職場のストレス要因として「感情労働」という概念が注目されています。この記事では感情労働の意味や、感情労働が求められる職種、社員のストレスへの企業の対応策について解説します。

感情労働とは?

感情労働とは、「頭脳労働」や「肉体労働」と並ぶ働き方の種類です。労働者が感情を抑制し、我慢や忍耐が必要不可欠となる労働を指します。

蓄えた知識を使う頭脳労働や、鍛えた体力が肝心な肉体労働とは異なり、感情労働では業務遂行のために、常に己の感情をコントロールすることが求められます。

感情労働・頭脳労働・肉体労働の意味について解説します。

感情労働の意味

感情労働では、「感情」そのものが仕事に不可欠であるとされます。それだけではなく、どのような感情が望ましく、また望ましくないのかがルール化されている労働を指します。

感情労働を行う人間は、業務中は礼儀正しく明るくふるまうことを要求されます。

相手が怒っていたり、非常識な要求をしたりしていても、怒りなどのマイナスの感情を抑制し、冷静に対応しなければいけません。

感情を抑えることで労働の対価である賃金が発生するというのが、感情労働の持つ要素です。

そのため、自己の感情と仕事上で求められる振る舞いとのギャップにジレンマを感じることもあります。

頭脳労働

頭脳労働とは、頭を使って考え出したアウトプットをお金に変える仕事のことを指します。

深い見識や、広大な知識、熟年の経験が求められる大学教授や弁護士といった職業、もしくは、蓄えた知識を迅速に処理して解決策をはじき出すエンジニアやプログラマーも頭脳労働に相当します。

経験や知識をもとにクリエイティビティを生かし、創作活動を行うデザイナー、小説家、漫画家等も頭脳労働と呼べるでしょう。

肉体労働

頭脳労働と反対に考えられる肉体労働の範囲は、一般的には体を使って働く仕事と考えられます。それ以外に、与えられた業務や作業をこなす仕事も肉体労働に当てはまります。

そのため、工事現場で働く社員のほか、定時で決められた業務を行う会社員も肉体労働に該当すると考えられます。

介護士や看護師など。感情労働が求められる職種

常に感情のコントロールが求められる感情労働に該当する職種には、介護士や看護師などがあります。代表的な感情労働の職種をみてみましょう。

ホテルスタッフや販売員などの接客業

お客様の満足のために礼儀正しい振る舞いや笑顔を求められる接客業は、感情労働の代表的職種といえます。

ホテルスタッフや店舗の販売員は、理不尽な要求であっても、耳を傾け、ときには謝罪の言葉を繰り返しながら、相手の感情に寄り添い適切な対応をしなければいけません。

苦情に対応するクレーム処理係やコールセンター

相手の一方的なネガティブな感情に向き合わなければいけないクレーム処理やコールセンターも、感情労働といえます。

誤解や不満に対して、誠実な対応と企業の責任感を見せることが要求されます。状況によっては、非常に高度なレベルで感情のコントロールを行わなければならず、労働者の心にかかる負荷も大きくなります。

看護師や介護士

知識を不可欠とし頭脳労働と考えられる医療職の看護師や、頭脳労働と肉体労働の両方の要素を兼ね合わせる介護士も、感情労働の一種に分類されます。

これらの仕事は、病気の治療や身体的補助・介護といった内容のため、真心のこもったサービスを求められます。

また、判断ミスが許されない緊張を強いられる仕事でもあります。労働者は状況と知識をもって判断し、相手の感情には冷静に耳を傾け的確な対応をしなければいけません。

感情労働による社会問題

日本社会では、少子高齢化により介護職の需要が高まっています。また、高度なコミュニケーションが求められる社会では、一定の職種に限らず、相手に配慮し自分の感情を抑える行動が求められます。

こうした感情労働の増加は、高品質なサービスを受けられる社会をつくる一方で、労働者側の精神状態を悪化させる可能性があります。以下に、感情労働により引き起こされる可能性のある問題点をみてみましょう。

バーンアウト(燃え尽き症候群)

労働者があまりにも熱心に仕事に取り組んでいるケースでは、バーンアウト(燃え尽き症候群)と呼ばれる状態に陥る可能性があります。

感情労働は、相手の気持ちを特定の状態へと導くために、労働者自身の感情を抑制しなければいけません。相手側主張がネガティブなものであるほど、労働者が受ける精神的消耗が激しくなります。

気持ちがすり減った状態では、虚無感といったむなしさを抱きます。責任感が強く、熱心に仕事に取り組んでいる人ほど、感情を抑制したあとの反動が激しくなります。

「仕事にやりがいを感じられない」「働きたくない」といった、働く目標を見失ってしまうのがバーンアウトです。

うつ病等の精神疾患

感情労働では、どのような状況でも自分の感情を抑え、表情や態度をとりつくろわなければいけません。

こうした日常的な行動は、労働者の精神に大きなストレスをためることになります。うつ病や依存症といった精神疾患を患うこともあります。

精神疾患により就労できなくなった労働者に対しては、適切な対応が企業側に求められます。

働く意欲の低下

働くモチベーションとなるのは、お客様の感謝の声や、自分の働きかけにより状況が改善されたなど、何かしらの達成感が必要です。

しかし、感情労働の場合、相手の気持ちを一定の状況へと導くのが当然とされるため、かけた労力に対して、仕事の充実度を得にくいという特徴があります。

接客業でも、クレームを冷静に聞き笑顔で処理するのが当然。介護士の現場で、利用者さんが暴れてもあわてずに対処するのが当たり前など、業務中に負った労働者の精神的負荷が見過ごされる傾向にあります。

仕事の醍醐味が味わえない状況が続くと、何のために働くのか、仕事の意義を感じられなくなり働く意欲が低下します。組織内の労働者の意欲低下は、企業のサービス品質の低下や生産性の低迷につながります。

感情労働で「辞めたい」と疲弊する社員を救うためのストレス対策

感情労働に該当する職場で、精神的疲弊により退職を申し出てきた社員がいた場合、人事はどのように対応するべきでしょうか。

感情労働に従事する労働者のストレスを限界まで達しさせないために、講じるべき措置をご紹介します。

時間外労働の適切な管理で、従業員の精神的負荷を減らす

企業がまず注意するべきは、労働時間と精神的負荷の関係です。感情労働でも肉体労働でも、労働時間が長ければそれだけ心身に蓄積する疲労やストレスの割合が増加します。

感情を抑制して仕事に従事している労働者は、自己の過大なコントロールから解放され、リラックスする時間が必要です。そのためには、企業は従業員の労働時間を適切に管理しなければなりません。

原則的に法律で定められる労働時間は、1日8時間・週40時間です。それを超えて時間外労働をさせる場合、企業は36協定を締結する必要があります。協定を締結した場合でも、年720時間、複数月の平均にして80時間を超えることは違法です。

法律内の時間外労働であっても、長い労働時間は従業員に負荷をかけます。ストレスが溜まり、職場全体の働く意欲が下がってしまう前に、業務の効率化や省人化で長時間労働を是正することが求められます。

産業医との連携は、企業に求められる対応

長時間労働への対策として、企業は産業医と連携して労働者の健康を守ることが求められます。2019年4月から施行された働き方改革関連法では、従業員が産業医との面接指導を申し出る時間外労働の基準が、月80時間に設定されました。

企業は該当する従業員に対して産業医との面接指導の旨を通知し、本人から希望があれば面談を設定します。長時間労働が当たり前となっている職場では、従業員のうつ病や燃え尽き症候群といった精神疾患のリスクが高くなります。

企業は適切な労務管理を行いながら、感情労働で疲弊した労働者に対して、産業医との面談設定や提携クリニックの紹介など措置を講じる必要があります。

定期的な面談を通じて、従業員の感情に寄り添うケアを

感情労働でもっとも問題視されるのは、自己の本音を話す機会がないということです。感情をコントロールし、抑制状態が普通となってしまうと、「喜び」「幸せ」といった己の感情を実感する働きが鈍くなります。同時に働く意義や、仕事の存在価値への認識も曖昧となり、業務のストレスだけが強調されるように。

そうなる前に、定期的な面談を通じて従業員の感情に寄り添うケアを行わなければいけません。仕事でどのような点を評価しているのか。今後期待することは何か。本人の働きぶりに応じて、適切なフィードバックを与えることは、感情労働では得にくい納得感や達成感を感じさせることができます。

また、仕事での悩みや、ストレスを感じることについて、従業員が気兼ねなく相談できる雰囲気作りも大切です。

社員のストレス軽減は職場環境の改善と人事評価制度の見直しから

感情労働と、それに従事する社員のストレス負荷は、切っても切り離せない関係です。負荷を減少させるためには、職場の就業環境の改善が大切です。長時間労働の是正や、うつ気味で働くモチベーションが低下した社員への適切な対応など、企業がとるべき対応に気を配りましょう。

さらには、感情という数値化しにくいものを対価に働く労働者の成果を、公平に評価する仕組みが求められます。人事評価を感情労働の特徴を念頭において設計することで、働く社員が適切に評価されます。それにより、職場の活性化や離職率の低下につながるでしょう。

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