雇用の基準が大きな変化を見せている昨今、「ジョブ型雇用」が注目されています。日本企業に根付く「年功序列」という考え方が、通用しなくなっているのが現状です。
この記事では、「ジョブ型雇用」のメリットやデメリット、メンバーシップ雇用との違いなどについて解説します。経営者や人事部担当者といった管理者にあたる方は、ぜひ今後の人事の参考にしてください。
ジョブ型雇用とは?
ジョブ型雇用とは、職務内容に応じて業務を行える人、またそのスキルを持つ人材を採用する雇用形態です。
雇用の基準となるのは、仕事内容や報酬などの労働条件を明確化した「職務記述書(ジョブディスクリプション)」です。
日本企業に定着している「年功序列」を「ヒト基準」とした場合、ジョブ型雇用は「仕事基準」の雇用形態にあたります。選考時には職務記述書に基づいて、見合ったスキルを持つ人材を採用します。
海外ではメジャーな雇用形態であり、日本でも導入する企業が増えてきました。
日本でもジョブ型雇用が注目されるようになった背景としては、2018年に経団連が廃止した「採用選考に関する指針」の影響が考えられます。
また、労働者のワーク・ライフ・バランスが見直される中で、厚生労働省が提案する「多様な正社員」という概念も企業に浸透し始めました。
就職を控えた学生らの意志や、リモートワークなど時代に合った働き方を尊重するべく、「ジョブ型雇用」が推進されているのです。
ジョブ型雇用のメリット
ジョブ型雇用には、企業側にも従業員側にも多数のメリットがあります。メリットとなる具体的なポイントを見ていきましょう。
人材の能力をフル活用でき、成長も早められる
ジョブ型雇用は職務内容が事前に明確化されているため、人材のスキルと実際の業務においてミスマッチが発生しにくくなります。
人材はこれまでに培ってきた能力をフルに活用でき、契約外の仕事を回されることもないので、専門性を高められるようにもなります。
また、仕事の難易度や成果によって報酬を決めることで、従業員のモチベーション向上も期待できるでしょう。年齢を問わず重要なポジションを任される環境下では、人材の成長スピードも早まるものです。
生産性アップ&コスト削減効果がある
人材の成長スピードが早まることで、業務の効率化が図れるのもメリットの一つです。また、従業員の仕事内容や責任を明らかにすることで、社内業務に隠れた数々の無駄を省くことも可能です。
そもそも、採用段階で希望するスキルや経験のある人材を見つけやすくなります。採用と共に高いアウトプットを得ることで、企業全体の生産性アップが期待できます。
また、年功序列制度では、能力に見合わない報酬を支払うこともありますが、ジョブ型雇用ならば成果に応じて報酬を決定できます。結果的に人件費の削減にも繋がると言えるでしょう。
デジタル化に向けたグローバル人事が実現する
あらゆる業務のデジタル化が加速する中で、IT技術の専門家やDX(デジタルトラスフォーメーション)を担う人材が求められています。ジョブ型雇用を行うことで、企業に不足するスキルや知識が明らかとなり、採用するべき人材も見えてくるでしょう。
日本の企業が将来的に発展するには、ダイバーシティ(多様性)を推進し、国際競争力を高める必要があります。
従業員の成果やスキルを正当に評価する企業体制が整えば、グローバル人材を確保しやすくなり、人材離れも防ぎやすくなります。また、新たなイノベーションの創出にも繋がるのではないでしょうか。
求める人材を確保しやすくなる
ジョブ型雇用を導入することで、企業は業務遂行に必要な人材を適切なタイミングで採用できるようになります。急な欠員があった場合も、スムーズに人材を確保しやすくなります。
さらに、新規事業や事業拡大の機会には、専門性の高い人材に活躍してもらい、絶好のスタートがきれるでしょう。
人材側にとっては、「自分に合う会社が見つけやすい」というメリットもあります。仕事内容や勤務地、報酬などの条件を詳しく提示することで、人材と企業が出会いやすくなるのが理想的です。
ジョブ型雇用のデメリット
企業がジョブ型雇用を導入するにあたり、デメリットが生じることもあります。課題とも言えるポイントを解説していきます。
人材に自主的な成長を求めてしまう
ジョブ型雇用の場合、業務遂行に必要なスキルや能力を持つ人材を採用することが前提です。そのため、採用後の研修やトレーニングなどの教育を省く一方で、知識や技術は常に最新であることを求めてしまうケースがあります。
つまり、社内に学ぶ場がない人材は、自主的にスキルアップをしなければなりません。人材が自己研鑽の意欲を失うケースや、キャリアアップを求めて離職するケースも懸念されます。
このような失敗を防ぐためにも、従業員の成長をサポートしていくことが大切です。
人材が定着せず、チームワークを失う恐れがある
ジョブ型雇用は雇用条件が明確であるために、より良い職場を見つけた人材が転職してしまうデメリットがあります。
人材が流動的な組織はチームワークが弱まるだけでなく、組織への帰属感も低下しやすくなります。チームで遂行する業務が多い職場や、チーム主体のプロジェクトがメインの職場では、メンバーのスキル以上にバランスを重視する必要があるでしょう。
ジョブ型雇用制度が適さないこともあるため、導入前には慎重に検討することをおすすめします。
採用の難易度が高まりやすい
ジョブ型雇用では、職務内容に基づいて人材を探します。そのため、応募者が条件に満たない場合は採用業務が難航することもあるでしょう。人材の欠員が長期化すると、社内のジョブローテーションが回らなくなるリスクもあります。
求職者側にとっては、専門的な知識やスキルが求められるために、応募のハードルが上がるとも言えるでしょう。採用活動がスムーズにいかない時は、提示する条件を変更するなど、市場の様子を見極める必要があります。
契約範囲外の仕事を依頼できない
ジョブ型雇用に至った従業員は、ジョブディスクリプション(職務記述書)を基準に仕事をします。そのため、記述外の仕事を依頼することが難しくなるデメリットがあります。
契約範囲の認識が異なったために、トラブルに発展したケースも無視できません。
急に欠員が出た際には、代わりとなる人材を確保するまで業務がストップしてしまいます。一人の従業員が複数のポジションを兼任することが多い職場は、特にジョブ型雇用のデメリットを把握しておく必要があるでしょう。
ジョブ型雇用とメンバーシップ雇用の違い
「仕事に人材を充てる」ジョブ型雇用では、職務内容をベースに職務記述書を作成し、条件を満たす応募者を採用します。そのため、給与の変更や異動を行う場合、職務記述書を見直す必要があります。
採用方法は中途採用が主流で、専門性が高いスペシャリストが求められます。スキルアップは人材の自主性に任せることがほとんどです。
メンバーシップ型雇用は、ジョブ型とは反対に「人材に仕事を充てて育成する」制度です。日本企業の多くがメンバーシップ型であり、「終身雇用」「年功序列」という考え方が基本でした。
勤続年数によって仕事内容や勤務地、給料が変動する可能性が高い雇用スタイルです。採用方法は新卒採用が主流で、業務を総合的に担えるゼネラリストが理想とされます。
ジョブ型雇用の導入事例
日本国内でも、ジョブ型雇用を実際に導入している企業が増えています。5つの事例を詳しく見ていきましょう。
日立製作所
日立製作所は、従業員の多くが海外の人材であるため、企業としての国際競争力アップを目標としています。
そのため、国内外にいる約30万人の従業員の職務履歴書を作成した上で、「2024年度中に完全なジョブ型雇用への移行」を発表しました。現在は新卒採用率が下がりつつあり、年間の採用実績は半数ほどが中途採用となっています。
富士通
富士通は2020年4月にジョブ型雇用を導入し、課長職の公募も発表しています。
同社は新型コロナウイルスの流行以前より、テレワークを導入していました。コロナ禍にあたっては、全社員の出社率を大幅に下げたものの、サービスのクオリティ低下は見られません。
テレワークの実用性が認められたことは、ジョブ型雇用の推進にも繋がっています。
資生堂
大手化粧品メーカーの資生堂では、2015年より本社の管理職を対象としたジョブ型雇用が始まりました。
役割等級制度に基づく報酬体系を導入するため、「ジョブファミリー(領域)」というシステムを作り、それぞれのジョブディスクリプション(職務記述書)を明確化した上で採用・育成活動を行っています。
今後は一般職への導入も拡大するでしょう。
カゴメ
カゴメは、2013年度から「グローバル人事制度」を推進することで、多様化するワークスタイルに対応しています。
職務の責任と市場価値を考慮してグレードを設定する「グローバル・ジョブ・グレード」は、役員の人事制度として画期的なものです。年功序列型からジョブ型への移行により、成果に応じた評価や昇給が実現しています。
KDDI
電気通信事業者のKDDIは、2020年8月から「ジョブ型」人財マネジメントを導入しています。ジョブ型雇用のメリットを押さえた新人事制度は、KDDIグループ内のあらゆる成長のきっかけとなりました。
特に、新卒社員の初任給制度廃止と、能力重視の給与体系が評価されています。従業員の職務範囲を明らかにし、市場価値に見合った報酬を設定した事例の一つです。
まとめ
近年の日本において、「年功序列」や「終身雇用」に繋がる従来の雇用制度は成立しづらくなっています。時代や環境の変化、事業のグローバル化を考慮しても、雇用スタイルはより柔軟になっていくべきだと言えます。
テレワークの推進をきっかけに、ジョブ型雇用はこれまで以上に注目を集めています。しかし、新制度の導入にはデメリットも伴います。
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