MicrosoftやGoogleなども人材採用および育成に活用している「ピープル・アナリティクス(People analytics)」は、テクノロジーを活用し、社員や組織に関するデータを科学的かつ効率的に収集・分析するための人材戦略ツールです。
近年、多数の企業や組織が採用や育成のプロセスに導入し、潜在的な能力資源の発見や成長促進に役立てています。
「ピープル・アナリティクス」とは?
「優秀な人材あるいは成長する人材を経験や直感で見極める」という手法は科学的根拠に欠けており、必ずしも精密な意思決定とはいえません。応募者の学歴や職歴、面接の際の雰囲気や受け答えの仕方を元に、多少なりとも面接官の主観が入る傾向があります。
事実に基づいた総合的なデータを科学的に分析することで、「優秀な人材を雇用したはずが、期待したほど活躍していない」「伸びると思った新人がいつまでたっても成長しない」といったアプローチミスを最低限に抑え、優れた人材を発見・開発し、従業員の業績と定着率を高める--これが「ピープル・アナリティクス」のコンセプトです。
「タレント・アナリティクス」や「HRアナリティクス」と呼ばれることもあります。
「ピープル・アナリティクス」で活用するデータの例
ピープル・アナリティクスでは、以下の4種類のデータを活用するのが一般的です。
- 人材データ
- オフィスデータ
- デジタルデータ
- 行動データ
人材データ
人材データは、人材の年齢・性別・役職・給与など、その従業員についての基本属性です。保有する資格などのスキルについてのデータや、勤怠状況、過去の人事評価のデータ、性格上の特性など、必要に応じてさまざまな項目が含まれます.
オフィスデータ
オフィスデータとは、その従業員がオフィスの設備をどのように使っているかを示すデータです。例えばデスク・会議室・休憩室それぞれの使用時間や頻度、複合機の使用状況などが該当します。
デジタルデータ
デジタルデータとは、従業員のPCやモバイル端末などデジタル機器の使用状況です。インターネットの閲覧履歴や、スマートフォンの通話履歴、メールやチャットの使用状況などを指します。
行動データ
行動データは、従業員の位置情報の履歴などです。GPS機能のあるアプリなどを使って、営業先や社内でどのように行動しているかを分析することで、従業員のパフォーマンスを分析します。
「ピープル・アナリティクス」活用のメリット
「ピープル・アナリティクス」の導入により、以下のようなメリットが期待できます。
- 効果的な人材採用
- 潜在的な才能の特定および開発・成長促進
- 最適な人事配置
- 従業員の定着率アップ
- 解決すべき問題の特定
「ピープル・アナリティクス」では、レポート作成や測定基準、予測分析、実験的研究などを用いて分析を行います。これにより面接の際に「入社後に伸びる人材」見極めやすくなるだけではなく、従業員や組織が成長する上で解決すべき問題や新たな洞察の発見、人事活動に関する決定・指示が出しやすくなります。
マッキンゼー・アンド・カンパニーが「ピープル・アナリティクス」の採用企業を対象に実施した調査からは、募集の効率化が80%、ビジネス生産性が25%向上したのに対し、離職率は50%減ったことが明らかになっています。
「ピープル・アナリティクス」活用の流れ
では実際に、どのような手順でピープル・アナリティクスを導入すればよいのでしょうか。基本の流れは以下の通りです。
- データの蓄積
- 目的設定
- データ分析
- 施策の計画・実施
1. データの蓄積
まずは分析に必要なデータの蓄積です。前述の4つのデータを収集できるよう、PCやモバイル機器、オフィス機器などを整備しましょう。
集めたデータを一つのシステム上で一元管理できるよう、ピープル・アナリティクス機能のある管理システムを導入すると、効率的にデータを収集できます。
2. 目的設定
集めたデータを効果的に分析して人材戦略に活かすには、「目的」の設定が重要です。どのような目的でピープル・アナリティクスを導入するかによって、集めたデータをどのように整理すべきかが変わってきます。
例えば以下のような目的が考えられます。
- 従業員満足度の改善
- 従業員の生産性向上
- 人事評価制度の見直し
- 選考(面接)の効率化
自社の人事における現状や課題などを踏まえ、適切な目的を設定しましょう。
3. データ分析
目的が決まったら、実際にデータ分析をする段階です。集計したデータから、個人ごとの傾向や、組織全体の課題など、目的に合わせた分析を行います。
AI技術が搭載されたシステムなら、ある程度のデータ分析を自動的に実行してくれます。ただしAIだけに頼らず、データに現れない部分なども評価できるよう、人間の目による分析を併用することが重要です。
4. 施策の計画・実施
データ分析の結果に基づいて、目的を達成するための具体的な施策を計画・実施します。
施策を実施した結果、どのような成果が現れたのかも計測し、効果検証することも重要です。その検証結果を参考にして、新たな施策を検討し、PDCAを回していきます。
「ピープル・アナリティクス」を導入する際の注意点
ピープル・アナリティクスを導入するにあたっては、いくつか注意すべき点があります。
個人情報の取扱いに気を付ける
ピープル・アナリティクスで収集したデータには個人情報が含まれています。そのため、外部に漏洩しないよう慎重に扱わなければなりません。個人情報の利用目的の範囲を、あらかじめ従業員に提示し、同意を得ることも必要です。集めたデータは、その範囲を超えた目的で利用しないよう、扱いに十分注意する必要があります。
ピープル・アナリティクスは、個人情報にまつわる法律や規定を十分に把握したうえで実施することが重要です。
分析担当者のスキルが問われる
ピープル・アナリティクスの導入を成功させるには、分析担当者の高いスキルが不可欠です。AI技術を使った機械的な分析だけでは、自社の事情に合わせた効果的な分析ができないことがあります。
ピープル・アナリティクスの制度やシステムの整備だけでなく、担当者の教育にも力を入れることが重要です。場合によっては、データサイエンティストやデータアナリストを新たに採用するなどの対応も検討しましょう。
整理された客観的なデータを用いる
ピープル・アナリティクスを効果的に導入するには、データの「整理」と「客観性の確保」がポイントです。データの「整理」については、会社全体で統一された方法でデータ収集し、方法のばらつきや重複などが発生しないように注意しましょう。
「客観性」については、特に担当者が手入力する部分に、その人の主観が入り込まないように注意する必要があります。
Googleが採用する「ピープル・アナリティクス」
Googleは才能開発戦略の一環として、「ピープル・アナリティクス」を採用しています。「優秀な人材が流出した原因は?」「新たなイニシアティブのリーダーとしての適任者は?」といったHR関連の重要課題に、事実と科学を取り入れた分析的アプローチを取り入れることで、より効果的で公正な解決策と決定につなげているのです。
同社は専門のHR分析チームを設立し、以下の4ステップに基づいて、「有効性・効率性・経験」を観察・分析しています。
- 給与制度の公平性チェック
- アンケートによる従業員の満足度チェック
- 測定基準の特定・定義
- アナリティクス・マインドセットの採用
最初のステップとして「報酬理念」を設定し、すべての従業員に能力に見合った公平な給与が支払われているかをチェック。次に年次アンケートやフィードバックなどを通じ、従業員の満足度を把握し、組織に関するデータを収集します。
同社の専門チームは数年を費やしてこのデータを分析し、自社の測定基準を特定・定義したほか、現在は分析トレーニングプログラムも設けています。
しかしGoogle はデータに決定的な回答を求めるのではなく、「あくまで組織に対していだいている疑問について考え、その答えを見つけだすために必要なデータ」として活用しています。「ピープル・アナリティクス」は、組織にとって最も重要な問題や疑問を特定・対処する方法を探るためのツールと捉えているためです。
同じ手法がすべての企業や組織に最適というわけではありませんが、自社の成長に貢献する潜在的な能力資源を早期に発見し、その恩恵を期待できるという点は共通するでしょう。
ピープル・アナリティクスで人材マネジメントの精度を上げよう
ピープル・アナリティクスを導入することは、人材採用・人事配置の最適化や、定着率の向上など、さまざまなメリットにつながります。
導入する際は、データの整理や客観性の確保に注意しながら、ピープル・アナリティクス機能のあるITシステムによって効率的にデータ収集・分析ができる環境をつくることが重要です。分析担当者の育成にも力を入れて、適切に運用できる体制を整えたうえで導入しましょう。
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