退職金の相場とは?規模、学歴、勤続年数、退職理由、業種別の最新の相場を紹介

会社で従業員として働いていると「退職金の相場が知りたい」と思われるかもしれません。

退職を検討している人だけでなく、人事部の社員にとっても退職金の相場は気になるのではないでしょうか。退職金の相場を理解することで、自社の退職金制度が客観的に魅力的かどうか再考する材料にもできます。

そこで、この記事では、退職金相場に影響する要因、退職金の平均相場、退職金の計算方法や制度の種類などを詳しく解説します。

退職金とは

退職金とは、企業の従業員などが退職する際、雇用者から支払われる金銭を指します。

日本における退職金の歴史は古く、封建時代の暖簾分け、隠居する武士への退隠金にまでさかのぼるといわれています。

現代の退職金の意味合いには、在職中の功績への報償、賃金の未払い分の支払い、退職後の生活保障などがあります。

大企業を筆頭に退職金制度を取り入れている会社は多いものの、法律上、企業に退職金を支給する義務はありません。あくまでも企業の方針によって退職金の有無や支給金額が決まります(その場合は就業規則の退職金規程で規定されます)。

また、退職金の支給方法には一時金と年金があり、一時金のみを退職金と呼ぶこともあります。一時金は算定基礎額に支給率を掛けて算定されるのが一般的です。

年金には企業独自の自社年金や、税法上有利な適格年金、調整年金の3種類があります。中でも近年は確定拠出型年金のニーズが高い傾向にあるようです。

退職金相場に影響する5つの要因

退職金相場に影響する要因には次の5つがあります。

  • 企業規模
  • 学歴別
  • 勤続年数
  • 退職理由
  • 業種別

まず企業規模ですが、基本的に中小企業よりも大企業の方が退職金は高くなります。企業規模が大きければ、必然的に資本金や売上も多いと予測できますし、税引き後の利益も高いでしょう。

従業員10人未満の企業よりも従業員1,000人以上の大規模な企業の方が、福利厚生が充実している可能性は高く、退職金も高額になりやすいです。

次に学歴別ですが、基本的に高卒よりも大卒の方が退職金は高いです。具体的な退職金額の相場は後述しますが、学歴が高い方が好条件で就職・転職しやすい分、退職金も恵まれているのではないでしょうか。

勤続年数は短いよりも長い方が高い傾向にあります。退職金の計算方法には幾つか種類がありますが、たとえば基本給連動型は勤続年数に支給率をかけて算出するので、会社で働く期間が長いほど高額になります。

他の計算方法として別テーブル方式、定額方式、ポイント制方式がありますが、どの方式も勤続年数が項目に含まれるので、従業員として在籍期間が長い方が有利です。勤続10年目以降、5年ごとに退職金がアップする傾向が見られます。

また、退職理由には定年退職、自己都合退職、会社都合退職(早期優遇退職)の3種類がありますが、退職金が高額になりやすいのは会社都合退職です。会社の都合で従業員をリストラ、早期退職を促した場合に上乗せして支給されます。

業種別の退職金に関しては、製造業(石油・非鉄金属)と百貨店・スーパーの退職金が高くなりやすいようです。一方、医療施設や海運・倉庫は低い傾向にあります。建設業、銀行・保険業、ホテル・旅行業は平均的な割合といえるでしょう。

以上をまとめると、企業規模は中小企業よりも大業企業、学歴は高卒よりも大卒、勤続年数は短期よりも長期、退職理由は自己都合よりも会社都合退職、業種別は製造業(石油・非鉄金属)や百貨店・スーパーの方が退職金はアップしやすいでしょう。

退職金相場とは

ここでは、中央労働委員会がまとめた「令和5年賃金事情等総合調査」を参考にして、退職金相場に影響する要因5つにわけて退職金の相場を見てみましょう。

企業規模別の退職金相場

企業規模別の退職金相場ですが、大企業の事務・技術労働者や総合職で働く大卒のモデル退職金(学校を卒業後直ちに入社し、その後標準的に昇進した者)で見ると2,858万円となります。同じ職種の高卒の平均一時金は2,162万円です。大企業全体の退職金相場は2,100万円~2,800万円の範囲となります。

一方、東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」によると中小企業のモデル退職金平均は大卒で1,091万円、高卒で約994万円です。中小企業の場合は約1,000万円~1,100万円の範囲に収まることが多いといえるでしょう。

上記を分析すると、大企業と中小企業では1,100万円~1,700万円ほど退職金に差が付いています。異なる調査結果を参考にしているため多少条件に違いはありますが、退職金相場として考えた場合、大企業の方が恵まれていると言えるでしょう。

学歴別の退職金相場

大卒の男性定年退職者のうち勤続年数が35年の場合、退職金平均は1,867万6,000円、満勤勤続で2,139万6,000円となっています。高卒の場合はそれぞれ1,319万8,000円、2,019万9,000円が退職金の平均です。

また、製造業に関しては、大卒の勤続年数が35年で1,841万円、満勤勤続(定年まで勤務)で2,105万5,000円。高卒の場合はそれぞれ1,283万2,000円、1,941万5,000円という結果になっています。

このように大卒と高卒では、退職金平均額に差があることが分かります。他のデータを見ても、基本的に大卒の方が高卒よりも退職金の平均額が高めで、大卒と高卒には退職金の金額に大きな差があるといえるでしょう。

勤続年数別の退職金相場

学歴別の退職金相場で解説したように、勤続35年よりも満勤勤続の方が全体的に退職金は高くなっています。

大卒の男性定年退職者のうち勤続年数が35年の場合、退職金平均は1,867万6,000円、満勤勤続で2,139万6,000円ですので、差額は272万円です。
高卒の場合はそれぞれ1,283万2,000円、1,941万5,000円ですので、658万3,000円の差額となります。勤続年数によっても、数百万円程度の差額が発生するでしょう。

退職理由別の退職金相場

資料によると平均退職金は、定年退職1,878万3,000円、会社都合1,399万9,000円、自己都合487万,000円となっています。製造業に関しては、定年退職1,843万3,000円、会社都合1,154万3,000円、自己都合481万2,000円です。

産業トータルも製造業も共に会社都合退職の平均が最も高く、自己都合退職が最も低いことが分かります。

定年退職は会社都合と自己都合の中間なので、60歳、65歳といった定年まで働くよりも、早期優遇退職のような会社都合の方が退職金は高い傾向といえます。

業種別の退職金相場

退職金相場が最も高いのは製造業(石油)の1,746万2,000円、次いで製造業(非鉄金属)の1,744万4,000円、百貨店・スーパーの1,737万2,000円でした。

全体的に製造業は平均相場が高く、食品・たばこ、化学、窯業・土石製品それぞれ1,000万円を超えていました。

他の業種で1,000万円を超えているのは、新聞・放送1,456万7,000円、電力1,110万4,000円、商事1,089万3,000円、私鉄・バス1,078万1,000円という結果です。

傾向として、製造業のように一般的な職業よりも危険性が高い業種や、新聞・放送、電力のように規模が大きな業界の退職金が高いといえます。

退職金制度と計算方法

退職金自体は企業によって設置の有無を決められますが、退職金制度を導入する際は就業規則に下記を記す必要があります。

  • 適用される労働者の範囲
  • 退職手当の決定、計算及び支払の方法
  • 退職手当の支払の時期

適用される労働者の範囲は「勤続○年以上の労働者が退職や解雇された場合」などと定めます。「勤続○年未満の自己都合退職には退職金を支給しない」といった記載も可能です。

退職手当の決定、計算及び支払の方法のうち、計算方法はどの方式を採用するかによって異なります。シンプルな基本給連動型の場合は「退職金額は退職時の基本給に勤続年数に応じた支給率を乗じて計算する」などの記載をした後、勤続年数に対応した支給率の表を入れるのが一般的です。

退職手当の支払の時期に関しては「退職金は支給事由が生じた日から○ヶ月以内に支給する」などの文言を入れますが、「死亡による退職の場合は遺族に支給する」といった表記も必要になるでしょう。労働者が死亡した場合、配偶者や子供のような遺族に対して退職金を支払うのが一般的だからです。

退職金の2つの種類

主な退職金制度には「退職一時金制度」と「企業年金制度」があります。それぞれ解説します。

退職一時金制度

退職一時金制度とは、従業員の退職時に一括で支給される制度です。明治以降、最初に普及したのが退職一時金ということもあり、日本では古くから「退職金=一時金」という認識が多かったようです。

ただし一括支給は企業にとって負担が重く、特に高齢化社会の現在、「どのように負担を回避するか」が課題となっています。

企業年金制度の導入も負担軽減の手段の一つですが、それ以外にも、賃料アップ分の退職金算定額への繰り入れ抑制、一定勤続年数以上の支給率の停止、早期退職優遇制度の導入などがあります。

なお、退職一時金は税制上「退職所得」に該当し、他の所得と合算される総合課税ではなく、分離課税として税金が課されます。

企業年金制度

企業年金制度とは、年金形式として一定期間、もしくは一生涯支給されるタイプの退職金です。

前述したように退職一時金の支払い負担が課題となり、企業年金制度が注目されたという歴史があります。その際に創設された制度が適格退職年金や厚生年金基金です。

その後、少子高齢化や経済状況の低迷など大きな変動が起こる中で、より時代に合った年金制度が求められるようになり、確定給付企業年金(給付額が一定の年金)と確定拠出年金(拠出額が一定の年金)が登場しました。

確定給付企業年金と確定拠出年金によって選択肢が広がった一方、適格退職年金は廃止され、現在は厚生年金基金制度の新設も認められていません。

従来の退職一時金に加えて、企業年金による退職金制度を併用する企業も多いようです。

なお、確定拠出年金のような企業年金は税制上「公的年金等に係る雑所得」に該当し、総合課税として税金が課されます。

退職金制度の種類

主な退職金制度には基本給連動型、定額制、ポイント制、別テーブル制の4種類があります。それぞれ解説します。

基本給連動型

基本給連動型は退職時の基本給、勤続年数、退職理由に考慮した方式で計算式は下記です。

退職時の基本給×勤続年数支給率×退職理由係数=退職金額

基本的に退職時の基本給が多いほど、勤続年数が長いほど退職金額は高くなります。
従来から一般的な退職金制度として日本企業では導入されてきた制度です。「現在の人事評価制度と合わない」などの理由から、現在では基本連動型を辞める企業も出てきています。人事評価制度の再構築と併せて、評価にあった報酬制度の導入が進められており、退職金制度も評価にあった形に見直しが図られています。

定額制

定額制は勤続年数によって一律に決まる方式です。

退職時の基本給や貢献度は考慮されず、勤続年数にのみ連動して退職金額が算出されるため、企業にとって計算しやすいという特徴があります。

従業員としても支給額が分かりやすい反面、勤続年数のみ評価されることに不満を抱く可能性もあるでしょう。その場合は特別加算金制度のようなオプション制度で対応する必要があるかもしれません。

いずれにしても定額制は企業にとって導入しやすい制度です。

ポイント制

ポイント制は様々な要素をポイント化して退職金額を決める方式です。具体的なポイントには勤続年数、役職、貢献度などがあります。計算式は以下です。

退職金ポイント×ポイント単価×退職理由係数=退職金額

各ポイントの重要性・加点によってオリジナリティを出しやすく、企業独自の個性的な退職制度を構築できるという特徴があります。

ただし従業員の社歴の管理、ポイント付与の公平性などを考慮する必要があるため、運用が複雑になりやすいというデメリットがあります。

社内体制に余裕がある規模の大きな会社向けの制度といえるでしょう。

別テーブル制

別テーブル制は基本給連動型に類似した制度ですが、退職時の基本給ではなく、勤続年数や退職理由をベースに退職金額を算出する点が異なります。計算式は以下です。

基礎金額×支給率×退職理由係数=退職金額

基礎金額は役職によって異なり、支給率は勤続年数を考慮するのが一般的です。

すでに基本給連動方式を導入している企業は従業員からの賛同を得やすく、スムーズに移行できるでしょう。

定額制と同じく、企業への貢献度を反映しづらいので、特別加算金制度などで補う必要があるかもしれません。

知っておきたい退職金に関する制度

企業の担当者が退職金に関する制度で知っておきたいものを紹介します。

中小企業退職金共済制度

中小企業退職金共済制度は国による退職金制度です。単独で退職金制度の設置が難しい中小企業(一般業種で従業員300人以下または資本金3億円以下)が利用できます。

毎月の掛金は全額事業主が負担しますが、中小企業退職金共済への新規加入時や、掛金を増額した場合、国によって一部助成してもらえます。

また、掛金は損金や必要経費として全額非課税扱いにできるので、税制上のメリットも得られるでしょう。

従業員としても一定の要件を満たすことで、一時金払い、全額分割払い、一部分割払いを選択受給できるというメリットがあります。

特定退職金共済

特定退職金共済は特定の業種が利用できる退職金制度です。月額1,000円から3万円まで掛け金を設定できるうえに、月額3万円まで損金や経費に算入できるというメリットがあります。

主な特定退職金共済は以下です。

  • 建設業退職金共済(建退共)
  • 清酒製造業退職金共済(清退共)
  • 林業退職金共済(林退共)

建設業退職金共済(建退共)は元請け下請け問わず建設業を営む業者、清酒製造業退職金共済(清退共)は清酒製造業、林業退職金共済(林退共)は林業を営む業者を対象にしています。

生命保険

生命保険の満期保険金や解約返戻金を退職金支払いの原資に回す方法です。

中小企業退職金共済や特定退職金共済と違って企業の口座に入金されるため、退職金以外の用途にも柔軟に使えるという魅力があります。

正当な理由がある懲戒解雇など、場合によっては退職金の支払いを拒否できるのも企業側のメリットです。

ただし生命保険金の貯蓄性(解約返戻金の率)によっては全額損金にできず、会計処理も複雑になりやすいというデメリットがあります。

退職相場に合わせた退職金制度を確立しよう

企業が退職金制度を導入するには、退職金相場に合わせた制度の確立が大切です。

退職金相場を理解することで、必要以上に退職金を支払わずに済むかもしれませんし、逆に必要以下の退職金を支給して従業員の不満を買うリスクも減らせるでしょう。

具体的な退職金相場として、企業規模別、学歴別、勤続年数別、退職理由別、業種別、それぞれの数字を検討する必要はありますが、共通しているのは勤続年数が長いほど高額になりやすいという点です。

計算方法として基本給連動型、別テーブル方式、定額方式、ポイント制方式がありますが、どの方式を採用しても勤続年数を加味しています。

自社だけで退職金制度を設置できない場合は「中小企業退職金共済制度」などもありますので、自社にとって必要な退職金制度の構築を検討してみてはいかがでしょうか。

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