政府が掲げる「働き方改革」が現在、国会で大きな話題になっています。新聞やテレビのニュースは大企業が中心ですが、長時間労働の是正は中小企業こそ真剣に考え、取り組むべき課題です。過労死をはじめとする深刻な健康被害も取り沙汰される中、ワークライフバランスに配慮する中小企業も増えています。残業の悪影響を考えることで、健康被害の予防も可能になります。働き方改革は、大企業よりも中小企業のほうが取り組みやすい課題と言えるのではないでしょうか。
残業が与える心身への悪影響
高度成長期の名残りとも言える長時間労働や残業を、美徳だと考える世の中ではなくなりつつあります。
長時間労働やサービス残業が、心身に与える悪影響は明らかです。しかし、これまで多くの企業では、遅くまで残業する社員は会社に貢献しているという間違った考え方で評価してきたのです。
働き方改革の一環として、仕事と生活の調和を図ることで健康に留意しながら、仕事の効率を上げる「ワークライフバランス」も叫ばれるようになっています。
残業で社員が患う健康被害
働きすぎで社員が健康を害することもあるといわれています。中には深刻なものもあるといわれていますが、どのようなものがあるのかを説明しましょう。以下では2つの例を取り上げましょう。
●過労死
過労が進むと健康被害どころか、社員が死亡するという最悪のケースが起こりえます。死亡の理由は、過労死や自殺などです。
残業が慢性的に月80時間を超え、死亡直前の残業が月100時間を超えるような場合には、医学的にも健康被害のリスクが深刻で、労災の問題となります。労災が認定されると、会社が社員の遺族から損害賠償責任を問われる可能性もあります。
●うつ症状
長時間残業が続けば、社員の体には疲労が蓄積します。短い期間休めば回復する場合もありますが、意欲の低下が見られる場合もあります。
慢性的な長時間残業が続けば睡眠時間は減り、十分な休養が取れずに疲労が蓄積していき、鬱症状や鬱病を発症して働けなくなるおそれもあります。こうなると、中小企業は貴重な人材を失うことになります。
症状の回復には1年以上を要することもあり、これによって業務が滞ったり、社員から訴訟を起こされるリスクもあります。
残業が会社に与える悪影響
次に、残業が会社に与える影響を考えてみましょう。大きく分けて2つの影響が考えられます。
●コスト増と採用リスク
本来、時間外労働(残業)には労使間で36協定を結ぶことが必要で、会社はコスト増となっても社員に残業代を支払う義務があります。現在、国会で残業の上限時間を規制し、罰則を新設することで違法残業に歯止めをかけようとしています。
法改正されれば、今後は残業についての取り締まりが一層強化されることになります。
残業が常態化しているような中小企業に、それを知ったうえで入社を希望する求職者はいないでしょう。これでは新卒の正社員はおろか、非正規のパートさえ獲得できなくなってしまいます。その結果、求人広告費などの採用コストはかさみ、時間と労力をかけても新入社員を確保できないだけでなく、社員の離職に歯止めがきかなくなる可能性もあります。
●社会的信用の失墜
長時間残業によりブラック企業として非難を浴びれば、社会的な信用を失い、何らかの社会的な制裁を受けることは間違いありません。
信用を築くことは大変ですが、失うのは一瞬です。一度失った信用を取り戻すことは、信用を築くこと以上に難しいことです。失墜した社会的信用は、銀行などから資金調達する際の障害にもなりえます。経営上のあらゆる場面で不具合が発生し、最悪の場合は倒産まで追い込まれるおそれもあります。
中小企業も長時間残業から脱却する時
働き方改革で長時間残業が是正されれば、社員は生き生きと働くようになるものです。もちろん、長時間労働を止めても明日から急に業績が良くなる訳ではありません。十分な睡眠時間を確保し、体力を回復してストレスも解消、趣味や家庭での時間などを大切にしたワークライフバランスを徹底できれば、さらに働く意欲が増してきます。そしてそれが、モチベーションを高めて、業績向上につながっていくのです。
働き方改革を推進するには、中小企業の経営陣が旗を振るだけでは不十分です。実効性を担保するためには、社員も主体的に考え、行動することも欠かせません。企業や業務、仕事観について、社員自身も考え方を変えていかなければならないのです。
労働者の仕事に対する考え方やニーズが多様化する中、中小企業が生き残っていくためには、旧態依然とした長時間労働という働き方からの脱却が不可欠です。このように、中小企業でも本格的に働き方改革に取り組むことが求められているのです。
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