人事部の主な業務の1つが勤怠管理です。本記事では勤怠とは何か、勤退との違い、勤怠管理における管理項目や勤退管理アプリ、勤怠管理制度構築手順などについて紹介します。
記事後半では勤怠管理システムの選び方についても触れているので、これから勤怠管理システムの導入を検討している人事部担当者はぜひ、参考にしてください。
勤怠とは
勤怠という言葉が本来持つ意味は、仕事に対してまじめに取り組むことと怠けることです。そこから、出勤や欠勤、勤務日や勤務時間、残業時間や有給休暇消化など、および、その記録自体を勤怠と呼ぶようになりました。勤惰(きんだ)も勤怠と同じ意味の言葉です。
勤怠という言葉の歴史は古く、神亀四年(727)に著された続日本紀・二月甲子に「巡二監国司之治迹勤怠一也」という文章が見えます。また、1873年に田中義廉が記した小学読本の三「宋史‐孝宗紀」にも「人々の善悪と勤怠によりて、物を得ると得ざるとあり」という文章が出てきます。
勤怠でなく「勤退」と別の漢字で表示する場合もあり、「どちらが正しいのか」「勤怠と勤退では意味が違うのか」などと混乱する場合もあるでしょう。勤怠と勤退の違いについては、以下でくわしく解説します。
勤怠と勤退との違い
出社や退社、勤務時間などやその管理方法を「勤退」と表記する場合がありますが、実は「勤退」という漢字の使用は間違っています。上で説明したように、勤務の記録を行うことや記録そのものを表す言葉は昔から「勤怠」と表記されてきました。
「勤退」のような誤表記が多くみられる理由として、勤務記録には出社時間と退社時間が深く関係することが挙げられます。「勤務(出社)と退社の略で勤退」といった誤解から「勤退」と書いてしまう人が多く、それが定着しまったと考えられるのです。
また、まじめに勤務している人にとって自分の勤務時間を管理する用語に「怠ける」という文字が入ることには違和感があるのかもしれません。「怠」という漢字を避けたい気持ちから「勤退」と表記しがちになっている可能性もあります。しかし、上で説明したように古くから使われている言葉のため、「怠」という漢字のニュアンスは現在のそれと異なり、単に「退社」という意味にすぎません。
勤怠管理とは
勤怠管理とは、出勤や退勤、残業や有給休暇取得といった従業員の就業状況を企業側が把握し、管理することです。勤怠管理を行う目的には、労働基準法の遵守、正確な給与計算、従業員に対する健康的でライフワークバランスの取れた労働環境の提供などがあります。
また、勤怠管理では単なる出勤・退勤時間の把握だけでなく、休憩時間や残業時間、深夜勤務時間や休日出勤など、主に9つの項目の管理が必要です。また、勤務管理の方法には紙の出勤簿やタイムカードを含めて主に4つがあります。最近は従業員のスマートフォンで勤務管理ができるアプリが注目されています。
それでは、勤怠管理の目的や項目、方法などについて、以下でそれぞれ見ていきましょう。
勤怠管理の目的
勤怠管理の主な目的は以下の4つです。
1.労働基準法第32条の遵守のため
まず、従業員の労働時間を詳細に把握するために勤怠管理はあります。法定労働時間は「休憩時間を除き1日あたり8時間、1週間あたり40時間」です。
法定時間を超過して労働する時間外労働、深夜労働、法定休日に労働する休日労働については、労使協定で定めた割増賃金を支払う場合を除き、労働基準法で禁止されています。勤怠管理をすることで労働基準法を遵守し、社員に健康的に働いてもらうために、勤怠管理ははどの会社でも必要とされるのです。
2.正しい給与計算のため
従業員の就業時間を正確に把握して給与計算を行うためにも勤怠管理が必要です。 法定時間を超過した時間外労働、深夜労働、法定休日に労働する休日労働については、労使協定で定めた割増賃金を支払わなければなりません。企業は正しく勤怠状況を記録して、残業代分を計算し給与金額を算出します。
3.社員に健康的な労働環境を提供するため
企業は勤怠管理をすることで、社員が健康的に仕事ができるよう、健全な労働環境を提供しなければなりません。過労死や過労によるトラブルを防止するために、従業員が適切な時間の労働をしているか、しっかりと休憩時間や休日・休暇を取れているかを企業が把握し、管理します。
4.ワークライフバランスを改善するため
企業は従業員のワークライフバランスを改善するためにも、勤怠管理を役立てます。従業員の就業時間や就業日数を企業が把握してノー残業デーや有給休暇消化を推奨するといった対策をとることにより、従業員のワークライフバランスが向上します。ワークライフバランスは従業員の労働意欲維持や安定した雇用につながるため重要でしょう。
勤怠の9つの管理項目
勤怠管理で管理すべき主な項目は、出勤・退勤時間、休憩時間、残業時間、深夜労働時間、休日出勤日数、労働時間、勤務日数、有給休暇、欠勤の9つです。各項目について以下で解説します。
1.出勤・退勤時間
実働時間を算出するための項目です。従業員が会社に到着後、業務を開始してから終えるまでの時間を記録します。出社時間・退社時間とは異なる点に注意しましょう。
2.休憩時間
出社して業務開始後、途中で休憩をとる時間を意味します。休憩時間は業務時間に算入しません。時給労働者の場合は給与計算の対象外です。
3.残業時間
労働基準法に定められた法定労働勤務(1日8時間まで・1週間40時間まで)を超える労働時間を意味する言葉です。法定時間外労働時間、または超過勤務とも呼ばれます。残業時間に対しては基礎賃金の25%以上の割増です。
4.深夜労働時間
深夜労働時間とは22時から翌朝5時までを指します。この時間帯に労働する場合は深夜割増賃金(深夜手当)を払わなければなりません。割増率は基礎賃金の25%以上です。また、法定時間外労働に当たる場合、さらに25%以上の割増が必要となります。
5.休日出勤日数
週に1回もしくは4週間で4日以上の休日を与えることが労働基準法第35条で規定されており、それを法定休日といいます。法定休日に就業した場合は休日出勤となり、基礎賃金の35%以上の割増が必要です。休日出勤日の就業時間すべてを法定休日労働時間として計上しなければなりません。
6.労働時間
出社時間から退社時間までの時間(勤務時間)から休憩時間を除いた時間、つまり、実働時間が労働時間です。たとえば、会社が定める勤務時間が9時から17時、休憩時間が1時間なら、労働時間は7時間ということになります。
7.勤務日数
勤務日数(出勤日数)とは、従業員が業務を行うために職場へ出勤した日数です。ちなみに、有給休暇を取得した日にまったく出勤しなければ勤務日数に算入しませんが、1時間でも出勤した場合は勤務日数に算入する必要があります。
8.有給休暇
有給休暇は年次有給休暇が正式な言い方です。一定の期間を勤続すると取得が認められる休暇として労働基準法の第39条に定められている労働者の権利を意味し、有給休暇を取得して仕事を休んでも賃金が支給されます。
有給休暇の日数は雇用形態や雇用期間などによって異なります。正社員であれば、雇用されてから半年が過ぎた時点で、1年あたり10日間の有給休暇取得が可能です。さらに勤続すれば、1年ごとに有給休暇が認められます。
2019年以降、働き方改革関連法によって従業員に有給休暇を取得させることが義務化されました。たとえば、従業員に年10日以上の有給休暇が与えられる場合、会社は必ず、有給休暇を5日以上、従業員に取得させる必要があります。
9.欠勤
有給休暇とは異なり業務免除が受けられない休暇は欠勤となります。従業員の事情により仕事を休むため、欠勤する場合は給与計算に算入しません。ただし、家庭の都合や病気などやむを得ない理由で欠勤した場合でも、会社によってはあとから有給休暇に切り替えられる場合もあります。
同じ休暇取得でも、有給休暇と欠勤では扱いが異なる点に注意が必要です。たとえば、欠勤扱いにしてしまうと給与が支払われないばかりでなく、ボーナスの査定に影響を及ぼします。そのため、従業員の欠勤はできるだけ有給休暇扱いにしてあげるとよいでしょう。
勤怠管理の4つの方法
勤怠管理の主な方法は紙の出勤簿、タイムカード、ICカード、クラウドシステムの4つです。それぞれの方法について以下で解説します。
1.紙の出勤簿
カレンダーのようなフォーマットを使用し、出勤・退勤時刻や遅刻、早退、休憩時間や残業時間、有給休暇取得や欠勤といった就業状況を記入します。1枚のシートであらゆる従業状況を管理できる点が紙の出勤簿のメリットです。
とはいえ、手書きの自己申告のためサービス残業や不正申告の防止が難しく、厚生労働省がガイドラインで規定する「適正な労働時間の把握」が困難になるというデメリットがあります。ただし、ガイドラインに定められている「自己申告制の特例措置」条件を全て満たせば、勤怠管理の客観的記録認定も可能です。
2.タイムカード
タイムレコーダーにタイムカード(紙の打刻シート)を挿入して出勤・退勤時間を打刻する方法です。従業員ごとに1ヶ月1枚のタイムカードで勤怠管理します。
タイムカードのメリットはタイムレコーダーさえ導入してしまえば、その後の運用コストが安く済むことです。一方、業務開始時間・終了時間の2つしか打刻できないケースが多く休憩時間や残業時間の把握が難しい点がタイムカードのデメリットといえます。また、タイムカードの修正を修正する場合は紙の出勤簿同様の手続きが必要です。
3.ICカード
勤怠管理機器にICカードをかざして就業状況を記録する方法です。勤怠システムが搭載されており自動で勤怠管理ができるため、従業員にとっても会社にとっても利便性が高いといえます。また、タイムカードとは違ってICカードを持つ従業員本人しか記録できないため、適正な労働時間の記録ができる点もメリットです。
4.クラウドシステム
勤怠管理システムを活用した退勤管理では、タイムレコーダーやIC機器を使用して出勤・退勤の打刻から集計や分析までをワンストップで自動管理できます。従業員のパソコンやスマートフォン、タブレットなどを利用して勤怠管理ができるので、出張やリモートワークなど社外勤務をする社員が多い会社には最適です。
クラウドサービスによる勤怠管理システムの提供も増えています。打刻方法も多岐にわたり、顔認証や指紋認証、指静脈認証など人体を使うものからGPSを使うもの、SNSを使うもの、ICカードやWeb打刻まで、非常に多くの方法があります。
クラウドシステムを利用した勤怠管理のメリットは、リアルタイムで打刻管理ができる点や集計・分析にかかるコストを削減できる点です。さらに、給与システムとの連携によって転記の手間や給与計算ミスを防止できます。従業員一人ひとりの勤務状況に関してアラート機能を設定しておけば過剰労働しがちな従業員に対してもタイムリーな指導が可能です。
クラウドシステムのデメリットを挙げるなら、他の勤怠管理方法よりも導入コストがかかったり、会社の規模や管理体制によっては運用コストも大きかったりする点でしょう。また、導入時には自社に合っているかどうかや従業員に使いこなせるかどうか、セキュリティ対策など検討すべき点も複数あるため、導入から運用開始までには多少の時間を要します。
勤怠管理のアプリ
上で述べたように、クラウドシステムの中にはスマートフォンやタブレットを利用して出勤時間や退勤時間を記録できる勤怠管理アプリもあります。勤怠管理アプリの主な種類はタイムレコーダー型、多機能型、他業務連動型の3つです。
タイムレコーダー型は勤怠管理アプリを入れたタブレットをタイムレコーダー親機として職場に設置し、顔認証やボタンタップなどで打刻します。タイムレコーダーよりもスピーディーに打刻できるので、多くの人が同じ時間帯で出入りする職場などに適しています。
多機能型はタイムレコーダー型よりも機能が多く、従業員のスマートフォン・タブレット・パソコンで打刻できる点が特徴です。不正登録への対策としてGPS機能やパスワード認証、生体認証などを搭載しています。
他業務連動型は、給与計算など勤怠管理と関連する他業務システムと連動できるアプリです。勤怠管理から給与計算までをワンストップで行えるため、バックオフィス業務を効率化できます。
勤怠管理制度の構築手順
勤怠管理システムを導入・運用するには、以下の手順を踏む必要があります。自社に合った勤怠管理システムを選ぶようにしましょう。
1.勤怠管理運用の分析・整理・就業規則の再構築・賃金規定の確認
既存の勤怠管理のデータを分析・整理し、改善すべき点を洗い出します。また、就業規則は勤怠管理システムの基幹となるため、就業・休憩・残業時間の定義や休日・有給休暇・特別休暇や慶弔休暇などの定義を見直しましょう。就業規則にあてはまらないケースにおけるイレギュラーなルールなどができている場合は就業規則に落とし込み、再構築します。
賃金規定についても、給与の締め日と支給日、みなし残業の有無、残業代の算出方法や休日出勤における割増賃金計算方法などを確認しておきましょう。これらの数字は勤怠管理から給与計算までを通して行う場合のシステム設定時に必要です。
2.勤怠管理システムの選定・設定
勤怠管理システムには多くの種類があり、搭載する機能もさまざまです。そのため、自社の就業規則や賃金規定と相性が良い賃貸管理システムを選ばなければなりません。
就業規則に特例などが多い場合は設定に柔軟性がある勤怠管理システムを選ぶ必要があります。また、自社の状況に合わせたカスタマイズが可能かどうかも確認しましょう。
3.従業員への周知
どれほど高機能な勤怠管理システムを導入しても、実際にそれを利用して打刻を行う従業員が使いこなせなければ、勤怠管理や給与計算業務の効率化につなげることはできません。また、勤怠管理を行う人事部社員はシステムの使い方を熟知している必要があります。勤怠管理システムを導入後、運用開始前に十分な従業員教育を実施しましょう。
勤怠管理にまつわる問題
勤怠管理関連の主な問題としては、長時間労働、有給休暇の低取得率、リモートワーク下の管理などがあります。勤怠管理システムを導入する際は、各問題の解消につながる機能を搭載したものを選ぶことが大切です。勤怠管理にまつわる問題について、以下でそれぞれ解説します。
長時間労働
上で述べたように、適切な労働時間は1日8時間まで・1週間あたり40時間までと労働基準法で定められており、それを超える労働時間は法定労働時間超過となってしまいます。
会社は従業員の健全な労働環境を整備する義務があるだけでなく、法定労働時間を超える残業については割増賃金を払わなければなりません。アラート機能など、従業員の長時間労働をできるだけ防止する機能を備えた勤怠管理システムを選びましょう。
有給休暇の低取得率
従業員に有給休暇を取得させることも会社の義務です。しかし、実態として職場の空気を読むなどが原因で、有給取得率が上がらないという企業も少なくありません。どの従業員が有給休暇を消化できていないか把握しやすい勤怠管理システムを選ぶとよいでしょう。
リモートワーク下の管理
リモートワークにおける勤怠管理は、不正登録やオーバーワークの把握が難しい点が問題です。パスワードや人体による認証やGPS機能を搭載し、社外での就業状況を正確に管理できる勤怠管理システムを選ばなければなりません。
勤怠管理の3つの注意点
勤怠管理システムを選ぶ際の主な注意点は、打刻ミスの低減、リモートワーク下での利便性、給与計算や人事評価制度との互換性を実現できるものを選ぶことです。以下でそれぞれについて解説します。
1.打刻ミスを低減できる仕組みを目指す
従業員による打刻漏れや打刻後の修正などに対応できる仕組みを勤怠管理システムに取り入れるようにしましょう。実働状況を正確に反映できる勤怠管理システムを運用することによって、従業員が快適に働ける職場環境の実現や定着率向上につながります。
2.リモートワーク下で利便性の高いシステムを選ぶ
働き方改革やコロナ禍などにより、リモートワークは今後も増えていくでしょう。リモートワーク下でも実際の就業状況を正確に把握し、管理できる勤怠管理システムの選択が重要です。
3.システムは給与計算や人事評価制度との互換性を確認する
人事の業務効率化が勤怠管理システム導入の大きな目的であれば、給与計算や人事強化制度と連携できる勤怠管理システムを選ぶことが重要です。勤怠管理システムを選択する際は既存システムとの互換性を確認しましょう。
適切な勤怠管理制度を構築しよう
自社に合った勤怠管理システムを構築することにより、従業員にとって快適な職場環境の実現や人事部の業務効率化を図ることができます。従来の勤怠管理データ分析や就業規則の見直しをしたうえで、自社に必要な機能を備えた勤怠管理システムを選び、適切な勤怠管理制度を構築しましょう。
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