従業員が業務上や通勤中に傷病を負って休業することになった場合、企業には補償責任が課せられます。
治療が完了するまで出来る限りの補助をすることが企業の務めですが、治療が長期間に及ぶ場合、その分企業の負担も大きくなることは間違いありません。
そこで、企業の負担を軽減する制度として「打切補償」が設けられています。従業員の労務に携わる担当者は、正確な知識を身に付けておく必要があります。
この記事では、打切補償の概要や、打切補償によって療養補償の負担が軽減される仕組み、打切補償を支払うことで従業員を解雇する場合の注意点や、その他の労災補償について解説します。
労働基準法に基づく打切補償とは?
打切補償とは、従業員が業務上の怪我や病気によって休業を余儀なくされてしまい、治療開始から3年が経過しても治療が完了しない場合は、平均賃金の1200日分を支払うことで療養補償の支払いを打ち切ることができるという制度です。
従業員が業務上の原因で怪我を負ったり、病気になったりした場合、企業は治療が完了するまで療養補償をしなければなりません。
労災保険等から給付が出るとはいえ、年単位で治療が必要でいつ完治するかわからないような重症だった場合、企業は多大な負担を負うことになります。
そのような企業側の負担軽減を目的として、労働基準法第81条により、治療開始から3年を超えても治療が完了しないときは、打切補償により補償義務が免除されることが定められています。
打切補償の金額の基準となる「平均賃金」 は、対象の従業員が休業する直前の賃金締め日からさかのぼって3カ月間に支払われた給与を基に計算されます。例えば、月給30万円の従業員に支払われる1200日分の金額は、以下のようになります。
平均賃金:30万円×3ヶ月÷90日=1万円 1200日分の賃金:1万円×1200日=1200万円 |
打切補償の支払いによる解雇制限の解除
業務上の怪我や病気で従業員が休業を余儀なくされた場合、労働基準法第19条によって企業は療養中と療養終了後30日間は従業員を解雇することができないと定められています。
企業が従業員を解雇する場合は、労働基準法や就労規則の定めに基づいた解雇を行う必要があります。
しかし、打切補償を支払った場合、この解雇制限が適用除外となります。療養補償の支払いが免除されると同時に、特別な事由がなければ 従業員を解雇することができるのです。企業の長期に渡る負担を軽減する一方で、従業員にも一定の給付を補償する制度です。
打切補償を支払う場合、退職金は?
打切補償を支払って従業員を解雇する場合、退職金を支払う必要はあるのでしょうか。
退職金は、在職中の功績に対する労いや賃金の後払いのための制度といわれています。つまり、打切補償とは全く別の制度ですので、打切補償と退職金の両方をそれぞれ支払う必要があります。退職金制度が設けられている企業は、注意するようにしてください。
打切補償と労災の傷病補償年金
従業員が業務上の理由で怪我や病気になった場合、企業には労災保険から給付金が支払われます。企業は、この給付金を従業員への療養補償に充てることができます。
従業員が入社すると、健康保険や厚生年金、雇用保険といった様々な保険への加入が義務付けられますが、労災保険もそのひとつです。労災保険は、企業が保険料の全額を負担する仕組みになっていて、業務上の怪我や病気、災害の発生時に給付金が支払われます。
療養開始から1年6カ月以上経過しても治療が完了しない場合、労働基準監督署が従業員の傷病等級によって傷病補償年金の支給を判断します。支給が決定すると、それまでの療養補償が停止されて傷病補償年金が支給されます。
さらに、従業員の治療開始から3年経過した時点で傷病補償年金の支払いが続いている場合は、企業が「打切補償をしたもの」とみなされます。つまり、打切補償を支払わなくても従業員を解雇することが可能になるのです。
ただし、傷病補償年金の支給は、傷病等級3級以上が条件となります。3級とは、言葉がしゃべれなくなった場合や、両手の指を全部失った場合などが該当します。
労災補償の比較
労災補償には、他にどういった内容の補償があるのでしょうか。各補償について解説していきます。
療養補償
従業員が業務上または通勤による傷病によって療養が必要とされる場合に給付が受けられます。給付の種類は以下の2種類となります。
① 療養の給付 | 労災病院や労災指定病院等にかかった際、原則として治癒するまで無料で療養を受けられる制度 |
② 療養の費用の給付 | 労災病院や労災指定病院以外で療養を受けた場合、その費用を現金で支給する制度 |
原則的には「①療養の給付」が前提となります。また、給付には治療費、入院の費用、看護料、移送費など、通常療養に必要なものが含まれます。
休業補償
従業員が業務上または通勤による傷病の療養のために休業が必要となったとき、賃金を受けない日の4日目以降から給付が開始されます。
休業1日につき給付基礎日額の60%が休業給付として支給され、ほかにも給付基礎日額の20%が特別支給金として支給されます。給付基礎日額は、災害が発生した直前の3カ月間に被災した労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割って算出します。
なお、業務災害の場合、支給がされない休業初日から3日間は、労働基準法の規定に基づき企業が休業補償を行います。
障害補償
傷病が治癒しても身体に一定の障害が残った場合、障害等級ごとに設定された一時金が支給されます。例えば、障害等級1級では給付基礎日額の1,340日分、7級では560日分となっています。
遺族補償
従業員が、業務上または通勤によって死亡した場合、遺族に対して支払われる給付です。これには、「遺族年金」と「遺族年金前払一時金」の2種類があります。
①遺族年金
以下の通り、遺族の人数によって支給される年金額が設定されます。
遺族数 | 年金額 |
1人 | 年金給付基礎日額の153日分 |
55歳以上の妻 又は労働省令で定める 障害の状態にある妻 | 年金給付基礎日額の175日分 |
2人 | 年金給付基礎日額の201日分 |
3人 | 年金給付基礎日額の223日分 |
4人以上 | 年金給付基礎日額の245日分 |
②遺族年金前払一時金
従業員の死亡当時、その収入によって生計を維持していた一定の範囲の遺族がいない場合、一定の範囲の遺族に対して給付基礎日額の1,000日分の遺族一時金が支給されます。
葬祭料
業務災害又は通勤災害により従業員が死亡した場合、葬祭を行った者に対して315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額または給付基礎日額の60日分のいずれか高い方が支給されます。
傷病補償年金・傷病年金
従業員が業務上または通勤によって傷病を負い、療養が開始してから1年6カ月経過しても治癒せず、傷病等が1級~3級に該当するときは、障害の程度に応じて給付基礎日額の313日~245日分の年金が支給されます。
介護補償給付・介護給付
障害年金または傷病年金を受給している第1級または第2級の者(精神神経の障害及び胸腹部臓器の障害の者)であり、かつ現在介護を受けている場合に月単位で支給されます。
常時介護の場合、介護の費用として支出した額は166,950円を上限に支給されます。ただし、親族等の介護を受けており、介護の費用を支出していない場合または支出した額が72,990円を下回る場合は、一律72,990円の支給となります。
また、随時介護の場合は、介護の費用として支出した額の支給上限は83,480円です。親族等の介護を受けており、介護の費用を支出していない場合または支出した額が36,500円を下回る場合は、一律36,500円の支給となります。
二次健康診断等給付
労働安全衛生法に基づく定期健康診断を受診した結果「肥満、血圧、血糖、血中脂質」4項目全てに異常の所見が認められた場合、二次健康診断指定医療機関で二次健康診断および特定保健指導を受けることができます。具体的な診断内容は、それぞれ以下の通りです。
二次健康診断
- 空腹時血中脂質検査
- 空腹時血糖値検査
- ヘモグロビンA1c検査
- 負荷心電図検査又は胸部超音波検査(心エコー検査)
- 頸部超音波検査(頸部エコー検査)
- 微量アルブミン尿検査
特定保健指導
- 栄養指導
- 運動指導
- 生活指導
労災の制度理解とともに社員の健康管理もお忘れなく
業務上または通勤中の傷病によって休業した場合、企業は休業補償を行う必要がありますが、治療が長期間にわたる場合は打切補償によって補償を終了することができます。
この制度には、労災保険の傷病補償年金制度も深く関わってくるため、各種労災制度についてしっかり理解を深めておくことが大切です。
日頃から従業員の健康管理を行うことは、人事・労務担当者にとって重要な課題です。制度や就労規則を再確認するとともに、健康管理についても見直しを行いましょう。
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