証券取引等監視委員会(SESC)とは、資本市場の取引の公平性・透明性を確保し、投資家の保護を実現するための機関です。
特に上場企業の幹部や管理部門の担当者は、同委員会がどのような活動を行なっているのか知っておくことが求められます。
また、非上場企業においても社員のコンプライアンスのために基礎的な知識を身につけておくと役立つでしょう。今回は証券取引等監視委員会の概要や主な任務、活動状況について解説します。
証券取引等監視委員会(SESC)とは
証券取引等監視委員会とは、市場の公平性や透明性を保つために、市場分析や金融取引業者等の監視をする機関です。
「Securities and Exchange Surveillance Commission」の頭文字を取って「SESC」とも呼ばれます。
なお、このモデルになっているのは米国の証券取引委員会(SEC、Securities and Exchange Commission)です。
証券取引等監視委員会の活動は、市場や周辺業者を監視・調査することで取引の公正さを保ち、投資家保護に努めることを目的としています。
そのために、市場分析や証券調査に加えて、裁判所への申立てや行政当局への建議も行うのです。
証券取引等監視委員会(SESC)の位置づけ
証券取引等監視委員会は、金融庁が所管する機関です。法的には、内閣府設置法第54条および金融庁設置法第6条にもとづいて設置されています。組織体制は国家行政組織法第8条にもとづく「八条委員会」という合議制です。
証券取引等監視委員会は金融庁の所管ですが、発足してから現在に至るまでにはさまざまな経緯がありました。
1990年頃のバブル崩壊の中で証券会社の損失補填といった不祥事が明るみになり、証券会社や証券市場への検査・監視の方法が見直されることになります。
1991年には「自由、公正で透明、健全な証券市場」を実現するために、大蔵省(現在の財務省)に行政部門から独立した検査・監視機関を設けるべきだという提言が答申に盛り込まれました。その後、法整備等が進められ、1992年7月に証券取引等監視委員会が発足したのです。
1998年には総理府の外局として金融監督庁が設立されます。証券取引等監視委員会は独立機関として引き続き役割を果たすのが望ましいとの意見から、同委員会は大蔵省から金融監督庁に移管されました。
その後も、行政改革によるさまざまな組織変更に伴って、証券取引等監視委員会は金融再生委員会に移管され、次に金融庁へと移り現在に続いています。
証券取引等監視委員会(SESC)の任務
証券取引等監視委員会は、市場取引の公平性や透明性を維持し投資家保護を目指すために、さまざまな取り組みを行なっています。
検査・監視だけでなく、当局との連携や当局への働きかけ等も重要な役割です。ここでは証券取引等監視委員会の任務について解説します。
1.市場分析審査
市場分析審査とは、市場全体の情報収集や分析を行う業務です。
同委員会独自の情報収集に加えて、一般投資家や市場関係者等からオンラインや文書、電話等で情報を受け付けており、不公正な取引が疑われる事例については詳しく審査を行います。
情報の入り口として重要な役割です。
2.証券検査
証券検査とは、金融商品取引業者等の業務や財産の状況を対象とする検査業務です。
証券検査では、問題がないかチェックした上で、問題点が認められた業者には指摘して改善を求め、場合によっては金融庁長官等に対して行政処分等の勧告も行います。
なお「検査結果に基づく勧告」の状況は同委員会のホームページでも公開されています。
3.取引調査
取引調査とは、不公正な取引全般に対して実施する調査です。
不公正な取引として代表的なものには、いわゆるインサイダー取引(内部者取引)や風説の流布、偽計、相場操縦等があります。
違反行為が発覚した場合は、金融庁長官等に対して課徴金納付命令を発出するよう勧告することも役割の1つです。
4.開示検査
開示検査とは、有価証券報告書といった開示書類を提出する業者に対して、報告の徴取や検査を実施する業務です。
開示検査を実施した上で、開示書類の重要事項が虚偽であることが認められた場合は、金融庁長官等に対して課徴金納付命令を発出するよう勧告します。
有価証券報告書は、投資家にとって投資判断の重要な材料の1つであり、虚偽や不適切記載がないか検査することは市場の公平性を守るために不可欠な業務です。
5.勧告
勧告とは、必要があると判断した場合に、内閣総理大臣や金融庁長官に対して適切な措置を行うよう求めることです。
証券検査、取引調査、開示検査や犯則事件の調査の結果、金融商品取引等の公正性の確保や投資者保護のために何らかの対応が必要な場合があります。
そういった場合には、証券取引等監視委員会から、行政処分、課徴金納付命令、開示書類の訂正報告書等の提出命令といった勧告を実施できるのです。
6.建議
建議とは、法律や規制の見直しといった施策について、金融庁長官等に対して上申することです。
金融取引をめぐる不正にはさまざまな形があり、時代によってその特徴も変化していきます。
検査や事件調査の結果、不正の抜け穴を塞いだり現状に沿って規制を整備したりする必要があると判断した場合には上部組織に議論を投げかけるのです。
7.告発
告発とは、犯則事件を調査して法律違反が認められた場合に検察官に告発することを指します。
証券取引等監視委員会の中でも特別調査課が担当し、時には強制調査権という権限も行使しながら事案を解明するのです。
なお、同委員会のホームページでは、過去の告発事例について、事案の概要や背景、告発の意義にも触れながら公開しています。
8.裁判所への申立て
裁判所への申立てとは、金融商品取引法への重大違反行為について、禁止や停止命令の申立てを裁判所に行うことです。
また、それに関連する調査も実施しています。過去の事例としては、無登録業者であるにもかかわらず株券等の売買や募集の取扱いといった営業行為を働いたり、登録業者が虚偽告知をしていたりといったケースがありさまざまです。
9.海外当局との連携
海外当局との連携とは、海外における関連フォーラムへの参加や、海外当局との情報交換、海外研修等が主な活動内容です。
フォーラムとは例えば証券監督者国際機構(IOSCO)や資本市場フォーラム等を指し、委員や事務職員が参加して、資本市場の諸問題や情報交換・協力について議論をします。
10.講演・寄稿等
講演としては、市場参加者や個人投資家等に向けて証券取引等監視委員会の活動内容や公正な市場取引に向けた施策例、諸制度等についての解説等を行なっています。
講演を開催することで、証券取引等監視委員会の活動や存在意義について啓発して市場の公正化・透明化を推進するのが大きな目的です。
また、参加者との意見交換を行い、理想的な市場取引の在り方や法整備等について議論することも狙いとされています。
日本取引所グループのメールマガジンや、会計・監査関連の刊行物等にも委員らが執筆を行い、活動内容についての周知を図っているのです。
証券取引等監視委員会(SESC)の活動状況
証券取引等監視委員会の活動を知るには、実際の活動状況を知ることが役立ちます。ここでは2件の事例を紹介しましょう。
1.日産自動車株式会社 有価証券報告書等の虚偽記載に係る勧告
証券取引等監視委員会は有価証券報告書等の虚偽記載の件で日産自動車を検査した結果、法令違反が認められたとして、2019年12月に内閣総理大臣と金融庁長官に対して課徴金納付命令の勧告を行いました。
具体的には、有価証券報告書に示されていた取締役報酬について、実際の報酬金額よりも過少に記載していたということです。該当の有価証券報告書は、2015年3月期から2018年3月期までの4期にわたります。
また、この虚偽記載の有価証券報告書の情報にもとづいて社債券の募集を実施したことも法令違反です。
なお、これを受けて金融庁は日産自動車に対して約24億円の課徴金納付命令を発出しました。
日産自動車株式会社における有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について
証券取引等監視委員会
2.イノテック株式会社との取引会社 内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告
証券取引等監視委員会は、イノテック社と契約締結交渉を行う企業の役職員による内部者取引について検査した結果、法令違反が認められたとして、2019年12月に内閣総理大臣と金融庁長官に対して課徴金納付命令の勧告を行いました。
事案の経緯としては、投資事業等を目的とするCVP社の役職員が、イノテック社と業務提携をすると決定した事実を知りながら、その公表前にイノテック株を買い付けたということです。
本件は、日本取引所自主規制法人からの情報提供も参考に実態が解明されました。
海外に居住するイノテック株式会社との契約締結交渉者の役職員による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について
証券取引等監視委員会
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