介護職員処遇改善加算とは、介護職員の賃金や労働環境の改善を図るために厚生労働省によって設けられた制度です。申請するためには要件を満たす必要があり、サービス種別ごとの加算率に応じて計算しなければなりません。
本記事では、介護職員処遇改善加算の概要や取得手順、区分・金額、計算方法などについてわかりやすく解説します。
介護職員処遇改善加算とは
「介護職員処遇改善加算」とは、介護職員の安定的な処遇改善を図ることを目的に、職場環境整備や賃金改善を行うために必要な資金を国から事業所へ支給する制度を指します。
平成23年度までは「介護職員処遇改善交付金」だったものが、平成24年度以降は介護報酬の加算へ移行しました。以下は対象事業の一例です。
- 訪問介護
- 通所介護
- 通所リハビリテーション
- 介護老人福祉施設
- 介護療養型医療施設
- 小規模多機能型居宅介護
- 看護小規模多機能型居宅介護
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護
対象者は「介護職に従事する介護職員」となっており、基本的にほぼすべての介護従事者が対象です。看護師や相談員、管理者などは対象外ですが、介護業務を兼任している場合は対象に含まれます。
また、資格の有無や雇用形態に関係なく受け取ることができるものの、分配は各事業所に一任されているため、対象者であっても支給されないケースもあります。
介護職員処遇改善加算の目的
厚生労働省により、介護職員処遇改善加算の目的は以下のように定義されています。
「介護職員の安定的な処遇改善を図るための環境整備とともに、介護職員の賃金改善に 充てることを目的に創設された加算」
出典:「介護職員処遇改善加算」のご案内
急激な高齢化が進むなか、介護職員の負担は今後ますます大きくなることが予想されます。介護職員の給与水準は他業種と比較して低い傾向にあり、能力の高い介護職員を評価して賃金面でも報いることはとても重要です。
また、新型コロナウイルスの発生などによりリスクの高い仕事も増えているため、介護職員の賃金改善や環境整備が求められています。
介護職員処遇改善加算を取得する手順
ここでは、事業者が介護職員処遇改善加算を取得する手順について簡単に解説します。
1.介護職員処遇改善計画書の提出
まずは、就業規則・給与規定などの必要種類と併せて、介護職員処遇改善計画書を都道府県などへ届け出ます。続いてその計画を実施し、管轄の自治体へ報告書を提出します。
2.加算の請求・支払い
介護職員のためになる取り組みを実施していると承認された事業者には、介護報酬として「給料の上乗せ費用」が支給されます。
3.処遇改善実績報告書を提出
賃金の改善を行ったら、都道府県などへ処遇改善実績報告書を提出します。報告書を提出しなかったり、要件を満たさなかったりした場合は、支給された費用の返還が必要になるので気をつけましょう。
介護職員処遇改善加算の区分と金額
介護職員処遇改善加算には3つの区分があり、介護報酬に上乗せされる報酬額は事業所の種類によっても異なります。また、同様のサービスであっても、雇用環境の改善や従業員の人材育成などに力を入れている事業所は、より高単価の加算取得が可能です。
加算 I~Ⅲにはそれぞれ満たさなければならないキャリアパス要件と、職場環境要件が定められています。
区分 | 加算I | 加算II | 加算Ⅲ |
キャリアパス要件① | ○ | ○ | ○(①と②のどちらか) |
キャリアパス要件② | ○ | ○ | ○(①と②のどちらか) |
キャリアパス要件③ | ○ | × | × |
職場環境要件 | ○ | ○ | ○ |
上記表からも分かるように、加算 Iがもっとも報酬の上乗せ額が大きく、満たすべき条件も厳しくなります。以下の段落で、キャリアパス要件と職場環境要件の内容について詳しくみていきましょう。
介護職員処遇改善加算の算定要件
キャリアパス要件
キャリアパス要件には、介護職員が能力や経歴に応じてキャリアアップできるよう、役職や給与体系、労働環境の整備などを重視する要件が設定されています。
キャリアパス要件は、主に何に取り組んでいるかによって以下のキャリアパス要件①〜③に分類されます。これらをどれだけ満たしているかで区分が変わってくるため理解しておきましょう。
キャリアパス要件①:職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金形態の整備をする
事業所は、職員のキャリアパスの仕組み作りや、給与体系の整備をする必要があります。例えば、役職ごとの給与を明確にすることで、職員自身がキャリアプランを描きやすくなります。
キャリアパス要件②:資質向上のための目標や具体的な計画を定め、研修などの具体的取り組みを行う
職員一人ひとりに合った研修や資格取得支援などを実施し、スキルアップを図ることが目的です。例として、新入社員には基礎知識やマナー研修などを、中堅職員には介護技術向上や応用知識を身につけるための研修の実施などがあります。
キャリアパス要件③:経験や資格などに応じて昇給する仕組みや、一定の基準に基づいて定期的に昇給を判定する仕組みを作る
経験年数や勤続年数、介護福祉士などの資格保有などに応じて昇給制度を設ける仕組みです。昇給は客観的な条件や基準を明確にし、人事評価や実技試験などにより判断します。昇給制度をうまく活用することで、職員が意欲的にキャリアアップを目指せるようになるでしょう。
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職場環境等要件
職場環境等要件では、職員のキャリアアップをサポートする取り組みや、仕事と家庭を両立するための支援など、賃金以外の職場環境を改善する仕組みを整備していることが必要です。職場環境等要件には以下6つの区分があり、処遇改善加算に関してはそのうちいずれか一つ以上取り組む必要があります。
- 入職促進に向けた取組
- 資質の向上やキャリアアップに向けた支援
- 両立支援・多様な働き方の推進
- 腰痛を含む心身の健康管理
- 生産性向上のための業務改善の取組
- やりがい・働きがいの醸成
例えば、「腰痛を含む心身の健康管理」においては、職員の身体負担軽減のための介護技術の習得支援、研修などによる腰痛対策の実施、介護ロボットやリフトなどの機器導入なども取り組みの一例です。また、健康診断やストレスチェック、休憩室の設置などの健康管理対策、自己・トラブルへの対応マニュアル作成なども含まれます。
介護職員処遇改善加算の計算方法
介護職員処遇改善加算の計算では、ひと月あたりの「総単位数」と「総額」を算出する必要があります。計算式はそれぞれ以下の通りです。
- 「ひと月の総単位数=介護給付単位数(基本サービス単位数)+各種加算・減算 × 介護職員処遇加算率」
- 「介護職員処遇改善加算の総額=総単位数 × 地域区分」
ここでは、介護職員処遇改善加算の計算方法3つのステップについて解説します。
1.ひと月の総単位数を計算する
まずは、ひと月あたりの総単位数を計算しましょう。ひと月あたりの基本サービス単位に、加算と減算を加えた式を用います。
(例)
- 2,620(基本サービス単位)
- 22(取得加算)× 5回=110(ひと月あたりの加算と減算)
- 2,620 + 110=2,730(ひと月あたりの総単位数)
2.加算率を乗算する
続いて、上記で求めたひと月あたりの総単位数に加算率を乗算します。
(例)
- 2,730 × 5.9%(加算率)=161.07
1単位未満は四捨五入する必要があり、よって処遇改善加算の総単位数は161となります。加算率は事業者のサービス区分と処遇改善加算区分によってそれぞれ異なるため、以下の段落を確認しておきましょう。
サービス加算区分ごとの加算率
加算I | 加算II | 加算Ⅲ | |
訪問介護 | 13.7% | 10.0% | 5.5% |
夜間対応型訪問介護 | 13.7% | 10.0% | 5.5% |
定期巡回・随時対応型訪問介護 | 13.7% | 10.0% | 5.5% |
(介護予防)認知症対応型共同生活介護 | 11.1% | 8.1% | 4.5% |
(介護予防)認知症対応型通所介護 | 10.4% | 7.6% | 4.2% |
(介護予防)小規模多機能型居宅介護 | 10.2% | 7.4% | 4.1% |
看護小規模多機能型居宅介護 | 10.2% | 7.4% | 4.1% |
介護福祉施設サービス | 8.3% | 6.0% | 3.3% |
地域密着型介護老人福祉施設 | 8.3% | 6.0% | 3.3% |
(介護予防)短期入所生活介護 | 8.3% | 6.0% | 3.3% |
(介護予防)特定施設入居者生活介護 | 8.2% | 6.0% | 3.3% |
地域密着型特定施設入居者生活介護 | 8.2% | 6.0% | 3.3% |
通所介護 | 5.9% | 4.3% | 2.3% |
地域密着型通所介護 | 5.9% | 4.3% | 2.3% |
(介護予防)訪問入浴介護 | 5.8% | 4.2% | 2.3% |
(介護予防)通所リハビリテーション | 4.7% | 3.4% | 1.9% |
介護保健施設サービス | 3.9% | 2.9% | 1.6% |
(介護予防)短期入所療養介護 ※介護老人保健施設 | 3.9% | 2.9% | 1.6% |
(介護予防)短期入所療養介護 ※介護老人保健施設以外 | 3.9% | 2.9% | 1.6% |
(介護予防)短期入所療養介護 ※介護医療院 | 2.6% | 1.9% | 1.0% |
介護療養施設サービス | 2.6% | 1.9% | 1.0% |
介護医療病院サービス | 2.6% | 1.9% | 1.0% |
3.介護報酬総単位数を金額に換算
最後に、介護報酬総単位数に「地域区分」を盛り込んで金額に換算します。地域区分とは地域ごとに割り出された費用の平均値で、介護報酬の地域格差を少なくするために取り入れられました。
(例)
- 161(処遇改善加算の総単位数)× 10.45(地域区分)=1,682.45
- 処遇改善加算の総額は小数点以下を切り捨てるため、1,682となります。
特定処遇改善加算とは
介護業界では「1つの事業所で長く働いても給与がなかなか上がらない」といったイメージを持たれやすく、経験値の高い職員の定着率が低いなどの問題が発生しています。
そのようななか、2019年10月にスタートしたのが「特定処遇改善加算(介護職員等特定処遇改善加算)」です。これは勤続10年以上の介護福祉士に対し、国が月8万円同等の処遇改善を実施するというもの。介護職員処遇改善に上乗せされる形で支給されます。
特定処遇改善加算の対象者
特定処遇改善加算の対象となるのは、経験やスキルのある介護職員です。基本的には勤続10年以上の介護福祉士とされていますが、これはあくまでも目安となり必須要件ではありません。
そのため、1つの職場で10年勤続経験がなくても、別の事業所などでの経験や高いスキルが評価される場合は対象者に含まれます。また、職場に該当者がいない場合は、その他の職種や職員であっても事業所判断で対象者に含まれるケースもあります。
特定処遇改善加算取得の条件
特定処遇改善加算を取得するためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 介護職員処遇改善加算の加算Ⅰ〜Ⅲのいずれかを取得している
- 介護職員処遇改善加算の職場環境等要件を満たしている
- 介護職員処遇改善加算に関する取り組みをWebサイトなどに掲載し、見える化を行っている
特定処遇改善加算の計算方法
特定処遇改善加算には加算Ⅰと加算 IIの2つがあり、加算 IIは職場環境等要件の「資質の向上」「労働環境・処遇の改善」「その他」のうち、一つ以上取り組んでいることが条件となります。特定処遇改善加算見込み額の計算方法は以下のとおりです。
- 「特定処遇改善加算の見込み額=1カ月あたりの総単位数 × 各サービス別加算率」
各サービスの加算率は以下の表を参照ください。
特定加算Ⅰ | 特定加算 II | |
訪問介護 夜間対応型訪問介護 定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 6.3% | 4.2% |
(介護予防)訪問入浴介護 | 2.1% | 1.5% |
通所介護 地域密着型通所介護 | 1.2% | 1.0% |
(介護予防)通所リハビリテーション | 2.0% | 1.7% |
(介護予防)特定施設入居者生活介護 地域密着型特定施設入居者生活介護 | 1.8% | 1.2% |
(介護予防)認知症対応型通所介護 | 3.1% | 2.4% |
(介護予防)小規模多機能型居宅介護 看護小規模多機能型居宅介護 | 1.5% | 1.2% |
(介護予防)認知症対応型共同生活介護 | 3.1% | 2.3% |
介護福祉施設サービス 地域密着型介護老人福祉施設 (介護予防)短期入所生活介護 | 2.7% | 2.3% |
介護保健施設サービス (介護予防)短期入所療養介護(老健) | 2.1% | 1.7% |
介護療養施設サービス (介護予防)短期入所療養介護(病院や医療院など) 介護医療院サービス | 1.5% | 1.1% |
介護職員等ベースアップ等支援加算とは
「介護職員等ベースアップ等支援加算」とは、2022年10月からスタートした新制度です。処遇改善加算の加算Ⅰ~Ⅲのいずれかを取得し、加えて加算額の3分の2を給与のベースアップにあてることが条件となります。
申請には介護職員等ベースアップ等支援計画書の作成が必要で、対象者は基本介護職員ですが、他職員の処遇改善に使用することもできます。介護職員等ベースアップ等支援加算の計算方法は以下のとおりです。
- 「介護職員等ベースアップ等支援加算の見込み額=1カ月あたりの総単位数×各サービス別加算率」
サービス別の加算率は以下を参照ください。
訪問介護 夜間対応型訪問介護 定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 2.4% |
(介護予防)訪問入浴介護 通所介護 地域密着型通所介護 | 1.1% |
(介護予防)通所リハビリテーション | 1.0% |
(介護予防)特定施設入居者生活介護 地域密着型特定施設入居者生活介護 | 1.5% |
(介護予防)認知症対応型通所介護 | 2.3% |
(介護予防)小規模多機能型居宅介護 看護小規模多機能型居宅介護 | 1.7% |
(介護予防)認知症対応型共同生活介護 | 2.3% |
介護福祉施設サービス 地域密着型介護老人福祉施設 (介護予防)短期入所生活介護 | 1.6% |
介護保健施設サービス (介護予防)短期入所療養介護(老健) | 0.8% |
介護療養施設サービス (介護予防)短期入所療養介護(病院や医療院など) 介護医療院サービス | 0.5% |
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介護職員処遇改善加算は、介護職員の給与や労働環境に大きくかかわる制度です。実際に制度の導入後、給与や労働環境は改善されつつあります。処遇改善加算の取得により職場環境やスキルアップ制度などが整っていると証明することもできるため、職員の定着率アップや新しい人材の確保にも期待できるでしょう。
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