誰にでも起こり得る可能性がある労働災害。この労働災害を防ぐために色々な対策をしている会社も多くあります。
実は、この労働災害の現状を、指標で見ることができるのです。数値化することにより、対策や成果なども見えやすくなります。
この記事では、労働災害の際に用いる指標である度数率の意味や計算方法、数値の目安、強度率・年千人率との違い、労働災害対策について解説します。
度数率とは?
度数率は、労働災害の発生状況を評価する指標で、強度率、年千人率などと一緒に使われます。
ここでいう労働災害とは、労働者が業務遂行中に業務に起因して受けた業務上の災害のことで、業務上の負傷、業務上の疾病、死亡のことを言います。
度数率は、災害発生の頻度を表したもので、100万延実労働時間当たりの労働災害による死傷者数のことを言います。
労働災害率の指標と計算方法
度数率などはどのように計算されるのでしょうか?そのほか、労働災害に関わる指標とともに解説いたします。
度数率の計算方法
度数率は、労働災害による死傷者数÷延べ実労働時間数×1,000,000で算出されます。
度数率が高いほど、労働災害の発生件数が多いことを表しています。ここでいう、延べ実労働時間数とは、調査期間中働いた全ての労働者が実際に働いた労働時間の合計を指します。
残業などの時間数もここに加算され、休憩時間などは差し引かれます。また、断続的に業務に付いている場合の手待ち時間なども延べ実労働時間数に含まれるものとなります。
強度率の計算方法
強度率とは、労働日数の損失によって災害の重軽度を表す指標で、1,000延べ実労働時間当たりの労働損失日数で表します。強度率が高いほど災害の程度が大きいことを示します。
強度率は、延べ労働損失日数÷延べ実労働時間数×1,000で計算されます。
労働損失日数とは、以下の通り算出方法が定められています。
死亡 | 7,500日 |
永久全労働不能 | 身体障害等級1~3級の日数が適応され7,500日 |
永久一部労働不能 | 身体障害等級4~14級の日数が適応され50~5,500日 |
一時労働不能 | 暦日の休業日数に300/365を乗じた日数で算出 |
不休災害度数率の計算方法
不休災害度数率とは、不休災害発生の頻度を表す指標。100万延べ実労働時間当たり不休災害による傷病者数で表されます。
不休災害とは、業務中に業務に起因して受けた負傷又は疾病によって医師の手当を受け、被災日の翌日1日も休業しなかった労働災害のことを言います。
不休災害度数率は、不休災害による傷病者数÷延べ実労働時間数×1,000,000で算出されます。
全度数率の計算方法
全度数率は、不休災害を含めた災害発生の頻度を表す指標。100万延べ実労働時間当たりの不休災害と休業1日以上を合わせた死傷者数で表します。
算出方法は、不休災害による傷病者数を含めた労働災害による死傷者数÷延べ実労働時間数×1,000,000で求められます。
年千人率の計算方法
年千人率とは、1年間の在籍労働者千人あたり、どのくらい死傷者が発生しているかという割合を示すもの。1年間の死傷者数÷1年間の平均労働者数×1,000で算出されます。
度数率の目安・労働災害の動向
職場の安全性を知るためにも、必要な度数率。自分の職場を評価するには、度数率の目安や動向を知る必要があります。
令和5年に、厚生労働省は「労働災害動向調査(事業所調査(事業所規模100人以上)及び総合工事業調査)」の調査結果を発表しました。その結果によると、度数率は2.14、強度率は0.09となっています。
前年に比べ、度数率は上昇、強度率は変わらないため、労働災害発生件数は延びているものの、死傷者数は少ない数字を保っている結果となりました。
産業別で度数率を見ていくと、最も高いのが「農業、林業」の7.34、次いで「生活関連サービス業,娯楽業」の4.61となっています。
そのほか、「工事現場」が1.09「製造業」が1.29、「運輸業、郵便業」が3.95、「卸売業、小売業」が2.43、「医療、福祉」が2.32です。
労働災害の原因となる不安全行動とは?
不安全行動とは、労働者本人もしくは関係者が意図的に安全を害する可能性がある行動を行うことです。
手間や労力がかかることを怠惰し、コストを省こうとする態度から「これくらい大丈夫」「面倒くさい」「慣れているから事故は起きない」などの姿勢や行動から労働災害に発展するケースが多いのです。また、自分の行動が意図しない結果をもたらしてしまう「ヒューマンエラー」も労働災害につながる恐れがあります。
こうした不安全行動が原因の労働災害が多いことから、厚生労働省では、代表的な不安全行動の12項目をあげています。
- 防護・安全装置を無効にする
- 安全措置の不履行
- 不安全な状態を放置
- 危険な状態を作る
- 機械・装置等の指定外の使用
- 運転中の機械・装置等の掃除、注油、修理、点検等
- 保護具、服装の欠陥
- 危険場所への接近
- その他の不安全な行為
- 運転の失敗(乗物)
- 誤った動作
- その他
労働災害を防止するための対策
厚生労働省の挙げている12項目を見ての通り、誰でも起こり得る不安全行動。
では、どのように防止すれば良いのでしょうか。有効とされている対策をご紹介します。
安全衛生教育の徹底
労働災害を防止するには、労働安全衛生関係の法令を守りそれに則った対策を取ることが基本となります。さらに言えば、安全衛生教育の実施は法令により義務付けられており、機械、原材料、保護具などの取扱方法・作業手順・事故時における応急措置など教育が必要とされています。
また、危険または有害な業務に就かせる場合には、該当業務が安全に行えるようその業務に関する特別の教育を行わなければなりません。
そのため、企業では労働災害を防止するための安全衛生講習や避難訓練、健康診断などを実施する必要があります。
積極的な安全衛生活動
安全に日々の業務を行うために労働災害防止の取り組みを積極的に行い、全員が安全認識を持つようにしなくてはなりません。
企業が社員の安全認識を高める活動として、「ヒヤリ・ハット活動」「KY活動」「4S活動」などの例が挙げられます。
ヒヤリ・ハット活動
「ヒヤリ・ハット活動」とは、業務中にヒヤリとした、ハッとした事例を報告・提案するようにし、労働災害が発生する前に対策を考える活動のことです。
KY活動
「KY活動」とは、危険予知活動のことを言います。業務前に現場や作業場などにどのような危険があり、それによりどのような災害が発生する恐れがあるのか話し合い、従業員全員が危険に対する意識を高める活動を言います。
4S活動
「4S活動」は、現場や作業場の整理、整頓、清潔、清掃を日々徹底することで労働災害を防止し、安全性を意識させる活動として採用されています。
このように、現場や作業場に合う積極的な安全衛生活動が労働災害防止に役立っているのです。
リスクアセスメントの実施
リスクアセスメントとは、業務に伴う危険性やリスクを見つけ出し、被害を抑えるための手法を言います。
リスクアセスメントに基づき対策をすることで、災害防止を効果的に行うことができます。
リスクアセスメントの基本的な手順は、下記の通りです。
- 従業員の就業における危険性を特定する
- 特定した危険性についてリスクを推算
- 推算に基づきリスクを防ぐ優先順位をつける
- リスク防止策の検討と実施
- リスクアセスメントとリスク防止策の記録をつける。
メンタルヘルスケアの強化
社員のメンタルヘルスの不調による休職を抑えるため、社員のメンタルヘルスケアも重要とされています。
厚生労働省が発表している「職場における心の健康づくり」では、4つのケアの導入が推奨されています。
1.セルフケア
1つ目は、従業員自身がストレスに気づきやすくする「セルフケア」です。
セルフケアの講習やストレスチェックなどを実施して企業側も個々がストレスに気づける環境を整えるようにします。
2.ラインによるケア
2つ目は、管理職が部下のストレス度を把握する「ラインによるケア」です。
部下のストレス度合いなどを把握し、気になる点があれば産業医に診てもらうようにしたり、休職からの復帰支援などを行います。
3.事業内産業保健スタッフらによるケア
3つ目は、「事業内産業保健スタッフらによるケア」です。
セルフケアやラインによるケアが効果的になるように産業医たちが従業員・管理職のサポートを行います。
4. 事業場外資源によるケア
4つ目は、「事業場外資源によるケア」です。社外の医療機関や従業員支援プログラムのことで、事業側が専門的な知識や状況把握などをしたい場合に産業医などが窓口となって相談します。
このメンタルヘルスケアが労働災害防止に繋がっていきます。
過重労働の防止
近年、大きな問題となっているのが過重労働問題。
労働安全衛生法において、従業員の1ヶ月の時間外・休日労働時間が80時間を超えた場合は、医師による面談指導が義務付けられ、細やかな管理が求められています。
この問題を把握しておかなければ、社員の疲労により大きな労働災害が起こってしまう可能性があります。時間外労働や休日出勤の削減など、積極的に推進していくようにしましょう。
適切な人事評価制度が快適な職場環境を支える
日々の業務を安全に行うために安全性を指標として把握しておくと、改善点や対策がより効果的に打ち出せるようになります。
労働災害は人に関わること。従業員を守るためにも起こさせない姿勢が必要です。
人の意識や姿勢を変えるのに有効なのが人事評価制度です。適切な人事評価を実施すれば職場環境も変わり、職場の安全性に繋がってゆくのです。まずは、自分の会社の人事評価制度から見直してみましょう。
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