説明責任を指す言葉である「アカウンタビリティ」。企業の不祥事が相次ぐ中、ニュースやビジネスの場でも耳にするようになりました。
医療や教育現場でのアカウンタビリティが重要視されてきていることはよく知られていますが、一般企業におけるアカウンタビリティとは、どのような意味合いを持つのでしょうか。
今回は、アカウンタビリティの概要と共に、重要性や事例、企業に求められる取り組みなども紹介していきます。
アカウンタビリティとは?
アカウンタビリティとは、説明責任や説明義務のことであり、自分が権限を持っている職務についての現状を、関係者に説明する義務のことをいいます。
もともとは会計上の用語であり、経営者が株主に財務状況を説明する義務を指す言葉でした。
現在では、説明が求められるような事態に陥ったときに、対応や改善に向けた取り組み、それに向けた方針や考え方を含めてアカウンタビリティとする場合もあります。
このほかにも、企業が関係者に対して事前に事態の内容や状況を説明し、理解して納得してもらうといった意味合いも持っています。
混同しやすいレスポンシビリティとの違い
アカウンタビリティとよく似た言葉として、レスポンシビリティという言葉もあります。
レスポンシビリティは、「責任」「責務」という意味の英単語です。一方、アカウンタビリティは、利害関係者に対する説明責任や義務、または事態を収拾するための対策や、説明して相手に納得してもらうことを含んでいます。
つまり、レスポンシビリティは単に責任を負うことなのに対して、アカウンタビリティは、責任をもって“説明する”義務を負っている言葉となります。
企業におけるアカウンタビリティとは?
前述の通り、アカウンタビリティはもともと企業が株主に対する説明責任や義務をさす言葉でした。
しかし、一般企業においてアカウンタビリティという言葉を使う場合には、責任義務そのものだけでなく、組織や個人が自身の行った行動や言動、方針、その結果について説明するといった意味合いで使われています。
例えば、経営者は経営戦略に基づき、管理者に行動を指示・監督しますが、権限を委譲された管理者は経営者に対してアカウンタビリティを負い、報告や監査への対応をすることになります。
加えて、業務執行において権利委譲をうけた管理者はさらに下の管理者に業務上必要な権限を委譲することになりますが、だからといって上位の管理者のアカウンタビリティは軽減されません。
このように、権限をもって業務を実行した管理者は、適切にアカウンタビリティを実行する必要があります。
また、人事評価の世界においても、アカウンタビリティを果たすことが重要視されてきています。
従来の終身雇用制から成果主義の重視へとシフトしていく中で、個人の役割や職務が明確化されるとともに、一社員のアカウンタビリティが重要性を増すようになりました。
社員に与えられた役割や職務をやり遂げる責任や、そのために自分がとった行動や言動を説明する義務を果たすことが求められてきているのです。
アカウンタビリティの3つの重要性とは
昨今、アカウンタビリティという言葉が急速に広まっている印象を受けますが、どうしてアカウンタビリティが重要性を増しているのでしょうか。その背景を解説します。
コーポレートガバナンスへの注目
2015年に大手電機メーカー・東芝の長年にわたる利益操作が明るみになったことは、まだ記憶に新しいニュースです。
東芝は、社外取締役を主体に構成した委員によって経営管理システムをいち早く導入するなど、グローバルなコーポレートガバナンス(企業統治)を先取りした企業だっただけに、世間に驚きを与えました。
この件をはじめとして、大手企業のガバナンス欠如が明るみになる事件が相次ぎ、昨今の企業経営ではますます透明性が求められるようになっています。
コーポレートガバナンスがより厳しく評価されるようになったことに伴い、適切なアカウンタビリティの履行も重要視されるようになったのです。
社内外の理解を得る
アカウンタビリティは、社外に対して負うだけのものではありません。
前述でも少し触れた通り、権利を委譲された管理者や従業員は、上位の管理者に対してアカウンタビリティを負うことになります。社内で何か過失や不祥事が発生した場合、まずは社内的なアカウンタビリティを実行する必要があります。
直接実行した従業員だけでなく、指示した管理者も含めて経営者への報告義務を果たさなければなりません。
また、社内のアカウンタビリティを適切に履行されないと、社外へのアカウンタビリティを果たすこともできません。経営者は、株主や世間に対して情報を開示するなどのアカウンタビリティを負いますが、「部下がやったことなので詳細はわからない」という説明では、当然ながら世間は納得してくれません。
経営者が社外に対するアカウンタビリティを果たすには、社内のアカウンタビリティ体制が機能している必要があるのです。
人事評価制度の変化
人事評価制度の変化もアカウンタビリティが注目される要因としてあげられます。
これまでスタンダードだった年功序列型の終身雇用は、バブルの崩壊とともに維持が難しくなり、成果主義が導入されるようになりました。
仕事で成果をあげることが評価につながる成果主義型の人事評価制度においては、チームよりも“個人”に重点がおかれるようになります。
こうした成果主義の人事評価制度が主流になるに伴い、社員個人の役割や義務がより明確化されるようにました。
その結果、社員が負うアカウンタビリティも重要性を増すようになったのです。
アカウンタビリティの使い方の事例
アカウンタビリティという言葉の意味は知っていても、いまいち使い方のイメージがわかないという方も多いのではないでしょうか。具体的には、以下のような例で使用されます。
- 患者が医者にアカウンタビリティを求める。
- 経営者はアカウンタビリティを果たさないといけない。
- その政策をとるならば、国民にアカウンタビリティが必要になる。
上記は、「説明責任」「説明義務」としての使用例ですが、もっと広義の意味合いで使用されることが増えています。
- 昨今、企業経営にはますますアカウンタビリティが求められている。
- 社内のアカウンタビリティが重要だ。
- アカウンタビリティの強化が、レスポンシビリティの強化にも繋がる。
このように、企業における説明責任を果たそうとする姿勢や体制を含めてアカウンタビリティととらえた使い方が一般的となっています。
企業でアカウンタビリティを浸透させる3つの方法
今後、企業に対してはますますアカウンタビリティが求められますが、どうすれば自社に浸透させることができるのでしょうか。
アカウンタビリティの重要性を伝える
前述でも少し触れた通り、アカウンタビリティは経営層のみに求められるものではありません。
社外に対するアカウンタビリティを果たすためには、社内のアカウンタビリティを強化する必要があるため、特定の社員だけが理解していても意味がありません。
適切なアカウンタビリティを履行するためには、社員一人一人の意識改善が必要であることを伝え、全社で体制を構築していく姿勢が大切です。
体制づくりが自律的であること
アカウンタビリティを含めたコーポレートガバナンス対応に乗り出す企業は時代と共に増えていますが、どうしても形式的になりがちです。
東芝の事例を見ても、先進的に組織体制を整えていたにも関わらず、内情が追い付いていなかったのが実態でした。
時代の要求もあって、急きょ体制づくりに追われる企業も見られますが、アカウンタビリティは他律的であっては意味がないのです。
経営者も含め、全社の意識改革を行い、自律的に責任と義務を果たす姿勢を持たなければ、アカウンタビリティ本来の役割は果たせないといえます。
人事評価体制の確立
会社が適切なアカウンタビリティを実行するためには、社員一人一人が自分の職務においてアカウンタビリティを果たしているかどうか、実行の確認と適正な評価をするための人事評価体制の確立が必要です。
個人の職務範囲を明らかにし、責務を果たしたことへの適正な評価を受けることで、社員の意識はより強固なものになります。
とはいえ、「説明責任を果たしたかどうか」という明確な指標がない分野の評価体制を整えるのは、経験のある人事担当者がいても難しいものです。
社内リソースで体制構築をすることが難しい場合は、人事評価システムを活用するという選択肢もあります。
自社の条件にあわせて機能をカスタイマイズでき、制度設計のコンサルティングを行ってくれるサービスを選ぶと安心です。
これからの時代、アカウンタビリティは企業に必要不可欠
経営の透明性が求められる昨今の情勢を考えると、アカウンタビリティに対する取り組みは企業にとって必要不可欠なものとなっています。
アカウンタビリティを実行するには、経営陣だけが意識を持つのではなく、全社をあげて体制を構築することが重要です。
まずは、社員向けに研修を行うなど、意識改革から行ってみてはいかがでしょうか。
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