ケイパビリティとは?仕事で役立つレベルまで考え方がわかる

(画像=Ca-ssis/iStock)

ケイパビリティとは英語で「能力」を意味しますが、企業におけるケイパビリティはまた違った意味合いで使用されます。

これまで大企業になるまでに成長を遂げ、ポジションを維持し続けている企業の多くは、ケイパビリティに長けている点が共通しているのです。

今回はわかりにくいケイパビリティの意味について、企業の事例なども踏まえながら紹介し、具体的な活用方法をお伝えします。

ケイパビリティとは?

ケイパビリティ(capability)とは、能力、才能、性能、可能性といった意味を持ちます。

ビジネスにおけるケイパビリティは、もう少し具体的に定義されており、1992年にジョージ・ストークス、フィリップ・エバンス、ローレンス E.シュルマンの3人による論文で発表されました。

事業戦略に使用されるケイパビリティは、製品や市場など単体を指すものではなく、事業全体のプロセスについての強みを意味します。

ストークスら提唱者によると、「バリューチェーン全体を通しての組織の遂行能力」を指すとのこと。

つまり、事業の一連の流れである、研究、開発、調達、製造、販売、維持などの中で、組織を横断的に眺めた時に、他社と比較して強みがある部分全体をケイパビリティと呼ぶのです。

ケイパビリティとコアコンピタンスの違い

ケイパビリティと関連する用語にコアコンピタンスがあります。

コアコンピタンスとは、文字通り企業の中核的な力で、特に顧客に対して他社が模倣できない自社特有の価値を提供する能力です。

両者の違いは、ケイパビリティはバリューチェーンを横断的(部門横断的)にプロセス上で遂行する能力を指す一方、コアコンピタンスは技術力や製造能力といった特定の能力を指します。

ただし、このような違いはあるものの、両者は密接かつ相互補完的な関係性です。

コアコンピタンスを形作っている要素の中に、ケイパビリティが存在する場合もありますし、コアコンピタンスだけでは説明のつかない事業成功要因を、ケイパビリティが補完してくれる場合もあります。

ケイパビリティとコアコンピタンスの具体例

ケイパビリティやコアコンピタンスの意味が理解できる事例として、ホンダがオートバイ事業を北米展開したケースがあります。

当時、ホンダは北米において自社オートバイの販売・展開を目指していました。

ホンダと言えば、エンジン製造をはじめ高度な技術力を持ち、現在となっては国内外でも高い評価を得ているメーカーです。

競合他社がまねできない、高度なエンジン技術というコアコンピタンスを持っています。

しかし、ホンダは同時にディーラー管理という優れたケイパビリティも兼ね備えていました。

オートバイのような製品はメーカーが小売販売を手がけるのではなく、各地域で店舗運営を行うディーラーに卸して販促活動を行うのが一般的です。

このような流通のプロセスに着目し、まるで同一会社のように、ディーラーへ綿密な研修の実施、営業・サービス管理・店舗レイアウトに至るまでさまざまなノウハウの教授、ITシステムを用いた管理の導入などを行いました。

これにより、他社が構築できていない、ディーラーとの密接関係を築くことができたのです。

ケイパビリティよる圧倒的な販売力が裏付けとなり、ホンダは高度なエンジン技術で売上を伸ばしていると言えるでしょう。

ケイパビリティの企業における意義

企業がケイパビリティを強化すると、優位性や資産性といった効果が期待できます。

まず、ケイパビリティは模倣が困難なため、競争において優位性を発揮する武器になります。

一般に、マーケティング施策や製品そのものは目に見えやすいため、模倣は容易です。

販売プロモーション施策はライバル社の動きを参考にして取り入れられますし、製品は他社のものを分解すれば類似製品が作れます。

しかし、ケイパビリティは製造におけるサプライチェーンや、販売における流通網を管理する能力を指すものです。

これは外部から見えづらく、簡単には真似できません。

また、ケイパビリティは長期間にわたって企業が優位性を発揮し続けられる資産になる可能性があります。

ケイパビリティはプロセスやバリューチェーンといった組織横断的な力であり、構築するには多くのリソースが必要です。

加えて、短期間に構築することは容易ではありません。

だからこそ、一度構築すれば目に見えない資産として長く効果を発揮するのです。

企業のケイパビリティを把握する方法

バリューチェーンとは、企業の活動を機能ごとに分け、どこで価値が生まれるかを分析することを言います。自社で行っている活動を洗い出し、分類ごとに分けて書き出します。そして、項目ごとに他社と比べてどのような部分に長けているのかを分析しましょう。

1.バリューチェーンを洗い出し強みを記載する

主な活動
研究会開発 開発プロセスの短縮
原料調達 自社保有の原料採掘区
製造 熟練した作業員の豊富さ
マーケティング IT活用のマーケティングノウハウ
販売 関東を基盤とした代理店網

また、事業活動以外に行っている支援活動や人事労務、総務経理などの部署における長所も書き出してみます。支援活動を記載する場合の例としては、以下のように挙げられます。

支援活動
人事・労務管理 福利厚生が充実していることでの企業ブランディング
総務・経理 余剰資産の多さ
人材 熟練した技術者の豊富さ
技術開発 長年運用している自社開発のシステムに基づいたノウハウ
組織 意思決定のスピード
その他情報など管理全般 機密情報漏洩防止のための仕組み

2.数ある強みの中からケイパビリティを探る

例えば、上記バリューチェーンの中で、自社システムの保有・ITマーケティングの強みから、ITを活用した広報活動のプロセスが他社よりもスピーディ、かつ露出を強く行えるというケイパビリティに気付くことができます。

ケイパビリティの把握に役立つSWOT分析

自社のケイパビリティを把握するのに役立つ手法のひとつに、「SWOT分析」というフレームワークがあります。SWOT分析は、内部環境の強み(Strength)と弱み(Weakness)、外部環境の機会(Opportunity)と脅威(Threat)の4つの要素を分析する手法です。

SWOT分析は事業活動を機能別に分析できるため、バリューチェーンで洗い出した情報を活用して自社のケイパビリティを把握するのに役立てられます。SWOT分析においてケイパビリティを把握するためには、自社と他社をしっかりと比較し独自の強みを発見することが重要です。

SWOT分析によって把握したケイパビリティを活かして事業展開を行い、PCDAサイクルにてチェック・改善を続けながら自社のケイパビリティを強化しましょう。

ケイパビリティを向上させる人材育成

企業のケイパビリティを向上させるためには、人材育成を強化することが大切です。特に、従業員自身の能力や可能性を広げるために、幅広い知識を得るための学習を取り入れるのが効果的です。

経営においては利益を求めることが重要なのは当然の事実ですが、利益活動以外にも教養を深める教育を行うことは、企業の成長という視点から見ると、有効な施策だと考えられます。従業員の業務の一環として、知識教養を深めることを、人事目標のひとつとして採用するとよいでしょう。

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ケイパビリティ・ベース競争戦略とは?


ケイパビリティ・ベース競争戦略とは、ケイパビリティを中心に据えて、競争において優位性を発揮することを目指す戦略です。

この戦略を策定・実行するに当たっては4つの原則があり、これを実践してケイパビリティを位置付け、強化します。

ケイパビリティ・ベース競争戦略の4つの原則は、下記の通りです。


  1. ビジネスプロセスの重視
  2. 主要なビジネスプロセスの変換
  3. 部門間のインフラ整備
  4. トップの推進

1.ビジネスプロセスの重視

通常、戦略策定では製品や参入市場にフォーカスしますが、この戦略では価値を実現するための組織体制やプロセスを組み立てることに着目します。

2.主要なビジネスプロセスの変換

主要なビジネスプロセスを戦略的ケイパビリティに変換します。
限られた経営資源を有効活用するには、些末なプロセスに注視するのではなく、自社の基幹プロセスを強みにすべきです。

3.部門間のインフラ整備

ケイパビリティ創出を阻害しないよう、部門間を結び付けるインフラを整備します。ビジネスプロセスを強みとするには、傍観するのではなく、インフラ整備にも投資をして各部門の力を最大限に発揮させることが必要です。

4.トップの推進

ケイパビリティ戦略はトップが推進します。ケイパビリティは組織横断的な体制構築が必要なため、組織戦略を担う経営陣が積極的に推進することが必要です。

ダイナミック・ケイパビリティ戦略とは?

ダイナミック・ケイパビリティ戦略とは、内部のみならず外部のチェーン統合も含めた大きな考え方の戦略です。

この戦略ではセンシング(感知)、シージング(捕捉)、トランスフォーミング(変革)の3つを主軸に置きつつ、環境の変化に合わせて体制を流動的に再構築していくことを目指します。

現在はデジタル化の波が加速しており、事業を取り巻く環境が急速に変化し、リスクを負う可能性が高まっています。

そのような中、従来の事業プロセスを安定的に維持したまま事業継続を目指すのではなく、事業内外の体制を柔軟かつスピーディに調整していくことが必要になっているのです。

ダイナミック・ケイパビリティ戦略は、顧客やサプライヤー、パートナー企業、公的機関といった外部環境にも目を光らせ、時代に合わせた変革を常に模索する流動的な戦略と言えます。

企業におけるケイパビリティの活用事例

ケイパビリティの活用事例として、米国アップル社のケースがあります。

同社は、リソースを自社に取り込み、柔軟に再配分したことで販売網の強化につなげました。

家電・PCメーカーが自社製品を販売する際、直営店を各地に展開することは珍しく、家電量販店などの小売店に販売を任せるのが一般的です。

メーカーが販売店を抱えると、ブランド価値の管理やプロモーションの質を保ちやすい一方、莫大な店舗運営コストや、店舗展開に時間がかかってしまいます。

しかし、アップル社はスマートフォン「iPhone」やタブレット「iPad」、パソコンといった主力製品を販売する際、家電量販店だけに任せるのではなく、あえて直営店を各地に展開する戦略を選びました。

これは、コストや時間をかけてでも、販売プロセスを自社が管理することで、アップル特有の「革新的な機能」をお客様にお伝えするのに、最も効率的だという判断によるものです。

また、自社にリソースを抱えると、ダイナミック・ケイパビリティ戦略の要領で変化に応じた資源の再配分や再構築も比較的実施しやすくなります。

こうして、アップル社は莫大なコストが想定されるリスクを選びながらも、自社の魅力である「商品の革新的な機能」を、自社専門スタッフが詳細に、お客様へお伝えできるという強みを生みだすことに成功したのです。

販売プロセスのケイパビリティを創出・活用したことによる、好事例と言えるでしょう。

ケイパビリティを企業の戦略に活用しよう

ケイパビリティを意識した戦略作りは、長期的に見ても短期的な視点でも、効果を発揮する可能性を秘めています。

また、ケイパビリティ重視の戦略とは、ビジネスプロセスそのものが強みとなりうるだけでなく、資産となって長期にわたり競争優位性を発揮し続けられる可能性もあります。

経営戦略を策定する際は、自社のケイパビリティを洗い出しつつ、今後自社のビジネスプロセスを、さらに強化できる方策を取り入れると効果的でしょう。

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