PMIとは?目的や流れ、具体的な手順、成功のコツ、企業事例など紹介

PMIとは、M&A実施後の2社間の経営上および業務上の統合プロセスのことを言います。M&Aは実施してからが、問題が起こりやすいと言われておりM&Aの成否はPMIにかかっていると言っても過言ではありません。

本記事ではPMIの意味、重要性や目的、プロセスの流れ、具体的な手順、失敗しやすいポイント、成功のコツを紹介します。企業の成功・失敗事例も紹介するのでぜひご参考ください。

PMIとは

PMIとはPost Merger Integrationの略で、直訳では「合併後の統合」を意味します。
実際には、PMIとはM&A成立後に進められる経営上および業務上の統合プロセスのことです。すべてのM&Aの手法に対して、成立後の統合プロセスを意味するので、合併のみならず持ち株会社化も含めたより広い意味での統合を指します。

M&Aは大きく分けると対等合併、吸収合併、対等な持ち株会社化、吸収による持ち株会社化の選択肢があり、どの形態を採用するかによってPMIの統合度合いは異なります。合併であれば2社が1社に統合されるためPMIの負担が大きいのに対して、持ち株会社化の場合は、2社はグループ企業となるものの法人格はキープされているため統合の負担は限定的となるでしょう。

また、Post(後)と記載されているため誤解されやすいのですが、M&A実施後にPMIのステップを開始するのではなくM&Aの実施前から取り組むことが必要です。統合プロセスの検討がM&Aの手法を検討する際の重要ファクターともなるため、成立前からPMIには着手することになります。

PMIの重要性とは

日本では経営者の高齢化やコロナ禍によるデジタル化の躍進を背景に、事業継承や新規事業開拓のために事業再編成が活発化しています。そんな中、事業継承の一手段としてM&Aの実施が急増している一方で、実施してみたものの当初の目的通りにいかず失敗したというケースも見受けられます。

M&Aは実施までのプロセスを重点的に取り組む企業が多いですが、M&Aの目的を達成するためには統合後のプロセスであるPMIも重要です。期待通りにM&Aが上手くいかない原因は、求めたシナジーが発揮できないことと、相手先の経営・組織体制、従業員同士のコミュニケーションの問題が大きいと言われています。これらはすべてPMIのプロセス上で起こるため、PMIをいかに円滑に進めマネジメントするかが重要なのです。

PMIの目的

ここではPMIを実施する主な目的は「経営の統合」「業務の統合」「信頼関係の構築」の3つです。それぞれ説明します。

経営の統合

まずPMIの一つ目の目的は、経営上の統合です。異なる会社が統合するためには、両社の経営理念・ビジョンからどのように統合するか検討することがから必要となります。その上で、経営戦略、役員人事、ガバナンス、予算配分を決定し統合していきます。

持ち株会社化であれば経営の統合については、大きな負担はないかもしれませんが、足並みをそろえる必要はあるので調整は必要でしょう。合併の場合は新たに設定するか、どちらかの会社を引き継ぐ、両者の要素を盛り込むなど検討・実施にPMIにて時間と労力を要します。

業務の統合

PMIの二つ目の目的は、業務上の統合です。大きくは組織構成、部署・拠点の配置を決め、規則制度関係を整えます。そして、業務プロセスの流れを決めた後は、関係各所、担当者とすり合わせを行い、実際に業務プロセスを統合していきます。それにともって、人事、システムの統合、会計処理の統合なども発生するでしょう。

持ち株会社化の場合で、M&Aの目的が買収先会社の企業・業務をグルーブが会社に取り入れたい場合においては、大きいな業務上の統合の負担は発生しないこともあります。

信頼関係の構築

PMIの三つ目の目的は、信頼関係の構築です。同グループ、同企業に所属するために2社間の社員の信頼関係の構築は必要不可欠となります。M&Aは混乱を防ぐために、上層部の最低限の関係者にしか事実が伝えられておらず実施直前・直後に従業員に知らせるのが一般的です。

急に業務または企業自体が変わることになる社員にとって、精神的および業務上負担は大きいものです。その状態で先方企業の社員とコミュニケーションをとる必要があるため、混乱が起こりやすいでしょう。PMIではいかに信頼関係を構築できるかも重要なミッションとなります。

PMIの流れ・手順

それではPMIはどの時期にどのような内容を着手すべきなのでしょうか。ここでは、PMIの大まかな流れ・手順を4つのステップにわけて紹介します。

ステップ1.M&Aの検討

M&Aの検討の段階から、PMIを念頭において取り組むことが必要です。検討段階ではM&Aの目的を明確にして、成功は何かを定義する工程です。M&Aには様々な手法があり、果たしたい目的・求めるシナジー効果によって戦略を策定します。

その検討に、どういった統合にメリットがあるのかという検討も含まれため、PMIのプロセス自体を把握しており、要点は抑える必要があるでしょう。M&A、PMIの過程では両社に様々な問題や課題が発生しますが、目的と成功の基準をはっきりとさせておくことで、判断基準とできるのです。

経営統合のプロセスはトップ会談の前に、信頼関係の構築はトップ面談の後からスタートすることになります。

ステップ2.PMIの準備

M&Aの基本合意締結後から、PMIの準備段階に入ります。基本合意締結後はDD(デゥデリジェンス)と呼ばれる投資先のビジネスを把握し、価値・リスクを調査する工程です。DD実施前にPMIを念頭において、必要な情報を依頼しておくことが重要となります。

また、DD自体は書面での報告書になるため、DD実施後の最終契約締結・クロージング後、PMIの実際のプロセスに入り、社員の面談等で明らかになること少なくありません。この準備期間に、PMIの計画を立てると同時に何が把握できておらず把握する必要があるのか精査しておくことが成功のポイントひとつでしょう。業務統合についてもここのステップで、基本合意締結後からスタートします。

ステップ3.PMIの集中実施期間

M&A成立後の実際にPMIを集中的に実施する期間となります。M&A成立後から1年間を目途にして、準備したPMIの項目について優先順位をつけて取り組んでいきます。まずは、業務上の推進チームを整えます。

PMI推進時は業務上混乱と負担増が想定される中で進めるので、2社間で適切な役割配分をすることが必要です。検討事項や実施事項は多岐に渡ることと知見も必要であるため、外部の専門家や支援機関など外部のリソースを上手く活用することも重要となります。

混乱を抑えできるだけ迅速にPMIに取り組むためには、次々に入ってくる情報に対して現状の把握、方針検討、計画策定、実行・検証のサイクルを前提に推進。

事前に計画しておいたDDで指摘された事項を中心に取り組むことで、早期の成果が期待でき、結果が出ることで従業員のモチベーションにもつながります。また、重要度、緊急性、実行可能性の三つも総合的な判断基準です。

ステップ4.PMIのフォローアップ

1年間の集中実施期間を終えると、一旦そこまでの結果をまとめます。そして、時期の会計年度に向けて目標を設定し、PMIの取り組み方針の見直しを行いましょう。その後、戦略の策定内容に合わせて、数年単位でPDCAを繰り返し実施していきます。

PMIは目に見えない信頼関係の構築や経営方針の浸透などについて、年単位で対応していくものもあるのです。PMIに失敗したと感じる企業もすくなからず存在する中で重要なのは、失敗を失敗で終わらせずに反省・内省し、活かして成功に導くことです。

短期的な成果・シナジーだけにフォーカスせず、長い目でもM&A、PMIの成否は見ていくことが大切でしょう。持ち株化から進行状況に合わせて合併などの統合や、グループの再編を行っていく場合にそちらへと移行していきます。

PMIで失敗しやすい3つのポイント

ここではPMIで失敗しやすい3つのポイントについて説明します。

人的な問題

PMIひいてはM&Aの目的を達成できない理由として一番大きいのは人的な問題によるものと言われています。M&Aは、多くの情報が制限されている中で急に開始を言い渡されて、心や業務上の準備ができていないままにスタートします。そして、多くの社員が従来の業務の変更への対応、PMIのための作業、M&Aの目的の達成のために業務負荷が増大します。

本当にM&Aが必要なのか、効果があるのか不透明なままに自身の意思とは関係なしに増える業務に対して不満感を抱える従業員は少なくありません。また、合併により部署の形態・仕事の役割・仕事への評価・報酬の形態も変更されることになりますが、信頼関係がない中で先方の上司の処遇、自身への評価・報酬に納得がいかずモチベーションが上がらない社員が出やすいのです。

情報共有の難しさ

人的な問題への発展にも関係しますが、情報共有の難しさも失敗を引き起こす原因のひとつとなります。PMIにおいて、適切な情報を適切な人へ適切なタイミングで提供することが必要となりますが、多岐に渡る内容を同時進行で進めるため難しさがあるのです。多くの関係者に、全体の進行を見ながら、適切な情報を必要な範囲で渡すことは簡単ではありません。

しかし、難しいからと言って未決定のすべての情報まで流してしまうと、現場が混乱してしまう場合があるからです。そして法律上も統合した状態でない限り、あくまでも別法人であるため、社外ステークホルダーの利益相反な内容であったり、不正競争防止法、インサイダー取引規制への抵触も考えられるからです。

意思決定の難しさ

2社間での意思決定の難しさも、PMIで失敗を引き起こす要因のひとつです。統合後に法律上は新会社が存在しない状況では、あくまでも別会社。決定までのすり合わせに時間がかかる上に、新会社としての正式な決定事項とはみなされないために、どうしても実行の厳格さに欠けて右往左往しやすい面があります。

また決定に至るまでのプロセスの中で、両者の会社文化として当たり前と思っていることが前提条件で違う事が発覚したりととにかく意思決定に時間がかかるのです。また、優先順位の付け方についても、決定に時間を要します。基本的なDD時の計画と、重要度、緊急性、実行可能性の三つを判断基準とする方針は変わりませんが、結局は総合的に判断する必要があり2社間でのすり合わせが必要だからです。

PMIを成功させる4つのコツ

それでは、PMIを成功するためにはどのようなポイントをおさえるべきなのでしょうか。ここでは、PMIを成功させるコツを4つ紹介します。

現場の声を聞くことを重視する

まず、PMIで重視したいのが現場の声を逐一こまめに聞くことです。PMIは実施する事項が多くこなすことに注力しがちですが、重要なのは実際に社員がM&Aの意義を自覚してモチベーションを持って仕事に取り組んでもらうことです。

その結果がシナジー効果につながり、円滑な業務体制の確立につながります。現場から声を最優先に聞きながら、必要な情報共有を行うことが重要でしょう。推進体制の中に各部門へのコネクション役を置いて、必要な情報の吸い上げと提供を行うなど工夫することをおすすめします。

数値でプラスを示す

基本的なDD時の計画と、重要度、緊急性、実行可能性の三つを判断基準で迷った場合には、数値で結果を示せるもの優先することを念頭に置くのもポイントです。目で見てわかる目標を達成することで「M&Aはやはり意味があった」と社内外に示すことができ、社員のモチベーションアップにつながります。

M&Aでよく聞く失敗が目標に向けて、社員が急ピッチで対応し、上層部からの指示に対応しているうちに1年が経ち蓋をあけてみると数値的に結果が出ていないというものです。この場合、客観的事実として「M&Aは失敗だった」とみなされて社員のモチベーションを下げかねません。それで、数値としてはっきりとわかる領域に取り組むことが重要なのです。

定性目標をおろそかにしない

かといって、数値ばかりおいかけ、定性的な目標をないがしろにすることはNGです。定性目標には例えば、両社間の社員とのコミュニケーションの活性化や、企業文化・風土のすり合わせ、意見交換の場を設けるなどありますが、目に見えなくともコツコツと積み上げていかなければならない分野でもあります。

昨日今日では結果は出ないかもしれませんが、取り組まなければ失敗につながりやすい点でもあります。現場の声を聞くということもそうですが、定性目標も人的な問題を引き起こさないためのキーポイントとなるので、専任の責任者を決めて取り組みたいポイントとなります。

時間がかかることを覚悟する

全体的に言えることですが、時間がかかるものであることを関係者がみな心構えしておくことが重要です。1社で行ってきた経営・人・業務を統合するわけなので、円滑に運営できるまでには時間がかかるのは当然ですし、問題が起きるのも当たり前です。

迅速な行動は必要ながらも、関係者が統一の見解として時間がかかることを覚悟して、長い目でPMIおよびM&Aを進めることが必要となります。

PMIの企業事例

ここでは実際にあった製造業社の成功事例を紹介します。製造業社である2社は対等合併を選択して、完全統合に向けPMIを実施。基本合意締結から約10ヵ月間というスピードで実質的な合併を成し遂げました。成功の要因は下記3つです。

  • PMIを早期に計画し、当初の計画に固執せず適宜必要な研修など実施した
  • 統合事務局が下部ミーティングまですべての情報を常時把握した
  • トップダウン型で経営トップのリーダーシップの基にPMIの計画など意思決定を随時迅速に行い、役員なども早期に決定し進めた

参考文献:知的資産創造「M&A後の成功の鍵となる企業統合化マネジメント」

PMIは両社の円滑な人材活用がキーポイント

PMIの成功ひいてはM&Aの成功は、人的な問題を避けいかに社員にモチベーションを持って統合作業を進めてもらえるかがキーポイントです。そのためには、現場の声をこまめに吸い上げ、適切な情報を社員に提供することが必要不可欠でしょう。さらに、2社間がひとつの会社として事業を行っていけるよう、円滑なコミュニケーションがとれるよう意見交換の場を設けていくことも重要。

そして、人的な問題で不満がでやすい、統合によって発生する役職・仕事の役割・評価・報酬システムの変更です。変更後に不満が出ないように、社員が納得できる仕組みをつくることが欠かせません。しかし、M&Aをきっかけに自社の人事評価制度を改良し、納得のいく制度を再構築できれば、社員のモチベーションを上げるよいきっかけにことも期待できます。

あしたのチームでは人事評価制度の再構築の豊富な経験を基に、自社にマッチにした方法を提案させて頂きます。人事評価制度に問題を抱えている場合には、ぜひ一度、あしたのチームまでご相談ください。

参考文献:中小企業庁「中小PMIガイドライン」
PWC「PWC’s View 特集: 経営統合─ Post Merger Integration(PMI)」

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