業務改善や生産性向上に取り組むなかで、「PDCAサイクル」を導入している企業も多いのではないでしょうか。
PDCAは、計画・実行・評価・改善の流れで継続的な業務の見直しを促すフレームワークとして、長年にわたり広く活用されてきました。
しかし、変化のスピードが加速する現代では「PDCAだけでは柔軟な対応が難しい」と感じる場面も増えています。そこで注目されているのが、OODA・PDR・G-POP・STPD・DCAPなどの、よりスピーディーかつ柔軟なマネジメント手法です。
本記事では、PDCAサイクルの基本からメリット・デメリット、PDCA以外の代表的なフレームワークを解説します。
自社に最適な業務改善の手法を見つけるヒントとして、お役立てください。
目次
PDCAサイクルとは業務・プロセスなどの問題を解決するための手法
PDCAとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)のサイクルで、業務や品質を改善するためのフレームワークです。
計画から改善までの流れを一つのサイクルとしてとらえ、継続的な業務・品質改善を目的としています。
PDCAサイクルは、1950年代にアメリカの統計学者デミング博士によって提唱されました。
日本では主に製造業を中心に、生産技術や業務の品質を管理する効果的な手法として広く普及しました。
現在では、ビジネスやスポーツなど、業界や分野を問わずさまざまな場面で活用されています。
Plan(計画)
Plan(計画)では、設定した目標を達成するための実行計画を策定します。
製造現場であれば「不良品率を2%未満に抑える」、営業現場であれば「受注率を10%以上に引き上げる」など、具体的な数値目標を立てるのがポイントです。目標は、測定可能で現実的に達成可能な内容にすると、より効果的な計画になります。
また、実行計画を立てる際には実施予定日や締切、担当部署・担当者、実施方法などを明確にしておくことが大切です。
このとき「5W2H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように・いくらで)」の7項目を意識すると計画の精度が高まり、スムーズに実行へ移しやすくなります。
具体的なアクションプランをしっかり立て、実行段階で迷わないように準備を整えましょう。
関連記事:5W2Hについてまとめた記事はこちら
Do(実行)
Do(実行)では、「計画通りに実行すること」と「実行記録を残すこと」を意識しましょう。
計画に沿って行動すると、その場の思いつきや惰性に流されることなく、目標達成に必要な業務へ集中できます。あらかじめ定めた行動に専念すると、目標を実現できる可能性も高まるでしょう。
また、実行した内容を記録として残すことも重要です。記録があれば、後から行動を振り返る際に思い違いや記憶違いを防げるだけでなく、行動を正確に分析できます。
質の高いCheck(評価)につなげるためにも、実行記録の存在が重要です。
Check(評価)
Check(評価)では、「目標の達成度」と「行動の分析」の2点を意識しましょう。
目標の評価は達成・未達だけでなく、「どの程度達成できたか」などの達成度を測ることが大切です。
例えば「不良品率2%未満」という目標であれば、実際の数値と照らし合わせてどの程度目標に近づいたかを定量的に評価します。数値を用いることで、主観に左右されない客観的な分析が可能です。
そして行動の分析とは、目標達成に向けて計画した行動が実際に実行されたかを確認し、その結果を評価することです。
「計画通りに実行できたか」「実行できなかった場合、その原因は何か」を明らかにすると、次のステップである改善(Action)に活かせます。
Action(改善)
Action(改善)は、Do(実行)とそれに対するCheck(評価)を基に行います。
重要なのは、成功と失敗の要因を明確に分け、それぞれに対して適切な対応を選ぶことです。
まず、現在行っている業務のなかから成功につながったと思われる要因と、失敗につながったと思われる要因を分類しましょう。分類によって、どの工程を優先的に改善すべきかが明確になります。
次に、分類した要因に対して「継続」「改善」「中止」のいずれかの対応を選択します。成功要因は継続の判断がしやすいですが、失敗要因は改善すべきか中止すべきか迷うこともあるでしょう。
判断に迷う場合は、再度PDCAを回しながら試行錯誤を重ねるのも有効な方法です。
継続的に改善を加えることで、より質の高い業務プロセスが実現できます。
PDCAのメリット
次に、PDCAのメリットを解説します。
- 目標やタスクを明確に設定できる
- 無駄を省いた業務改善ができる
- 継続的に品質管理や業務改善ができる
順番に見ていきましょう。
目標やタスクを明確に設定できる
PDCAのフレームワークは、最初に「目標」や「タスク(課題)」を設定するのが前提の仕組みです。言い換えれば、目標やタスクが明確でなければ、次の「実行」プロセスへは進めません。
本来であれば、活動のスタート時に目標やタスクを掲げるのは当然のことですが、現実にはこの順序が守られないケースもあります。
結果、「何のためにこの活動をしているのか分からない」「個々の施策はうまくいったのに、全体としての成果が出なかった」などの問題が起こりがちです。
このような失敗を防ぐには、最初にPlan(計画)を立てるPDCAの考え方が有効です。的確な目標やタスクを設定すると、すべての行動が設定した軸に基づいて動くようになり、ブレのない活動につながります。
関連記事:will-can-must(フレームワークの一種)についてまとめた記事はこちら
無駄を省いた業務改善ができる
明確な目標やタスクが定まっていれば、具体的なアクションも立案しやすくなります。
「目標を達成するために何をすべきか」という思考に切り替わり、目標に合った具体策を検討しやすくなるためです。結果、行きあたりばったりの改善に取り組んでしまう事態も防げます。
また、目標と施策がかみ合わず、個人レベルでの課題や優先順位の低い施策に取り組んでしまうケースも少なくありません。
しかしPDCAを導入すれば無駄な業務改善が減り、目標達成に直結する施策に集中できるようになります。
継続的に品質管理や業務改善ができる
PDCAサイクルは、失敗を振り返りながら継続的に改善していくための仕組みです。繰り返し実施することで品質管理の精度が高まり、業務の効率化にもつながります。
例えば、業務マニュアルを作成して終わりにすると、その後の進歩が期待できません。たとえ非効率な点やミスが起きやすい部分があっても、改善されることなく放置されてしまうおそれがあります。
一方で、PDCAサイクルを継続的に回していけば「うまくいった点」と「改善すべき点」が明確になり、効果的な改善が進みます。
目標と現実のギャップが解消されれば、新たな目標を設定して次の改善サイクルへとつなげていけるでしょう。
PDCAのデメリット
次に、PDCAのデメリットを解説します。
- 改善に時間がかかる
- 前例主義になりがち
- PDCAが目的化する
PDCAを取り入れる際は、デメリットに注意して実施しましょう。
改善に時間がかかる
PDCAのデメリットとして、改善に時間がかかる点が挙げられます。
PDCAは、計画・実行・評価のプロセスを経て改善を行う手法のため、改善アイデアを思いついてからその場ですぐに実践ができません。
計画を立てて実行し、結果を評価してからようやく改善に取り組むことになります。そのため、改善を反映するまでに一定の時間が必要です。
さらに、考案した改善案が本当に効果的かを判断するためには、改善後に再び「計画→実行→評価」のプロセスを繰り返す必要があります。
もし改善案が期待した効果をもたらさなかった場合には、新たな施策を試すために時間と労力がかかります。
前例主義になりがち
PDCAには、前例主義に陥りやすい課題があります。
PDCAは、過去に実施した施策や行動を評価し、その結果を基に改善案を導き出す考え方です。分析対象はあくまで過去の実績に限定されるため、まったく新しいアイデアが生まれにくい傾向があります。
改善活動を効果的に進めるには、他社の事例を参考にしたり外部からの意見を取り入れたりするのが有効です。
しかし、PDCAはもともと内省的なフレームワークのため、外部の発想に至りづらい側面があります。革新的な改善を目指すにはPDCAだけにとらわれず、外部にも積極的に目を向ける姿勢が必要です。
PDCAが目的化する
PDCAが過度に目的化してしまう問題も挙げられます。
PDCAは、現状の業務プロセスを分析したり、問題点を発見したりするうえで有効なフレームワークです。しかし、計画の策定・実行・記録・評価などの一連のプロセスには、それなりの手間・時間・労力がかかります。
本来、PDCAは品質管理や業務改善を実現するための「手段」のひとつにすぎません。改善サイクル自体を「目的」にすると、本来達成すべき成果からズレてしまうおそれがあります。
そのため、PDCAを導入・運用する際には「どのような効果が期待できるのか」と「どれだけのコストがかかるのか」のバランスを意識して取り組みましょう。
効果的にPDCAを回すためのポイント
次に、PDCAを効果的に回すポイントを解説します。
- 目標は数値で定量的に示す
- 計画は具体的に立てる
- Plan(管理側)とDo(現場の従業員)のギャップを意識する
- 会社をとりまく環境を意識してサイクルを回す
手間と時間を要するからこそ、より効果的な改善ができるように、以下で解説するポイントをおさえておきましょう。
目標は数値で定量的に示す
目標はできる限り、定量的な数値で示すことが重要です。
目標が抽象的すぎると、Check(評価)のプロセスで達成できたかの判断が難しくなります。
また、「こうだったから、こうなった」という仮説と検証のロジックも曖昧になり、具体的な改善につなげにくくなります。
例えば「顧客ファースト」などの抽象的な目標ではなく、「顧客満足度を90%に引き上げる」など、具体的な数値で表現するのが望ましいです。数値で目標を設定すれば結果の成否が明確になり、客観的な分析もしやすくなります。
目標を立てる際には、Check(評価)の段階で測定可能かを事前に検討するのがポイントです。
計画は具体的に立てる
Plan(計画)は、Do(実行)との関連性が誰にでも理解できるように、具体性を持たせましょう。計画が抽象的すぎると、実行施策の自由度が高くなりすぎてしまい、行動がバラつく原因になります。
例えば、コールセンターのPDCAで「顧客のストレスを減らす」などの抽象的な目標を掲げる場合。「接客マナーを徹底する」「回答精度を高める」など、さまざまな施策が考えられるため、方向性が定まりません。
一方で、「平均応答時間を20秒以内に短縮する」など具体的な計画にすれば、取るべき施策は自ずと絞り込まれます。結果、個人レベルでも「何に取り組むべきか」が明確になります。
計画に具体性を持たせるには、「現実的に達成可能か」「いつまでに達成するのか」などの観点を意識するのがポイントです。計画がただのお題目で終わらず、PDCAをどのスパンで回すかも明確になります。
Plan(管理側)とDo(現場の従業員)のギャップを意識する
PDCAは一つの連続したサイクルですが、各段階で関わる担当者が異なる場合もあります。
例えば、人事部がPlan(計画)を立てても、実際にDo(実行)を担うのは他の部署の従業員であるケースもあるでしょう。このような場合には、Planの段階でDoを担う従業員とのすり合わせを忘れずに行ってください。
事前に意見交換や情報共有を行うと計画の実行性が高まり、PDCAサイクルをより効果的に回せます。管理側と現場側のギャップを起こさないためにも、Planを作成する際は現場の声に耳を傾けましょう。
会社をとりまく環境を意識してサイクルを回す
PDCAサイクルでは、環境要因が十分に考慮されていないことが多く、社内外の状況が変化した際に柔軟な対応が難しくなるおそれがあります。
特に、長期的にPDCAを回す場合には、経済状況の変化や社内組織の再編などがDo(実行)の途中で発生する可能性もあるでしょう。
例えば「想定以上の成果が出た」と感じたものの、実際には外部環境の変化が主な要因だったケースも考えられます。
そのため、Check(評価)の段階では、環境要因が結果に与えた影響も十分に検討してください。
PDCAの活用・成功事例
次に、PDCAの活用・成功事例を紹介します。
- トヨタ自動車株式会社
- ネスレ日本株式会社
- ソフトバンク株式会社
- 株式会社良品計画(無印良品)
- GMOメイクショップ株式会社
各社の具体的な取り組みから、PDCAサイクル活用のヒントを探ってみましょう。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ生産方式は「KAIZEN(改善)」の代名詞ともいえる存在です。
しかしその本質は、PDCAサイクルを地道に繰り返す仕組みにあります。
項目 | 内容 |
---|---|
Plan(計画) | 「お客様にご注文いただいたクルマを、より早くお届けする」ことを目標に設定。ムリ・ムダ・ムラを排除し、効率的かつ最短時間で製造できる体制を構築することを目指した。 |
Do(行動) | 主に以下2つを柱とした「トヨタ生産方式(TPS)」を考案。 ・ジャスト・イン・タイム(JIT):必要なものを必要なときに必要なだけ生産 ・自働化:異常時に機械が自動停止し、不良品の連続生産を防ぐ |
Check(評価) | ・JIT方式:前後工程間の部品のやり取りをシンプルにし、在庫管理の最適化をチェック ・自働化:異常が発生した際に製造ラインを止め、作業員と管理者が問題の検証・評価を実施 |
Action(改善) | ・JITの改善:注文に応じて生産指示を出す、少量多品種の部品を事前に揃える ・自働化の改善:誰が作業しても同じ品質を保てるよう標準化し、手作業での改善をベースに量産体制へ落とし込む |
改善の最終段階では、誰が作業しても同じ品質が保てるレベルまで標準化を徹底したうえで、量産ラインへと落とし込みました。
結果、機械による異常検知や、マニュアルに基づく製造停止が迅速に実施できる体制が整い、高い品質と効率を両立させる生産モデルが実現しています。
ネスレ日本株式会社
ネスレは、Webマーケティングの分野にPDCAサイクルを導入しました。
「ライブモニタリング」「アドベリフィケーション」「効果計測」3つの柱に注力し、PDCAをスピーディーかつ精度高く回す体制を整えています。
項目 | 内容 |
---|---|
Plan(計画) | データ分析にかかる時間を短縮し、PDCAを高速化。 <重点項目> ・ライブモニタリング ・アドベリフィケーション ・効果計測 |
Do(行動) | ・ライブモニタリング:Datorama導入でリアルタイム分析を実現 ・アドベリフィケーション:ツールで指標を測定 ・効果計測:MMM手法で予算最適化 |
Check(評価) | ・ライブモニタリング:Datorama導入前後でレポート作成時間を比較 ・アドベリフィケーション:広告配信数や表示数をモニタリング ・効果計測:広告効果を売上との関連で分析 |
Action(改善) | ・ライブモニタリング:レポート作成のタイムラグを解消(目標達成) ・アドベリフィケーション:広告配信の質向上とコスト削減 ・効果計測:予算配分の最適化に成功 |
以上の取り組みによって、ネスレは意思決定のスピードと正確性の両立に成功しました。
特に、リアルタイムでの可視化・評価・改善を繰り返せる仕組みは、現代のマーケティング業務におけるPDCA活用の優れた事例です。
ソフトバンク株式会社
ソフトバンク株式会社では、PDCAサイクルを1日単位で運用する「超高速PDCA」を実践しています。
超高速PDCAは、1日ごとに目標を設定して毎日振り返りと改善を行うことで、改善までのスピードを飛躍的に高めるのが特徴です。
「日々の勝ち負け」と向き合いながら、営業活動の精度と成果を着実に積み上げていきます。
項目 | 内容 |
---|---|
Plan(計画) | ・1日ごとの目標を設定 ・目標は具体的な数値で決める(例:1ヵ月の販売目標を基に、1日あたりの販売目標を設定) |
Do(行動) | ・1日単位の目標に基づいて具体的な行動計画を立案(例:「営業訪問10件以上」など) ・計画したことはできるかぎり実行する |
Check(評価) | ・数値で評価し、毎日チェックを実施 ・月単位でもチェックを行い、目標設定の妥当性を検証 |
Action(改善) | ・未達成の場合は原因を検証し改善策を実行(例:訪問先の増加、商品の選定変更など) |
ソフトバンクの超高速PDCAでは、目標・行動・評価・改善の一連の流れを毎日回すことで、営業力の底上げを図っています。
従来のPDCAに比べてサイクルが圧倒的に短いため、素早く課題を見つけて即座に改善につなげられるのが強みです。
株式会社良品計画(無印良品)
無印良品を展開する良品計画は、PDCAのなかでも特にDo(実行)を重視した独自のスタイルで知られています。
一般的な「Plan→Do→Check→Action」ではなく、「Do→Check→Action→Plan」の順序でサイクルを回すのが特徴です。まずは行動しながら課題を見つけ、改善を重ねたうえで計画の精度を高めていく、柔軟かつ実践的な運用を実現しています。
項目 | 内容 |
---|---|
Do(行動) | ・まず「やってみる」ことを重視し、行動しながら改善点を発見 ・2001年の業績低迷期には、提案書をA4用紙1枚に簡素化し、計画にかける時間を削減して実行に集中できる体制を構築 |
Check(評価) | ・MUJIGRAM(業務マニュアル)の運用状況、店舗売上データ、顧客の声などを基に多角的に評価 ・「週1回、評価と改善の場を設ける」ルールを導入し、評価を習慣化 |
Action(改善) | ・評価結果に基づいてMUJIGRAMの改訂、商品デザインや店舗レイアウトの見直しなどを実施 ・「マニュアルは3ヵ月ごとに更新する」ルールにより継続的な改善を実現 |
Plan(計画) | ・Do・Check・Actionで得られた知見を基に計画を立案 ・最初から完璧を求めず、改善を重ねながら計画の精度を高めていくアプローチを採用 |
良品計画は、行動しながら改善し、後から計画に反映していくスタイルで業績をV字回復させました。
特に、MUJIGRAMを中心とした「仕組み化」と「現場主導の改善文化」は、無印良品の成長を支える要因となっています。
GMOメイクショップ株式会社
GMOメイクショップ株式会社では、ECサイト構築サービス「MakeShop」の提供に加えて、社内の営業体制にもPDCAを積極的に導入しています。
なかでも注目されているのが、営業部門での「G-PDCA」の取り組みです。
同社は、営業管理の効率化と成果最大化を目指し、従来のExcelベースの管理方法から脱却。プロセスマネジメント大学で学んだ手法やCRM/SFAツールを活用し、案件ごとに最適なアプローチを構築しました。
項目 | 内容 |
---|---|
Goal(目標設定) | ・少ない人員で効率よく売上を上げる ・スキルの偏り解消 ・営業活動への集中 などの課題解決を目指し、大型・中小案件に応じた目標を設定 |
Plan(計画) | プロセスマネジメント大学で学んだ手法を基に、ゴールから逆算して行動計画を策定 ・大型案件:WBS(作業分解構成図)を活用し、間接業務を分散 ・中小案件:各段階の歩留まりを確認し、目標との差から必要な行動量を算出して「最低行動量」を設定 |
Do(行動) | ・目標達成に向けて、設定した最低行動量に基づき営業活動を実践 ・営業マンの時間の使い方を見直し、営業活動に集中できる体制を整備 |
Check(評価) | 活動の成果を定期的に検証 ・大型案件:前年比108%の売上アップを実現 ・中小案件:歩留まりが大きく向上、受注までの期間も短縮 |
Action(改善) | ・営業プロセスの見直し、営業スキルの強化、組織体制の変更を実施 ・営業部門を大型案件・中小案件に完全分離し、「勝てるチーム」を構築 |
上記の取り組みによって、GMOメイクショップは「プロセスマネジメントアワード2018」の特別賞を受賞。
PDCAサイクルを現場に合わせて柔軟にアレンジすることで、営業の生産性向上に成功しました。
PDCAのよくある失敗例
次に、PDCAのよくある失敗例を解説します。
- Plan:目標があいまい、計画が現実的ではない
- Do:計画を実行しない、記録しない
- Check:客観的な評価をしない、原因を考えない
- Action:改善策を実行しない、標準化しない
失敗例と対策を理解して、PDCAを効果的に回す参考にしてください。
Plan:目標設定が甘い・計画が非現実的
Plan(計画)で多い失敗のひとつが、曖昧な目標設定や実現不可能な計画を立ててしまうことです。
例えば「売上を上げる」「業務を改善する」などの目標は一見正しく見えますが、数値や期限が明確でないため行動指針が曖昧になりやすいです。具体性に欠ける目標では、進捗の確認や改善の判断ができず、結果としてPDCAがうまく回りません。
また、理想を追いすぎて、リソースやスキルに見合わない計画を立ててしまうのもよくある失敗です。現場の実情を無視した非現実的なプランでは、行動に移す段階でつまずいてしまい、計画倒れになるリスクが高まります。
Planを立てる際は、「誰が・いつまでに・何を・どのように・どのくらい」実行するかを具体的にして、現実的に実行可能なレベルで目標を設定しましょう。
Do:計画を実行できない・記録を残さない
Do(実行)でよくある失敗は、Planが計画倒れで終わってしまうケースです。
例えば、業務の忙しさや突発的な対応に追われて計画通りの行動が取れなかったり、優先順位が曖昧で実行が後回しになったりすることがあります。計画がどれだけ優れていても、行動に移せなければ意味がありません。
また、もう一つの見落とされがちな失敗が、実行内容の記録を残さないことです。行動の過程や結果を記録していないと、次のCheck(評価)段階で何が良くて何が悪かったのかを正しく分析できません。結果、改善の方向性を誤ったり、同じ失敗を繰り返したりするおそれがあります。
Doのフェーズでは、現実的な行動を確実に実行するだけでなく、実施内容や数値などを記録として残すことが、PDCAを成功させる鍵です。
Check:評価が主観的・原因が特定できない
Check(評価)でよくある失敗は、評価が主観的になりやすいことです。
「なんとなくうまくいった気がする」「頑張ったからOK」などの主観的な判断では、成果の本質を見誤ってしまいます。特に、数値や客観的なデータに基づかない評価は、次の改善(Action)につながりません。
さらに、失敗した原因が明確に特定できないケースも多く見られます。
例えば「売上が伸びなかった原因が不明」「作業が遅れた理由が特定できない」などの状態では、何をどう改善すればよいかがわかりません。
Checkの精度を高めるには、数値データ・実行記録・フィードバックなどの客観的な材料を活用し、冷静に事実を分析する姿勢が不可欠です。原因を深掘りする際は、なぜを5回繰り返す「5Why分析」などの手法を用いると、問題の本質にたどり着きやすくなります。
Action:改善策を実行できない・標準化していない
Action(改善)では、考案した改善策を実行できない・標準化できないことが失敗として挙げられます。
忙しさやリソース不足、担当者の不明確さなどによって具体的な行動に移せないことが主な原因です。特に、改善案が現場にとって非現実的だったり、誰が何をすべきかが曖昧だったりすると、何も変わらないままPDCAが停止してしまいます。
また、一度うまくいった方法を共有・マニュアル化しないまま放置すると、せっかくの改善策が標準化しません。結果、同じ課題が再発したり担当者が変わった途端に元に戻ってしまうおそれがあります。
Actionのフェーズでは、実行可能で具体的な改善策を立て、確実に行動へと落とし込むこと。そして、効果のあった改善は仕組みとして定着させ、組織やチーム全体で再現性を持たせることが、継続的な成長につながります。
PDCAが「古い」と言われる理由
PDCAサイクルは、広く浸透している業務改善のフレームワークですが、現代のビジネス環境
では「古い」「時代に合わない」と指摘されることもあります。その背景には、主に以下の2つの理由が挙げられます。
- Plan(計画)に時間がかかりすぎる
- 新しいアイデアが生まれにくい
1つ目の理由は、Plan(計画)に時間がかかりすぎることです。
PDCAが提唱された1950年代と比較すると、現代は市場の変化スピードが格段に速くなっています。しかし、PDCAは計画に多くの時間を割く構造のため、サイクルを短期間で回すのが難しく、変化にスピーディーに対応するには不向きとされることがあります。
2つ目の理由は、新しいアイデアが生まれにくいことです。
PDCAは、既存の業務や手法を改善することに特化したメソッドであり、ゼロから何かを生み出すイノベーションとは相性が良くありません。
新しいビジネスモデルやテクノロジーが次々と生まれる現代で、PDCAだけに頼ったマネジメント手法では限界があるとの見方もあります。
とはいえ、PDCAの価値が失われたわけではありません。安定的な運用や継続的な改善が求められる場面では、今なお有効なメソッドです。
重要なのはPDCAだけに固執するのではなく、他のフレームワークと併用・使い分けながら、状況に応じて最適な方法を選ぶこと。
次の項目では、PDCA以外の代表的なメソッドと使い分け方を解説します。
PDCAに変わる問題解決フレームワーク5選
PDCAに変わる問題解決フレームワークには、以下の5つがあります。
- OODA
- PDR
- G-POP
- STPD
- DCAP
詳しく見ていきましょう。
①OODA
OODAループは、Observe(観察)・Orient(状況判断)・Decide(意思決定)・Act(行動) の4つのステップで構成される意思決定のフレームワークです。
アメリカ空軍のジョン・ボイド大佐によって提唱され、もともとは戦闘機パイロットが瞬時に状況を判断し、行動に移すためのモデルとして開発されました。
ステップ | 概要 |
---|---|
Observe(観察) | 状況の観察と情報収集 |
Orient(状況判断) | 情報の分析と解釈 |
Decide(意思決定) | 行動方針の決定 |
Act(行動) | 決定事項の実行 |
OODAループは、変化の激しいビジネス環境でも、柔軟かつ迅速に意思決定を行えるのが特長です。
特に情報の変化が速く、不確実性の高い現代のマーケットでは、PDCAサイクルよりもスピーディーな対応が求められる場面で力を発揮します。
OODAのメリット
OODAループは、スピード感のある意思決定と柔軟な発想力がメリットです。
先述の通り、OODAにはPDCAのような「綿密な計画づくり」が存在しません。そのため、観察と状況判断からすぐに意思決定・行動へと移せるため、変化の早い現場にも即応できます。
例えば、顧客ニーズが急速に変わる市場やトラブル対応が求められる業務現場など、スピードが重視される状況で特に有効です。
さらに、OODAは「最初に計画ありき」ではなく、観察と判断を繰り返しながら次の行動を決めていくため、発想の柔軟性も高まります。固定された枠組みに縛られず、状況に応じて自由に考え、斬新なアイデアが出やすいのも魅力です。
変化が激しい今の時代には、PDCAのような安定重視の手法と、OODAのようなスピード重視の手法を使い分けるのが効果的です。
OODAのデメリット
OODAループはスピードや柔軟性に優れていますが、その反面、組織的な一貫性や計画性が保ちにくいのがデメリットです。
即断即決を重視するため、長期的な改善や全体での足並みをそろえた取り組みが難しくなることもあります。
さらに、OODAは個々の判断力に依存するため、チーム全体でのスキル共有や連携が弱くなりやすい点も課題です。
PDCAとOODAの使い分け方
PDCAとOODAは、それぞれの特性に応じて次のように使い分けられます。
- 時間をかけた品質改善ならPDCA
- スピード重視・新規プロジェクト立ち上げならOODA
すでに解説した通り、PDCAは改善に特化したメソッドです。1サイクルに時間がかかるデメリットはあるものの、じっくりと分析しながら品質向上を目指す場面では有効です。スピードよりも質を重視したいときには、PDCAを活用しましょう。
一方で、スピードや柔軟な対応が求められる場面ではOODAが効果的です。特に、新しいアイデアが生まれやすい特長から、新規プロジェクトの立ち上げなどにも適しています。
②PDR
PDRは、Prep(準備)・Do(実行)・Review(評価)の3ステップからなるマネジメント手法です。
ハーバード・ビジネススクールの経営学教授、リンダ・ヒルによって提唱されました。
ステップ | 概要 |
---|---|
Prep(準備) | 実行の目的を決定 |
Do(実行) | 準備に基づく実行 |
Review(評価) | 結果の確認 |
決定的な違いは、最初のステップが「Plan(計画)」ではなく「Prep(準備)」である点です。綿密な計画を立てずに、実行の目的だけを決めてすぐに動き出せるため、意思決定から実行までが速くなります。
また、数値目標を設定しないため結果を待つ時間が不要で、すぐにReview(評価)に移行できるのも利点です。
そのため、スピード感を求められる現場や、トライ&エラーを繰り返しながら前進していくプロジェクトに適しています。
③G-POP
G-POPは、中尾マネジメント研究所代表・中尾隆一郎氏が提唱したフレームワークです。
PDCAには「ゴールを意識しにくい」課題があると指摘し、それを補う形でG-POPを開発しました。
ステップ | 概要 |
---|---|
Goal(ゴール) | 達成したい目標を明確に設定 |
Pre(事前準備) | ゴールから逆算して準備を行う |
ON(実行) | 準備に基づいて実行する |
Post(振り返り) | 結果を評価し、次のアクションにつなげる |
G-POPの特徴は、常にゴールから逆算して考える点です。最上位にGoal(ゴール)を設定し、その下にPre(事前準備)・ON(実行)・Post(振り返り)の3ステップを置く構造になっています。
ゴールを常に意識すると、会議の方向性がブレにくくなり、外注業者との意識共有もしやすくなります。
④STPD
STPDは、See(見る)・Think(考える)・Plan(計画する)・Do(実行する)の頭文字を取ったマネジメント手法です。
現状を観察・分析し、それを基に計画を立てて実行します。最初に計画から入るPDCAと異なり、現状把握からスタートするため、すでに見えているリスクや懸念を踏まえた現実的な計画が立てやすいのが特徴です。
ステップ | 概要 |
---|---|
See(見る) | 現状の観察と把握 |
Think(考える) | 分析と課題抽出 |
Plan(計画する) | 具体的な計画立案 |
Do(実行する) | 計画の実施 |
さらに、SeeとDoを並行して行えば、サイクルをより速く回すことも可能です。現状に基づいて論理的に計画を立てられる点も、実務での使いやすさにつながります。
ただし、STPDにはPDCAに含まれている「評価」や「改善」のプロセスが存在しません。意識的に取り入れなければ、結果の良し悪しが曖昧になります。
そのため、STPDを活用する際は、実施後の振り返りや改善をセットで行う意識が重要です。
⑤DCAP
DCAPは、Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)・Plan(計画)の順で進めるマネジメント手法です。
ステップ | 概要 |
---|---|
Do(実行) | まずは行動を起こす |
Check(評価) | 実行結果を確認する |
Action(改善) | 改善点を見出す |
Plan(計画) | 次のアクションを計画 |
最初に計画ではなく「実行」から始めるのが、PDCAとは異なります。まず行動してみることで、机上では見えなかった新たなニーズや市場の反応を把握できるのがDCAPの考え方。
特に、情報が乏しく先の見通しが立てにくい新規領域や未知の分野で、実践を通じて学びながら進めるアプローチとして効果を発揮します。
ただし、リスクの高い場面では慎重な計画が求められるため、DCAPが適さないケースもあります。
状況に応じて、PDCAなど他の手法と使い分けましょう。
PDCAやOODAをまわして生産性を向上させよう
PDCAは、計画から改善までの流れを体系的に管理できる、定番の業務改善フレームワークです。安定した品質管理や、継続的な改善が求められる場面では今なお効果的に機能します。
一方で、変化の激しい現代では、よりスピーディーかつ柔軟に対応できるOODAやDCAP、G-POPなどのフレームワークも注目を集めています。「とにかく動く」「ゴールから逆算する」など、PDCAとは異なるアプローチで成果を生み出す手法です。
どの手法にも長所・短所があり、万能なものはありません。大切なのは自社の課題や目標、現場の状況に応じて最適なフレームワークを選び、適切に回していくことです。
目的に合った手法を選び、実行・評価・改善のサイクルを回しながら、組織全体の生産性と成果の最大化につなげていきましょう。

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