人事分野で「エンゲージメント(従業員エンゲージメント)」という言葉が頻繁に用いられるようになりました。アメリカから輸入する形で、エンゲージメントを測定するためのサーベイ(調査)もさまざまな企業で実施されています。
しかし、エンゲージメントをうまく測定できるサーベイとはどうあるべきなのでしょうか。アメリカの調査会社ギャラップ社 の質問項目をご紹介したうえで、エンゲージメントに対する考え方と質問項目を立てる際の方針についてお伝えします。
従業員のエンゲージメント向上策を検討している人事部門の管理職や担当者の方は本記事の内容を役立ててください。
エンゲージメントは従業員満足度ではない
エンゲージメント(Engagement)は、もともと婚約・約束・関与などの意味を持っています。しかし人事分野で「エンゲージメント(従業員エンゲージメント)」と言った場合、従業員が主体的に会社へ貢献したいという意欲を持つことが多いです。
そのため、エンゲージメントサーベイ(調査)と言うと、いわゆる「従業員満足度調査」のことと誤解されるかもしれません。
しかし、エンゲージメントという言葉は、従業員の仕事や会社に対する思いが会社全体の生産性と相関していることを含意しています。従業員満足度では従業員個人の満足度に焦点が当たっており、会社全体の生産性につながるという視点が欠けているのです。
したがって、エンゲージメントサーベイを実施するときには従業員個人の生産性と会社全体の生産性とのつながりを深く意識して、質問項目を検討する必要があります。例えば「今の仕事に満足しているか(好きか)」「今の仕事にストレスを感じるか」などといった質問だけでは、エンゲージメントを測るのに十分ではないと思われます。
エンゲージメントサーベイの3つの目的
エンゲージメントサーベイには3つの目的があります。具体的には以下の3つです。
- 組織課題の可視化
- 従業員と企業のギャップ
- 人事評価データの人事施策への活用
自社のエンゲージメント向上に向けてどのように活用できるか検討するためにも、ぜひご覧ください。
1. 組織課題の可視化
エンゲージメントサーベイは、組織課題を数値化できるため、職場課題の可視化を目的に導入する企業があります。
具体的には、以下のような設問からデータを取得します。
- 職場環境
- 人間関係
- 労働条件
- 仕事内容
- キャリア
上記のようなデータから、サーベイの結果を客観的に分析することで、職場環境や上司と部下の関係など、さまざまな組織課題を把握できます。
2. 従業員と企業のギャップ
従業員が企業に求めていることを把握できれば、ギャップを埋める施策を行えるでしょう。その結果、離職率の低下や職場人間関係の改善につながります。
また、エンゲージメントサーベイの結果を社内で共有し、定期的に組織内で課題に対する意見交換会を実施するなどの方法も1つの選択肢です。
上記のように、エンゲージメントサーベイの目的は、企業の業績など見える組織課題だけでなく、隠れた組織課題の早期発見でも一役買っています。
3. 人事評価データの人事施策への活用
エンゲージメントサーベイの評価データを人事施策に活かすことで、従業員の満足度を高めることにもつながります。改善すべき課題が見えれば、それに対応した具体的な施策を立案・実行できます。
例えば、以下の活用が挙げられます。
- 高評価要因の他部署への展開
- ニーズに基づいた研修制度見直し
- 低評価部署への改善プログラムの実施
上記のように、エンゲージメントサーベイによって、従業員の声を反映した人事戦略を展開し、継続的な改善サイクルを確立できるでしょう。
エンゲージメントサーベイの3つの効果
エンゲージメントサーベイの効果を解説します。
- 生産性の向上が期待できる
- 離職率の低下が期待できる
- モチベーションの向上が期待できる
各効果がどのようにして組織の成長と従業員の満足度向上につながるのか、具体例を交えながら解説します。
1. 生産性の向上が期待できる
エンゲージメントサーベイの実施により、働きがいのある職場と従業員が感じ、生産性も向上します。その結果、生産性の向上は質のよいサービスや商品を顧客に提供できるため、企業の売上に直結します。
ミイダス株式会社が実施した調査結果によると、サーベイ後にアクションを起こした企業の7割以上が生産性向上を実感しています。

出典:ミイダス株式会社
上記結果は、サーベイの実施後に具体的な行動の実施が重要であることを裏付ける根拠になるでしょう。
2. 離職率の低下が期待できる
エンゲージメントサーベイの結果に基づく施策により、離職率低下が期待できます。
取り組むべき内容は課題によりさまざまですが、職場環境改善の場合は、以下のような施策が考えられます。
- 社員食堂やカフェテリアの改善し福利厚生の充実
- フレックスタイム制度を実施して柔軟な働き方の導入
- コラボレーションスペースの増設してオフィスレイアウトの最適化
これらにより従業員の主体的に会社へ貢献したい想いが高まり、離職率低下につながります。
3. モチベーションの向上が期待できる
エンゲージメントサーベイは、従業員のモチベーション向上にも大きく寄与します。なぜなら、サーベイ結果に基づく改善策の実施により、自分たちが組織変革に貢献していると実感できるからです。
具体的には、改善プロセスへの参加を通じて、組織の一員としての自覚が強まったり、サーベイを通じて自身のスキルやキャリアの方向性を考える機会が得られたりできることが挙げられます。
モチベーション向上のための具体的な施策として、以下が挙げられます。
- 社内公募制度の導入
- 従業員表彰制度の実施
- スキルアップのための研修機会の提供
- 成果の可視化と適切な評価・フィードバック
上記のような取り組みにより、従業員は自身の成長と組織への貢献を実感し、より高いモチベーションで業務に取り組めるようになるでしょう。
エンゲージメントサーベイの代表的な質問12点
アメリカの大手調査会社であるギャラップ社 は、30年以上にわたって1,700万人を超える従業員に対する調査を実施してきた経験に基づき、従業員個人とチームのパフォーマンスを測定するのに最適と考えられる質問を12個抽出しています。
- 仕事において何を期待されているか知っているか
- 仕事を適切に行うための設備やツールを持っているか
- 仕事において、毎日最も得意なことをするための機会を与えられているか
- 過去の7日間において、よい仕事をしたことについて認められたり褒められたりしたことがあったか
- 職場の上司や同僚など、誰かに一人の人間として気にかけてもらっていると感じるか
- 職場で自分の成長を促してくれる人は誰かいるか
- 職場で自分の意見を尊重してもらっていると感じるか
- 会社のミッションや目的を読むと、自分の仕事が意義あるものと感じられるか
- 職場の同僚は質の高い仕事をすることにコミットしているか
- 職場に親友はいるか
- 直近の6ヵ月間において、職場の誰かが自分の進歩について伝えてくれたか
- 直近1年間において、学びや成長の機会を得られたか
これら12個の質問項目をよく読むと、ギャラップ社が自分(従業員個人)と同僚、上司、会社そのものとの関係性に着目していることが理解できます。
従業員の生産性を高めるには同僚や上司などの働きかけ、会社の環境整備と機会の提供が不可欠であり、そして従業員の生産性の向上が会社の生産性の向上につながるという考え方が如実に表れていると言えるでしょう。
自社でエンゲージメントサーベイを実施する際には、ギャラップ社が定義した12項目の意図をよく理解した上で、自社の状況に合った質問文にすると、より的確に従業員エンゲージメントを把握できるでしょう。
例えば、”ミッション”という言葉を用いていない企業は”当社の使命”や”当社の企業価値”などに言い換えることができます。
サーベイ前にやるべきエンゲージメントの定義
従業員エンゲージメントを測定する調査を社内で実施したいと考えたときに、最も大変なのは質問項目の策定です。その意味で、上記の12個の項目を利用して自社に合う質問項目に仕立てるのは一つの手ではあります。
しかし、質問項目以前に「そもそも自社にとってエンゲージメントとはどうあるべきか」を検討するべきでしょう。前述の通り、エンゲージメントとは個人の生産性と職場、あるいは会社全体の生産性双方を含んでいます。単に個人の満足度が上がっても会社全体の生産性が下がったり、逆に、会社全体の生産性が上がっても従業員が不満を持っているようでは意味がありません。
ギャラップ社の12個の質問項目を基盤として、自社にとってエンゲージメントとは何を指すのか、個人の生産性を高めるにはどうすればいいのか、個人の生産性を職場全体の生産性と結びつけるには何が必要なのか、人事担当者のみならず経営者ないし経営企画が考える場を設けるとよいでしょう。
従業員エンゲージメントに対する経営者の考え方は、会社のミッションや理念を反映させることが重要です。
【4STEP】エンゲージメントサーベイの進め方
エンゲージメントサーベイを効果的に実施するには、以下の4つのステップを踏むことが重要です。
- 目的の明確化
- 測定項目の決定
- 従業員への事前説明
- 定期的な実施
自社の状況に合わせて、これらのステップを適切に実行することで、より有意義な結果を得られるでしょう。
1. 目的の明確化
エンゲージメントサーベイを実施する前に、目的を明確にすることが重要です。
主な目的としては以下が挙げられます。
- 組織の現状把握
- 従業員満足度の測定
- 改善が必要な領域の特定
- 人材戦略の立案のためのデータ収集
上記のように目的を明確にすることで、適切な質問項目の選定や結果の分析方法を決定できるでしょう。
2. 測定項目の決定
目的に基づいて、測定する項目を決定します。
一般的な測定項目には以下のようなものがあります。
仕事の満足度 | ◻︎ |
---|---|
キャリア開発の機会 | ◻︎ |
組織の方向性への共感 | ◻︎ |
ワークライフバランス | ◻︎ |
上司とのコミュニケーション | ◻︎ |
測定項目で重要なのは、自社の課題や業界特性に応じて、適切な項目を選択することです。
3. 従業員への事前説明
サーベイの実施前に、従業員に対しての説明が重要です。なぜなら、目的や活用方法を理解することで、従業員は自身の回答が有効に使われると信頼できるからです。結果として、より正直で詳細な回答を得られるでしょう。
具体的な説明項目は、以下のとおりです。
- サーベイの目的
- 結果の活用方法
- 回答期間と方法
- 回答の匿名性の保証
丁寧な事前説明により、従業員の理解と協力が得られるため、より正確で有用な回答を集められます。
4. 定期的な実施
エンゲージメントサーベイは、一回限りではなく定期的な実施が有効です。理由は以下のメリットがあるからです。
- 施策の効果測定ができる
- 経時的な変化の把握できる
- 新たな課題の早期発見できる
- 従業員の声を継続的に聞く姿勢を表明できる
多くの企業では、年1〜2回の頻度でサーベイを実施しています。自社の状況に合わせて適切な頻度を決定しましょう。
以上の4ステップを実行することで、エンゲージメントサーベイを効果的に活用し、組織の改善と従業員満足度の向上につなげられます。
エンゲージメントのサーベイはシンプルに
エンゲージメントの定義を明確にするとともに、質問項目の文章内容をシンプルにし、項目数を少なく抑えることが重要です。これによって後でエンゲージメントの測定と結果の分析がしやすくなり、現場や経営陣へのフィードバックも容易になります。
従業員エンゲージメントのサーベイは、エンゲージメントを高めるための「PDCAサイクル」のC(Check)プロセスに当たるとも考えられます。ただサーベイを実施して終わるのではなく、その後の改善と再調査へつなげることが重要です。
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