人材開発とは?3つの方法や助成金、制度を解説

少子高齢化と労働人口の不足から、現在の採用市場は「超売り手市場」といわれています。

優秀な人材を新しく採用することが困難になるにつれ、従来の採用活動と並行し、既存社員の能力を引き出す「人材開発」に取り組む企業が増えています。

人材開発は、社員のパフォーマンスを最大化させ、業績を向上させる方法として注目されています。

この記事では、人材開発の概要や、人材育成との違い、具体的な実施方法や企業の抱える課題、企業が活用できる公的な助成金や制度について解説します。

人材開発とは

人材開発とは、研修やOJT、コンサルティングなどを通して、知識やスキルといった社員のパフォーマンスを向上させることです。

新しい知識を一から身に付けるのではなく、各自がすでに持っている能力を最大限に高めることを目的としています。

社員それぞれの特性や傾向にあわせて、比較的短期間の訓練プランによって、ピンポイントで効率的な能力開発が実施されます。

また、新しい能力を身に付けることを目的としていないため、新入社員や新管理職など特に対象者を限定せず、全社員を対象として行われることも特徴です。

個々のパフォーマンスを最大限に高めることで、各自の成績を向上させるだけでなく、組織全体の力も向上させるとして、人材不足の昨今ではより注目を集めるようになっています。

人材開発と人材育成の違い

人材開発とよく混同される言葉として、「人材育成」があげられます。

現在では同義で使われることも増えていますが、人材育成は新しい知識や技能を一から身に付けることを目的としている点に特徴があります。

新入社員に向けて行う新人研修や、管理者になるためのキャリアアップ研修などが、その一例です。

人材育成は、社員の長期的なキャリアプランを土台として実施されます。

社会人としての基礎的なビジネスマナーから始まり、組織を統括するための管理者研修、他にもプライベートで活かすための資産運用が教育に取り入れられることもあります。

社員の安定的な労働を見据えて、長期的に取り組むのが人材育成といえます。

人材開発を会社で進める3つの方法

既存社員のパフォーマンスを最大限に活用するためにも、ぜひ実践したい人材開発。本項では、人材開発の3つの手法を解説していきます。

OJT

OJTとは、「On the Job Training」の頭文字をとった教育手法で、実際に実務を経験し、その中で社員を教育していく方法のことです。

仕事の具体的な手順を覚えたり、業務の全容を理解したりするため、主に社員の入社初期から導入されます。

特別に時間と場所を設ける必要がないため、指導者は仕事の手を止めることなく指導や教育ができ、部下にとっても実際の現場で実地的な知識を身に付けることができます。

また、専任の研修講師を利用したり、指導者が現場を離れたりする必要もないため、比較的低コストで実施できる点もメリットです。

一方で、指導者の教育スキルによって習得度に差が出てしまうといったデメリットもあります。

実践を通して経験的に知識や技能を身に付けていくため、座学と比べると体系的に学ぶことが難しく、どうしても指導者の教え方によって差がついてしまいます。

そこで、実施する際は習得する内容を具体的に設定し、到達目標と期限を決めてから取り掛かると効果的です。

指導者となる先輩社員の適性を見極め、手順や目標などの基準を作り、組織的に習得度を管理していく必要があります。

OFF-JT

OFF-JTは、OJTとは逆に、現場を離れて行う教育のことです。

社内で行う新人研修やステップアップ研修、専門業者が行うセミナーやコーチングといった、授業形式で行われる座学の研修などがOFF-JTにあたります。

経験的に知識や技能を身に付けていくOJTとは異なり、座学でじっくり知識を習得するため、体系的な理解を得られる点が特徴です。

他にも、研修内でグループワークを取り入れることが多いため、組織外の人と交流をはかったり、人と話すことで知識を整理できたりといったメリットもあります。

デメリットしては、研修の時間や場所の確保や、専任講師への依頼など、手間や費用が発生することがあげられます。

また、研修内容が業務とかけ離れていたり、社員にとって興味のないものだったりすると、せっかく研修で身に付けた知識の効果が発揮されないこともあります。

研修を導入する際は、社員へのヒアリングや動機づけをしっかり行うよう心がけてください。

SD(自己啓発)

SDとは「Self Development」の頭文字であり、自己啓発のことをいいます。

研修への参加の他にも、仕事に関係する資格取得やスキルの獲得、書籍からの学びも自己啓発に含まれます。

企業が用意した学びの場ではなく、社員自身の意志で知識や技能の習得に励むため、高い学習効果が期待できます。

SDは、OJTやOFF-JTと違い、社員が自主的に行うものです。そのため、企業の対応としては資格取得奨励制度の用意や、経費の負担、セミナーや通信教育に関する情報提供を行うなどにとどまります。

社員の業務内容と関連する範囲内で、何をどこまで支援するのか、自由に制度を設計することができます。

ただし、あくまでも社員が自主的に行うものであるため、強制力がありません。

制度を用意しても利用率が低かったり、モチベーションが維持できず途中でやめてしまったりといったことが懸念されます。自由度の高さを担保しつつ、どのように動機づけを行っていくのか、検討が必要です。

人材開発における課題

採用難の企業にとっては必須となる人材開発ですが、実施するには課題も見受けられます。人材開発における代表的な課題を紹介していきます。

上司の指導力・リソース不足

OJTや社内でのOFF-JTを実施するにあたり、指導者は上司や先輩社員が担当することになります。

しかし、昨今のIT化やグローバル化による急速な技術革新に追いついていけず、上司の持つノウハウが通用しなくなっていることもあります。能力が高いとされる先輩社員は仕事が忙しく、教育担当する時間の確保が難しいといったケースもあります。

社員のキャリア観の変化

終身雇用制度の衰退を始めとして、昨今の日本企業では労働者のキャリア観も大きく変化しています。

新卒で入社した企業で定年まで勤めあげることが一般的だった時代では、社員同士の関わりが深く、上司の部下の間に師弟関係が形成されていました。

しかし、現代では社員の組織に対する帰属意識が薄まり、「仕事のために時間を割く」という感覚を持たない人も増えています。そのため、企業が社員に対して長期的な教育を施すことが難しくなっています。

マンパワーの不足

多くの業界で慢性的な人手不足が叫ばれる昨今では、教育する側のマンパワー不足も深刻な課題です。

研修の場所を用意したり、制度を整備したりするためには、手間も費用もかかります。

ただでさえ採用活動の負担が大きく、業務が煩雑な人事担当者にとっては、「やりたくてもやれない」というのが実情です。

教育にかける人材や時間の不足は、企業規模に関わらず多くの企業が抱えている課題といえます。

人材開発に関する助成金・制度

人材開発を企業制度として実践する場合、公的な補助金や補助制度を利用できる場合があります。各種制度について解説します。

人材開発支援助成金

社員のキャリア形成の促進を目的として、職務に関連した専門的な知識や技能を習得するために職業訓練などを受講させる事業者に対して、その費用の一部を助成する制度です。

特定の訓練にかかる費用の助成、訓練を受けるために社員が休暇をとる場合に発生する賃金の助成など、事業者の実情や目的に合わせて、7種類の助成メニューが用意されています。

キャリアアップ助成金

有期雇用による労働者や短期労働者、派遣労働者など、いわゆる非正規雇用労働者を対象に、正社員化や処遇改善などのキャリアアップに関する取り組みを行った事業主への助成制度です。

有期雇用従業員の正社員化を助成する「正社員化コース」、有期雇用従業員の賃金を改定した場合に助成する「賃金規定等改定コース」など、実施した取り組みの内容に合わせて7つの助成金が設けられています。

正しい人事評価が社員の成長につながる

働き手の不足から、採用市場は今後も慢性的な売り手市場が続くと予想され、優秀な人材の確保はますます困難になっていきます。

このような情勢の中でも企業が利益を維持し、成長を続けるためには、既存社員のパフォーマンスを最大限に向上させることが必須といえます。

効果的な人材開発を実現するため、企業の状況に見合った適切な教育制度を整備していきましょう。

また、学びに対する社員の意欲を高め、モチベーションを維持するには、社員の頑張りを適正に評価する人事評価制度が不可欠です。

教育制度と合わせて人事評価体制も整備することで、人材開発の効果を最大に高めることができます。

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