リスクヘッジとは?日本企業のリスクヘッジの方法や能力の高い人材の育成方法を紹介

会社や新聞・ニュースなどでよく聞かれるリスクヘッジということば。
自社の経営目標達成を目指すために、企業にとっていかにリスクをヘッジし成長することは命題とも言えます。

本記事では、リスクヘッジの意味、類義語や対義語、使用例、日本企業のリスクヘッジ能力、リスクヘッジの方法、リスクヘッジ能力の高い人材と育成方法について紹介します。

リスクヘッジとは

リスクヘッジとは、一般的には死亡やケガなど、ある危険や危機を避けることを言います。 起こる可能性のあるリスクをあらかじめ想定し、リスクによる被害を最小限にとどめるための予防策を打っておくことです。

狭義では、金融用語として頻繁に使用されることばで、株式や為替など相場変動による損失を回避するために、分散投資などでリスクを低減させることを意味します。

海外との取引が一般的になる中で、為替変動によるリスクヘッジは投資家でなくとも重要です。

外貨建て資産が多くなればなるほど、企業のリスクヘッジはその重要性を増すことになるでしょう。先物取引や為替予約を活用したファイナンシャルヘッジなど専門知識を要することもあります。

リスクヘッジの類語と対義語

リスクヘッジとよく似たことばに「リスクマネジメント」と「クライシスマネジメント」があります。また、よく混同されることばでありながら実は対義語である「リスクテイク」。こちらの3つについて説明します。

リスクマネジメント

リスクマネジメントとは「危機管理」を意味します。起こる可能性のあるリスクに対して、被害が最小限ですむようとられる対策・管理のことです。

リスクヘッジの類語ですが、リスクマネジメントは経営上や組織単位での手法であるとともに、プロジェクト単位で使用される場合もあります。

プロジェクトを成功へと導くためにリスク要素を洗い出し、リスクの低減・回避をはかる一連のPDCAのことです。プロジェクト単位で使用される場合には、プロジェクト管理の一環と言えるでしょう。

リスクテイク

リスクテイクとは、危険や危機があると覚悟した状態で、あえて危険を冒す選択をすることを言います。

リスクヘッジとは間反対の用語と言えるでしょう。リスクテイクは「危険を冒す代わりに実入りも大きい」場合にとられることが多いです。

企業にとって利益が大きいと判断されるときに、リスクテイクが選択されます。あるリスクをヘッジしながらあるリスクはテイクするという、同時に行われることが多い事象とも言えます。

クライシスマネジメント

クライシスマネジメントを日本語にすると、リスクマネジメントと同じく「危機管理」です。 

しかし、リスクマネジメントは「今後起こりうるリスクを最小限に抑えるための事前対策」を指します。一方、クライシスマネジメントは「危機の発生後、事態を早く収束させ被害拡大を抑えるための事後対策」を指す言葉です。 

例えば、社内でパワハラが起こらないよう事前に対策することはリスクマネジメント、社内でパワハラが発生した際にどのように対処するかを考えておくことはクライシスマネジメントなのです。 

リスクヘッジの使い方例文 

続いて、リスクヘッジということばはどう使うのか、例文を交えて紹介します。 

リスクヘッジをする 

「リスクヘッジをする」とは、リスクを回避するための手立てを講じるという意味です。 

ビジネスにおいては以下のような使い方をします。 

  • 急な契約解消を想定してリスクヘッジをする必要がある 
  • リスクヘッジをすることで、多少のトラブルが生じても安定的な成果が見込める 

リスクヘッジが不十分 

「リスクヘッジが不十分」とは、起こりうるリスクを想定した対策が十分にできていないことを意味します。 

具体的な使い方は次のとおりです。 

  • リスクヘッジが不十分だと取引先から信頼されない 
  • 予備のプランを用意していないなんてリスクヘッジが不十分だ 

リスクヘッジを図る 

リスクヘッジを図るとは、リスクへの対策を考えることを指します。 

具体的な例文を紹介すると、以下のとおりです。 

  • リスクヘッジを図るためにまずは起こりうるリスクを洗い出そう 
  • プロジェクトの雲行きが怪しくなってきたのでリスクヘッジを図ることが必要だ 

ビジネスシーンにおけるリスクヘッジの使用例

ここでは企業のいくつかのシーンに合わせて、リスクヘッジの使い方を見てみましょう。

取引先との商談中

化粧品の製造業を営むA社は、新商品製造のための生産ラインを増設したが工場の人員が不足するのではと危機感を抱いていました。生産工程を見直すために、従来から製造機器やシステムを斡旋する代理店に相談することに。

代理店の担当者からは「現在の製造工程では人員の管理ポイントが多すぎます。この工程では点検箇所が多いため、今の人員より1班あたり2人は増員する必要があるでしょう。不良品発生のリスクヘッジのために、こちらの生産管理システムの導入を検討してはいかがでしょうか?」と言われました。

内部統制のレビュー中

各事業所の監査が完了し本社でのレビュー中に、監査官より工場の棚卸方法について指摘がありました。

「製品Aの主要原料である鉱石の棚卸方法について、従来から改善方法がないか模索中でしたが、未だに解決策がみつかりません。現状の測量法では、正確な投入量が計測できているとは言い難く、原価計算にゆがみが出ている可能性が否めません。財務諸表上の重要課題として指摘を受ける前に、リスクヘッジとして対策を講じる必要性があります。」

日本企業はリスクヘッジ能力が低いのか

企業のリスクヘッジ能力は経営上のリスクが何であるか明らかにし、どのように対策しているかでその能力は図れるでしょう。企業のリスクは、財務、コンプライアンス、情報漏洩、事故、マネジメント、事業運営など多岐に渡ります。

特に日本企業のリスクヘッジ能力が低いと言われているのが「事業上のリスクヘッジ」。そもそも企業が成長するためには、リスクヘッジはしつつもコアとなる主力事業についてはある程度積極的にリスクをとって高収益を目指す必要があります。

そのためには、コア以外の部分である原材料価格や為替レートの変動などについてしっかりとリスクヘッジすることが必要です。ただ、日本は主要先進国の中でも外貨建輸出の比率が高く、アメリカなどと比較すると自国通貨建取引が多くはありません。

そのため、為替変動の影響を受けやすくリスクヘッジ能力が低いことから、リスクテイクも低水準であることが指摘されています。「スクテイクしない」という意味では、それ自体がリスクヘッジになっているとも言えるかもしれません。

参考:内閣府「平成20年度 年次経済財政報告」

リスクヘッジの基本的な手順 

企業が成長していくために欠かせないリスクヘッジ。しかし、順を追って効率よく行っていかなければ効果のあるリスクヘッジはできません。 

具体的にどのようにリスクヘッジしていけばよいのか、基本的な手順を紹介します。 

1.リスクを洗い出す 

まずはどのようなリスクについて対策を講じるべきなのか、起こりうるリスクを洗い出します。 

例えばプロジェクトやイベントについてリスクヘッジするなら、ゴールまでの道筋を想像してどのようなトラブルやミス、問題が起こりそうかを考えてみるのです。細かい工程に分けて洗い出したり、複数人の視点で洗い出したりすることがポイントです。 

また、各トラブルがどのような要因・タイミングで生じるのかも考えておくと、対策を考えやすくなります。 

2.リスクを分析する 

リスクを洗い出したら、次の点について分析し対策すべきリスクの優先順位をつけましょう。 

  • リスクが起こる可能性 
  • そのリスクが及ぼす影響の大きさ・範囲 
  • リスク発生後の対処のしやすさ 

例えば起こる可能性の高いリスクや、取引先や会社全体に影響しうるリスク、カバーが困難なリスクは優先的にリスクヘッジしておくべきです。 

3.リスクに応じた対策を実行する 

リスクを洗い出し優先順位をつけたら、具体的な対策を実行していきます。リスクの内容や要因によって講じるべき対策は異なりますが、例を挙げると以下のような対策があるでしょう。 

  • 担当の人員を増やす
  • マニュアルやガイドラインを作成する 
  • 準備期間を長くとる 

リスクヘッジの方法はこの次でも解説しているので、続けてご覧ください。

企業のリスクヘッジの方法とは

ここでは企業のリスクヘッジの方法を見てみましょう。

ファイナンシャルヘッジ

事業におけるリスクヘッジのためには、ファイナンシャルヘッジを検討するとよいでしょう。これは、海外から原料を仕入れている企業や、取引先が海外に多い企業に有効です。円建てで取引をしている場合には必要のないリスクヘッジの方法ですが、海外企業は円建てでの取引を好まないことがほとんどです。

先物取引、為替予約、通貨スワップなどの金融商品を活用してリスクヘッジする手法です。手数料はかかるものの、いくつか組み合わせて利用することで為替リスクを低減できるでしょう。

オペレーショナル・ヘッジ

こちらも海外取引が多い企業に有効なリスクヘッジの方法です。
本社子会社間の貿易取引など輸出・輸入ともに同一の会社と行っていることが条件になります。

為替マリーで輸出での売り上げを外貨建てのまま輸入分の支払いにあてたり、ネッティングで輸出額と輸入額を相殺したりする手法をオペレーショナル・ヘッジと言います。

現地生産率を高める

販売する現地での生産比率を上げることも、為替のリスクをヘッジする一手となります。

海外に工場を設立したり、海外企業を買収したり、OEMに参入したりすることで、現地生産・販売の流れができ輸出による為替リスクを回避できるでしょう。

日本国内での生産比率が高く、輸出に依存している企業などにはとくに重要なリスクヘッジの手法となります。

コーポレートガバナンスの強化

企業の不祥事も経営上の大きなリスクです。企業は自社の利益を追求するためだけの存在ではなく、法令や社会ルール遵守のもと社会に寄与しなければなりません。重大なコンプライアンス違反は、会社の存続にも関わる事態に発展しかねませんので、十分にリスクヘッジしておくことが大切です。

社外監査役や取締役の設置、判断基準や行動規範の明確化や啓蒙活動などコーポレートガバナンスの強化につとめることが予防策となります。

内部統制システムの構築

経営上のリスクを低減するためには、内部統制システムをしっかりと構築することも大切です。内部統制は監査役のみが目的の重要性を把握し実施すればよいというようなものではありません。

全社員が業務に従事する上で意識しながら取り組むべきものです。目的意識をもって内部統制システムを全社的に展開していくことで、財務諸表上や法令上のリスクのみならず、さまざまな経営上のリスクヘッジを期待できるでしょう。

人材育成の強化

社員の人材育成を強化することも、企業のリスクヘッジに大きく寄与します。
企業はヒトによって組織化された塊です。会社で働く社員が、それぞれの能力を存分に発揮し部署で必要とされる役割を果たすことが、経営上さまざまに存在するリスクをヘッジする一番の方法ではないでしょうか。

リスクマネジメントに関する研修などの他に、社員が能力を最大限に発揮できるよう研修などの機会を設け成長をサポートすることが大切でしょう。

リスクヘッジ能力の高い人材とは

それでは企業にとってリスクヘッジの能力が高い人とはどのような人材なのでしょうか。ここでは、リスクヘッジ能力の高い人材の特徴を4つ紹介します。

リスクを想定して行動できる

リスクヘッジ能力の高い人の特徴として、リスクを想定した行動ができるという点が挙げられます。リスクを想定していない中で、トラブルに遭遇すると焦ってしまい対応の遅れなどにより被害を深刻にしてしまう可能性があります。

リスクヘッジ能力の高い人はあらかじめ起こりそうなリスクをなんとなく感じ取っており、リスクが起こらないよう手を打っておく、リスクが起こってしまっても最小限の被害に留めるために対策を講じるなどの行動ができます。

計画性がある

リスクヘッジ能力の高い人は、計画性が高いことが多いです。行き当たりばったりで行動していると、その分リスクに遭遇する可能性も高まります。あらかじめ計画を立てて、スケジュールに沿って行動する人は、計画を立てる中で事前にリスクに気付くことも少なくありません。

また、計画の段階で起こるかもしれないリスクに対して準備をしておくこともできるのです。

臨機応変な対応が得意

リスクヘッジ能力の高い人は、物事に対して臨機応変な対応ができます。
想定していないタイミングで、リスクが発生することは少なくありません。リスクが起こった際に慌てふためき、どうすればよいかわからなくなってしまう人は回避能力が低いと言えるでしょう。

臨機応変な対応が得意な人は、リスクに対して冷静に分析し、瞬時に何かしらの対応策をとれる人が多いです。

視野が広い

ひとつのことだけに集中して全体が把握できない人よりも、視野が広く全体像を把握するのが得意な人が多いでしょう。リスクを回避するためには、全体像を素早く把握して物事を解決する糸口を見つけ出すことが大切です。視野が広ければ、リスクが発生しそうな部分についても事前に想定しやすくなります。

リスクヘッジ能力の高い人材を育成する4つの方法

リスクヘッジ能力の高い人材は企業にとっても重要な人材です。ここでは、リスクヘッジ能力の高い人材を育成する方法を3つ程紹介します。

ジョブローテーションの実施

リスクヘッジ能力の高い人材を育成するには、ジョブローテーションの手法を取り入れるのも一手でしょう。「企業にとってどのようなリスクが想定されるか」が想像できればできるほどリスクヘッジできる可能性も広がります。

自分が実際に経験したことのないことについて、リスクを想定するのは難しいです。生産、販売、研究開発、管理などさまざまな分野の業務を短期間でも経験しておくことで、どのようなリスクが想定されるか思いつく土壌が培われるでしょう。

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リスクマネジメント研修の実施

企業にとってどのようなリスクヘッジが必要か、知識として持っておくことも必要でしょう。コンプライアンスや内部統制の研修など、企業のリスクマネジメントに関わる研修を社員へ実施するようにします。

内部での研修実施が難しい場合は、社外の研修に参加できるよう研修制度を充実させましょう。

ロールモデルの設定 

リスクヘッジ能力の高い人をロールモデルに設定し、社員に紹介することも効果的な手法です。 

ロールモデルに設定された社員と一緒に働いたり、働き振りを見たりする中で、他の社員たちも実践的にリスクヘッジの方法を学ぶことができます。 

該当する社員がいない場合は著名なビジネスパーソンを挙げるとよいでしょう。そのビジネスパーソンの書籍やインタビュー記事などからリスクヘッジに関する部分を探し出し紹介すると、社員にもリスクヘッジの重要性や方法をイメージしてもらいやすくなります。

人事評価制度の再構築

リスクヘッジ能力の高い人材を育成するには、人事評価制度をしっかりと構築することも重要です。従来から指摘があるように、日本特有の年功序列型での人事評価制度では制度として機能しなくなってきています。

自分が行った仕事の内容や成果に対しての評価、そしてそれに紐づいた報酬のもとで意欲的に働きたいと感じる若者の価値観と合わなくなってきているのです。リスクヘッジ能力のみならず仕事上の能力を伸ばすためには、公正公平な人事評価制度の構築が欠かせません。

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企業のリスクヘッジ力を向上させよう

企業の経営上のリスクは多岐に渡ります。
財務、コンプライアンス、情報漏洩、事故、マネジメント、事業運営など経営上のリスクをヘッジしていくことが必要です。

企業のリスクヘッジを間違いなく実行していくためには、組織の社員ひとりひとりがリスクを意識しながら仕事をしていくことが重要です。

人材育成の強化や人事評価制度の再構築など、最大限に能力を生かして働ける環境づくりを進めることが、企業にとって一番のリスクヘッジになるのではないでしょうか。

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