コミュニケーションスキルを語るとき、よく耳にする「メラビアンの法則」。コミュニケーションの要素を言語・非言語で分解し、その割合を示した法則で、しばしば「人は見た目が9割」と言われる根拠とされています。
しかし、その意味が拡大解釈され、間違った捉え方をしている人も少なくありません。
正しく理解すれば、コミュニケーションの円滑化に役立ちます。本記事では、「メラビアンの法則」の本当の意味、ビジネスや日常生活で正しく活かす具体的な方法などを解説します。
メラビアンの法則とは?
研修やセミナーなどでよく耳にする「メラビアンの法則」。その概要や正しい意味を説明します。
メラビアンの法則の歴史
メラビアンの法則は、1971年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学者であるアルバート・メラビアンが提唱した概念です。「感情や気持ちを伝えるコミュニケーションをとる際、どんな情報に基づいて印象が決定されるのか」ということを検証したもので、その割合が示されました。
3Vの法則(7-38-55のルール)
メラビアンの実験では、「『楽しいね』と言いながら、声のトーンは低く、不機嫌な顔している」といったような、言葉と表情、態度が矛盾している状況で、人はどんな印象を抱くのかが検証されました。
その結果、提唱されたのが「3Vの法則」というものです。
「言語情報=Verbal」「聴覚情報=Vocal」「視覚情報=Visual」の頭文字を取って命名されたもので、この3つのVが以下の割合で伝達するとされています。
情報の種類 | 概要 | 影響度 |
視覚情報 | 見た目、しぐさ、表情、視線 | 55% |
聴覚情報 | 声の質や大きさ、話す速さ、口調 | 38% |
言語情報 | 言葉そのものの意味、会話の内容 | 7% |
つまり、言葉でどんなに「楽しい」と言っていても、態度や表情がつまらなそうであれば、「つまらなそう」という見た目の印象のほうが強く伝わる、ということを示したものです。
また、この割合から、「7-38-55のルール」と呼ばれることもあります。
メラビアンの法則における3つの要素(視覚情報・聴覚情報・言語情報)
それでは、視覚情報・聴覚情報・言語情報について、それぞれ詳しく解説していきます。
視覚情報
55%と最も多くの割合を占める視覚情報とは、相手の態度や表情、目線やしぐさといった、見た目から受け取れる情報のことを指します。
これは、「ボディランゲージ」とも呼ばれる「非言語コミュニケーション」「ノンバーバルコミュニケーション」にあたるものです。非言語コミュニケーションは、いわば“五感”を使ったコミュニケーションであり、言語以外の部分で相手の感情を読み取ります。
気持ちや想いと言った言語化が難しい情報を伝えることができ、スムーズな意思疎通を促すものです。
聴覚情報
聴覚情報は、相手が話している声の大きさやトーン、話す速さや話し方のことで、コミュニケーションにおける割合は38%とされています。聴覚情報も、視覚情報と同じく「非言語コミュニケーション」です。視覚情報と合わせると、その割合は93%。
つまり、コミュニケーションのうち9割以上を非言語コミュニケーションの情報が占めているということになります。
言語情報
7%の割合となる言語情報は、相手の話している内容や言葉そのものの意味を指します。言語情報によるコミュニケーションのことを「言語コミュニケーション」「バーバルコミュニケーション」といいます。
メールや手紙など、言葉のみを使ったコミュニケーションがこれにあたり、確率した言語を使うことで、明確に情報を伝えられることが特徴です。
ただし、非言語コミュニケーションに比べると気持ちや感情を伝えることが難しく、言葉だけのコミュニケーションでは、言いたいことがうまく伝わらないこともあります。
メラビアンの法則の具体例
メラビアンの実験では、3つのV をあえて矛盾させ、相手にどう伝わるかが実験されました。矛盾した情報が伝わった場合、相手にどのような印象を与えるのでしょうか。具体例を紹介していきます。
笑いながら叱る
メラビアンの実験でも検証されたのが、「笑いながら叱る」というものです。
この場合、相手はどのように情報をとらえるのでしょうか。
3つのVで考えてみると、
- 視覚情報:笑っている、明るい表情=ポジティブ
- 聴覚情報:低いトーン、怒った声=ネガティブ
- 言語情報:叱られている内容や言葉遣い=ネガティブ
55%を占める視覚情報が「笑っている」という情報になるので、「怒っていない」という印象が強くなります。
もちろん、話の内容が怒っていることには変わりありませんので、「怒ってはいるけど、本気ではない」と捉える人が多くなるでしょう。
納得のいかない表情で褒める
今度は、不満そうな表情で褒める、という状況を考えてみます。
先ほどとは逆に、話している内容はポジティブですが、表情や態度はネガティブな場合です。
各要素を考えると
- 視覚情報:不満そうな態度、暗い表情=ネガティブ
- 聴覚情報:明るいトーン、軽快なテンポ=ポジティブ
- 言語情報:褒められている内容=ポジティブ
今度は、55%が「不満そう」というネガティブなものになります。
こうなると、話の内容がどんなに自分を褒めているものであっても、本音では褒めていない、無理に褒めようとしている、と感じる可能性が高くなります。
不機嫌な声で「ありがとう」と言う
次は、聴覚情報と言語情報にも矛盾がある場合を考えます。
- 視覚情報:機嫌が悪そう=ネガティブ
- 聴覚情報:低いトーン、暗い声=ネガティブ
- 言語情報:自分に対してお礼を述べている=ポジティブ
言語情報の7%に比べて、圧倒的にネガティブな印象が先行します。
言葉でどんなに丁寧にお礼を言われていても、「不機嫌なんだな」という印象が強まってしまいます。
「第一印象がよければOK」は誤解。メラビアンの法則の正しい考え方
メラビアンの法則は、しばしば「人は見た目が9割」と言われる根拠とされています。
しかし、「言語コミュニケーションよりも非言語コミュニケーションのほうが重要」「話の内容よりも見た目や第一印象のほうが大事」という捉え方は誤解であり、拡大解釈です。
メラビアンの実験は、「行為や反感などの感情を伝えるコミュニケーションで矛盾した情報発信がされた場合、聞き手はどの情報を優先させるのか」を検証したもので、全てのコミュニケーションにあてはまるわけではありません。
あくまでも「感情を伝えるコミュニケーションにおいて」という限定的な状況で得られた結果であり、このことはメラビアン自身も明言しています。
とはいえ、メラビアンの法則が日常で活かせないというわけではありません。
この法則が画期的なのは、コミュニケーションにおける発信を「視覚・聴覚・言語」の3つに分けて捉え、この3つのVを一致させることで相手に的確に感情を伝えられると示した点です。
例えば、相手が自分の話に対してつまらなそうな顔で相槌を打っていたら、誰しもいい気はしないのではないでしょうか。
話の内容そのものが重要であることに間違いはありません。
しかし、身だしなみや態度、表情やボディランゲージといった非言語コミュニケーションで相手に好意を伝えることで、メッセージをさらに強化し、祖語なく伝えることができるというのがこの法則の本質なのです。
メラビアンの法則を使った話し方のポイント
ここでは、自分の意図や気持ちを聞き手にきちんと理解してもらうための話し方のポイントについて解説します。
言葉と表情が一致するように話す
「視覚情報」「聴覚情報」「言語情報」に矛盾があると、話の内容が正しく伝わりません。メラビアンの法則では非言語コミュニケーションの占める割合が大きいとはいえ、言葉と表情を一致させることは重要です。
例えば、誰かに謝罪するときに言葉では「すみません」と言っても、憮然とした表情ではかえって聞き手の印象は悪くなるでしょう。表情や態度、しぐさなども意識して、言葉と矛盾しないよう話すことがポイントです。
表情を豊かに話す
話す内容を正確に伝えるためには、できるだけ表情豊かに話すことが必要です。特に視覚情報において、笑顔は相手にポジティブな印象を与えやすく、「嬉しい」「楽しい」などの気分はもちろん、相手を肯定するようなシーンでも効果的です。
例えば相手に同意するシーンで、「そうだね」と笑顔で言った場合と無表情で言った場合では、相手の捉え方は変わるはずです。無表情だと誤解を招くこともあるため、話すときの表情を日頃から意識してみましょう。
声の高さや抑揚に気を付ける
声の高さや抑揚に気を付けることで、言語情報以上の内容が伝わるメリットがあります。ボソボソと聞き取りにくかったり、早口でまくし立てるように話したりすると、話の内容が伝わりにくくなります。聴覚情報として、声の高さや抑揚はとても重要です。
特に、疲れているときや緊張しているときなどは要注意。相手に良い印象を与えるためにも、相手が聞き取りやすい話し方を意識してみてください。話の内容はもちろん、自分の感情も伝わりやすくなります。
ボディランゲージを取り入れる
会話における非言語コミュニケーションの役割はとても大きいため、ボディランゲージをうまく活用することがポイントです。ボディランゲージが苦手という人がいるかもしれませんが、円滑なコミュニケーションには欠かせない要素です。
視線や表情、ジェスチャーなどを会話にうまく取り入れることで、言葉だけでは表現しにくい考えや感情などが伝わりやすくなります。相手に同意するときに「そうだね」と言いながら頷くなど、小さなことから始めてみましょう。
正しく内容が伝わる言葉選びをする
メラビアンの法則では言語情報が占める割合は7%と少ないものの、会話は言葉で成り立っているため、正しく内容が伝わる言葉選びは大切です。まずは相手に誤解を与えないよう、正しい言葉を使いましょう。そのうえで、表情や声のトーンなどを肉付けしていくイメージです。
難しい言葉を使う必要はなく、伝わりやすい言葉を意識して選んでみてください。
シーン別!ビジネスで活かせるメラビアンの法則
ここからは、ビジネスシーンでメラビアンの法則を活かす方法について見ていきましょう。
上司と部下のコミュニケーション
上司と部下のコミュニケーションにおいては、部下のほうが上司の態度や言葉に敏感になりやすいもの。深い意味のない言葉や態度が誤解を生むこともあるため、日頃から選ぶ言葉や声のトーン、表情、態度など全体を意識して話すよう心がけましょう。
部下を褒めるときには、笑顔で声のトーンも明るく「よくやった!」と言うことで気持ちが伝わりやすく、部下のモチベーションアップにも期待できます。
プレゼン
クライアントや社内向けのプレゼンでは、身振り手振りや表情、声のトーンなどをうまく活用して、相手の関心を引くことができます。話の内容に合わせてボディランゲージを変化できれば、聞き手とのコミュニケーションがよりスムーズになります。
余裕があれば、聞き手の性別や年齢、性格などに合わせてボディランゲージを調整することで、より効果を発揮できるでしょう。
取引先との商談
取引先との商談では、メラビアンの法則をファーストコンタクトやクロージングに役立てることができます。実際に対面してのコミュニケーションとなるため、相手の言葉や声のトーン、表情などから情報を得やすく、真意を汲み取りやすいでしょう。
一方、こちらの真意も相手に伝わりやすいため、表情や話し方の抑揚などにも気をつけて対応することが必要です。
電話
電話は、相手の表情やしぐさなどの視覚情報が得られないコミュニケーションツールです。メラビアンの法則で大きな割合を占める視覚情報に頼ることができないため、対面以上に選ぶ言葉や声のトーンなどに注意する必要があります。
ボディランゲージが使えないため、対面と比べ少々大きめに抑揚をつけることを意識しましょう。また、耳なじみのある言葉を使う、会話の間をうまく使うなども効果的です。
メール
基本的に文字のみを使って情報を伝達するメールは、感情を伝えにくいツールです。事務的な連絡やスケジュールの確認など、一般的に感情を伴わない情報を伝えることに向いています。
うまく内容が伝わったか不安な場合は、メールを送信した後に対面や電話でフォローしておくと安心です。
採用面接
採用面接では非言語情報にあまり捉われすぎず、話の内容に注目することが大切です。面接のノウハウを学んでくる応募者も多く、ノウハウに則った非言語情報に左右されてしまうと正しい判断ができない可能性があります。
また、応募者も採用面接を通じて「この会社に入社したいか」を判断しています。採用担当者も応募者から見られていることを意識し、相手に安心感を持たせる態度や話し方を心がけましょう。
メラピアンの法則を接客・恋愛で活かす方法
メラビアンの法則を正しく理解し、コミュニケーションに活かすことで、日常生活でも様々なメリットを得ることができます。接客・恋愛の2つのシチュエーションで具体例を紹介します。
接客
接客においては、好感の持てる積極的な印象を与えることが大切です。
TPOに配慮した服装を心がけたり、はきはきと明るい声でしゃべるなど、見た目や声のトーンを意識すると、相手に好印象を持ってもらいやすいです。
相手の心証を害することなく、円滑な関係を築けるでしょう。
恋愛
相手に好感を伝える際、視覚情報と聴覚情報を意識することで、より感情を伝えやすくなります。
目を見てにっこり微笑む、清潔感のある格好をするだけでも、相手との距離を縮めやすくなるかもしれません。
また、聴覚情報も重要です。ワントーン高めの声でしゃべる、明るく元気な声で電話に出るようにすると、よりいい印象を与えられます。
人事担当者もメラビアンの法則を意識したコミュニケーションを
「話の内容より見た目が大事」と誤解されがちなメラビアンの法則ですが、正しく理解することで、ビジネスシーンでも円滑なコミュニケーションを取りやすくなります。メラビアンの法則を活用するにあたり、大切なのは「3つのVを一致させる」ということ。
クライアントや社員とのやり取りをはじめ、採用面接でも見た目などの非言語情報だけに惑わされず応募者に好印象を残すなど、メラビアンの法則が活用できます。人とコミュニケーションを取ることが多い人事担当者こそ、ぜひメラビアンの法則を日頃から意識してみてください。
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