注目の「エバンジェリスト」ってどんな仕事?ミッションや役割を解説!

(画像=kumikomini/iStock)

どのような業種であれ、ITの活用は経営戦略や事業戦略においても重要な要素となっています。

ただ、単にIT分野に明るい人材を確保すれば良いというものでもありません。エバンジェリストは専門的な人材であると同時に、最新のテクノロジーやITにおけるトレンドをユーザーに分かりやすく伝えていく役割を持ちます。

今回はエバンジェリストの基本的な役割と職種としての特徴などについて、詳しく見ていきましょう。

エバンジェリストとは?仕事内容とミッション

エバンジェリストについて正しく理解するためには、言葉の意味だけでなく、仕事内容や求められる役割なども把握しておく必要があります。

また、日本の著名なエバンジェリストについて知ることで、具体的なイメージを抱きやすくなるでしょう。エバンジェリストの仕事内容とミッションについて紹介していきます。

エバンジェリストの意味は?

エバンジェリスト(Evangelist)はIT業界における職種であり、高度で複雑なIT技術やトレンドを分かりやすくユーザーに伝えていくことを役割としています。

そもそもエバンジェリストの語源とは、英語のEvangelist。Evangelistの意味は伝道者、福音を説く人です。主にキリスト教の世界で使用されてきた言葉で、キリスト教徒の中でも、民衆にキリスト教の教旨を伝え信者を増やすための活動を行う職業の人のことを言います。

このキリスト教の伝道者に由来することもあり、企業に対する個別の啓蒙活動に加えて、ITエンジニアを対象としたセミナーで講師を務めたり、新たな製品やサービスのプレゼンテーションなどを行ったりしているのです。

自社の技術を正しく伝道する専門職として位置付けられており、エバンジェリストのポストを新設する企業も増えています。

担当者は自社が提供する製品やサービスについて精通すると同時に、端的に要点を伝えるプレゼンテーション能力が求められるのです。

ITに関する商品は数多く出回っているため、ユーザー自身がその中から最適なものを選んでいくのは困難でもあります。そのため、顧客が抱える問題を解決するために、営業に同行したりセミナーで講演したりするなど、さまざまな活動を行っているのです。

エバンジェリストの仕事内容

エバンジェリストの基本的な仕事内容としては、「イベントにおけるプレゼンテーション」「プリセールスエンジニア」「インナーマーケティング」「製品・サービスの研究」といった点があげられます。

プレゼンテーション

特に重要なのがプレゼンテーションであり、大人数の前で自社の製品やサービスを紹介する大事な役割を担っているのです。専門家ならではの知見に基づき、ユーザーに対して商品価値を伝えていき、購入につなげていくことがミッションだといえます。

プリセールスエンジニア

プリセールスエンジニアとしての役割は、新製品の導入をすでに検討しているユーザーに対してデモンストレーションを行います。

インナーマーケティング

インナーマーケティングとは、社内向けに行う啓蒙活動であり、新製品の特徴やブランドイメージなどについて従業員の理解を深めさせるのが目的です。

製品・サービスの研究

そして、数多くのプレゼンテーションを行うためにも、製品やサービスについて常に研究していくことが重要になります。特に変化の激しい業界においては、最新情報に対して貪欲に学んでいく姿勢が求められます。

一般社員と比較しても求められるスキルは高度なものがあり、エバンジェリストとなる人材には長年の業界経験と向上心が必要とされるでしょう。

また、何よりも自社の製品・サービスに対する愛着を強く持っておく必要があります。

エバンジェリストのミッションと役割

エバンジェリストが必要とされる理由は、IT業界を取り巻く環境が急激に変化してきた点があげられます。

ただ、目まぐるしい変化が起こるなかで技術的な話題や専門的な言葉を使いこなすのは難しくもあり、相手に分かりやすく伝える存在が求められていたのです。

エバンジェリストは自社の製品やサービスの良さを伝える役割を担っていますが、時には業界全体に関する話題もユーザーに提供していく必要があります。

自社の製品やサービスのみを売り込む一般的な営業職とは、違った側面も持っているのです。

また、営業職は基本的に1対1で向き合うことが多いですが、エバンジェリストの場合は多くの人を前にしてプレゼンテーションを行います。

専門家としての意見を述べつつも、立場としては中立であり場合によっては自社製品の短所を指摘したり、競合他社の製品と組み合わせて使用することをユーザーに進めたりすることもあるでしょう。

エバンジェリストは、ユーザーの立場に立って行動していく存在である点も注目されているのです。さらに、エバンジェリストは求人の職種としても定着してきており、多くの企業で求められる存在となりつつあります。

日本の著名なエバンジェリスト

日本において著名なエバンジェリストとして、日本マイクロソフトの西脇資哲氏があげられます。

西脇氏は、日本オラクルで10年以上にわたって製品のマーケティングを担当し、2009年に日本マイクロソフトに入社しています。自社の製品やサービスだけをプレゼンテーションするだけでなく、幅広い分野でエバンジェリストとして活躍しているのです。

コミュニケーションやデモンストレーションなどの領域で講演活動や執筆活動を行っており、金融業・製造業・教育機関・官公庁などにおいてプレゼンテーション講座も設けています。

そして、元・アップルコンピューターのエバンジェリストとして知られているガイ・カワサキ氏も日本において著名な存在です。

アップルは1984年に初代Macintoshを発売しましたが、対応するソフトがほとんどない状態でした。そうした状況を打開するために、外部のソフト会社に対してMacintosh用のソフトを開発してくれるように交渉するエバンジェリストという職種を設けました。

アップルからエバンジェリストとして任命されたガイ・カワサキ氏は後に、アップルの優れた技術者を認定する制度であるアップル・フェローという仕組みを作ったのです。

やがて、アップルからGoogleに入社したり、オーストラリアのスタートアップ企業のチーフ・エバンジェリストに就任したりするなど、精力的に活動を行っています。

エバンジェリストが必要とされる日本の深刻な背景とは

エバンジェリストが必要とされる背景には、IT 業界を取り巻く環境の急激な変化が挙げられますが、まだどこか他人事と考える企業も少なくありません。
今日本におけるIT化やIT人材の問題はどのような状況であり、今後どういった動向が想定されるのでしょうか?

経済産業省の2019年の報告によると、2030年のIT人材の需給ギャップはIT 需要の伸びが「低位」(1%)、「中位」(2~5%)、「高位」(3~9%)の場合、需要が供給を上回り、それぞれ 16.4 万人、44.9 万人、78.7 万人が不足するとの試算を立てています。

第2-2-17図 業務領域別に見た活用しているIT人材の構成比 (%)

  システムの開発や運用を行うIT技術者
(システムエンジニア、プロジェクトマネージャー等)
データ分析を行うIT技術者
(データサイエンティスト等)
外注によりIT技術者を活用している
(情報システム会社、フリーランス等)
開発・設計
(n=562)   
57.1 19.6 23.3
社内の情報共有
(n=901) 
51.5 21.1 27.4
生産
(n=736)    
48.2 20.8 31
調達・仕入
(n=850)    
46.9 20.2 32.8
物流
(n=449)    
45.9 20.7 33.4
販売・企画
(n=1,016)   
46.6 17.5 35.9
人事・総務
(n=835)    
39.3 24.4 36.3
財務・会計
(n=1,113)   
36.6 20.6 42.9
カスタマーサポート
(n=543)
41.1 14.4 44.6

資料:中小企業庁委託「中小企業の成長と投資行動に関するアンケート調査」(2015年12月、(株)帝国データバンク)
(注) IT投資を行っている企業を集計している。

また、中小企業庁が実施した、業務領域別に見たIT人材の活用方法の調査によると、財務・会計での活用が1位ですが、ここでは他社との差別化を行う必要がないため、外注でのIT人材活用が進んでいると推測されています。

社内で雇用されているIT人材は、製造業では開発・設計など生産プロセスにおいて、卸売業・小売業等は調達・仕入など物流プロセスにおいて、他社との差別化を行うために活用されているとの推定です。

IT人材が不足することがわかっているにも関わらず、IT人材の活用が急務であることがイマイチ実際の行動として反映されない理由は、調査でも言われている通り、「必要とする人物像が不明確」であること。

これまでITとは無縁だった業界にとって、どのような人材を社内で雇用・育成すべきなのかそもそもわかっていないのです。
そんな中、IT技術の全体的な知識は持ちながらも、一般人や社内の人に知識を伝授するエバンジェリストという役割は、ITの活用が重要とわかっていても進めることができなかった企業にとって重宝する存在と言えるでしょう。

エバンジェリストはこれまでIT企業で活躍してきましたが、今後は、別業種のITコンサルタントや社内の教育者として活躍の場が広がる可能性を持った職業なのです。これから、エバンジェリストのノウハウを持った、優秀な人材の獲得競争が起こる事が予想されます。

引用文献:経済産業省「- IT 人材需給に関する調査 -調査報告書」
     中小企業庁「中小企業白書(2024年版)」

エバンジェリストになるには?求められる能力

エバンジェリストとして活躍するためには、西脇資哲氏やガイ・カワサキ氏などの著名な人物の活動からも分かるように、一般社員よりも高い能力が必要とされます。

エバンジェリストとして必要とされる能力は、「高いプレゼンテーション能力」「経営者の視点」「最新の業界知識」といった要素が重要になります。それぞれの能力について、具体的に見ていきましょう。

高いプレゼンテーション能力

エバンジェリストにとって、プレゼンテーション能力の高さは必須だといえます。一般のユーザーや企業の前でプレゼンテーションを行う役割を担うエバンジェリストは、対話能力に秀でている必要があるのです。

人前で一方的に話すのではなく、聞き手がどの程度理解をしているのかを見極めて会話を進めていくことが大切でもあります。

声のトーンや視線の置き方など、聞く人を惹きつけるだけの話し方を備えておくことが重要です。また、同じ業界の人ではない相手にも伝わるように、専門的な知識をかみ砕いて説明する能力も求められます。

さまざまな場面で啓蒙活動を行うため、相手の興味やモチベーションをいかに引き出すかを考えることが大切です。

経営者の視点

また、エバンジェリストは自社の製品やサービスを紹介するだけでなく、ブランドイメージの向上させる役割も担っているため、経営者の視点で物事を捉えていく必要があります。

営業や広報の仕事のように自社製品だけに縛られてしまうのではなく、時には業界全体の動きも踏まえながら提案を行っていくことが大事です。

対外的には経営者に成り代わってプレゼンテーションを行うため、自信のある態度で話しつつも、自社に対する冷静な視点も備えておかなければなりません。

競合他社と比べたときの自社の立ち位置や自社の強みと弱みをきちんと理解したうえで、啓蒙活動を進めていくことが重要となります。

最新の業界知識

さらに、エバンジェリストは精力的にイベントやセミナーに参加する一方で、業界のトレンドや最新のテクノロジーについて貪欲に学んでいく姿勢を持ち合わせておくことが大切です。

専門知識を備えていることは必須ですが、古い知識だけにとらわれてしまうのは避けなければなりません。常に変化の激しい業界であれば、最新の動向というものは絶えず変わっていきます。

広い視野を持って業界の状況を探り、膨大な情報を整理して伝えていく能力が求められるのです。知識欲や向上心が強く、イベントの資料作りに手を抜かない地道さも必要となります。

そして、資料を作成した後には本番を想定して何度も練習を行うなど、より多くの人に伝える努力を積み重ねていくことが大切だといえます。

高いプレゼンテーション能力はすぐに身につくものではないので、繰り返し取り組んで改善していく姿勢が求められるのです。

企業がエバンジェリストを登用するメリット

エバンジェリストが社内向けにインナーマーケティングを実施すれば、社員のIT技術に関する知識や意欲が高まるため、企業全体の成長を促します。また、エバンジェリストの活躍によって現場のエンジニアへの評価が上がりやすくなり、エンジニアのモチベーション上昇につながることもメリットです。

また、エバンジェリストの登用によって最新のIT技術や知識を社内に蓄積できます。それを自社製品やサービスに活用すれば、競合他社と差別化を図れるような付加価値を高めたり、新製品開発につなげたりすることが可能です。

くわえて、エバンジェリストが社外で不特定多数にアプローチするようになれば、自社の製品・サービスだけでなく企業そのものの認知度を向上できます。さらに、これまで直接アプローチできていなかった潜在顧客に対してもエバンジェリストの活動を介して接触できるため、新たなビジネスチャンスを獲得できるかもしれません。

エバンジェリストを目指しやすい職種

ITコンサルタントとエンジニアはエバンジェリストにも求められる能力を必要とする職種のため、エバンジェリストへのキャリアチェンジがしやすい職種といわれています。

ITコンサルタントは、最新技術に関する専門知識、設計などシステム開発能力、ヒアリング・プレゼン・対話などコミュニケーション能力、危機回避能力などを有しています。それはエバンジェリストにも必要な能力です。

エンジニア持つ能力もエバンジェリストに求められる能力と共通しています。たとえば、最新技術への知識とコミュニケーション能力、業務をスピーディーに進める能力、開発能力やシステム運用能力などはエンジニアにもエバンジェリストにも求められる能力です。

エバンジェリスト育成のポイント

社内でエバンジェリストを育成する際のポイントは「人材の選出」「経営方針への理解」「育成プログラム」の3点です。

エンジニアやプログラマーで社内・社外に向けたセミナーの講師を勤めた経験を持つ人材をエバンジェリストに選ぶとよいでしょう。そういった人材であれば自社のIT技術やサービス全般に精通しており、かつ、プレゼン能力やコミュニケーション能力も期待できるからです。

エバンジェリストは自社の利益とシンクロした活動が求められるため、経営方針への理解を深めておく必要があります。

エバンジェリストにはIT技術・サービスに関する専門知識からコミュニケーション能力まで幅広い能力が求められるため、育成プログラムの導入が必要です。社内にエバンジェリストがいる場合は自社独自の育成プログラムを組むのもよいでしょう。あるいは、外部講師を招いて社内で勉強会を開いたり、社外研修を受けさせたりする方法もあります。

エバンジェリストを活用してIT社会で革新的なビジネスを生み出そう

これからの時代、新たな革新的事業を創出していくには、IT人材の活用は必要不可欠です。

エバンジェリストはITについて包括的に伝授してくれ、社内にITの芽を植え付けてくれることが期待できる職業でしょう。

社内・社外のエバンジェリストを上手く活用して、自社のビジネスチャンスの場を広げましょう。

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