退職金という言葉は馴染み深いものだと思います。しかし退職金制度の詳細について知る機会は少ないのではないでしょうか。
そこで、この記事では、退職金の意味・支給額の相場・退職金の計算方法・税金額・退職金制度の作り方と払い方などを詳しく解説していきます。
特に人事部の社員にとって、退職金の正しい理解はとても大切です。正しく理解することで、勤務先企業の退職金制度についても調べやすくなるでしょう。
退職金とは
退職金とは、従業員の退職に伴って企業が支払うお金のことです。退職手当、退職慰労金、退職功労報奨金など名称は様々ですが、退職に際して給付する金銭という要素は共通しています。
日本では古くから退職時に金銭を支給する慣行がありましたが、企業の福利厚生制度として登場したのは明治維新以後です。大正から昭和初期にかけて大企業を中心に広がった後、1948年頃から急速に普及が進んだと言われています。
当初は労働者への恩情的な制度だったようですが、労働争議を経て、失業後の生活保障という要素を備えたと考えられています。
現代の退職金の支払い方法には「退職一時金」と「退職年金」があり、両方を併用する企業もありますが、「退職一時金のみ」を導入している企業が圧倒的に多い状況です。
退職金の原資には、企業の準備金から支払われるパターン、中小企業退職金共済制度のような各種共済から支払われるパターン、そして双方を組み合わせた支給パターンがあります。
なお、退職金自体に法律上の支給義務はありません。あくまでも各企業の判断にゆだねられていますが、離職率を防止するために退職金制度を備える企業も多い状況となっています。
退職金の相場とは
退職金の相場について、「令和5年就労条件総合調査結果の概況」の「退職給付(一時金・年金)の支給実態」を元に解説します。
退職理由別の退職金相場
平成30年調査計による退職理由別の退職金相場は下記です。対象者は退職給付(一時金・年金)制度がある勤続20年以上かつ45歳以上の大学・大学院卒(管理・事務・技術職)です。
・定年退職 → 1,896万円
・会社都合 → 1,738万円
・自己都合 → 1,441万円
・早期優遇 → 2,266万円
最も高額な退職金が支給されるのは早期優遇の2,266万円。次は定年による退職で1,896万円。最も少額なのは自己都合の1,441万円となっています。
勤続年数別の退職金相場
同じく大学・大学院卒(管理・事務・技術職)を対象にした勤続年数別の退職金相場は下記です。
・勤続20~24年 → 1,021万円
・勤続25~29年 → 1,559万円
・勤続30~34年 → 1,891万円
・勤続35年以上 → 2,037万円
勤続20~24年の1,021万円と勤続35年以上の2,037万円では、1,000万円近い差があります。
勤続20~24年と勤続25~29年の差額は538万円、勤続25~29年と勤続30~34年の差額は332万円と大きく開いています。
勤続30~34年と勤続35年以上の差額も146万円なので、勤続年数に比例して退職金の相場が高くなっていることが分かります。
学歴別の退職金相場
同じ資料による学歴別の退職金相場を比較してみましょう。比較対象は大学・大学院卒(管理・事務・技術職)と高校卒(管理・事務・技術職)です。
大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の勤続年数別の退職金相場を再掲します。
・勤続20~24年 → 1,021万円
・勤続25~29年 → 1,559万円
・勤続30~34年 → 1,891万円
・勤続35年以上 → 2,037万円
高校卒(管理・事務・技術職)の退職金相場は下記です。
・勤続20~24年 → 557万円
・勤続25~29年 → 618万円
・勤続30~34年 → 1,094万円
・勤続35年以上 → 1,909万円
一見するだけで、大学・大学院卒と高卒には大きな開きがあることが分かります。
勤続35年以上の両者の差額は128万円ですが、勤続20~24年では差額464万円、勤続25~29年は差額941万円、そして勤続30~34年で797万円の差があります。
このように学歴別で考えると、大学・大学院卒の方が、高校卒よりも退職金の相場は非常に高いと言えるでしょう。
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退職金の計算方法
企業が退職金制度を導入する場合は、就業規則に下記を記載しなければなりません。
・適用される労働者の範囲
・退職手当の支払いの時期
・退職手当の決定、計算及び支払の方法
退職金の金額と計算方法は「退職金の額」および「退職手当の決定、計算及び支払の方法」などの条項を追加して定めるのが一般的です。
企業によって退職金の計算方法は異なりますが、退職時の基本給に勤続年数に応じた支給率を乗じるケースが多いのではないでしょうか。
就業規則の掲載項目は次のようなイメージです(左側が勤続年数・右側が支給率)。
5年未満 → 1.0
5年~10年 → 3.0
11年~15年 → 5.0
16年~20年 → 7.0
21年~25年 → 10.0
26年~30年 → 15.0
31年~35年 → 17.0
36年~40年 → 20.0
41年~ → 25.0
たとえば勤続年数11年で基本給25万円なら、25万円×5.0=125万円が退職金額。勤続年数35年で基本給40万円なら、40万円×17.0=799万円が退職金額です。
なお、「適用される労働者の範囲」と「支払い時期」に関しても、それぞれ具体的に定めて就業規則に記載しましょう。
「自己都合による退職者で、勤続年5年未満の者には退職金を支給しない」といった例外規定に関しても明記する必要があります。
退職金にかかる税金の金額
退職一時金は退職所得として税金がかかります。退職金から控除額を差し引いて2分の1した金額が課税対象額です。
【控除額の計算方法】
1.勤続年数20年以下の計算式
40万円×勤続年数
※80万円に満たない場合には80万円
2.勤続年数20年超の計算式
800万円+70万円×(勤続年数-20年)
たとえば勤続年数15年・退職金300万円の場合は1のパターンに該当するので、控除額はこうなります。
40万円×15年=600万円
控除額600万円の範囲に退職金300万円はおさまるので所得税はかかりません。
次に勤続年数40年・退職金3,000万円の場合は2のパターンに該当するので、控除額はこうなります。
800万円+70万円×(40年-20年)=2,200万円
退職金3,000万円から控除額2,200万円を差し引くと800万円。この800万円を2分の1した400万円に対して所得税がかかります。
退職所得の源泉徴収税額の速算表によると、退職所得330万円超え695万円以下の場合、所得税率は20%、復興特別所得税2.1%、控除額42万7,500円なので下記の計算となります。
400万円×20%-42万7,500円=
37万2,500円×102.1%=38万322円
つまりこのケースの所得税は 38万322円 ということです。
なお、 年金契約で受け取る退職一時金の場合も所得税がかかります。
国税庁
退職金制度の作り方
中小企業が導入しやすい退職金制度には下記があります。
定額制
定額制の退職金制度とは、勤続年数に応じて退職金額を決定する方式です。
勤続年数10年で退職金100万円、勤続年数30年で退職金300万円といったシンプルな制度なので、企業側は楽に管理と運用ができます。従業員にとっても直感的に支給額が分かるでしょう。
基本給や貢献度などを考慮しない分、「会社に貢献してきた分が退職金に反映されていない」という不満が出る恐れはありますが、その場合はオプションとして特別加算金制度を付けることで対応できます。定額の支給部分を押さえて特別加算金を増やす、といった対策も可能です。
なお、定額制は導入しやすいので、「とりあえず自社に退職金制度を設定したい」と検討している小規模~中規模な会社に向いています。
ポイント制
ポイント制の退職金制度とは、従業員ごとに付与したポイントによって退職金額を決定する方式です。
ポイント内容は各企業によっても異なりますが、たとえば勤続年数、貢献度、専務や部長などの役職、人事評価、特別表彰があります。
そのようなポイントを加算して退職金ポイントを算出し、最終的にポイント単価と退職事由係数を乗じて計算するのが一般的です。
また、ポイント制は企業独自の色を打ち出しやすいと考えられています。「自社は貢献度のポイントを高く設定したい」「役職者には高いポイントを与えたい」といった意見を反映できるからです。
ただし従業員の入社から退職までの状況を把握する必要があるため、小規模な会社がポイント制を導入するのは非現実的かもしれません。
人材に余裕がある中規模~大規模な企業が「オリジナルな退職金制度を導入したい」という場合に向いているでしょう。
基本給連動型
基本給連動型の退職金制度とは、退職時の基本給をベースに勤続年数と退職理由を加味した制度です。
基本的に退職時の基本給に支給率と退職事由係数を乗じて求めます。企業によって支給率は異なりますが、勤続年数が長い方が金額は高くなりやすいでしょう。
また退職事由係数に関しては、一般的に自己都合よりも、早期優遇や会社都合の方が高額になります。
別テーブル制
別テーブル制の退職金制度は、勤続年数ごとの算定基準額をベースにした制度です。支給率と退職事由係数を乗じて計算を行うのは基本給連動型と共通しています。
基本給連動方式から別テーブル制に変更しやすいという特徴もあります。
退職金の支払い方
退職金の支払い方は通常の賃金と異なり、あらかじめ就業規則などで定められた時期に支払います。
たとえば就業規則で支払い時期を「支給事由の生じた日から3ヵ月以内に、退職した労働者(死亡による退職の場合はその遺族)に対して支払う」と定めていれば3ヵ月以内です。6ヵ月以内と定めていれば6ヵ月以内です。
支払い時期を過ぎても退職金を支払わなければ遅延損害金が発生します。支払期日が定められていない場合も同様です。
「死亡による退職の場合はその遺族」の遺族に関しては、「民法上の相続とは別の立場で解すべきである」という最高裁の判例が出されています。そのため、場合によっては内縁の妻に退職金が支給されることもあるようです。
従業員兼務役員の退職金の場合も、一般従業員に規定される就業規則(退職金支給規程)に従って支給されます。退職金は労働契約の趣旨を考慮して支給されるからです。
なお、現金の保管や持ち運びにはリスクが伴うので、退職金の支払い手続きは、銀行振出小切手、銀行支払保障小切手、郵便為替も認められています。
退職金に関する制度
主な退職金に関する制度には次の3つがあります。
中小企業退職金共済制度
中小企業退職金共済制度(中退共)は国からの支援と加入企業の相互扶助によって成り立つ退職金制度です。自社の力だけでは退職金制度を導入できない中小企業を対象にしています。
毎月の掛金は全額事業主負担で、従業員の退職時には、中退共から従業員に対して退職金が支払われます。
中退共に新規加入する際は、加入後4ヵ月目から1年間、掛金月額の2分の1(従業員ごとに上限5000円)を国が助成します。
掛金月額が18000円以下の従業員の掛金を増額した場合も、増額月から1年間、増額分の3分の1を国に助成してもらえます。
なお、掛金は全額非課税扱いなので、税務上のメリットもあります。
特定退職金共済
特定退職金共済(特退共)は特定の業種のための国の退職金制度です。
特定の業種は建設業、清酒製造業、林業が対象となっていて、それぞれ建設業退職金共済(建退共)、清酒製造業退職金共済(清退共)、林業退職金共済(林退共)という名称で制度が運営されています。
特退共の掛金も月額3万円までは非課税扱いなので、税務上のメリットを得ることができます。
従業員を懲戒免職、懲戒解雇した場合でも、掛金全額が退職金として従業員に支給されることはデメリットと言えるかもしれません。
生命保険
生命保険の満期保険金や解約返戻金を退職金にあてる方法です。
生命保険は資産として原資を管理できるので、「懲戒免職や懲戒解雇の場合は退職金を支払わない」といった選択も可能でしょう。もちろん就業規則に記載があることが前提です。
ただし掛金の全額を損金として計上できる生命保険は解約返戻率が低額ですし、高額な解約返戻率が設定されている場合は、掛金の一部しか損金計上できないことがあります。
退職金は社員に喜ばれる制度を構築しよう
退職金とは、従業員の退職に伴って支払う金銭給付です。制度自体に法律上の義務はありませんが、古くから退職金の支給を行う日本企業は多いようです。
実際に退職金制度を導入する場合は、就業規則に「労働者の範囲」「支払い時期」「退職手当の決定、計算及び支払の方法」といった項目を記載する必要があります。
導入しやすい退職金制度には「定額制」や「ポイント制」などがありますが、中退共のような国の退職金制度を利用することで、節税効果も期待できるでしょう。
このように退職金の項目は多岐にわたりますが、いずれにしても社員に喜ばれる退職金制度の構築が大切と言えます。
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