「どのようにフレックスタイム制を導入すれば良いか分からない」とお悩みではないでしょうか
フレックスタイム制を導入するには、メリットだけではなくデメリットを理解しておく必要があります。また、労働時間を管理するポイントも押さえておかなければなりません。
この記事では、フレックスタイム制の導入に必要な情報を基礎から解説していきます。
フレックスタイム制とは?
フレックスタイム制とは、労働者の判断で始業時間と終業時間を自由に決められる制度ですが、あらかじめ決められた総労働時間の範囲内という条件があります。
まずはフレックスタイム制の概要、目的、仕組みについて解説します。
フレックスタイム制の概要
繰り返しになりますが、フレックスタイム制は決められた総労働時間の範囲内で働ける制度です。労働者自身が始業時間と就業時間を決めることができるため、自由度が高い働き方といえます。
たとえば1ヵ月間の総労働時間が170時間と定められている場合、労働者は4時間働いても10時間働いても自由です。トータルの労働時間が170時間に達すれば良いことになります。
ただし企業によってはコアタイムという「必ず出勤しなければならない時間帯」が定められています。その場合はコアタイムの前後数時間がフレキシブルタイム(自由に働ける時間帯)となるでしょう。
フレックスタイム制の目的
フレックスタイム制は、労働者の価値観が多様化する中で創設された制度で、生活と仕事のバランス(ワークライフバランス)を図りながら効率的に働くことができます。
企業側としても不要な残業時間・休日出勤を削減しやすく、採用活動で優秀な人材を確保しやすいという魅力ある制度です。
フレックスタイム制の仕組み
フレックスタイム制の仕組みとして、実際の労働時間は労働者の裁量に任されます。ただし前述したコアタイムが設定されている場合、その時間帯は必ず勤務していなければなりません。
基本的に労働時間の管理は勤怠ソフトなどで行われますが、労働者自身も勤務時間を管理したうえで会社に提出する必要があります。
また、フレックスタイム制は同じ時間にすべての従業員が一斉に働いているわけではないので、スケジュールの共有もポイントです。その辺りは会社によって仕組みが異なるでしょう。
残業時間に関しては、1日8時間を超えて働いても時間外労働になるとは限りません。後述する清算期間が過ぎた段階で、総労働時間を超えた部分が残業代となるからです。
フレックスタイム制の導入に必要な基本的枠組み
フレックスタイム制を導入するには労使協定(使用者側と労働者側による書面での協定)を結ぶ必要があります。ここでは労使協定で必要な定めについて解説します。
対象となる労働者の範囲
フレックスタイム制を適用する労働者の範囲を指します。全労働者、○○部門職員、個人名など明確化する必要があります。
清算期間
フレックスタイム制における労働者の労働期間です。従来は最長1ヵ月でしたが、2019年の労働基準法改正によって3ヵ月に延長されました。
総労働時間
清算期間内の総労働時間で、法定労働時間(法律で定められた労働時間)の範囲内で定める必要があります。清算期間28日の場合の法定労働時間は160時間、30日の場合は171.4時間、31日の場合は177.1時間です。
標準となる1日の労働時間
フレックスタイム制の労働者が有給休暇を取得した場合に基準となる労働時間です。清算期間の総労働時間を所定労働日数で割って求めます。
コアタイム
フレックスタイム制の労働者が必ず働かなければならない時間帯で、労使協定において始業時間と終了時間を定めます。ただしコアタイムの設定は必須ではなく、日によって時間帯を変えることも可能です。
フレキシブルタイム
フレックスタイム制の労働者が選択して決める労働時間で、労使協定で始業時間と終了時間を定めます。コアタイム同様、必ず定めなければならないものではありません。
フレックスタイム制導入のメリット
フレックスタイム制は出勤時間、退勤時間、働く長さを自由に決めることができる制度です。具体的なメリットについて解説します。
プライベートと仕事のバランスが取りやすい
フレックスタイム制はプライベートと仕事のバランスを保ちやすい働き方です。育児、介護、病院への通院、平日しか空いていない銀行や役所の手続き、資格取得などと両立しやすいでしょう。
また、フレックスタイム制によって従業員の満足度がアップすれば、退職率が低下することも十分に考えられます。柔軟な働き方ができる魅力的な職場として、求職者が増加する可能性もあります。
労働生産性の向上が期待できる
フレックスタイム制は労働者自身が働く時間を決めるので、繁忙期は出勤時間を長くする、暇な時期は早めに帰宅するといったタイムマネジメント能力が身に付きます。効率的な時間の使い方を意識することは業務効率化、労働生産性にも繋がるでしょう。
また、ラッシュアワーを避けて出勤したり、遅くまで働いた翌日は出勤時間を遅らせたりするなど、心身の余裕が生まれて仕事へのモチベーションがアップする可能性もあります。
残業代の支払いを抑えられる
フレックスタイム制によって無駄な残業代の支払いを抑えられるケースがあります。上司の残業に合わせて残業する必要はなく、仕事が終われば帰宅できるからです。暇な日は短時間だけ働き、その分の時間を忙しい日に回すことも可能です。
フレックスタイム制導入のデメリット
フレックスタイム制度の導入にはメリットだけでなくデメリットもあるので解説します。
コミュニケーションが取りづらい
フレックスタイム制は労働者ごとに出退勤が違うため、コミュニケーション不足に陥るリスクがあります。メールやチャットでは解決しづらい問題が発生した際、気軽に周囲に質問できる相手がいなければ業務に支障が生じるかもしれません。 特に仕事に慣れていない新入社員は、社内で孤立してしまうことも考えられます。
時間管理が苦手な従業員には向かない
時間管理に苦手意識がある労働者にとって、フレックスタイム制はデメリットになる可能性があります。月の前半は短時間だけ働き、月の後半になって慌てて帳尻を合わせるといった事態が考えられるからです。そうなると業務効率も低下するでしょう。
勤怠管理が難しい
フレックスタイム制は勤怠管理が複雑になりがちです。勤務時間が決まっていれば管理が容易でも、労働者ごとに始業時間と終業時間が異なるため、実労働時間の把握と残業代計算が難しくなります。
突然の顧客対応ができない
突然の顧客対応ができないこともフレックスタイム制のデメリットです。電話しても担当者が不在、メールを送っても返信が遅いなど、顧客対応が必須な職種ではクレームに繋がることがあります。
光熱費が高くなる
労働者の出退勤が異なるため光熱費が高くなります。たとえば社員Aさんは朝に出社して正午に退社、Bさんは正午から夕方まで、Cさんは夕方から夜遅くまで働いた場合、社内の総使用時間が増えるため、必然的に電気代などの負担がアップします。
フレックスタイム制導入の注意点
フレックスタイム制の導入で注意する内容について解説します。
労働者の時間管理を把握する
フレックスタイム制は使用者による労働時間の管理が必要です。管理方法は企業によって異なりますが、少なくとも勤怠管理システムやタイムカードなどを導入する必要があるでしょう。
時間外労働の取り扱いに気をつける
フレックスタイム制は1日8時間・週40時間を超えても、それだけで時間外労働にはなりません。また1日8時間以内の労働でも欠勤にはなりません。
ただし清算期間を通じて、法定労働時間の総枠を超えて労働した時間は時間外労働としてカウントされます。
清算期間1ヵ月のケースで考えてみましょう。
・労働日数 28日
・法定労働時間の総枠 40×(28÷7)=160時間
・総労働時間 155時間
・実労働時間 180時間
この場合、実労働時間が180時間なので、残業時間は180時間-155時間=25時間となります。そのうち時間外労働は180時間-160時間で20時間です。
25時間のうち5時間分は法定内残業ですが、20時間分は時間外労働なので割増賃金の支払いが必要になります。
遅刻や早退に対する対応に気をつける
フレックスタイム制では総労働時間の枠内であれば遅刻や早退が自由です。フレキシブルタイムを設定しても遅刻、早退は発生しませんが、コアタイムは別です。
コアタイムは必ず働かなければならない時間帯なので、出勤時間に遅れれば遅刻として扱われますし、コアタイム中に退社すれば早退として扱われます。
ただしコアタイムの遅刻と早退にペナルティを課すには、就業規則などに規定する必要があります。
フレックスタイム制の労働時間を管理するポイント
フレックスタイム制で労働時間を管理する際のポイントを解説します。
特例措置対象事業場の法定労働時間の取り扱い
通常の事業における週の法定労働時間は40時間ですが、特例措置対象事業場は44時間として計算します。
特例措置対象事業場とは、常時10人未満の労働者を使用する商業、映画・演劇業(映画の製作事業を除く)、保健衛生業、接客娯楽業を指します。
残業に対する賃金は清算期間に繰り越せない
フレックスタイム制の総労働時間を超えた残業時間は繰り越せないため、清算期間内の給与として支払う必要があります。
先ほどの例では20時間の時間外労働が発生していましたが、その分を次の清算期間に繰り越すことはできないということです。
逆に総労働時間155時間で150時間しか働かなかった場合は、差額の5時間を次の清算期間に繰り越せます。
時間外労働の上限規制がある
フレックスタイム制の時間外労働にも月45時間以内、年360時間以内という上限があります。
「フレックスタイム制なら何時間働かせても良い。残業時間の上限は適用されない」と考える企業もあるようですが、決してそのようなことはありません。
また時間外労働を労働者に行わせるには36協定の締結が必要となります。
フレックスタイム制を導入している企業の業種と事例
厚生労働省の調査によると、フレックスタイム制の導入が多い業種は情報通信業・複合サービス業・学術研究、専門・技術サービス業です。ここでは代表的な2社の事例を紹介します。
アサヒビール株式会社
アサヒビール株式会社では多様な働き方を支援する制度の一環として、コアタイムを含むフレックス制度、およびコアタイムを含まないスーパーフレックス制度を導入しています。2020年度の利用割合はフルタイム従業員の85%です。
他にもスーパーフレックス制度と在宅勤務制度の併用が認められ、時間単位での在宅勤務に対応しています。
アサヒビール株式会社
株式会社ブリヂストン
株式会社ブリヂストンは従業員ひとりひとりのニーズを考慮した職場環境の実現を目指しています。その一環としてコアタイムを10時~14時としたフレックスタイム制度を採用しています。
他にも裁量労働制やテレワーク制度など、従業員の多様な働き方を支援する制度を設けています。
ブリヂストン
フレックスタイム制のメリットを最大限に活用した導入を
フレックスタイム制度はメリットを最大限に活用した形で導入すると効果的です。具体的にはワークライフバランスの実現と労働生産性の向上、残業代の支払いを抑えられるといったメリットがあります。
ただしデメリットとしてコミュニケーションの取りづらさや勤怠管理の難しさなどがあり、頻繁に顧客対応が必要な業種では、顧客からのクレームが発生するリスクもあります。
そのため、「自社にとってフレックスタイム制は適しているかどうか」を慎重に検討したうえで、導入を考えると良いでしょう。
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