社員の休憩時間を長めに確保する「シエスタ制度」を導入する企業が増えてきました。勤務時間内で社員がリフレッシュできる時間を十分確保でき、休憩時間後の生産性向上が期待できます。
この記事では、シエスタ制度が注目されている背景や制度の導入で得られる効果・メリット、効果的な実施方法について解説します。シエスタ制度を取り入れている企業の事例も紹介するので、導入時にはぜひ参考にしてみてください。
シエスタ制度とは?
シエスタ制度とは、就業時間の途中で社員が十分にリフレッシュできるよう、昼休みの時間を長く設定する制度です。企業の昼休みは45分~60分が一般的ですが、シエスタ制度では昼休みが2~3時間に延長され、昼寝ができる程度の時間を確保できるため「昼寝制度」と呼ばれることもあります。
シエスタ制度の由来
シエスタ制度は、スペインなどのラテン諸国に根付いている昼寝の習慣に由来しています。シエスタ(siesta)という言葉はラテン語で「日の出から6時間後」という意味で、時間帯としては正午前後です。
シエスタの文化が根付いている地域では、午後2時~午後5時あたりを休業時間とする会社が多いです。昼寝をするだけでなく、長い昼休みを余暇や家族の時間に充てる人も少なくありません。
シエスタ制度の目的
昼食後の眠気を解消して午後の仕事の生産性を高めるのが、シエスタ制度の目的です。人間の体内時計の周期は約24時間ですが、体内時計が正常に機能していれば午後2時頃に体内リズムが下がり、眠くなるのが自然の形だといわれています。
体内リズムの低下に伴い集中力や判断力が鈍り、仕事の生産性が下がる一因にもなります。しかし、シエスタ制度で長めの休憩を取れば午前中の疲れが軽減され、午後からも午前中と同じような集中力や判断力を発揮できるようになるわけです。
シエスタ制度の導入方法
シエスタ制度の導入にあたっては、昼休みの時間を延長した分だけ終業時刻を繰り下げる方法が一般的です。例えば、労働時間が午前9時~午後6時の会社で3時間のシエスタを設ける場合は昼休みが2時間延長されるため、終業時刻は午後8時になります。
休憩時間は基本的に無給ですが、シエスタの時間を有給としても問題ありません。なお、労働基準法では従業員に昼休みを自由に使用させるよう定められています。
シエスタ制度が注目されている背景
GoogleやNASAなど世界的に有名な企業・団体がシエスタ制度を取り入れ、従業員のパフォーマンス向上に一定の成果が現れていることから、国内でもシエスタ制度が注目されています。
後ほど事例を紹介しますが、大手企業を中心にシエスタ制度を導入した企業もみられます。シエスタ制度が注目されている背景について説明します。
働き方改革の推進
労働基準法の改正により、残業時間の上限が原則として月45時間以内・年間360時間以内と定められました。ワークライフバランスの観点から、1日の勤務が終了してから翌日の出社までの休息時間を一定時間以上確保する、勤務間インターバル制度の導入も推奨されています。
したがって、企業・従業員どちらにも限られた時間で生産性を高める意識が求められているのが現状です。
しかし、人間の集中力には限りがあるため、休憩なしで長時間仕事を続けたとしても非効率です。心身の疲労に伴いミスや事故が発生するリスクも高まります。仕事と休息のメリハリを付けて、従業員一人ひとりのパフォーマンスを最大化するためにもシエスタ制度は有効でしょう。
福利厚生制度の差別化で優れた人材を確保
シエスタ制度の導入は、企業の福利厚生制度の差別化に効果を発揮します。コロナ禍で有効求人倍率が低下しているとはいえ、長期的にみると労働人口は減少傾向で、優れた人材を確保できるかどうかが企業の存続に影響を及ぼすことが考えられます。
終身雇用制度も既に終焉を迎えており、良好な労働条件を提示する企業を選んで転職する人も多いのが現状です。
従業員の中には昼休みにゆっくりランチを取りたい、あるいはスキルアップの時間に充てたいと考える人もいるでしょう。シエスタ制度を導入することで、多様化する従業員のライフスタイルに応えることができ、優れた人材の獲得にも効果を発揮します。
シエスタ制度で得られるメリット
シエスタ制度を導入することで、従業員の健康促進や企業の生産性向上などのメリットが生まれます。厚生労働省でも、疲労回復・能率アップに効果的だとして午後の短い昼寝を推奨しています。フレックスタイム制とシエスタ制度を組み合わせると、多様な働き方も実現可能です。
生産性が高まる
シエスタ制度を導入することで昼食後の眠気に伴うパフォーマンス低下を回避でき、就業時間の全体にわたって高い生産性を維持できるようになります。午前中の仕事が忙しかった日も、長めの休憩によって集中力や注意力がリセットされ、新たな気持ちで午後の仕事に取り組めるのも従業員の心理面ではメリットです。
所定労働時間内に集中して業務に取り組む習慣もつき、従業員の残業時間が減るだけでなく組織の時間外手当の額も削減できるでしょう。
睡眠不足やストレスを解消できる
シエスタは睡眠不足の解消にも効果的です。近年ではわずかな睡眠不足が積み重なり、心身の健康に悪影響を及ぼす「睡眠債務」が問題視されています。脳のパフォーマンスが低下した状態が続き、本来の能力を発揮できないとストレスを抱く可能性もあります。
一方、シエスタで昼寝の時間を確保できれば少なくとも午前中の疲れは解消できるため、睡眠不足に伴って健康を害するリスクを軽減できるでしょう。
音声や視覚といった外部からの情報をシャットアウトできるため、ストレスの蓄積も防止できます。その結果、従業員の健康を促進する効果も期待できるのです。
企業のイメージアップにつながる
シエスタ制度を導入することで従業員の健康を考えるだけでなく、労働法令を遵守する会社だと対外的に印象づけて企業のイメージアップにつなげられます。シエスタは労働基準法で定められた時間数(45分または60分)以上の休憩を付与する仕組みなので、確実に休憩を取得させる企業としても認識されるでしょう。
社員の健康管理を経営戦略の一つとして位置づける「健康経営」を推進するツールとしても、就業時間内に意識的にリフレッシュタイムを設けるシエスタ制度は有効です。
フレックスタイム制の柔軟性を高める
シエスタ制度とフレックスタイム制を同時に導入すると働く時間の選択肢が広がり、従業員の多様なライフスタイルに対応できるようになります。早く帰りたい日はシエスタ制度を利用しない、あるいは早めに昼休みを取るという選択も可能です。
反対に、仕事に集中したい日はシエスタ制度を利用した上で作業効率を高めることもできます。日中に中抜けできる時間を設けられるので、育児や介護との両立にも効果的です。柔軟な働き方を選択できるように制度設計を行うことで従業員満足度が高まり、長期勤続につながる副次的な効果も期待できます。
シエスタ制度実施の注意点
シエスタ制度は従業員の健康管理や企業の生産性向上に効果を発揮する反面、運用方法を誤ると逆効果になるので注意が必要です。昼休みを延長した分だけ帰宅時間も遅くなるため、残業時間のきめ細かな管理も求められます。
寝過ぎると逆効果
シエスタに最適な睡眠時間は後述しますが、長く眠りすぎると目覚めが悪くなって本来のパフォーマンスに戻るまで時間がかかりがちです。目覚めた時に血流が急激に変わったり、寝る姿勢によって首・肩の筋肉に負担がかかったりして頭痛が起きる場合もあります。
その結果、午後からの生産性が低下する恐れがあります。シエスタ制度を導入する際は、寝過ぎないように気をつけましょう。
体内時計の乱れに要注意
昼寝をしすぎると夜にスムーズに入眠できず、結果的に睡眠不足が積み重なって体内時計や生活習慣の乱れにつながるので逆効果となります。シエスタで睡眠時間を補えるからといって、帰宅後に夜更かしをするのも考え物です。
朝の寝起きが悪いと午前中の仕事のパフォーマンスにも影響するだけでなく、通勤時のストレスが強く感じることも考えられます。帰宅後の睡眠を十分に取ることを前提に考えて、シエスタは午前中の疲れを癒やす時間だと割り切るように促すとシエスタ制度の導入効果が高まるでしょう。
退社時刻の厳格なチェックが必要
シエスタ制度を導入すると休憩時間が延長された分、終業時刻が繰り下がります。従業員本人の健康管理にメリットが生まれても、帰宅が遅くなってプライベートの時間を取りづらくなるとワークライフバランスの実現につながりません。家族との軋轢が生まれれば、仕事にも悪影響が及ぶ恐れがあります。
残業時間が長くなりすぎると従業員の睡眠時間が減ってしまいシエスタ制度の導入効果が薄れるため、シエスタ制度を利用した従業員の退社時間は厳格に管理するようにしましょう。勤務間インターバル制度も一緒に導入するなど、退社時刻が遅くならない仕組みを構築するのも一つの方法です。
シエスタ制度の効果的な実施方法
シエスタ制度は「パワーナップ」と呼ばれることもあり、適切な方法で実施すれば従業員の疲労を回復し作業効率を高める効果を発揮します。シエスタ制度を導入する前に効果的な実施方法についてチェックし、従業員にアドバイスできるよう準備しておきましょう。
仮眠できる環境を整える
自分のデスクで仮眠を取る場合は、スムーズに眠りにつけるようアイマスクや耳栓を活用すると効果的です。
机にうつ伏せになって仮眠を取ることが多いですが、ネックピローや昼寝枕を活用すると首・肩の負担が軽減され、目覚めた時に頭痛が起きにくくなるでしょう。周囲の目が気になる場合は、休憩スペースなどで仮眠を取ってもよいでしょう。
周囲の目が気になる場合は、休憩スペースなどで仮眠を取ってもよいでしょう。
小上がりなど横になれるスペースを用意している企業もありますが、疲れている時に横になると眠りが深くなりがちで、スッキリと目覚められないこともあるようです。足を伸ばせるだけでも疲れが軽減されるので、壁に寄りかかる程度にとどめておくとよいでしょう。
仮眠する時間を区切る
仮眠を取る場合は、時間を明確に区切っておくことが大切です。昼食時間が過ぎたあとの午後2時頃に眠くなったりパフォーマンスが低下したりする現象はアフタヌーンディップと呼ばれており、人間にとっては生理現象の一つです。一方、夕方近くになると午前中と並んで活動のピークを迎えるため、仮眠を取る場合は昼食を取った後、または午後1時~午後3時頃の間が適しています。
夕方に仮眠を取ると夜の睡眠の質が落ちる可能性があるので注意が必要です。また、仮眠の時間は15~20分程度、長くても30分程度にとどめるといいでしょう。
カフェインを含む飲み物を飲んでから仮眠する
仮眠する直前にカフェイン入りの飲み物を飲むと、仮眠から目覚めるタイミングで覚醒効果が表れるため、目覚めがスッキリして午後からのパフォーマンス向上につながります。昼食後に温かいコーヒーや紅茶・緑茶を飲めば、ほどよく体温が上がってスムーズに仮眠に就けるでしょう。
なお、緑茶にはカフェインだけでなく「テアニン」という物質が含まれており、リラックス効果を高めるといわれています。
周囲への配慮を忘れない
シエスタ制度を導入している企業でも、昼休みを交代制にしていたり従業員の事情でシエスタを取らなかったりする場面があります。シエスタ制度が社内に浸透していても、仮眠中の従業員がいると静かに仕事をしなければと考えるなど、何かと気を遣うものです。
周りに一声かけてから仮眠に入る、あるいは仮眠中の従業員は起こさないというように、お互いが配慮しあう姿勢がシエスタの効果を高めるコツです。
シエスタ制度に最適な睡眠時間は?
シエスタ制度に適した睡眠時間と、逆効果を及ぼす睡眠時間について3パターンに分けて説明します。
10~20分程度の睡眠
10~20分程度の睡眠が、最もシエスタ制度の効果を発揮する睡眠時間です。脳が休息状態に入るノンレム睡眠は4つのステージに分かれていますが、眠りについた後20分を超えたあたりからステージ3の深い眠りに入ります。
一方、寝付いてから5~20分程度はステージ2の眠りで、眠りは浅いけれども脳の休息は取れているという状態です。そのため、起きた後はスムーズに仕事や活動を再開できます。短めの昼寝を取ることで、心筋梗塞や脳梗塞・認知症の発症リスクが下がるといわれています。
30分程度の睡眠
30分程度の睡眠では脳が深く眠っているため休息の効果が高まる反面、睡眠サイクルの途中で目覚めることになるため眠気や倦怠感が残りがちです。起きた後に、元のパフォーマンスに戻るまで時間もかかります。
シエスタをとる時間帯によっては、夜の寝付きに影響が及ぶ可能性があります。眠りにつくまでの時間の個人差を考慮しても、シエスタでの仮眠は長くても30分程度にとどめておくのが無難です。
60分以上の睡眠
仮眠としては比較的長い部類に入り、30分程度の仮眠時に比べると倦怠感が長時間にわたります。睡眠の1サイクル(約90分)に匹敵する時間となるため、体内時計の乱れにもつながります。
さらに、60分以上の昼寝をする習慣のある人は、昼寝をしない人と比べて認知症の発症率や心筋梗塞・脳梗塞で死に至るリスクが高くなる傾向です。シエスタ制度での仮眠は短時間にとどめ、夜の睡眠を十分にとるようにしましょう。
シエスタ制度での仮眠は短時間にとどめ、夜の睡眠を十分にとるようにしましょう。
シエスタ制度を導入した日本企業
日本企業でも、従業員の健康管理や企業の生産性向上を目指してシエスタ制度を導入する企業が増えてきました。ここでは、シエスタ制度を導入した企業の事例を紹介します。
三菱地所株式会社
不動産大手ディベロッパーの三菱地所株式会社では、2018年の本社移転を機に仮眠制度を設け、仮眠室も整備しました。
リクライニングソファや耳栓などの睡眠しやすいツールが用意されており、事前予約で30分まで仮眠室を利用できる仕組みです。仮眠制度の導入にあたり、仮眠の有無によるパフォーマンスの変化に関する実証実験も行われましたが、実験に参加した社員の3分の2が仮眠によって生産性が向上したと回答しています。
前日によく眠れなかった時に仮眠してリフレッシュしたり、午後の眠気を未然に防いだりするために業務サイクルに意識的に仮眠を取り入れる社員など、利用する社員層は多岐にわたります。仮眠室の他にもラウンジや小上がりスペースも用意されており、業務中に休息しやすい設備が整備されているのも特徴的です。
三菱地所
GMOインターネット株式会社
インターネット関連事業を展開するGMOインターネット株式会社では、頭をクリアな状態にしてクリエイティブな発想を生み出すために、20分程度の仮眠(昼寝)を社員に推奨しています。
昼休み時間にあたる12時30分~13時30分には会議室に昼寝用のベッドスペース「GMO Siesta」が開設され、1人30分まで利用可能です。リラックス効果のあるアロマの香りが広がり、スムーズに入眠できるようアイマスク・耳栓も用意されています。
女性専用のスペースも用意されており、誰でも気軽に利用できる配慮がなされているのが特徴です。
GMO
株式会社ヒューゴ
インターネットコンサルティング業を営む株式会社ヒューゴでは、毎日13時~16時までシエスタを設けています。オフィス内の照明は消されますが、シエスタ制度を利用するかどうかは社員の判断に任されており、昼寝や休憩だけでなくランチ・映画などに出かけるなど時間の使い方の自由度が高いのが特徴です。
オフィスで勤務する時だけでなく、テレワーク時もシエスタ制度を利用できます。午後の眠気を解消することで仕事の効率が上がり、業務のミスや残業時間の削減にもつながっています。さらに、自由な働き方を選べる環境に魅力を感じて入社を希望する人も増えるなど、優秀な人材確保にも効果を発揮しています。
オフィスで勤務する時だけでなく、テレワーク時もシエスタ制度を利用できます。午後の眠気を解消することで仕事の効率が上がり、業務のミスや残業時間の削減にもつながっています。さらに、自由な働き方を選べる環境に魅力を感じて入社を希望する人も増えるなど、優秀な人材確保にも効果を発揮しています。
HUGO
シエスタ制度導入で生産性の向上を
シエスタ制度を導入することで、勤務中に従業員が十分にリフレッシュでき、就業時間を通じて安定したパフォーマンスを発揮できるようになります。仮眠室やラウンジを設けて休憩しやすい環境を整備するなど、大企業を中心にシエスタ制度の導入を本格化する動きも出始めています。
終業時刻が遅くなるなどの課題はあるものの、福利厚生制度の差別化によって優秀な人材を確保できる可能性が高まるのもシエスタ制度のメリットのひとつです。従業員の健康促進にも役立つシエスタ制度の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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