アドラー心理学とは?6つの特徴や行動例、メリット・デメリットを紹介

『嫌われる勇気』や『幸せになる勇気』といった書籍で一躍知られるようになった「アドラー心理学」は、現代人の生き方に影響を及ぼす考え方として注目を集めています。

ここではアドラー心理学の特徴を6つにわけてわかりやすく解説します。また、アドラー心理学を取り入れることは、人の行動やビジネスシーンでどのような変化をもたらすのか、メリット・デメリットを解説します。

アドラー心理学とは

アドラー心理学とは、いわば「幸せに生きるための心理学」といえます。アドラー心理学は、世界各国で翻訳された書籍『嫌われる勇気』(岸見 一郎・古賀 史健著・ダイアモンド社)のヒットをきっかけに、広く認知されるようになりました。

アドラー心理学とは、ウィーンの心理学者であるアルフレッド・アドラーにより提唱された考え方です。人の心と行動の問題を解決に導くべく、学問として体系化することにとどまらず実践的な考えを打ち立てました。

アドラーの考えには「幸福とは何か」「いかに人は生きていくのか」という問いに対する明確なイメージがあり、ウィーン世紀末とよばれるうつ病など精神的病が蔓延していた時代において、ユング・フロイトとならぶ三大巨頭として心理学の発展を牽引しました。

アドラーは、人間個人の精神生活は属する共同生活、すなわち社会の在り方と強く結びついているとします。その上で、アドラー心理学では「自立すること」「社会と調和して暮らすこと」「私には能力があるという意識をもつこと」「人々は私の仲間であるという意識を持つこと」が人生の基本目標とされ、これらの目標を達成するために、人はいかに生きるべきかということを示しています。

アドラーは「心理学の三大巨頭」の一人 

先に述べたように、アドラーはフロイト、ユングと共に「心理学の三大巨頭」といわれています。彼らは同時代を生き、互いに影響を与え合っていたため共通する部分が多い一方、違いもあります。ここではフロイト、ユングの学説の概要とアドラーとの違いについて解説します。 

精神分析学の創始者「フロイト」 

オーストリアの精神科医フロイトは、人間心理の理論と治療方法を体系化した「精神分析学」の創始者です。なかでも、今まで知られていなかった無意識の構造や力を解明した功績が高く評価されています。フロイトが創始した精神分析学は、後の心理学、社会学、文学などに多大な影響を与えました。 

アドラーはフロイトの共同研究者でしたが、無意識の考え方には違いがあります。フロイトは無意識と意識は対立し合うものだと考えました。たとえば、性的エネルギーが無意識にため込まれると、ヒステリーなどさまざまな症状となって現れると説いています。対してアドラーは、無意識と意識は幸せに生きる目的を達成するために協力し合う関係だと考えました。 

分析心理学の創始者「ユング」 

スイスの心理学者ユングは、分析心理学の創始者として知られています。人間には「集合的無意識」や「元型」があると説きました。これらは神話や伝説などに時代や地域を超えて現れ、心の根本にあるものを示す要素です。また、ユングは性格を内向型、外向型の2種類に分類した論文でも高く評価されています。 

ユングとアドラーの違いは一概にはいえませんが、おおまかに研究のベクトルが違うといえるでしょう。ユングは心理を分析し、人間全体に共通する要素を研究しました。一方アドラーは、個人の精神生活は属する社会の在り方と強く結びついているとして具体的に捉え、そこでいかに生きるべきかを示しています。

アドラー心理学の6つの特徴

アドラー心理学を理解するために、重要な6つの特徴について説明します。

1.目的論:人間の行動には目的がある

目的論とは「人は自ら定めた目的に向かって動いていく」という前提を持った考え方です。目的論では、過去の出来事が現在を作り出しているのではなく、目的を達成するために、今の状況を作り出していると考えます。人は、どんな形でも「将来に対する夢」「なりたい自分」といった目的を持ち、自分の人生に意味と価値を与え生きています。

アドラー心理学では、この目的に向かって動くという、個人の内発的傾向に注目し働きかけを行います。もし、人は過去の出来事や外部の環境のみに縛られて今を生きているのであれば、過去に心の傷を負った人は、今も未来もその傷に縛られてしまいます。アドラーは、過去のトラウマは絶対的な存在ではなく、本人が意識的・無意識的に保持しているものであり、その目的を自覚することで変更する可能性が生まれるとしています。

目的が変われば、今の状況や自分を変えることができる。こうした自己決定の余地を生み出す目的論を採用し、アドラー心理学は自己をどのように変えていくのかを説いています。

2.ライフ・スタイル:人間の生き方には、その人特有のスタイルがある

ライフ・スタイルとは、人が生きる上で持つ、個人の考え方や価値観、行動の傾向などを指すアドラー心理学の用語です。生活の仕方を意味するライフ・スタイルではなく、どちらかといえば性格や性質に近い意味で使われます。

アドラーは、人は幼少期にライフ・スタイルの「原型」を身に着け、大人になるにしたがってライフ・スタイルを成熟させるのだと説きました。

ライフ・スタイルは、「自分のことをどう思うか(自己概念)」「他者を含む世界の現状をどう思うか(世界像)」「自分と世界についてどんな理想を抱いているのか(自己理想)」を包括したものとされ、環境や遺伝、家族構成などによってつくられます。

3.ライフタスク:「仕事」「交友」「愛」の3つの人生の課題

アドラー心理学は、あらゆる人生の課題は対人関係に集約され、その後3つのテーマに分類されるとしています。すなわち、「仕事の課題」「交友の課題」「愛の課題」であり、アドラーはこれらを称してライフタスク(人生の課題)と呼びました。

仕事の課題とは、労働を基軸に他者と関わることであり、交友の課題とは仕事から離れた対人関係を指します。そして愛の課題は、恋人や配偶者との関係性や親子といった家族の関係性を指します。これらの3つの課題は、時間が経つほど解決が難しくなるとアドラーは指摘します。

アドラーは、これら3つの課題はすべてが対人関係の課題であると考えました。人が悩むとき、これらのライフタスクのテーマに関連する対人関係の課題に直面しています。

4.課題の分離:人間関係を円滑にするには

「人間の悩みのすべては対人関係の悩みである」と説いたアドラーは、人間関係を円滑にするためには、他人の課題と自分の課題を分離する必要性を強調しました。たとえば、子どもが勉強しないとき親は心配のあまり「あなたのためを思って」というセリフで、あの手この手で勉強させようとします。

しかし、アドラー心理学ではこうした行為は他人の課題に土足で踏み込む行為であり、けして本人のためにはならないと指摘します。課題が分離できない状態では、他者の課題を抱え込み、現状が変化しないストレスに悩まされるばかりか、課題を抱えた本人の自立心を摘んでしまいます。

親子間で信頼関係が構築されている条件下では、親は「頼ってきたときはいつでも手助けしよう」という意思を伝えたうえで、見守ることが重要です。こうして親が子どもの課題を分離することで、はじめて子は「勉強しないこと」を「放置したら困るのは自分」として、自らの課題と考えられるようになります。

必要以上に他者の課題を抱え込まず、自分の人生を生きていく。その上で、お互いの役割を認めながらできるサポートをすることが、円滑な対人関係に重要だとしています。

5.承認欲求の否定:誰かの期待を満たすために生きてはいけない

人は誰かから必要とされているとき、「自分には価値がある」と実感します。しかし、アドラー心理学ではこうした承認の欲求を否定し、人は誰かの期待を満たすために生きてはいけないと指摘します。

アドラーは、承認欲求は「適切な行動をとったら褒めてもらえる、不適切な行動をとったら罰せられる」という賞罰教育によるものだとして、賞罰教育自体を批判しています。賞罰教育は「褒められなければ行動しない」「罰せられなければどんなことをしてもいい」という、誤ったライフ・スタイルの生産につながるというのです。

また承認欲求の否定は「ほめない、叱らない」という子どもへの接し方にも共通しています。アドラー心理学では、ほめることは「能力のある上の者が下の者に行う行為」であり、「操作」であるとされます。

つまり子どもが何かをしたとき、「よくやったね」「すごいね」と評価を与えるのではなく、「ありがとう」「助かったよ」と言う。こうすることで、子どもは承認欲求ではなく、社会や家族といった共同体への貢献を実感し、満たされることになります。
アドラーは、他者が自分をどう評価するかは、その他者の課題であるとします。

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6.全体論:人間を分割できない全体の立場から捉えなければならない

アドラー心理学では、人を「共同体感覚」によって見なければならないとされます。これは、人々をバラバラの個体で考えても理解はできず、他者を仲間とみなし、横のつながりで共同体を形成することで、健全なパーソナリティを育むとするものです。

この共同体感覚の欠如によって、社会における子どもの問題行動や犯罪行為を増長すると、アドラー心理学では考えられています。

アドラー心理学からわかる人間の行動例

「どうしてこの人との関係がこじれてしまうのだろう」「どうして私はこうなのだろう」
こうした悩みや行動を、アドラー心理学の考えを用いて紐解いてみましょう。

いつも不機嫌な上司がいて職場の雰囲気が悪い|課題の分離

Aさんの職場は、チームの上司がいつも不機嫌です。部下がミスをすると、大きな声で怒鳴ります。今朝も出勤すると、しかめ面で不機嫌なオーラをまき散らしており、その姿を見ているだけでAさんは胃が痛くなってきました。

このような「不機嫌をまき散らす上司や同僚」に心当たりがある人もいるでしょう。不機嫌であるのは、本人の課題です。この状況下ではAさんは上司の機嫌の悪さの原因を「もしかしたら自分のミスかも」「自分がなんとかしなければ」と考えることで、上司の「不機嫌によるコントロール」に捕らわれてしまっています。

不機嫌であることは上司の課題として分離し、上司の感情に対処するのは自分の仕事ではないと線を引きましょう。

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商談前は「失敗してしまう」と緊張して眠れない|目的論

Bさんは数か月前大きな商談でミスを犯してしまいました。持って行くべき提案資料を自宅に忘れてしまったのです。それ以降、商談の前日は「失敗してしまうかも」という考えが頭をぐるぐると回り、うまく寝付けなくなりました。そのせいか、仕事の成績も芳しくありません。

Bさんは過去の失敗に捕らわれ、「同じ間違いをしてしまう」と自分で自分を縛り付けています。過去にミスをしたからきっと次も同じことをしてしまうのではなく、「どうすれば商談前の忘れ物をなくし、商談を成功できるか?」という考えに切り替えることで、その目的達成のための具体的な行動を踏み出すことができます。

アドラー心理学のビジネスにおける3つのメリット

アドラー心理学を学び、ビジネスで実践することは次のようなメリットをもたらします。

目標達成意欲を高めることができる

MBO(目標管理評価制度)のように、職種に限らず「いつまでに」「何を達成する」という目標管理を用いて、仕事の業績を評価する手法は広く取り入れられています。こうした目標を与えられたとき、アドラー心理学の目的論を日頃から意識的に取り入れることで目標達成意欲を高めることが期待できます。

目的意識を持って仕事に取り組むことで、ポジティブにかつ迅速な目標達成を目指せるでしょう。

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自走力のある部下の人材育成につながる

部下をどのように育てればいいのか、コミュニケーションに悩む管理職は少なくありません。アドラー心理学の「承認欲求の否定」の視点を持てば、おのずと部下の自立心を持った行動を促す、声かけの仕方やフィードバックの方法が見えてきます。

部下の営業成績をただほめるのではなく、チームの貢献といった視点からのフィードバックを付け加えるなど共同体感覚を養う育成をしましょう。部下と上司という上下の関係だけでなく、プロジェクトを達成するべき仲間という横のつながりの意識を醸成することができます。

職場のコミュニケーションが活性化する

職場で同僚の愚痴に付き合うことに疲れてしまうなど、人間関係に悩む人は少なくありません。アドラー心理学の課題の分離に基づけば、職場の陰口や不機嫌な人という存在を、自分から切り離してみることができます。

職場の人間関係に悩むのは、たとえ自分が愚痴の相談にのったとしても、愚痴をまき散らしている当の本人の行動が一向に変わらないからです。「わたしがこんなに相談にのってあげたのに」と、不快な気持ちになるかもしれません。

こうした状況では、他人の課題に踏み込み、余計なストレスを抱えています。職場のメンバーがアドラー心理学を理解し、他者の課題との付き合い方を見直せば、過度にストレスを抱えることのない健全なコミュニケーションを行うことができるでしょう。

アドラー心理学のビジネスにおけるデメリット

アドラー心理学は人の考えや行動を紐解いたり、思考を変えるために役立つものですが、それ自体が「正解」というわけではありません。一つの考え方をすべてに適用しようとするあまり、逆に人間関係に問題が生じることも考えられます。

たとえば「課題の分離」は、あまりにも部下の悩みに「自分で克服するべきだ」という態度をとると、「放任主義」ととらえかねられません。

「承認欲求の否定」についても、人が抱える欲求の度合や形はさまざまであり、同僚や部下が抱えている欲求が「誰かの期待に応えるためのもの」なのか、「自らの内側から発生した目的」なのかを完全に切り分けて考えることは不可能でしょう。職場で誰かを評価する際、そこには「認められたい」という期待が介在するものです。その期待を完全に無視しまっては、相手のモチベーションを低下させてしまうかもしれません。

アドラー心理学を学び日々の生活に取り入れることは、新たな視点や考え方に気づかせてくれます。過度にひとつの考えに偏ることなく、他者としっかりとコミュニケーションを取りながら取り入れることが大切でしょう。

アドラー心理学を学べる書籍 

ここでは、アドラー心理学を学べる良書を5冊紹介します。 

アドラー心理学入門 

本書は日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問を務める岸見一郎氏による著作です。アドラー心理学の立場から「どうすれば幸せに生きられるか」という誰もが持つ疑問に指針を示しています。 

本書はアドラーの人柄の紹介からはじめ、育児と教育、健康なパーソナリティー、基礎理論、人生の意味の求め方など重要なポイントを解説しています。アドラー心理学の全体像を知りたい人におすすめです。 

嫌われる勇気 

本書は、先に紹介したアドラー心理学入門の著者・岸見一郎氏と、ビジネス本で数々のベストセラーを持つ古賀史健氏による共著です。哲学者と青年の対話形式でドラマチックにアドラー心理学を伝えて大ヒットとなり、ロングセラーを続けています。 

本書がおすすめなのは、対人関係が人生の悩みとなっている人です。人事担当者なら組織マネジメントや育成などに応用できるでしょう。「認めたくない事実に立ち向かえるようになった」「複雑な人間関係を整理するのに役立つ」などの読者の声があります。 

幸せになる勇気 

本書は、「嫌われる勇気」の続編です。3年ぶりに哲学者の元を訪れた青年は、「アドラー心理学は机上の空論ではないか」「アドラー心理学を捨てるべきか」という迷いを抱えていた、という設定で始まります。 

本書は「嫌われる勇気」を読み、アドラー心理学をより深く理解したい人におすすめです。「嫌われる勇気」を読んで、実践を続ける読者へのアンサー本としても読めるでしょう。また、「なぜ賞罰を否定するのか」「ほめて伸ばす考えを否定せよ」など、人事領域にも応用できるテーマも扱っています。 

アドラー心理学 ―人生を変える思考スイッチの切り替え方― 

本書は臨床心理士の著者が、人生を変える思考スイッチの切り替え方をやさしく指南してくれます。「小心者→慎重」「短気→行動力」といった切り替えスイッチを、マンガやイラストを交えて解説しています。 

本書の特徴はアドラー心理学を、実践的に落とし込んでいるところです。ライフ・スタイルの自覚、他者への感情の変え方、苦手意識との付き合い方、思考スイッチの習慣付けなど、知識だけで終わらないハウツーを教えてくれます。 

コミックでわかるアドラー心理学 

本書は、アドラー心理学をマンガで学べる初心者向けの本です。人間関係の悩みでアパレル店の店長を辞めた女性がシェアハウスに移り住み、塾の先生を手伝うストーリーを通じて、アドラー心理学を体験的に学べます。 

コミックとはいえ、劣等感と補償の関係や、ライフ・スタイルの自覚、トラウマからの脱却、アドラー心理学の重要概念「共同体感覚」の持ち方など、重要ポイントが押さえられています。

アドラー心理学をビジネスに活用しよう

目的論や課題の分離、承認欲求の否定といった考え方を提唱するアドラー心理学は、生きていく中で「あたり前」と考えていた物事について、新たな気づきを示してくれます。

理解を深めることが、自分の生き方や考え方を見直すきっかけになるほか、ビジネスの場においては人材育成や目標管理の他、人との関わりをよりスムーズに良好にするためのヒントとなってくれるでしょう。

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