ダイバーシティの浸透もあり、価値観の多様化が進む中、企業は目標達成のために効率的な経済活動を行わなければなりません。インテルが考案し、GoogleやFacebookなどが採用している目標管理手法「OKR」は、 国内ではメルカリが導入していることで注目されています。
組織と従業員の目標を連動させて、組織全体としてベクトルを合わせる方法として必要性が高まっているOKR。今回は、OKRの概要、しばしば混同してしまいがちなMBOやKPIとの違い、運用のポイントなどについて解説いたします。
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【簡単に】OKRとは
OKRは「Objectives and Key Results」の略称で、Objectives(目標)とKey Results(主要な成果)によって、高い目標を達成するための目標管理のフレームワークです。
O: Objectives
Objectives(目標)には、より大きくチャレンジングなテーマを設定します。設定されるObjectivesは、原則として四半期に1つ。高いObjectivesを掲げることで、従業員の自律的な挑戦を促すことができ、組織全体の業務効率や生産性のアップが期待できます。
また、従業員は企業全体のObjectivesを理解した上で、個人のObjectivesを設定します。そのため、目指すべき目標が明確になるだけではなく、企業と従業員の目標がリンクする特徴も持っています。
KR: Key Results
数値化が難しい定性的な性質のObjectivesに対して、Key Results(主要な成果)は、状態を数値化できる定量的な性質を持ちます。よって、一般的には1つの目標に対して、複数のKey Resultsが設定されます。
組織にとっても、従業員個人にとっても大きな目標を設定することから、目標に対して100%の成果を出す必要はありません。
完全なKey Resultsの達成を目的としないため、業績評価や人事評価においては目標に向かって取り組むプロセスを参考とします。Key Resultsの達成度が、そのまま評価に影響しない点も大きな特徴です。
企業の目標を達成するためにそれぞれの役割を明らかにして、組織全体でコミュニケーションを活性化し、一致団結して取り組むことを目的としています。
組織と従業員個人の目標を連動させるため、組織・部署・チームの各目標に細分化した上で個人の目標設定を行います。
OKRとMBO、KPIの違い
OKRはMBO、KPIと混同されがちです。何が、どう違うのかを整理していきましょう。
まず、それぞれの呼称は下記の通りです。
- OKR…「Objective and Key Result(目標と主要な結果)」
- MBO…「Management By Objectives(目標による管理)」
- KPI…「Key Performance Indicator(重要業績評価指標)」
これらは全て業績評価手法のバリエーションですが、 全く異なる意味合いを持っています。 次にそれぞれの考え方の比較を見ていきましょう。
OKR・MBO・KPIの考え方比較
OKR | MBO | KPI | |
レビュー頻度 | 四半期ごと もしくは毎月 |
1年ごと | 毎月 (毎週、毎日の場合も) |
目標達成度を 測定する際の基準 |
SMARTに基づく | 組織によって変わる | プロジェクト によって変わる |
目標の共有範囲 | 広い (全社) |
狭い (上司と本人) |
狭い (部門ごと) |
最終目的 | 組織の生産性を 向上させること |
報酬の決定要素 にすること |
プロジェクトの 目標達成 |
期待される 達成水準 |
60~70% | 100% | 100% |
SMARTとは、目標を達成するための5つの目標を指す言葉です。
KPIは最終目標達成までのプロセスを定量的な目標でチェックし、達成度合いを測るための中間指標です。100%の達成を目指し、現実的な目標設定を行います。
MBOは、社員の自主的な行動で、業績アップを目指す管理手法です。達成のレビュー頻度は、1年もしくは半期で設定するのが一般的であり、上司と部下で目標を共有します。
一方、OKRは組織が一丸となって目標達成させるためにあります。そのため、高めの目標設定であることに意義があり、目標の60%〜70%が達成できるように設定します。
OKRが成果を生む理由とは
OKRが成果を生む理由は、以下の3つです。
- 失敗の許容
- 成果拡大の可能性
- アイデア浮上の可能性
成果を生み出す理由を知って、OKRの必要性を認識しましょう。
失敗の許容
失敗が許容される前提だと、挑戦的な目標を立てやすくなります。失敗の許容は、新たなことへの挑戦をしやすくするためです。
OKRでは、ムーンショットと呼ばれる月に届くほど高い目標を設定することが推奨されています。多くの方は、失敗したことによる叱責や、批判を恐れて行動できなくなります。失敗で起こる痛みがなければ、積極的にチャレンジできるでしょう。
反対に、失敗を回避する傾向が強い企業では、OKR制度を活かしきれません。挑戦を受け入れる文化を定着させたい企業こそ、OKRを導入すべきです。
成果拡大の可能性
もともと達成が困難な目標値を設定するため、達成できれば大きな成果になります。
達成が容易な目標は、達成できて当たり前な目標値になり、達成できても、企業の業績に大きく貢献できる可能性は低いでしょう。
アイデア浮上の可能性
大きな目標を達成するためには、野心的な目標を立てる必要があります。つまり、目標を達成するため、これまでにはない新たなアイデアが浮上しやすくなります。
例えば、仕組み自体を大きく変えて、課題を解消するようなアイデアです。目標が遠くになければ生まれることはありません。
OKRの導入が増えている背景
GoogleやFacebookなど最大手のグローバル企業に加え、株式会社メルカリやヤフー株式会社など日本の大手企業もOKRを導入しています。なぜOKRはこれほど注目されているのでしょうか。
OKRの導入が進む背景として、従来の業績評価や人事評価制度の改革が求められていることが挙げられます。業績・人事評価においては、客観的に公平に評価を行うことが重要です。しかし、これまで多くの国内企業では、上司による主観的な評価が主流でした。
一方で、さまざまな国籍や文化を持つ従業員が働くグローバル企業では、価値観に違いのある従業員が納得できる評価を下す必要があります。OKRでは、定量的なKey Resultsによって客観的に従業員を評価できるため、グローバルな社会で注目が集まっています。
OKRを導入する3つのメリット
OKRを導入する3つのメリットは、以下の通りです。
- 企業ビジョンの浸透
- エンゲージメントの向上
- タスク優先事項の明確化
OKRが企業にとっても従業員にとっても成長をもたらし、生産性を向上させる理由を知りましょう。
1. 企業ビジョンの浸透
先述の通り、OKRは企業と個人の目標がリンクしているため、企業のビジョンが従業員にもわかりやすく、組織内により深く浸透していきます。
2. エンゲージメントの向上
組織内共有している目標に向かって行動し、組織内のコミュニケーションが活発になります。それぞれの貢献度を可視化することにより企業への愛着心や貢献意欲が上がり、日々の業務に対してポジティブな気持ちになりやすいなど、ワークエンゲージメントや従業員エンゲージメントの向上につながります。
3. タスク優先事項の明確化
OKRは、すべての従業員が目標を共有しているため、「主要な成果」に直接的につながることや影響が大きいことは優先順位が高くなります。そうでないものは低いというようにタスクの優先事項が明確化されて、効率的な行動ができるようになります。
OKRを理解する5つのポイント
OKRを理解する際のポイントは全部で5つ。
- レビュー頻度の高さ
- 達成度の測定基準の具体性
- 目標の共有範囲の広さ
- 目標の達成・未達成と報酬の増減が無関係
- 期待される達成水準の低さ
以下ではこれらを1つずつ解説していきます。
1.レビュー頻度の高さ
第一のポイントはレビュー頻度の高さです。
ピーター・ドラッカーによって考案されたMBOが1年に1回しかレビューを行わないのに対しOKRのレビュー頻度は四半期もしくは毎月行うのが一般的になっています。
これによりスピーディーな目標設定と測定ができるようになっているため、めまぐるしく変化するグローバル市場にも対応しやすくなっています。
2.達成度の測定基準の具体性
第二に目標達成度を測定する際の基準の具体性です。
MBOとKPIが組織やプロジェクトによって変動するのに対し、OKRではSMARTを基準にしています。
SMARTとは以下の5つの単語の頭文字をとった目標設定の指標を指します。
Specific (具体的に) |
誰が読んでも理解できる、明確で具体的な目標にする。 |
Measurable (測定可能な) |
達成度合いが客観的に判断できるよう、数値で表せる目標にする。 |
Achievable (達成可能な) |
現実的な目標にする。 |
Related (経営目標に関連した) |
組織にとって意味のある目標にする。 |
Time-bound (期限がある) |
締め切りのある目標にする。 |
日本的な慣習の残る企業では、目標の達成基準があやふやになることも少なくありません。しかしOKRはもともとこうした基準を明確に定めているため、達成度の測定が曖昧になりにくくなっています。
3.目標の共有範囲の広さ
第三に目標の共有範囲が、KPIとMBOに比べて圧倒的に広い点です。
これには最終的な目標の違いが影響しています。MBOの最終的な目標は報酬の決定にあるため、目標の共有範囲を広く設定してしまうと実質的に報酬の情報まで共有してしまうことになります。
KPIは最終的な目標が各部門のプロジェクトの達成にあるため、部門外で共有する必要がありません。これらに対してOKRの最終的な目標は組織全体の生産性向上にあるため、全社で共有します。
これにはチーム内もしくはチーム間での相互連携を促し、個人が目標を自分の中だけで抱え込まないようにする効果や、個人が組織への貢献度を実感しやすくする効果も期待できます。
4.目標の達成・未達成と報酬の増減が無関係
また共有範囲が全社に及ぶことは、目標の達成・未達成と報酬の増減を切り離して考えることでもあります。これが第四のポイントです。
目標の達成度が報酬に影響する場合、目標を設定する個人はできるだけ達成しやすい目標を選ぶでしょう。しかしOKRでは両者は無関係なので、より大胆で野心的な目標を設定しやすくなります。
5.期待される達成水準の低さ
こうした大胆で野心的な目標を設定しやすくするもうひとつの要素が、期待される達成水準の低さです。達成が大前提となっているMBOやKPIに対し、OKRが期待している達成水準は目標の60~70%です。
これにより目標が「ストレッチ目標(実力より少し高い目標)」になりやすくなるため、OKRによる目標設定は個人の成長にもつながりやすいと考えられます。これがOKRを理解するための最後のポイントです。
OKR導入に向いている組織の特徴
OKRはすべての組織に適しているとは限りません。組織の規模や事業モデルなどによって、OKRが適している場合とそうでない場合があります。一概に定義することは難しいのですが、OKRが適した組織には、以下の特徴があるといわれます。
- 新製品や革新的なアイデアを生み出そうと努めている組織
- 民主的に運営されている組織
- 多様な情報にアクセスできる組織
OKRは野心的でチャレンジングな目標を設定する一方、MBOのような高い達成率は求められません。そのため、社員は目標の達成可能性を気にせず、会社の成長のために「やりたい」と思った目標を意欲的に掲げられるため、結果として事業の飛躍につながります。こうした面からみれば、ビジョンを組織に浸透させることが重要であり、リソースが限られているスタートアップにはOKRが向いているといえます。
反対に、すでに組織が成長期に入り、リスクをとった野心的な目標の重要性が低い場合には、OKRの導入は慎重に検討する必要があるでしょう。表面的な高い目標を設定しても、未達に終わった結果、社員のモチベーションが低下する恐れがあります。
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OKRの運用方法
OKRはすぐにでも実行しやすい方法ですが、導入・運用するためにはいくつか必要なポイントがあります。
- 「目標」の設定
- 「主要な成果」の設定
- OKRの共有
- 適切なフィードバック
- 成果の測定と評価
それでは、詳しく見ていきましょう。
「目標」の設定
定性的な企業目標と、それに連動して部署・チーム・個人と細分化した目標を設定していきます。多くの企業では人事評価に目標管理を使用しているため、保守的な目標設定になりやすく、結果的に機能しない要因となってしまいます。
企業の成長を加速させるには、高く挑戦的な目標を掲げることが大切です。
「主要な成果」の設定
定性的な企業目標に対し、成果を設定します。
1つの目標に対し3つ程度とし 、定量的で計測可能なものにします。
計測方法はどのような方法でも構いません。
実施期間は1ヵ月や四半期ほどの期間で設定して各チームが独立して実現できるものにします。
OKRの共有
社内でのコミュニケーションの活発化や、全体の動きが把握できるように、OKRの内容をオープンにし、ツールなどを使って社内で共有し、誰もが確認できるようにすることが肝心です。
適切なフィードバック
OKRには、組織的なフィードバックの仕組みが必要です。特に1on1でのフィードバックを頻繁に行うことで、目標達成への貢献度をアップできます。
成果の測定と評価
成果の測定を行い、その結果から進捗状況を可視化すると、状況や対策も含めて企業内でのコミュニケーションが活性化されます。
また、四半期の段階で評価のフィードバックするには、目標自体が妥当であるかどうかの見直しも行い、企業目標とのズレが発生している場合には目標の変更を行います。
OKRのよくある3つの失敗
本章では、OKRのよくある失敗を3つ紹介します。
- 目標設定基準が低い
- 目標の価値が低い
- 目標の成果指標が不足している
失敗を防ぐためにも、必ず確認しましょう。
1.目標設定基準が低い
OKRの場合、目標達成率は60%程度で構わない高い目標を立てなければいけません。そのため、達成が容易だとOKRで目指す目標としては失敗です。
ただし、最初に高い目標値に設定しすぎると、結果的に目標が達成困難になってしまい、社員のモチベーション低下を生むリスクがあります。
そこで、「SMART」と呼ばれる考え方が参考になるので紹介します。
- S:具体的に
- M:測定可能な
- A:達成可能で野心的な
- R:関連した
- T:期限がある
SMARTを利用すれば、曖昧になりがちな目標設定を明確に示して、モチベーションを上げながら行動できるでしょう。
2.目標の価値が低い
設定した目標の価値も考えなくてはいけません。価値が低いと、達成できても大きな成果につながらないからです。
例えば、「チームメンバーの誕生日パーティを企画する」「毎日定時に帰宅する」など、組織全体の改善につながらない目標を立てるケースです。
OKRの目標設定では、組織や個人の成長や成功につながる挑戦的な目標を立てましょう。
3.目標の成果指標が不足している
成果指標を決定する際は、すべての成果指標が盛り込まれていなければいけません。仮に、成果指標に不足が生じている場合、成果を達成できているのに、目標を達成できない失敗が生じる可能性があります。
また、成果指標を把握できていないと、目標を達成するためのスケジュールが遅れる可能性もあります。
OKRがうまく機能しない時にチェックすべき項目
OKRがうまく機能しないと感じたら、以下のチェック項目を確認しましょう。
OKRが社内で認知されているか | ◻︎ |
現状維持を目標にしたOKRになっていないか | ◻︎ |
Key Resultが行動指針になっているか | ◻︎ |
企業に成果をもたらすOKRが設定されているか | ◻︎ |
成果指標の不足はないか | ◻︎ |
定期的にチェックすることで、OKRの目標達成が一歩ずつ近づくはずです。
業種・職種別OKRの具体例
本章では、OKRの具体例を3つの業種・職種に分類して詳しく解説します。
- 営業
- 人事
- 製造
どのようにOKRを活用すべきか、本章を参考にしてください。
営業
Objective:新規顧客獲得を増加させる
Key Result①:第3四半期までに新規顧客20件獲得する
Key Result②:営業プロセスを見直して、反応率を10%向上させる
Key Result③:毎月のリード発生数を前年比30%増加させる
人事
Objective:優秀な人材の離職率を低下させる
Key Result①:退職率を年間で10%減少させる
Key Result②:成長著しい社員に対し、定期的にキャリアコンサルティングを実施する
Key Result③:フレックス制度やリモートワークを積極的に導入し、社員のワークライフバランス改善をサポートする
製造
Objective:製造コストを削減する
Key Result①:原材料コストを10%削減する
Key Result②:エネルギー消費を8%削減する
Key Result③:予防保全活動を強化し、機械故障によるコストを20%削減する
OKRの導入事例
OKRは、以下のような有名企業にも導入されています。
- メルカリ
- Chatwork
- 花王
Googleは創業まもない頃からOKRを導入しており、結果としてOKRがグローバル規模の企業への成長を促しました。現在でも、OKRはGoogleのメインのマネジメント手法に取り入れられており、Googleでは「ストレッチゴール」と呼ばれる目標を設定します。ストレッチゴールの目標達成率予測は50%程度といわれ、Googleが企業として進化を続けられる秘訣といえるでしょう。
企業の目指すものと現場のズレを解消するためにOKRを導入したのが、メルカリやChatworkです。両社とも、規模が大きくなるにつれて事業戦略を個人レベルで共有できない課題が発生していました。
そこでメルカリは「コミュニケーション」と「プロセス評価」を中心にOKRを導入。半年に1回のOKRの共有に加え、こまめな1on1ミーティングで企業と個人目標のすり合わせをしました。Charwokでは評価基準とOKRを切り離し、達成度そのものは評価に直接的な影響を与えないよう運用しています。OKRでは目標に対してどの程度チャレンジしたかを計るため、社員に野心的な目標設定を促す環境を整えています。
また、花王がおこなうOKRの取り組みは、以下の通りです。
- 事業貢献
- ESG
- One team & My Dream
上記3つの観点から、それぞれ挑戦的な目標を考え、上司や同僚と共有します。社員個々の取り組みは社内公開されるため、同じ目標や夢をもった仲間が集まりやすい体制を構築しています。
OKR導入のためにまず自社の人事評価制度を見直そう
OKRの導入に当たり、自社の人事評価制度を見直すことは大切です。ただし、やみくもに社内のメンバーだけで人事評価制度を見直しても、人事担当者や管理者の負担が大きくなったり、不公平な評価制度になったりする可能性があります。
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