年次有給休暇の付与日数は?取得義務や罰則・メリットなどわかりやすく解説

年次有給休暇は、労働基準法で定められた制度です。企業は基準に従い対象となる従業員に年次有給休暇を与えなければいけません。また2019年より年次有給休暇の取得義務が課せられました。今回は、年次有給休暇の概要や取得促進に向けた取り組みについて解説します。

そもそも年次有給休暇とは

年次有給休暇は、労働基準法によって定められた制度です。心身のリフレッシュを目的に、従業員は給与が減額されることなく休暇を取得できます。正式名称を「年次有給休暇」といい、「年次有給休暇」や「有給」、もしくは「年休」と呼ばれます。

労働基準法では、原則として入社から継続して6か月勤務した時点で、従業員が出勤するべき日数の8割以上勤務していた場合に付与されます。その後は、1年ごとに出勤率の要件を満たしているかを確認し、満たしていた場合に新たな年次有給休暇が付与されます。

年次有給休暇が発生する時期と日数

付与される年次有給休暇の日数は、勤続年数および所定労働日数によって異なります。週5日勤務が想定されている正社員の場合は、継続勤務が6か月の時点で「10日」の年次有給休暇が与えられます。その後は、1年ごとに以下のように増加し、6年6か月以上の継続勤務の「20日」が原則最大付与日数となります。

【原則となる付与日数】

年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説

厚生労働省

なお、ここで定められている継続勤務年数と付与日数は、あくまで労働基準法が定める最低限の基準です。企業が独自の年次有給休暇制度を制定し、自社の従業員により有利な方法で年次有給休暇を付与するのは何ら問題がありません。

パートやアルバイトも年次有給休暇の対象者に

勤務日が週5日に満たないパートや、シフト制で働くアルバイトという雇用形態でも年次有給休暇の付与対象者になります。年次有給休暇は週の所定労働日数に応じて発生する日数が変動します。これを「比例付与」といいます。

比例付与の対象となるのは、以下の条件にいずれにも当てはまる従業員です。

比例付与の対象条件

  • 所定労働時間が週30時間未満
  • 週所定労働時間が4日以下、または年間所定労働日数が216日以下

たとえば、週に3日勤務するパート従業員の場合、入社して6か月の継続勤務で5日の年次有給休暇が付与されます。その後は、1年6か月時点で6日、2年6か月時点で6日、3年6か月時点で8日と増加していきます。

年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説

厚生労働省

週4日勤務でも週の所定労働時間が30時間を超えている場合は、比例付与ではなく正社員と同様の付与日数になります。なお労働基準法上、時間外労働の割増賃金などの対象にならない管理監督者も、年次有給休暇の対象となりますので注意しましょう。

余った有給は繰り越せる?買い取りは可能?年次有給休暇のルール

余った有給日数は翌年に繰り越せるのか、従業員から年次有給休暇の買い取りをお願いされた場合はどう対処するべきか。いくつかの有給ルールについてみてみましょう。

年次有給休暇の日数は繰り越せる?

年次有給休暇は付与から2年経過した時点で消滅します。そのため、年次有給休暇の付与日から2年以内であれば繰り越すことが可能です。

前年分の余った有給を翌年に繰り越した場合、新旧どちらの年次有給休暇から先に取得するべきか、特段の決まりはありません。時効消滅のタイミングが近い年次有給休暇から消化するのが通常の運用です。

余った有給日数は買い取れる?

時効消滅が近い有給を保持している従業員から「有給を買い取って欲しい」と言われた場合、企業が有給日数を取得させる代わりに賃金を支払う行為は、原則として違法になります。

労働基準法第39条で定められている年次有給休暇は、休養として「与えなければならない」とされているため、金銭を支給しても与えたとはみなされないからです。厚生労働省によれば、買い取ったり、買い上げの予約をして年次有給休暇日数を減らしたりすることは認められていません。

ただし、企業が法律で定められた原則付与の年次有給休暇を上回る日数を付与しているケースに限り、独自のルールで付与した日数分については買い取りが認められています。その場合、就業規則に別途定めを設ける企業もあれば、個別のケースで対応する例もあります。

半日や時間単位で有給は取れる?

年次有給休暇は原則として1日単位で付与され、1日単位で取得します。しかし、従業員が希望した場合、半日単位で取得したり、時間単位で取得したりすることができます。

半日単位年休

従業員が希望し、年次有給休暇の時季を指定した場合、企業が同意すれば半日単位で年次有給休暇を与えられます。

時間単位年休

従業員が希望し、年次有給休暇の時季を指定した場合、企業が同意すれば時間単位で年次有給休暇を与えられます。時間単位年休の利用にあたっては、事前に労使協定の締結が必要です。

年次有給休暇の取得時季の変更をお願いできる?

年次有給休暇は、原則として従業員の希望する時季に企業は取得させなければいけません。しかし「事業の正常な運営を妨げる場合」にのみ、企業が従業員に対して取得日の変更を求めることができます。これを、年次有給休暇の「時季変更権」といいます。

企業の時季変更権の行使には、事業の正常な運営を妨げる場合と客観的に認められるような理由があることが重要です。

例年繁忙期が決まっている宿泊施設などは、「事業の正常な運営を妨げる場合」の説明がしやすいでしょう。企業側の権利濫用が認められれば、従業員とのトラブルになる可能性もあります。慎重に対応しましょう。

年次有給休暇を消化しきれない日本企業の現状

厚生労働省の令和3年就労条件総合調査によれば、日本企業における有給取得率は年々増加傾向にあります。令和3年の取得率は56.6%で、前年から0.3%増加、昭和59年の調査依頼過去最高を記録しています。

しかし、取得率が高い「電気・ガス・熱供給・水道業」の産業でも73.3%と、全ての年次有給休暇を消化するには至りません。「宿泊業、飲食サービス業」では45%と産業別では最低の数値となっており、従業員の働き方・休み方改善に向けて、企業が年次有給休暇の取得推進に取り組む必要性が求められています。

令和3年就労条件総合調査

厚生労働省

年5日の年次有給休暇の取得義務と罰則について

こうした有給取得率の現状を受け、働き方改革の一環として、2019年4月より、企業に従業員が年5日の年次有給休暇を確実に消化させることが義務付けられました。この年5日の年次有給休暇の取得義務について、対象となる従業員や取得促進のための運用方法を説明します。

年5日の年次有給休暇の取得義務が対象となる従業員

年5日の年次有給休暇の取得義務対象となるのは、年に年次有給休暇が10日以上付与される従業員です。対象の従業員には、管理監督者や有期雇用従業員も含まれます。どの従業員が年に10日以上年次有給休暇が付与されているのか、明確な管理が求められます。

年次有給休暇の時季指定取得義務

ここでいう「年5日」とは、各従業員に年次有給休暇が付与された基準日から1年以内を指します。もし基準日から1年の間に、5日の年次有給休暇取得をしていない、もしくは見込めない従業員に対して、企業は時季指定をしたうえで年次有給休暇を取得させなければいけません。

年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説

厚生労働省

企業が時季指定をできる有給日数は、年5日の年次有給休暇取得義務の対象となる従業員が、「まだ取得していない義務分」です。つまり、すでに3日の年次有給休暇を申請している従業員に対しては、企業は2日分の年次有給休暇のみ、時季指定を行えます。

また、時季指定を行うにあたっては、企業はあらかじめ就業規則等にその旨を記載し、事前に従業員に対して意向の聞き取りを行わなければいけません。

年5日の年次有給休暇取得義務に対する罰則

年5日の有給取得義務の対象となる従業員がいるにもかかわらず、取得義務分の有給日数を取得させなかった場合、企業は30万円以下の罰金に課せられる恐れがあります。また、時季指定を行う場合、事前に就業規則に規定がない場合も、同様に30万円以下の罰金に課される恐れがあります。

所定の年次有給休暇を与えなかった場合の罰則

労働基準法で定められている所定の年次有給休暇を与えなかった場合、企業は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に課せられる恐れがあります。

こうした年次有給休暇への罰則は、労働基準法違反です。企業のイメージに大きく関わるものであるため、法律の遵守と適切な運用が求められます。

年次有給休暇を取得してもらうメリット

年次有給休暇は、従業員の心身のリフレッシュを目的として作られた制度です。休暇により従業員が体を休め疲労を回復させるだけでなく、結果として仕事の生産性が向上するというように、従業員と企業の双方にメリットがあります。

従業員のモチベーション向上

長時間労働は、従業員の心身に大きな影響を及ぼします。厚生労働省が示した「脳・心臓疾患の認定基準」である「過労死ライン」では、おおむね時間外労働が45時間以上になると業務と病気の発症の関連性が強まるといわれています。

さらに、「発症前1か月間におおむね100時間」あるいは「発症前2~6か月間にわたっておおむね80時間」を超える時間外労働がある場合は、業務と発症に強い関係性が認められます。

STOP過労死

厚生労働省

働き方・休み方を見直すことは、心身が万全な状態で働き続けるために重要なことです。年次有給休暇を適宜取得できることで、従業員の疲労が回復します。

また、年次有給休暇が取得しやすい環境は、企業が従業員を大切にしているというメッセージになります。年次有給休暇の取得は、従業員のモチベーション向上に大きく貢献するのです。

離職率の低下による人材の確保

長時間労働が常態化している職場では、従業員が精神的不調を訴えたり、体調を崩したりする可能性が高まります。厚生労働省の調査でも、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」という項目は、主要な離職理由に上がっています。

休みやすい職場とは、別の言い方をすれば働きやすい職場でもあります。気兼ねなく年次有給休暇を取得でき、管理職やパートといった立場に関わらず年次有給休暇の取得率が高い職場では、自然と人材の定着率が高まり、採用と教育のサイクルで好循環を生み出します。

仕事の生産性向上・業務効率化

仕事へのモチベーションが高いということは、何か新しいことを試したり、やり方を工夫したりといった、意欲が湧いてくるものです。また、心身がリフレッシュされているため頭の回転も早くなります。疲労でささくれ立ち、つい他者批判をしてしまう考え方から、周りを気遣うような余裕が生まれ、職場全体の雰囲気がよくなります。

仕事の生産性を向上させたり、業務を効率化させたりする改善は、がむしゃらに働くのではなく、上手な休み方を含んだ働き方から生まれるのです。

企業のイメージ向上

近年、「週休3日」の働き方が世間で注目されるなど、どのように働いて生きるかという点に関心が集まっています。年次有給休暇取得率が高い企業ほど、従業員の働く環境に気を配り、人材を大切にしている職場であるとアピールできます。

「働きがいある企業ランキング」や「ホワイト企業認定」など、民間企業が発表する制度は企業イメージにダイレクトにつながるものです。「働きがいある企業ランキング」では、法令遵守意識が評価項目に含まれています。また「ホワイト企業認定」では、ワークライフバランスや健康経営、労働法遵守という指標があります。

企業のイメージ向上は、長期的にみれば採用力強化や業績向上につながります。

年次有給休暇の日数を管理する方法

年次有給休暇の取得義務を順守し、また年次有給休暇の取得率を向上させるには適切な管理方法が重要です。以下に、効果的に運用するための具体的な方法について説明します。

年次有給休暇取得計画表の作成

年次有給休暇の取得率向上には、計画的な運用がポイントとなります。「年次有給休暇取得計画表」があれば、誰がどの時期にどれくらい年次有給休暇を取得するのか把握しやすくなります。

計画表を作成するのは、新たな年次有給休暇が付与されたタイミングがおすすめです。年度別や四半期別など、従業員ごとに年次有給休暇取得計画表があることで、取得時期の調整にも役立つでしょう。

年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説

厚生労働省

年次有給休暇の付与日を統一

年次有給休暇を付与するタイミングは「入社して6か月継続した時点」と労働基準法での定めがありますが、法律の基準を下回らない範囲で会社独自のルールを設けることには問題はありません。そのため、年次有給休暇の管理をより効率化する目的で、付与日を統一できます。

付与日の統一の例

  • 月末もしくは月初めに統一する(年の途中で入社する中途採用の社員に対して、入社月ごとに年次有給休暇の付与日数を管理できる)
  • 年度初めや年初に統一する(基準日を一つとすることで、より多くの従業員の年次有給休暇日数を効率的に管理できる)

年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説

厚生労働省

個別の時季指定

原則としては従業員の意思に任せ、年5日の取得義務分が完了しなさそうな従業員に限り、個別に時季指定を行う管理方法です。

具体的には、付与する基準日から1年以内の間に、取得義務分を消化するべき期日を設定します。そしてその期日になっても取得義務分の5日が消化されていない従業員に、時季指定を行います。時季指定できる日数は、「まだ取得されていない義務分の年次有給休暇日数」です。

このとき、事前に就業規則に時季指定の定めが必要です。また、時季指定を一方的に会社が行うことは望ましくなく、可能な限り従業員の意見をヒアリングするといった、きめ細やかな運用が求められます。

年次有給休暇取得促進特設サイト

厚生労働省

計画的付与制度の活用

計画的付与制度とは、企業があらかじめ年次有給休暇を割り振ることで、従業員がためらわずに年次有給休暇を取得できる制度のことをいいます。令和3年の厚生労働省の調査によれば、計画的付与制度を活用している企業の割合は46.2%と、年々増加しており、年5日の取得義務達成のため多くの企業に取り入れられていることがわかります。

計画的付与制度では、全社一斉に付与する、チームや部署ごとにわけて付与するなど、柔軟な対応が可能です。

計画的付与制度を活用するにあたっては、事前に就業規則に定めるとともに、労使協定の締結が必要です。また、計画的付与の対象にできる年次有給休暇の日数は、各従業員の持っている年次有給休暇から「5日を引いた残りの日数」である点に注意しましょう。

令和3年就労条件総合調査 結果の概況

厚生労働省

計画的付与制度を活用した年次有給休暇取得の事例

計画付与制度を利用することで、以下のような大型連休や独自の休暇制度を設けることができます。

冬季や夏季の計画的な大型連休

年末年始やお盆の時季は、慣例的に多くの企業が休業となります。この時期に合わせ、年次有給休暇を計画的付与することで、全社的に大型連休を設定できます。年5日の取得にも効果的です。

ゴールデンウィークなどのブリッジホリデー

ゴールデンウィークやシルバーウィークなど、あらかじめ制定されている祝日では、間に平日がある年もあります。こうした間の勤務日に、計画的付与で年次有給休暇を割り振ると、大型連休となり、従業員も祝日を効果的に活用できます。

閑散期での年次有給休暇の計画的付与

繁忙期が決まっている業種では、閑散期に年次有給休暇の計画的付与を行えば、無理なく従業員の年次有給休暇取得を促進できます。

ワーケーション等企業独自の制度

近年、帰省などの長期休暇に合わせて業務を行った日を勤務日と認める「ワーケーション」が注目されています。年次有給休暇の計画的付与は、こうした企業独自の制度に活用することもできます。厚生労働省の「働き方・休み方改善ポータルサイト」では、さまざまな企業の取り組みが紹介されています。参考にしながら、自社に適した年次有給休暇制度を検討してみましょう。

働き方・休み方改善ポータルサイト

厚生労働省

年次有給休暇の付与日数を理解し取得しやすい職場環境を

年次有給休暇は、労働基準法で定められた制度です。企業は、対象となる従業員に対して基準を守ったうえで年次有給休暇を与えなければなりません。また、付与するだけでなく、従業員が年次有給休暇を取得しやすい労働環境の整備や、制度の構築が重要です。とくに、対象となる従業員の年5日の取得は、企業に課せられた義務であるため、適切に管理を行いましょう。

年次有給休暇の取りやすい職場では、従業員がモチベーション高く、生き生きと働けるようになるでしょう。

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