従来は、仕事と私用とは完全にわけるべきとの考え方が主流でしたが、リモートワークなど働き方の多様化が進む現代では、私用に対する考え方が変わってきています。
今回は、私用に関する定義を改めて確認するとともに、現代の働き方にまつわる私用ついて解説します。私用にまつわる動向やトラブルの具体例、対策方法など、ぜひ自社の取り組みにお役立てください。
私用とは
そもそも私用とは二つの意味に分けられます。一つ目は、私事に私用すること・用いることを言います。例えば、会社の備品など仕事で使用すべき道具を、仕事ではなく自分のプライベートなことに使用する場合などです。
二つ目は、個人的な用事や私事そのものを指します。趣味の用事や、家庭や自分のために必要とする時間などプライベートな事柄のことです。
私用と所用の違いとは
私用とよく混同されることばに、「所用」があります。所用とは、用事・用件といった意味と、用いる所・物を指す2つ意味合いがあるでしょう。私用と混同されるのは前者の用事・用件という意味での所用です。私用は用事の中でも個人的なものに限られるのに対して、所用については、仕事の用事も含まれより広い意味となります。
例えば、「明日は私用のため出席できません。」の場合だと、プライベートの用事であることが相手に伝わるのに対して、「明日は所用のため出席できません。」であれば仕事・私用どちらの可能性もある状態で伝わります。社外の方に使用する際は、「所用」の方が適切な場合が多いでしょう。
私用の類義語とは
私用には複数の類義語があります。例えば、「個人的」「私的」「プライベート」「用事」「用務」などがあるでしょう。「個人的」「私的」「プライベート」は「個人的な用事」の意味と類似した言葉です。「用事」「用務」は個人的な意味には限定されないため、より広い意味合いでの類義語となるでしょう。
私用の対義語「公用」とは
私用の対義語は「公用」です。公用とは公での用事のことを言います。勤務する会社や団体などの用務・公務を意味します。本来は国や公共のために用いること、国家的な公の用事のことを指し、そのために使用される費用について主に使用されてきたことばです。
私用の具体例①:私事に用いる場合
ここでは、「私事に用いる場合」に使用される私用について具体例を見てみましょう。
私用インターネット
私用で社内のインターネットを使用する場合のことです。社内で契約しているWi-fiなどでプライベートな用事のためにインターネットで検索などする行為を言います。また、外出先などで会社が契約している携帯のインターネットやテザリングをプライベートで使用する場合も該当するでしょう。
私用インターネットは、会社が契約している通信容量を圧迫してしまい余計な費用がかかる問題があります。また、通信容量の範囲内であったとしても業務の生産性を阻害してしまい労働コストが上がってしまうため、企業として取り組むべき課題と言えるでしょう。
私用電話
私用電話は、会社の電話や会社用携帯をプライベートな電話に使用することです。私用電話の取り締まりについては、営業担当者など顧客とプライベートでも交友がある場合に、私用の内容での通話と仕事の内容での通話との線引きが難しいケースも考えられます。
携帯を私用電話に利用した場合、契約によっては通話費用が大幅に増加することがあるため注意が必要です。
私用メール
私用メールも会社内で問題になりやすい私用の具体例です。
会社用のアドレスを使用して、私的なメールを送付したり、勤務時間中に私的なアドレスからメールを送ったりする場合を言います。近年、グループウェアやチャットの普及に伴い、公用と私用での区分がますます難しくなっていると言えるでしょう。
家庭内からの緊急の連絡など対応せざるおえない場合もあるので、完全に防ぐことは難しいです。また、社員の働きやすさを重視して、完全な区分を目指すのではなく生産性の向上は他の制度でフォローしつつ社員の裁量に任せる会社も少なくありません。
私用端末の業務利用
個人的に保有しているパソコンやスマホなどのデバイスを、会社の職務のために使用する場合を言います。セキュリティが担保されていない個人的に保有しているデバイスを職務に利用することは、情報漏洩などのリスクを高めるでしょう。
リモートワークが一般的となり働き方の柔軟化が進む中で、私用端末の使用も増加しています。中には、BYODと呼ばれる私用端末の業務利用を会社側が認め、制度として導入ケースも出てきています。
備品の私的利用
会社で公用に使用するために備蓄されている備品を私的利用した場合にも私用に該当します。ボールペン、切手、封筒など少額のものから、パソコンやスマホなど貸与される高額なものまで該当します。
少額のものであっても備品を私的に利用することは禁止されているのが一般的でしょう。パソコンやスマホについては、私的利用を認めているケースもありますが、セキュリティ対策などの強化は必要不可欠です。
私用の具体例②:個人の用事の場合
ここでは、「個人の用事の場合」に使用される私用について具体例を見てみましょう。
旅行・レジャー
旅行やレジャーなど遊びの用事は私用に該当します。
日々の仕事に対して意欲があり生産性の高い状態を保つためには、オンとオフとのバランスが大切です。旅行やレジャーなどの余暇の時間を定期的にとることで、リフレッシュしながら仕事に取り組めるでしょう。
旅行・レジャーのために特別休暇を設けている会社もありますが、有給休暇を取得することが一般的です。理由など伝える必要はありませんが、急に取得することで職場に迷惑をかけるのはNGです。特に長期で取得する場合は、あらかじめ職場内で仕事のスケジュールを調整しておいてから取得するようにしましょう。
通院
病気やケガなどによる通院も私用となります。ただし、職務中のケガにより労災が適用する場合は私用による通院には該当しません。あくまでも、個人的な要因により通院が必要となり休暇を取得する場合は私用となります。
午前休など時間単位で有給休暇が取得できる場合は、そちらを利用すると便利です。会社に通院する旨を伝える必要性はありませんが、定期的かつ長期的な通院が必要で、説明しておいた方が気持ちの上で楽な場合は上司に伝えておくとよいでしょう。
家庭内の用事
家庭内の用事によって時間をとる場合も私用と言えるでしょう。
子どもの授業参観・運動会などの行事や、両親の介護、ペットの世話など幅広い用事が該当します。
コロナ禍で子どもの休園や休校が増え、自宅での待機が必要となり急な家庭の都合により休暇をとるということも珍しくなくなりました。以前と比較すると、家庭内の用事での休暇が取りやすい社会的傾向にあると言えるでしょう。
慶弔行事
結婚式やお葬式など慶弔行事に参加する場合も私用に当たります。
慶弔行事に関しては、特別休暇を設けて、該当する親等までは〇日間の慶弔休暇を付与するなど社内規定で定めている会社が多いようです。
社内規定で慶弔休暇を設けていない場合は、有給休暇や欠勤によって休暇を取得します。結婚など前もってわかっている行事についてはあらかじめ休暇を申請しておきますが、お葬式などについては、急に休暇をとっても仕方ないものとの考えが一般的でしょう。
手続き関係
行政などで必要とされる手続きに要する時間も私用となります。
日常生活の中で、平日の昼間にしか行えないなど私用の手続き関係が発生することもあります。そのために取得する休暇も私用のための休暇です。住民票の移転手続きや、児童手当の申請、車の免許の更新などさまざまにあるでしょう。
手続き関係における私用は短時間で済むため、時間単位の有給休暇が設けられている会社は社員にとって喜ばれます。
私用にまつわる4つのリスク
ここでは、私用にまつわるリスクを4つ紹介します。
情報漏洩
私用によるトラブルについて、近年特にリスクが上昇しているものに「情報漏洩」が挙げられます。リモーワークが普及し、職場だけでなく様々な場で業務を行うことが一般化してきたことで、「私用」と「公用」の区分がますます難しくなってきているでしょう。
「仕事用のパソコンを紛失してしまう」「家族や友人に仕事の内容を見られてしまう」「セキュリティが万全ではない端末やネットワークで仕事をする」など情報漏洩が起きやすい環境が増えているのです。
生産性の低下
私用によって仕事の生産性が低下するというリスクもあります。
私用のための時間をしっかりととることによって心身ともにリフレッシュでき、仕事の生産性向上につながるのであればよいのですが、私用が生産性の低下を招く場合もあるでしょう。
仕事中の私用メール・インターネットは、業務効率を下げ、仕事への集中力を欠けさせる恐れがあります。完全に私用を切り離すと考えるのではなく、どのように私用・公用のバランスをとり、社員の生産性をアップさせられるかを考え制度に落とし込むことが重要です。
ムダなコストの発生
私用はムダなコストの発生にもつながります。適切な形での私用のための時間を取得するのではなく、業務時間内に私用を行うことはムダな労働コストとなります。また、備品などの私用もムダなコストとなるでしょう。
私用が常態化してしまうと企業文化として醸成されてしまい、私用による多少のムダは当たり前という空気となってしまうので注意が必要です。
私用でのケガによる離職
私用での時間を過ごす中で、ケガをしてしまうというリスクもあります。私用中でのケガですので、本来であれば企業が介入する部分ではない領域となります。
しかし、重度のケガなど治療に時間がかかってしまう場合には、職務への影響は避けられないでしょう。
業務上でのケガであれば労災制度などサポートがありますが、私用中のケガについても企業は対応を考えておくことが必要です。
私用によるセキュリティリスクの深刻化
近年リモートワークが増加したことによって、特に私用端末による仕事との併用が増え、セキュリティの脆弱性へのリスクが高まっています。
例えば、2020年10月日銀より「金融機関の在宅勤務とセキュリティ対策の状況に関する報告書」が発表され、私用端末の利用によるセキュリティの問題についても報告されました。
報告書によると、在宅勤務制度がある金融機関は全体の7割に上り、その中の4割で個人が所有する私用端末の利用を認められています。私用端末での利用そのものには問題ないものの、会社貸与と比較するとセキュリティの統制が取りづらいと日銀は指摘しました。また、私用のメールを介するウイルス感染の恐れや、私用USBメモリーなどの利用も一部の金融機関では報告があったようです。
こちらの金融業界の例ですが、同様の事象が一般企業にも広がっていると考えられ、コロナ禍以前と比較してセキュリティリスクが高まっていると言えるでしょう。
日本経済新聞
私用によるトラブルの具体例
ここでは、企業における私用によるトラブルの具体例を3つ紹介します。
私用インターネットの利用による通信制限
A社では貸与した携帯のインターネットについて、口頭では「私用では私用しないように」と注意喚起していたものの、社内規定では明言されていない状態でした。何人かの社員が私用で動画を見るなどの通信容量を必要とする用途でインターネットを使用。
A社は利用社員全体での容量にて契約をしており、何人かの社員が大幅に容量を使用し契約容量を超えてしまうと全員の通信が制限される契約内容でした。そのため、毎月月末近くになると、全員の通信速度が遅くなり業務に支障をきたすという問題が発生しました。
リモートワーク時に不正プログラムへ感染
B社はノートパソコンについては、会社用の端末を貸与していたもののネットワークについての取り決めがなされておらず、リモートワーク時は私用のネットワークの使用を黙認していました。
ある社員が私用端末からテザリング機能を利用して会社用パソコンを使用していたところインターネット経由で不正プログラムに感染。会社の機密事項が漏洩するという重大な問題へと発展してしまいました。
旅行先で事故に遭遇
C社の社員は有給休暇を3日間取得し、友人と旅行にでかけました。
久しぶりの休日に羽目を外しすぎてしまい、お酒を飲み過ぎた帰り道にふらつき事故に遭遇。全治半年の大けがを負ってしまいました。
C社には、労災制度以外での私傷病休職制度が整っておらず、休職期間中の保証について社員からは健康保険適用範囲内ではない100%の休業補償金を求められトラブルへと発展してしまいました。
私用によるトラブルを防ぐ4つの方法
ここでは、企業が対策したい社員の私用によるトラブルを防ぐ4つの方法を紹介します。
私用端末についての社内規定を整備
特にリモートワークなど社外での仕事を広く認める会社では、私用端末についての取り決めをはっきりさせ社内規定を整備しておくことが重要です。社内規定には、機密情報の範囲、セキュリティ上のルールを明記しておきましょう。社員個人のモラルに左右されないよう明確にしておくことが大切でしょう。
セキュリティの強化
私用端末での使用を認める場合には、セキュリティを強化することも欠かせません。端末のセキュリティ設定ができ機能制限を行えるMDMと呼ばれる管理ツールを使用したりデスクトップ仮想化(VDI)を活用することで端末にデータを残さないようにするなどの対応です。使用端末を使用することで高まる情報漏洩リスクに備えましょう。
啓蒙活動を強化
私用についてのリスクや考え方について、社内で啓蒙活動を強化することも大切です。私用によってどのようなトラブルが起こるリスクがあるのか、周知することで社員の意識を高めることが有効でしょう。
また、私用端末での利用についても、社内規定を整備するのみではなく内容をしっかりと理解してもらい、実際にどのような情報漏洩リスクがあるのか知ってもらうこともトラブル防止につながります。
私傷病休職制度の整備
私用時のケガや病気が発生してしまった際に社員とトラブルにならないよう、私傷病休職制度を整備しておくことも重要です。私用でのケガや病気については、法律上必ず制度を設けなければならないという規定はありません。
そのため制度を設けるかどうかは各会社の判断になりますが、社員に長く安心して働いてもらうには設けておいた方がよいでしょう。就業規則に私傷病休時の休職期間、復帰が可能であれば復帰させること、期間を満了しても復職できない場合には雇用契約を終了する旨などを記載します。
私用によるトラブルを防ごう
ワークライフバランスが重要視され働き方が柔軟になるにつれて、私用と職務との境界線はますます曖昧になり、私用によるリスクは高まります。
ただ、社会の流れや新たな働き方へ対応していくためには、ただ単に私用と職務とを厳しく切り離すのではなく、どうやってバランスをとるか各リスクを低減させられるかを考えることが重要でしょう。会社内での「私用」に関しての方針を明らかにし、社員にとって働きやすい制度を拡充させると効果的ではないでしょうか。
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