残業時間の短縮やダイバーシティの実現など、国をあげて働き方改革が推進されています。
従業員の人生を充実させる取り組みとして、「ワークライフインテグレーション」という言葉が新たに注目を集めるようになりました。導入することで、企業にはどのような効果がもたらされるのでしょうか。
本記事では、ワークライフインテグレーションが注目される理由やメリット、「ワークライフバランス」との違いや、実際の導入事例など、人事担当者が知っておくべき知識を解説します。
ワークライフインテグレーションとは
ワークライフインテグレーションとは、仕事とプライベートを対立するものと捉えず、どちらも人生を充実させるための大切な要素であるとの考えから、双方を「インテグレーション(統合)」させて生活の質を向上させようとする取り組みです。
ワークライフインテグレーションを実践することで、満足感をもって日々の生活を送り、仕事に対する意欲も向上するほか、メンタルヘルス維持にも効果があるとされています。
ワークライフインテグレーションは、キャリア論の権威である慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科の高橋俊介教授や、2008年に経済同友会が発表した提言書『21世紀の新しい働き方―「ワーク&ライフ インテグレーション」を目指して』の中で提唱されました。
ワークライフバランスに代わる言葉として、多くの企業に注目されています。
ワークライフバランスとの違い
従来は、仕事とプライベートの調和を図る取り組みとして「ワークライフバランス」という言葉が使われてきました。
ワークライフバランスも、仕事とプライベートを両立させて人生を充実させる考え方であり、働き方改革の推進と共に現在でも多数の企業で取り組まれています。
一方のワークライフインテグレーションは、仕事とプライベートを対立するものと捉えないところに特徴があります。
ワークライフバランスでは双方は相反するものと捉えられており、どちらか一方に偏ることのないようバランスをとることが趣旨とされてきました。
仕事に力を入れるためにプライベートの時間を調整したり、育児や介護のために仕事を時短勤務にしたりするなど、どちらか一方のためにバランスをとるのでは、人生全体の充実につながりません。
そこで、仕事とプライベートの間に垣根を作らず、双方を一体に捉えて総合的な充実を図る、より発展的な概念としてワークライフインテグレーションが登場しました。
注目される理由と時代的背景
2019年に「働き方改革推進法案」の一部が施行されたことを皮切りに、国をあげて働き方改革が推進されています。
背景には、少子高齢化に伴う労働人口の減少により、育児や介護を理由とした離職の防止、シニア世代や外国人労働者の活用、労働スタイルの多様化への対応が求められていることがあげられます。
従来の日本企業で横行してきた長時間労働やサービス残業といった働き方の是正が社会的な課題となる中、ワークライフバランスによる従業員の生活の充実が図られてきましたが、ワークライフバランスは仕事とプライベートを対立させる考え方です。
そこで、より「人生そのものの充実」を重視するワークライフインテグレーションが注目されるようになりました。
ワークライフインテグレーションのメリット
それでは、企業がワークライフインテグレーションを導入することで得られる具体的なメリットを紹介していきます。
1.企業のメリット
1.社員の生産性の向上
無理な労働から解放され、心身ともに健康的な生活を手に入れることで、より集中して仕事に励むことができるようになります。個人の業務効率が向上することで、企業全体の生産性向上につながります。
2.ダイバーシティの実現
ワークライフインテグレーションに取り組む企業では、より柔軟な働き方を実現するため、多様な労働形態を取り入れています。
リモートワークや時短勤務など、自分の生活環境に合った働き方が選択できると、これまで育児や介護で離職してきた従業員やシニア世代など、多様な人材がキャリアを継続できるようになります。
人材のダイバーシティが実現すると、企業の柔軟性も向上します。
3.長時間労働の是正
生活の中で仕事とプライベートの垣根が無くなると、時間の使い方にメリハリがつくようになります。
仕事で成果を出しつつ、家庭や趣味の時間を捻出するには、時間の使い方を見直す必要があります。
短時間で効率よく成果を出す意識が生まれると、これまでのような長時間労働や無駄な残業が是正されるようになります。
2.社員のメリット
1.仕事と家庭の両立
ワークライフインテグレーションでは、仕事と家庭を一体として捉えるため、どちらか一方を犠牲にすることがなくなります。
リモートワークやフレックス勤務、時短勤務など、柔軟な働き方を選択できることで、双方を両立しやすくなります。
その結果、仕事が忙しいせいで家族との時間がとれない、家庭の事情でキャリアを断念してしまうといったことが無くなり、より充実した人生を送ることができるようになります。
2.幸福度が高まる
仕事とプライベートの総合的な充実を目指すことを目的としているため、「家庭を優先することに罪悪感を持つ」「仕事のために結婚や出産を先延ばしにする」といったことがなくなります。
プライベートの時間を取りつつ、仕事にもやりがいを持って望めることで、ストレスがなくなり、幸福度が高まります。
3.自己啓発やスキルアップが可能
ワークライフインテグレーションでは、仕事とプライベートの間に垣根を設けず、双方から得た経験や体験、気付きを総合的に活かしていくことができます。
仕事に対しても人生の要素として意欲的に取り組む意識が身に付くことから、日々の生活の中でも自主的に能力向上に励むようになります。
導入の注意点
企業と従業員双方にとってメリットの多いワークライフインテグレーションですが、導入には注意すべき点もあります。人事担当者が気を付けるべきポイントを解説します。
1.人事評価制度の整備が難しい
時短勤務やリモートワークなど、働き方が多様化するため、統一の評価基準を設けることが困難になります。
職種や労働形態ごとの実情に合わせて、適正で平等な評価基準を策定する必要があります。
2.制度の趣旨を理解してもらう
ワークライフインテグレーションは、現在広く浸透しているワークライフバランスをより発展させた概念です。
まだ日本では普及が進んでおらず、耳にしたことのない従業員も多いと考えられます。趣旨や目的を正しく理解してもらうためには、社内教育や啓蒙活動が必要になります。
3.マネジメントが難しい
仕事と生活の境がなくなるため、企業がどこまで管理するのか、線引きを設けることが難しくなります。
従業員の管理能力によっては長時間労働に陥ってしまう可能性もありますが、規則で縛りすぎても制度の趣旨を達成できません。
自律性を担保しつつ、適正な管理制度の設計が求められます。
ワークライフインテグレーションの企業事例
ワークライフインテグレーションを実際に導入している企業では、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。
制度の内容や効果など、3社の企業事例を紹介します。
1.オリンパス株式会社
オリンパスでは、育児や介護といった家庭の事情とキャリアの両立を図る目的から、ワークライフインテグレーションの取り組みを推進しています。
その一環として、子育てサポート企業の認定である「くるみんマーク」の取得や、女性社員の支援制度として在宅勤務制度、労働時間短縮制度、リエントリー制度、役割フレックス制度をなど、多様な働き方を実現させています。
2.日本アイ・ビー・エム株式会社
時間と場所を選ばない働き方を推進しているアイ・ビー・エムでも、ワークライフインテグレーションを意識した労務管理が行われています。
リモートワークやモバイルワーク、有給取得率の向上といった施策の他にも、生産性を向上させるために社内情報システムの整備も実施しています。
また、人材配置では本人の希望を優先しており、納得性の高い人事制度と目標管理を目指しています。
3.シェア企業寮「月島荘」
企業寮でありながら複数企業の社員が生活を送る「シェア企業寮」として運営されている月島荘。
他業種のビジネスパーソンと活発に交流をはかることで、学びや刺激のあるライフスタイルを実現できるとして、話題を呼んでいます。
プライベートでも意欲の高い社員に囲まれて日々を送ることで、有意義な時間の使い方を意識するようになったと話す社員も多いようです。
日常生活の中で自己成長をはかる、まさにワークライフインテグレーションを体現した試みといえます。
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