雇用契約書の役割とは?労働条件通知書の違いや雇用契約書の記載事項

(画像=takasuu/iStock)

従業員を雇用する際に交付する書類である雇用契約書。

人事担当者であれば多くの人が扱うことになる書類ですが、実は「交付が義務付けられているものではない」ということはご存知でしたか?

必要な記載事項や正しい取り扱い方、類似の「労働条件通知書」との違いなど、意外と正確に理解できていないものです。

今回は、雇用契約書の役割や記載事項、取り扱いの注意点について解説していきます。

雇用契約書とは

まずは雇用契約書の概要や定義などの基礎知識を解説します。

あわせて、そもそも雇用契約とはどのようなものなのか、法的根拠や対象者なども説明します。

雇用契約書

雇用契約書とは、企業が従業員になる人と雇用契約を締結する際に、就労時間や賃金といった労働条件について、合意内容を記載する書類です。

雇用契約書というものは法的に作成が義務づけられているわけではありません。

雇用契約自体は口約束でも成立するため、契約書面がなくても雇用契約は結べるのです。

しかし、無用なトラブルを避けるためにも、雇用契約書は作成しておくことをおすすめします。

雇用後に従業員から「聞いていた話と違う」と言われてしまうとトラブルの原因となります。

就業時間や賃金、休日や時間外労働についてなど、労働条件について双方が合意した内容を書面に残しておくことで、トラブルを防止するのが雇用契約書の意義です。

雇用契約とは

雇用契約とは、従業員になろうとする人が労働力を提供し、もう一方がそれに対して報酬を支払うことを合意する契約です。

前述の通り、雇用契約は口頭でも成立します。

従業員の立場を守るために民法や労働基準法によってある程度のルールは定められていますが、契約成立に書面の作成が義務付けられているものではありません。

正社員であれば雇用契約書を作成することがほとんどですが、アルバイトやパートタイムなどの非正規雇用では、雇用時間や期間が短いため、雇用契約書が交付されないことも多いようです。

しかし、万が一トラブルが起こってしまった場合、書面がないと労働条件に合意があったと主張することができません。

非正規雇用であっても雇用契約書を作成することをおすすめします。

労働契約との違い

雇用契約と似た言葉に、「労働契約」というものがあります。

この2つに大きな違いはありませんが、定義されている法律や適用範囲が多少異なります。

民法では「雇用契約」、労働基準法では「労働契約」と表現されますが、民法と違って、労働基準法では「労働契約」という言葉に関する明確な定義は記されていません。

また、それぞれの条文を解釈すると、契約の要件が異なることがわかります。

  • 雇用契約:労働を提供し賃金を支払うことの合意(民法623条)
  • 労働契約:使用従属関係と賃金支払いの実態(労働基準法9条)

雇用契約では、「合意したこと」、労働基準法では「雇用していた実態」が要件となります。

さらに、労働基準法116条では、同居の親族のみを使用する場合などの適用除外が定められており、法律の適用範囲についても相違があります。

雇用契約書と労働条件通知書の違い

雇用契約書とよく混同されがちな書類で、「労働条件通知書」というものがあります。

労働条件通知書とは、労働基準法における「入社時に労働条件について書面で明らかにしなければならない」という定めによって、企業が従業員に対し必ず交付しなければいけない書類です。

労働条件通知を交付しなかったり、記載内容に不備があった場合は、雇用側に30万以下の罰金が科されることになります。

雇用契約書の記載事項

雇用契約書を作成する際に記載するべき項目を解説します。

記載事項には、労働基準法の定めに従って必ず記載しなければいけない「絶対的明示事項」と、企業ルールに従って記載する「相対的明示事項」があります。

ちなみに、記載事項が網羅されていれば、様式は自由でかまいません。

絶対的明示事項

  • 契約期間:期間のない正社員は「なし」と記載します。
  • 勤務地:実際に勤務する場所や、勤務地が変更する予定があるか記載します。
  • 業務内容:具体的な業務内容を記載します。
  • 就業時間:始業時間と終業時間の定めを記載します。
  • 時間外労働:残業や休日出勤について記載します。
  • 休憩時間:労働時間が6時間を超え8時間以下の場合は45分、8時間を超える場合は1時間の休憩が定められています。
  • 休日、休暇:1週間に1日、または4週間に4日の休日が定められています。
    また、有休や育休、その他就業規則で定められた休暇について記載します。
  • 賃金:給料の計算方法、支払日を記載します。
  • 昇給:昇給がある場合、その条件などを記載します。
  • 交替勤務制:制度がある場合、交替期日や順番を記載します。
  • 退職:定年退職に関する定めや辞職する際のルール、解雇事由などを記載します。

相対的明示事項

  • 退職手当:退職手当の制度があれば、その計算方法などを記載します。
  • 賞与:賞与があれば、計算方法や支払い方を記載します。
  • 安全衛生:健康診断や災害補償、喫煙所について記載します。
  • 表彰、制裁:該当の制度があれば記載します。
  • 休職:育休などの公的な制度のほか、企業独自のルールがあれば記載します。

雇用契約書を作成する際の注意点
(正社員・契約社員・パート・アルバイト)

雇用契約書は記載事項が網羅されていればフォーマットは自由ですが、いくつか注意すべきポイントがあります。

雇用形態ごとに、作成の注意点を解説します。

正社員

正社員の場合に最も注意すべきは、転勤の有無についての記載です。

転勤の可能性がある場合には「全国(あるいは国内外)の支店へ転勤を命ずる場合がある」と明示しなければいけません。

さらに、部署移動が発生する場合もそのことを明示し、「配置転換によりその他の業務を命ずる場合がある」と記載する必要があります。

契約社員

契約社員の場合は、契約期間と契約更新がポイントです。

契約更新の可能性があるかどうか、ある場合にはその条件などを記載します。

具体的には以下の例を参考にしてください。

  • 更新の有無自動的に更新する、更新する可能性がある、更新はしない、など
  • 更新基準期間満了時の成果、勤務態度、評価状況、会社の業績、契約業務の進捗、など

また、以下に該当する場合は、契約期間満了の30日前までに予告が必要になります。

  • 3回以上契約更新がある場合
  • 1年以下の契約が更新または反復更新され、最初の契約締結から継続して通算1年を超える場合
  • 1年を超える契約を締結している場合

パート・アルバイト

パート・アルバイトの場合、前述の絶対的明示事項に加えて、「雇用に関する相談窓口」についてのルールを記載する必要があります。

これは、平成27年4月に施行されたパートタイム労働法により、企業は短期労働者からの労働条件などの相談に応じる相談窓口の設置を義務付けられているためです。

労働条件などの相談をどこにすればいいのか、明記しましょう。

雇用契約書の必要性

雇用契約自体は口頭で成立するといえ、雇用契約書は基本的に交付すべき書類といえます。

雇用契約書を交付する重要性を紹介します。

就労後のトラブル防止

雇用主が最も回避したいトラブルが、労働契約を結んで就労した後に、労働者から「聞いていた業務と違う」「休日はもっとある聞いていた」など、労働に関する苦情が出てしまうことです。

アルバイトなどの短期雇用の場合には、「労働条件を口頭で伝えて書面にしていなかった」ということもありがちです。「言った言わない」の論争になることを避けるためにも、合意内容は書面に残しておくと安心です。

署名・捺印がある

契約書面には、最後に雇用主と労働者双方が署名・捺印をします。

労働者自らの署名と捺印があれば、雇用契約書面にある内容について、後になってから「読んでいない」といったり、規則違反をしてから「聞いていない」ということはできません。

契約書面が、トラブルのさらなる抑止につながります。

行動規範を事前に提示できる

雇用契約書には、就労の際に労働者に守ってもらう行動規範を盛り込むことも可能です。

多くの場合は就労規則の中に記載がありますが、就労規則を一からしっかり読み込む社員は少ないのが現実です。

特に周知しておきたい重要な規範は雇用契約書に記載して読み合わせることで、事前に周知することができます。

雇用契約書の内容の見直しとともに人事評価制度の整備を

雇用契約書は、法的に作成が義務付けられている書類ではないものの、就労後のトラブルを回避し、双方の利益を守るための重要な書類です。

人事担当者は、改めて自社の雇用契約書の内容を見直すとともに、契約に関わる労働条件や就業規則、人事評価制度の見直しをはかることで、トラブルを防止し、会社と社員にとってより良い環境を構築できます。

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