従業員の生活水準を保守する目的で定められている最低賃金制度。
万が一、従業員に支払っている給与が最低賃金を下回っていると、違法とみなされ罰金が科される可能性があります。
本記事では、最低賃金法の基礎知識に加え、自社の基本給が最低賃金を下回っていないかの確認方法や、罰則についても解説していきます。
最低賃金法とは?
最低賃金法では、労働者の生活水準の維持や労働力の向上を目的として、企業が労働者に支払う給料の最低額が、地域ごとに定められています。
もしも、企業の裁量によって自由に賃金を決定できるようであれば、不当に低い賃金を支払う企業が出てきてしまうかもしれません。
労働時間や内容に見合ってない賃金しか支払われないのでは、労働者の生活水準が低下してしまったり、そのせいで労働に支障が出てしまったりすることも考えられます。そのような企業が続出して社会全体の労働力が低下することを防ぐため、賃金の最低額が法律で定められています。
仮に、企業が労働者と合意の上で最低賃金を下回る額の給与で労働契約を結んだとしても、法律によって無効となり、最低賃金と同額による契約とみなされます。
最低賃金が適用される対象者
最低賃金法では、「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類が定められています。
地域別最低賃金は、雇用形態に関係なく、全ての労働者が対象となるものです。正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイト、契約社員、派遣社員、嘱託など、各都道府県の事業所で働く全て労働者に、その地域の最低賃金が適用されます。
対して、特定最低賃金は、特定の産業に対して設けられた最低賃金です。そのため、地域別最低賃金よりも高い賃金を設定すべきと認定された特定産業に従事する労働者のみが対象となります。ただし、18歳未満または65歳以上の方、技能習得中の方、軽易な作業に従事する方は除外されます。
最低賃金の種類
前述の通り、最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類があります。それぞれ詳しく解説していきます。
地域別最低賃金
地域別最低賃金は、都道府県別に定められた最低賃金の金額です。地域ごとの平均的な生活費や物価、企業の支払い能力などを考慮し、47都道府県それぞれの金額が設定されます。
特定最低賃金
特定最低賃金は、地域別最低賃金よりも高い水準の賃金が必要と認められた、特定の業種を対象とする最低賃金です。製造業や鉄鋼業、自動車関連業、特定商品の小売業など、対象の業種は都道府県によって異なっています。
地域別最低賃金と特定最低賃金が異なる場合、2つのうちの金額が高い方が適用されます。
最低賃金の決め方
地域別最低賃金では、各都道府県でそれぞれの金額が設定されており、その金額は毎年審議されています。地域によって物価や生活に必要なお金が異なることから、その整合性をはかることが目的です。
地域別の金額は、公益代表や企業側の代表、労働者の代表といったメンバーで構成された「最低賃金審議会」によって話し合われます。具体的な流れとしては、まず中央最低賃金審議会が実態調査などの結果をもとに、金額改定の目安を地方最低賃金審議会に提示します。地方最低賃金審議会は、その資料をもとにさらに審議を重ね、最終的には労務局長によって正式な金額が決定されます。
決定の基準としては、労働者の生活費と賃金のバランスのほか、企業の支払い能力を考慮し、労働者が“健康的で文化的な最低限度の生活”を営むことを目的とする生活保護との整合性に配慮することとなっています。
一方、特定最低賃金は、対象となる産業の労使からの申出によって審議が開始されます。審議が必要と認められた場合には、最低賃金審議会の調査が行われ、金額が決定します。
全国の最低賃金
それでは、全国の主要都市における令和元年の最低賃金の金額をご紹介します。
都道府県 | 最低賃金額 | (平成30年度) | 発効年月日 |
北海道 | 861 | (835) | 令和元年10月3日 |
青森 | 790 | (762) | 令和元年10月4日 |
岩手 | 790 | (762) | 令和元年10月4日 |
宮城 | 824 | (798) | 令和元年10月1日 |
秋田 | 790 | (762) | 令和元年10月3日 |
山形 | 790 | (763) | 令和元年10月1日 |
福島 | 798 | (772) | 令和元年10月1日 |
茨城 | 849 | (822) | 令和元年10月1日 |
栃木 | 853 | (826) | 令和元年10月1日 |
群馬 | 835 | (809) | 令和元年10月6日 |
埼玉 | 926 | (898) | 令和元年10月1日 |
千葉 | 923 | (895) | 令和元年10月1日 |
東京 | 1,013 | (985) | 令和元年10月1日 |
神奈川 | 1,011 | (983) | 令和元年10月1日 |
新潟 | 830 | (803) | 令和元年10月6日 |
富山 | 848 | (821) | 令和元年10月1日 |
石川 | 832 | (806) | 令和元年10月2日 |
福井 | 829 | (803) | 令和元年10月4日 |
山梨 | 837 | (810) | 令和元年10月1日 |
長野 | 848 | (821) | 令和元年10月4日 |
岐阜 | 851 | (825) | 令和元年10月1日 |
静岡 | 885 | (858) | 令和元年10月4日 |
愛知 | 926 | (898) | 令和元年10月1日 |
三重 | 873 | (846) | 令和元年10月1日 |
滋賀 | 866 | (839) | 令和元年10月3日 |
京都 | 909 | (882) | 令和元年10月1日 |
大阪 | 964 | (936) | 令和元年10月1日 |
兵庫 | 899 | (871) | 令和元年10月1日 |
奈良 | 837 | (811) | 令和元年10月5日 |
和歌山 | 830 | (803) | 令和元年10月1日 |
鳥取 | 790 | (762) | 令和元年10月5日 |
島根 | 790 | (764) | 令和元年10月1日 |
岡山 | 833 | (807) | 令和元年10月2日 |
広島 | 871 | (844) | 令和元年10月1日 |
山口 | 829 | (802) | 令和元年10月5日 |
徳島 | 793 | (766) | 令和元年10月1日 |
香川 | 818 | (792) | 令和元年10月1日 |
愛媛 | 790 | (764) | 令和元年10月1日 |
高知 | 790 | (762) | 令和元年10月5日 |
福岡 | 841 | (814) | 令和元年10月1日 |
佐賀 | 790 | (762) | 令和元年10月4日 |
長崎 | 790 | (762) | 令和元年10月3日 |
熊本 | 790 | (762) | 令和元年10月1日 |
大分 | 790 | (762) | 令和元年10月1日 |
宮崎 | 790 | (762) | 令和元年10月4日 |
鹿児島 | 790 | (761) | 令和元年10月3日 |
沖縄 | 790 | (762) | 令和元年10月3日 |
全国加重平均額 | 901 | (874) | – |
※括弧内は平成30年度地域別最低賃金額
日給や歩合制などの場合の最低賃金
給与には、月給や時給、日給、歩合制など様々な支払い方がありますが、どのように最低賃金を適用したらよいのでしょうか。自社の給与が最低賃金を下回っていないか、チェック方法を解説します。
日給の場合
給与を日給で支払う場合は、日給を労働時間で割って時間換算したときに、最低賃金を下回っていない確認します。
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
また、特定最低賃金が日額で定められている場合は、以下の通りです。
日給≧最低賃金額(日額)
月給の場合
月給の場合も同様に、労働時間で換算した額が最低賃金を下回っていないか確認してください。
月給÷1カ月の平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
歩合制の場合
歩合制や出来高制によって計算された賃金の総額を、該当期間中に歩合制や出来高制によって労働した総労働時間で割り、時間換算した金額を最低賃金額と比較してください。固定給と歩合給が組み合わされている場合には、それぞれの計算式で算出された金額を合計して、最低賃金と比較します。
例えば、固定月給の時間換算額が700円、歩合制による報酬の時間換算額が250円だった場合、700+250=950円と最低賃金を比較します。
基本給が最低賃金以下は違法!
最低賃金法では、企業は従業員に対して最低賃金以上の給与を支払うことが義務付けられています。従業員との同意があったとしても、最低賃金以下の給与で働かせることは違法となり、不足分を支払わなければいけません。
例えば、もともと時給800円でアルバイトを雇っていたところ、途中で最低時給が830円に改定となり、それに気づかず3カ月間、最低賃金を下回る給与しか支払っていなかったとします。この場合、時給800円と労働契約が交わされていたとしても、その契約は無効となり、最低賃金と同額で契約したものとみなされます。そのため、3カ月分の差額を従業員に支払うことになります。
また、同法の40条では、違反した企業に50万円以下の罰金が科されることも定められています。
労使双方が納得感を持てる給与制度の整備をしよう
企業側に悪意がなかったとしても、従業員に支払う給与が最低賃金を下回っていた場合、違法となり罰金が科されることもあります。最低賃金は毎年改定されるため、定期的な情報収集や見直しとともに、適正な給与制度を整備していく必要があります。
また、給与を決定する際には、従業員や労使が納得感を持てる給与制度を設計すべきです。そのためには、従業員の頑張りや貢献が的確に給与に反映されるよう、人事評価の最適化が必要不可欠といえます。
とはいえ、忙しい人事が一から評価制度を設計するのは、難易度が高いと感じる担当者も多いことでしょう。自社に最適化された人事評価制度を構築し、効率的に運用していくには、クラウドシステムの導入が有効です。
あしたのチームでは、人事評価制度の構築から運用までをトータルでサポート。給与制度や人事評価を見直したいと考えている担当者は、まずこちらを検討してみてはいかがでしょうか。
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