企業経営で法律や財務の専門知識が必要なとき、どのような専門家に相談すればよいかと悩むのではないでしょうか?
そのようなときこそ、「士業」の活用を検討してみましょう。
本記事では、弁護士や税理士など、名称の末尾に「士」がつく専門家たちの活用法を紹介します。13種類の士業の仕事内容や年収、企業での具体的な活用例を知ることで、経営課題を効率的に解決し、コンプライアンスリスクを軽減できます。
経営上のお悩みを抱えている方はぜひ、本記事の内容を参考にしてください。
士業とは
士業(しぎょう)とは、高度な専門資格を必要とする職業の通称であり、ほとんどの場合は末尾に「~士」がつきます。世間一般的に知られている「士業」として以下が挙げられます。
- 弁護士
- 行政書士
- 公認会計士
士業を「さむらいぎょう」と呼ぶこともありますが、それは「士」を「さむらい」とも読むことからきています。
8士業・10士業の違いと職種一覧
8士業と10士業は、日本における専門資格を持つ職業の分類であり、異なる職種が含まれています。それぞれの違いと職種を一覧にしてみました。
- 8士業の違いと職種一覧
- 10士業の違いと職種一覧
以下で詳しく解説します。
8士業の違いと職種一覧
「さむらいぎょう」と総称される8つの士業。
いずれも国家資格が必要な専門性の高い職業ですが、それぞれ異なる専門分野と役割を持っています。
企業経営において、士業の専門家の知識やスキルを借りる場面は少なくありません。
主な8士業とその業務内容は以下の通りです。
士業 | 業務内容 |
弁護士 | 訴訟手続き、法律相談、契約書作成など |
司法書士 | 登記、供託、簡易裁判所訴訟代理など |
行政書士 | 官公庁への許認可申請書類作成、権利義務・事実証明に関する書類作成など |
土地家屋調査士 | 土地の境界確定測量、建物の表示登記など |
税理士 | 税務申告、税務相談、会計業務など |
弁理士 | 特許、実用新案、意匠、商標などの知的財産権に関する業務 |
社会保険労務士 | 労働・社会保険関係の手続き、就業規則作成、人事労務相談など |
海事代理士 | 船舶登記、海難事故に関する手続きなど |
ポイントとなる点として、8士業は、法律や行政手続きに特化しており、個人や企業の法的問題解決に寄与します。
10士業の違いと職種一覧
10士業は、8士業に「海事代理士」を除き、以下の職種を加えたものです
- 公認会計士: 会計監査や税務コンサルティング
- 中小企業診断士: 中小企業の経営診断やコンサルティング
- 不動産鑑定士: 不動産の価値評価
10士業は、8士業(海事代理士は除く)に加えて会計や経営コンサルティング、不動産評価といったビジネス関連の職業が含まれ、企業活動全般に重要な役割を果たします。
士業を活用するメリット
士業の活用は、企業経営に多くの利点をもたらします。専門知識を持つ士業は、特定分野で的確なアドバイス提供や、複雑な手続きの代行業務を担うのがポイントです。
士業は仕事内容がそれぞれ明確であるため、依頼者は期待する成果を把握しやすいでしょう。士業を活用する主なメリットは、以下のとおりです。
- 専門分野の深い知識とスキルが活用できる
- リスク管理とコンプライアンスを維持できる
- 法的根拠のあるアドバイスや作業に従事してくれる
自社の課題を解消するために士業を活用できれば、企業経営の効率化とクオリティ向上につながります。
ただし、報酬相場や代替可能性など、デメリットも考慮しつつ活用するのが賢明です。デメリットは次章で解説します。
士業を活用するデメリット
士業活用のデメリットは、国家資格に基づく業務を行うため、報酬相場がある程度決まってしまうことです。
そのため、価格設定の自由度が低くなり、柔軟な予算の調整が難しくなってしまいます。
デメリットを考慮しつつ、自社のニーズに合った士業を選ぶことが重要です。
複数の士業から見積もりを取り、初回無料相談を活用して報酬と専門性を比較検討しましょう。
13種類の士業一覧
ここでは8士業を含む代表的な13種類の士業の仕事内容を紹介します。
- 弁護士
- 弁理士
- 司法書士
- 行政書士
- 税理士
- 社会保険労務士(社労士)
- 土地家屋調査士
- 海事代理士
- 会計士
- 中小企業診断士
- 保険代理士(保険コンサルタント)
- 不動産鑑定士
- ファイナンシャル・プランニング技能士(ファイナンシャルプランナー)
1. 弁護士
法律問題の専門家として、司法書士・行政書士の取り扱う仕事を含む法律事務全般を取り扱います。法廷の内外で依頼者の権利や人権、利益を守ることが主な仕事です。
また、弁護士は弁理士・税務士の取り扱う業務も行えます。企業が経営難に陥った場合は、経営再建あるいは破産手続きのために弁護士が代理人となって裁判所に法的手続きを申し立てることもあります。
2. 弁理士
知的財産に関する専門家として、以下の保護手続きを代行します。
- 考案や発明
- 実用新案
- 意匠
- 商標
- デザイン
- マーク など
弁理士の業務範囲は特許庁への出願から登録までです。
特許申請手続きには専門的な知識が要求されるため、発案者は多くの場合、弁理士に書類作成や手続きを依頼します。
また、弁理士は知的財産や研究開発に関する助言も行います。
企業の知名度が上がると製品・サービス名などに商号を使用する可能性があるため、商標登録について事前に税理士に相談しておくとよいでしょう。
3. 司法書士
登記手続の専門家として、不動産登記や商業登記を行います。登記手続きのほかに供託手続きの取り扱いも可能です。また、訴状など必要書類の作成といった裁判事務や、依頼者に法律的な観点からアドバイスすることもあります。
行政書士との違いは、司法書士が裁判所・法務局・検察庁など法務的な官庁に提出する書類を作成する仕事である点です。また、司法書士の扱える事件は訴額が140万円を下回る民事事件に限られる点が弁護士と異なります。
4. 行政書士
経営と法律の専門家として、個人・企業の経営上・法律に関する相談に乗ったり、行政手続きを代行したりします。
具体的には、以下の内容が行政書士の仕事です。
- 県庁・官庁・市役所・国の機関などに提出する書類や権利事務・事実証明に関する書類の作成相談
- 上記書類の作成・提出手続きの代理 など
助成金申請や各種営業許可申請など、企業活動にも幅広く関わります。行政書士に依頼できる書類の種類は多く、行政書士によって得意とする分野・業務が異なる場合もあります。
5. 税理士
税務分野の専門家として税務相談に対応したり、税務関連の書類作成、手続きなどを代行したりします。
税理士の主な仕事は、以下のとおりです。
- 確定申告など税金関連の書類作成
- 税務官公署への申告・申請
- 税務署の決定に対する不服申し立てや税務調査立ち会い
- 過誤納税金の還付請求などの税理代理業務
その他、会計顧問業務や記帳代行業務、顧問先企業の巡回監査、事業主に対する経営助言業務なども行います。
6. 社会保険労務士(社労士)
労働基準法や労務管理の専門家として、契約先企業の保険に関する届出書・申請書・報告書などを作成したり、労働基準監督署・公共職業安定所・社会保険事務所などへの事務手続きを代行したりします。
また、契約先企業の賃金形態や労働時間、就業規則などの作成や人員の採用・配置など労務全般のコンサルティングを行うケースも少なくありません。
さらに、雇用に関連する助成金・給付金についてのアドバイスも行います。
7. 土地家屋調査士
主な業務は不動産の表示登記申請代理などです。
依頼者の不動産表示に関する登記に必要な土地家屋の調査・測量を行ったり、登記の申請手続きや審査請求の手続きなどの手続きを代行したりします。
8. 海事代理士
海事に関する行政機関への申請、届出などの手続きを代行します。
主な依頼者は海運や造船分野の法人企業、また船主などです。
依頼者が保有する船舶の登記・登録・検査や船舶免許の取得・更新の申請代行などが海事代理士の主な業務です。
9. 会計士
企業会計監査の専門家として、会計・財務に関する調査・立案・相談などを行います。
特に、財務諸表監査は会計士にしかできない業務といわれており、公正な第三者の立場から企業が作成した財務諸表に誤りや粉飾決算がないかを監査・調査・判断しなければなりません。
また、経営・業務改善に向けたアドバイスや指導(MAS:マネージメント・アドバイザリー・サービス)や株式公開支援、M&A、税務、情報システムの設計・監査などの業務も行います。税理士会に加入している会計士なら税理士との兼務も可能です。
10. 中小企業診断士
中小企業の経営診断に関する専門家として、民間企業や公的支援事業において経営に関するコンサルティングを行います。
依頼者の経営状態を合理的に分析したうえで経営上の問題を診断し、それに基づいて事業計画の作成や成長戦略の策定・実行をしたり、改善・経営革新に向けたアドバイスをしたりといった内容が中小企業診断士の主な業務です。
また、企業と行政のパイプ役を務めるという役割もあります。独立開業している中小企業診断士と、一社員として企業に勤務している中小企業診断士(企業内診断士)がいます。
11. 保険代理士(保険コンサルタント)
保険に関する専門家・保険会社の代理として、保険契約者のリスクを分析し、その人に適した保険提案を行います。
委託される保険の種類は、生命保険、自動車保険、バイク保険、レジャー保険、ゴルフ保険など、さまざまです。
保険商品・サービスの多様化や価格自由化が進む中、保険の幅広い知見を持つ保険コンサルタントが保証内容を検討して優先順位を判断し、契約者に合った保険を提案します。
12. 不動産鑑定士
不動産鑑定評価法に基づき、不動産の鑑定評価を行う国家資格保有者です。
不動産鑑定士の具体的な仕事内容としては、土地や建物の経済価値判定や、賃借権など土地・建物に関する所有権以外の権利に関する経済価値の判定結果として価額表示を行うことなどが挙げられます。
13. ファイナンシャル・プランニング技能士(ファイナンシャルプランナー)
ファイナンシャル・プランニング技能士は「ファイナンシャルプランナー」とも呼ばれる職種で、「職業能力開発促進法」で定められた国家資格です。
顧客一人ひとりの資産に合わせて、貯蓄や投資など総合的な資産設計やライフプラン設計に関する相談に対応し、アドバイスを行います。
士業の平均年収
ここでは、士業のうち税理士、弁護士、社会保険労務士の平均年収を紹介します。
※政府統計の総合窓口サイト「e-Stat」で発表された2022年のデータに基づき、所定内給与額×12ヵ月分+年間賞与その他特別給与額=年収(千円未満四捨五入)としています。社員数ごとに集計されています(10人以上/10~99人/100~999人/1000人以上)。
- 税理士
- 弁護士
- 社会保険労務士
それぞれ詳しく見ていきましょう。
税理士
税理士の平均年収は、企業規模により約667万円~782万2,000円です。
所定内給与額 | 年間賞与その他特別給与額 | 年収 | |
社員数10人以上(全体平均) | 約43.9万円 | 約174万5,000円 | 約701万3,000円 |
社員数10~99人 | 約39.1万円 | 約197万8,000円 | 約667万円 |
社員数100~999人 | 約48万5,000円 | 約137万8,000円 | 約719万8,000円 |
社員数1000人以上 | 約47万4,000円 | 約213万4,000円 | 約782万2,000円 |
※上記には公認会計士の統計データも含む
公認会計士および税理士の年収分布は以下の通りです(2022年のデータに基づく):
- 企業規模10人以上(全体):
- 中央値(中位数):408.1万円
- 第1四分位数:328.8万円
- 第3四分位数:567.4万円
- 企業規模別の中央値:
- 10~99人:391.7万円
- 100~999人:405.3万円
- 1000人以上:526.0万円
男女別の中央値(企業規模10人以上):
- 男性:408.1万円
- 女性:314.0万円
弁護士
弁護士の平均年収は、企業規模により約645万9,000円~764万7,000円です。
所定内給与額 | 年間賞与その他特別給与額 | 年収 | |
社員数10人以上(全体平均) | 約50万1,000円 | 約125万6,000円 | 約727万円 |
社員数10~99人 | 約53万9,000円 | 約117万5,000円 | 約764万7,000円 |
社員数100~999人 | 約42万7,000円 | 約134万円 | 約645万9,000円 |
社員数1000人以上 | 約46万2,000円 | 約190万3,000円 | 約744万5,000円 |
社会保険労務士
社会保険労務士の平均年収は、企業規模により約372万2,000円~624万3,000円です。
所定内給与額 | 年間賞与その他特別給与額 | 年収 | |
社員数10人以上(全体平均) | 約31万4,000円 | 約84万1,000円 | 約460万3,000円 |
社員数10~99人 | 約32万7,000円 | 約76万5,000円 | 約469万3,000円 |
社員数100~999人 | 約21万9,000円 | 約109万3,000円 | 約372万2,000円 |
社員数1000人以上 | 約34万5,000円 | 約210万4,000円 | 約624万3,000円 |
士業を企業で活用する例
ここでは、士業を企業で活用する例を4つ紹介します。
- 法律関係の業務を士業に依頼する
- 企業会計・財務・税務に関する業務を士業に依頼する
- 経営改善への対策を士業に依頼する
- 労務関係の業務を士業に依頼する
以下で詳しく解説します。
法律関係の業務を士業に依頼する
企業を経営するうえで注意すべき法律や法的手続きが多数あります。法律関係の業務は、弁護士・司法書士・行政書士など、法律の専門家への依頼がおすすめです。
法律関係の申請や必要書類の作成、手続きや、法律に関するリスクマネジメント、問題解決などは、それぞれを専門とする士業を活用しましょう。そうすれば、経営者は書類の作成や手続きに忙殺されることなく、経営に専念できます。
企業会計・財務・税務に関する業務を士業に依頼する
会計士や税理士と契約すると、適正な企業会計や記帳、確定申告などが行えます。税理士資格を持つ会計士の活用も可能です。
会計士と税理士の兼務の場合、税務調査の対象になるリスクを軽減できるだけでなく、税務調査が入った場合に立ち会ってもらえ、以下の交渉を代行してもらえます。
- 税務署の決定に対する不服申し立て
- 過誤納税金の還付請求 など
これらの専門的なサポートにより、企業は税務や会計面での問題を効果的に解決し、財務面の最適化が図れます。
経営改善への対策を士業に依頼する
経営コンサルタントや中小企業診断士を活用すると、経営状態の診断や課題を発見してもらえ、経営改善や問題解決に向けた対策について策定・提案・実行してもらえます。
労務関係の業務を士業に依頼する
求人や賃金・労働時間管理など人事や労務に関係する業務の中には、社会保険労務士に依頼できるものもあります。
特に、保険料の納付などを総務課や経理課が行っている場合、その業務を社会保険労務士に依頼すれば人的ソースを削減できます。
士業がなぜ必要とされるのか
士業を活用すれば、経営者は煩雑な手続きに煩わされて貴重な時間を消費せず、経営に専念できます。かつ、専門性の高い内容に対しては専門資格を持つ士業に任せるほうが、より正確・確実に処理できるでしょう。また、専門家の知見を事業に役立てることも可能です。
士業を活用する際の注意点
会社設立や経営を行ううえで、士業のサポートは心強いものですが、士業にも得意分野や業務範囲はさまざまです。
本章では、士業を活用する際の注意点を3つ解説します。
- 士業の専門分野を理解する
- 信頼できる専門家を選ぶ
- 業として行ってよい範囲が決まっている
適切な専門家を選び、より効果的なサポートを受けられるようチェックしておきましょう。
士業の専門分野を理解する
士業もさまざまな種類が存在するため、依頼したい業務内容に合った専門家を選ぶことが重要になります。
例えば、会社設立に関わるのは、以下の士業です。
- 司法書士:登記、供託
- 行政書士:官公庁への許認可申請
- 税理士:税務申告や税務相談
- 社労士:労働・社会保険関係
それぞれの専門分野を理解し、自社のニーズに合った士業を選びましょう。
信頼できる専門家を選ぶ
士業は、企業の重要な情報を扱うため、信頼できる専門家を選ぶことが大切です。
- 実績や経験、顧客からの評判はよいか
- 実際に面談をして、コミュニケーションが円滑に取れるか
- 親身になって相談に乗ってくれるか
信頼できる専門家を見つけるためには、知人からの紹介や業界団体への問い合わせ、インターネット上口コミサイトを活用するなども有効です。
業として行ってよい範囲が決まっている
各士業には、法律で定められた業務範囲があります。この範囲外の業務をすると、厳しい罰則を受けるおそれがあります。
以下の表は、各士業の独占業務を無資格者が行った際の罰則です。
違反の種類 | 関連法 | 罰金 |
社労士業務の無資格者による実施 | 社会保険労務士法第32条の2項 | 100万円以下 |
税理士業務の無資格者による実施 | 税理士法第59条 | 100万円以下 |
弁護士法違反(非弁行為) | 弁護士法第72条 | 300万円以下 |
上記のように、資格のない人が独占業務を行うと、関連法規に抵触し、重大なトラブルに発展するおそれがあります。
依頼者側も、各士業の業務範囲を理解し、適切な資格を持つ専門家への依頼が重要です。依頼したい業務内容が、その士業の業務範囲内であるか確認しましょう。
士業を経営にうまく活用しよう
士業の概要や仕事内容、年収から活用方法までを紹介しました。
士業は専門性の高い職業です。企業経営に多くの利点をもたらす一方で、報酬相場や競争の激しさなどの課題もあります。
うまく活用すれば、企業の効率化と質の向上につながります。
士業に興味を持った方や自社での活用を検討する方は、各士業の詳細をリサーチしましょう。紹介した活用例や注意点を参考にすると、自社に適した士業を見つけやすくなります。
専門性を活かし、企業経営の効率化と問題解決に向けて行動するのがおすすめです。
士業の活用方法に迷う方は、「あしたの人事」にぜひ相談ください。
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