コングロマリットとは?手法や企業例、メリット・デメリットを分かりやすく紹介

コングロマリットは、企業体の編成方法の1つです。

単なる巨大企業ではなく、楽天やSONYのように、直接的な関連性を持たない異業種の事業が集まって発達していることが最大の特徴です。

コロナ禍で事業のリスクヘッジの重要さが骨身に染みた現在、このコングロマリットが改めて注目されています。

本記事では、「コングロマリットとは何だろうか」「コングロマリットは自社でも活きるのだろうか」と考える人のために、コングロマリットに関する基本的な情報をお伝えしていきます。

コングロマリットとは

コングロマリット(Conglomerate)とは、業種が異なる企業同士の合併・買収によって、発達した企業のことをいいます。1980年代以降は、「複合企業」「多業種企業」ともよく表現されています。

通常は、業務関係のある企業を合併・買収するのですが、コングロマリットの場合はそうではありません。コングロマリットは、市場的にも技術的にも関連性の少ない事業を多角的に展開していることが特徴です。

有名な事業例で言うと、SONYや楽天などです。企業の成功例については、後ほど詳しく説明しましょう。

アメリカ連邦取引委員会は、企業の合併・買収(M&A)の形態として水平合併、次に垂直合併、そしてコングロマリット型合併を挙げています。

「コングロマリット」の意味や語源

コングロマリットは名詞としては「集塊」、動詞としては「凝集する」などの意味を持ち、もともとは地質学分野でよく用いられた言葉です。

ちなみに語源は「巻きつける」という意味のラテン語です。ビジネス用語のコングロマリットが持つ、合併や買収のイメージと繋がるところがあります。

「コングロマリット」と「コンツェルン」の違い

コングロマリットと非常に意味が類似した言葉に、「コンツェルン」があります。

「コングロマリット」も「コンツェルン」も複合企業のことを指しますが、複合している目的が違います。

コングロマリットは、事業の多角化を目的としています。いっぽうコンツェルンは、市場を支配し独占することが目的です。

  定義 目的
コングロマリット 複数の業種を有して発達した企業
(ピラミッド型とは限らない)
事業の多角化
コンツェルン 多くの子会社を持つ
ピラミッド型の複合的な巨大企業
市場の支配・独占

ちなみに昔あった「財閥」は、コンツェルンの日本的形態として有名です。財閥は終戦を機に、GHQの方針のもと解体されてしまいました。

コングロマリットの目的

  • リスクヘッジを図る目的
  • 売上の拡大を目指す目的

コングロマリットには、いくつかの目的があります。特に大きな2つの目的について、以下で解説していきましょう。

リスクヘッジを図る目的

コングロマリットを形成し多角的な経営を行っていれば、社会情勢によって特定の事業に大きな影響が出ても、他の事業が順調な場合、経営に大打撃が起きにくくなります。

近年では、コロナ禍の外出自粛によって、飲食業・旅行業などが経営に大打撃を受けました。単一的に経営を行っていた企業のなかには、倒産を余儀なくされた企業もあったはずです。

アフターコロナと呼ばれる今後も、市場の不確実性は続いていくため、互いに関連性の低い事業を展開することで、リスクを分散・経営の安定化を図っています。

売上の拡大を目指す目的

日本のマザーマーケットの規模は、世界的に見れば中程度です。
国土が小さく、人口も中国やインド、アメリカなどと比べれば圧倒的に少ないので、売上高には限界があります。

海外進出が難しい一部の企業では、今後大幅な成長が望めないために、コングロマリットにより事業を多角化して、売上高を拡大しようと試みています。

その他に、事業同士をコラボレーションさせて、新たな事業を生み出すことを目的としたり、コングロマリットによる相乗効果を得ることを目的とする場合もあります。コングロマリットの相乗効果については、項を改めて詳しく説明しましょう。

コングロマリットの主な3つの手法

  1. 資本提携
  2. 吸収合併
  3. 買収

企業がコングロマリットを行う場合には、大きく分けて3つの手法があります。それぞれ詳しく説明しましょう。

資本提携

一方、もしくは互いに他方の株式を持つことにより資本関係を構築して、業務面・資金面で協力し合う「資本提携」が、コングロマリットの手法の1つです。

それぞれの企業が持っているノウハウを共有できること、与信が高まる可能性があることは、経営に課題がある企業にとって大きなメリットとなります。

なお、それぞれの企業の独立性と経営への影響を考慮して、持ち株の比率は3分の1以下にすることが一般的です。

吸収合併

一方の企業が他方の企業を丸ごと取り込み、吸収することを「吸収合併」といいます。吸収された企業は解散・消滅し、すべての資産は存続企業に移動することになります。

これも、コングロマリットの手法の1つです。基本的には、規模の大きな企業が規模の小さな企業を吸収します。

なお、被合併会社をすべて消滅させて、新設合併会社を設立することは「新設合併」といいます。

買収

ある企業がある企業を買い取って、経営権を握る手法のことを「買収」といいます。「株式譲渡」「事業譲渡」といった手法も、買収のうちです。

発行済株式のすべてを取得するケースがほとんどなので、買収された会社は、買収した会社の子会社となります。

先述した吸収合併との大きな違いは、会社が消滅するのか(合併)、それとも存続するのか(買収)です。

例えば、コンソール用ゲーム等の企画・開発を主な事業とする日本の企業ATLUSが、SEGAの100%子会社として社名を復活させたことは有名です。

買収の場合は、先に説明した資本提携と比べると資本の結びつきが強く、コングロマリット内の企業同士の結束感も強いといわれています。

コングロマリットの企業例

日本でコングロマリット型の経営を行って成功した例は多くあります。
有名な企業をいくつかピックアップしてみましょう。

  • 日立製作所
  • SONY
  • 楽天
  • DMM.comグループ

日立製作所

他の電機メーカーが困難な経営状況に直面しているなか、コングロマリットにより状況を打開しているのが日立製作所です。展開している主な事業は、次の通りです。

  • 通信機器など開発業
  • 電力設備などエネルギー事業
  • ⇒2020年にスイスの大手重電企業を買収
  • 医療機器の製造などヘルスケア事業

日立製作所の小島社長は「ITとOT(制御技術)の二刀流」と新聞のインタビューで発言しており、その言葉どおり情報技術と制御技術とプロダクトを組み合わせたサービスを展開しています。

SONY

SONYはもともと、『ウォークマン』を世界的に大ヒットさせた音楽機器の製造会社でした。

ですがリスク分散のためにコングロマリット化を進め、現在の主力事業はゲーム機の販売およびそのネットワークサービスとなっています。他の事業は次の通りです。

  • 映画や音楽などエンタメ事業
  • 生命保険など金融事業
  • 学校法人設置など教育事業

特に金融部門の伸びは順調なようで、トップ部門に追いつきそうな勢いを見せています。

楽天

楽天グループは、かつてはECモールが主要事業でした。しかし現在、コングロマリット化により、幅広い事業展開に成功しています。

  • 通販サイト(楽天市場)などEC事業
  • 生命保険など保険事業
  • 楽天銀行・楽天証券など金融事業

特に発展がめざましいのは、楽天カードをはじめとするフィンテック事業です。トップのインターネット事業には及びませんが、楽天グループの大きな収入源となっています。

楽天グループは、コングロマリットをかなりの短期間で進めました。その結果、設立20年ほどにもかかわらず、誰もが知るような大企業へと成長したのです。

DMM.comグループ

DMM.comグループのトップ事業は、動画配信事業です。しかし、先に紹介した企業と同様コングロマリット化を進め、現在は幅広い事業を展開しています。

  • DMM FXなど金融事業
  • ゲームコンテンツ制作などエンタメ事業
  • 社会人向け私塾開講など人材育成事業

近年では、欧州サッカークラブの買収を行い、スポーツ分野への進出も果たしました。

その他に、コングロマリットで成功した企業には、トヨタやNTT、ソフトバンクなどが挙げられます。

コングロマリットによる2つの状態

コングロマリットによってなり得る状態には大きく分けて2種あります。
ポジティブな状態の「コングロマリット・プレミアム」、そしてネガティブな状態の「コングロマリット・ディスカウント」について、説明していきます。

コングロマリット・プレミアム

コングロマリットによるポジティブな状態を、コングロマリット・プレミアムといいます。

コングロマリット・プレミアムとは、複合した事業同士の相乗効果によって、事業が単体で存在していた場合よりも、市場での価値が高くなっている状態を指します。

コングロマリットによって新たなノウハウと市場を得た結果、売上が向上し、経営資源を有効に活用することができます。

  • 経営資源を確保し営業や広報に活かせる
  • 関係が薄いと思われていた事業の合併で新たなアイデアが生まれる
  • 優秀な人材を確保できる

こうした掛け算的なポジティブ効果は、「シナジー効果」「相乗効果」などと呼ばれます。

コングロマリット・ディスカウント

コングロマリットによるネガティブな状態を、コングロマリット・ディスカウントといいます。

多角的な経営がシナジー効果を生み出さないこともあり、事業が単体で存在していた場合よりも、市場での価値が低くなっている状態です。

市場での価値が低くなる原因は、様々な事業に手を出しているコングロマリット企業は、投資家にとって価値が計りづらく敬遠されがちだからです。

中長期的な経営プランを立てず、やみくもに異業種の買収をしていると、このコングロマリット・ディスカウント状態に陥りやすいでしょう。

コングロマリットの4つのメリット

コングロマリットには、多様なメリットが存在します。
今回はコングロマリットのメリットを4つ、以下で説明します。

  1. シナジー効果を期待できる
  2. 低コストで新たな事業に参入できる
  3. リスクを分散できる
  4. 敵対的買収をされにくくなる

シナジー効果を期待できる

コングロマリットで新たな事業を取り込むと、これまで自社にはなかったノウハウ・技術が得られます。

また化学反応のように、関連性が薄いと思われていた事業の組合せで先進的な商品・サービスが誕生することもあります。

こうした相乗的な効果が先にも述べた「シナジー効果」で、これを得られる可能性があることがコングロマリットの大きなメリットの1つです。

アフターコロナで引き続き先行きが不安な現代、これまでと異なる事業領域において、企業の価値を上げておくことには大きな意義があるでしょう。

低コストで新たな事業に参入できる

コングロマリットでは、すでにある程度成果を出している企業を取り込みます。
そのおかげで低リスクなだけではなく、技術開発や販売ルート開拓などの事業コストを抑えたうえで、新事業への参入が可能になります。

本来、ゼロから新事業に参入するためにはリスクもコストも大きいですが、それをカバーできることがコングロマリットの大きなメリットです。

リスクを分散できる

コングロマリットは、多角的なビジネス展開を行う戦略です。

情勢の変化によりいずれかの事業が低迷したとしても、他の事業がうまくいっていればその資本でカバーすることができます。

ビジネスモデルの消耗スピードは、年々早くなるばかりです。コングロマリット化により、これに対抗することができます。

敵対的買収をされにくくなる

コングロマリットによって、敵対的買収がされにくくなるというメリットもあります。

コングロマリット型の企業は、買収してもどういった効果が見込まれるのか分かりづらく、企業が買収に乗り出しにくいのです。

なお敵対的買収とは、買収される側にある企業や投資家の合意を得ないで、株式の大部分を買い占める行為のことをいいます。ニッポン放送の株式をめぐって起こった、ライブドア(当時)とフジテレビジョンの争いが有名です。

コングロマリットの3つのデメリット

コングロマリットに多くのメリットがあるいっぽう、デメリットもいくつか存在します。

  1. 統治が難しくなる
  2. 企業の価値が下落するおそれがある
  3. 短期で成果は見込めない

統治が難しくなる

コングロマリットにより、複数の企業を合わせてグループを形成すると、全体として舵取りがしにくく統治が難しくなるというデメリットがあります。

コングロマリットで合わさった企業は互いに関連性が薄いので、グループ化はしても実質的には独立状態のままです。

そのため、事業間のコミュニケーションが不足し適切な事業運営ができなかったり、不正行為が発生したりするリスクがあります。

先述したシナジー効果はあくまで「生まれることが期待できる」というだけで、実際には新しいノウハウやアイデアが生まれない可能性についても、考えを巡らせなくてはいけません。

企業の価値が下落するおそれがある

コングロマリットにより、複数の事業が合わさると、外部からは「いったい何をしたい企業なのか?」が分かりづらくなります。

投資先として安全か否かの判断が難しくなるため、投資家から敬遠され、評価が低くなってしまうおそれがあります。

実際に、単一で事業を展開していたころより、コングロマリット化したことで株価を下げた企業は存在するので、そのリスクを加味した経営計画を練る必要性が出てきます。

短期で成果は見込めない

コングロマリットは、短期的な成果を求めることに向いた計画ではありません。

いくらある程度ノウハウのある企業と手を組むからといって、新たな事業への参入・定着は容易ではないからです。

コングロマリットを行う場合は、「会社の窮地を今すぐ救うようなプランではない」ことを念頭に置き、中長期的なプランを練っていきましょう。

コングロマリットのメリット・デメリットを勘案して事業に活かそう

以上、コングロマリットとは何なのか、基本的なところをお伝えしました。

コングロマリットを形成すれば、経営リスクを分散したうえで新事業に参入したり、異なる事業間のシナジー効果で新たなアイデアが生まれたりといった、メリットを得られます。

ただしそのいっぽうで、投資家からの評価が下がり株価が下落する、グループの統治が難しくなるといったデメリットも生じてきます。

自社がコングロマリットに踏み切るかどうかは、これらメリット・デメリットをよく勘案し、目先の利益に囚われない中長期的プランに則って決断すべきでしょう。

もしもコングロマリットで多角化戦略を進めるならば、グループ内のコミュニケーションを円滑に行い、できるだけはやく統治を安定させることが成功のカギです。

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