懲戒免職とは?懲戒解雇との違い、判断基準、該当する場合など紹介

従業員や職員が望ましくない行動をした場合、企業や団体としては懲戒処分を検討しなければなりません。しかし、不適切な懲戒処分を下したことによって従業員・職員から訴訟を起こされて揉めるケースもあるため、懲戒処分の内容や懲戒処分とすべき指針をあらかじめ明確にしておくことが重要です。

本記事では懲戒免職と懲戒解雇の違いや判断基準、懲戒免職に該当する場合などを紹介します。

懲戒免職とは

懲戒免職とは、公務員に課される懲戒処分のうち最も重いもので、その職を辞めさせることです。懲戒処分については国家公務員法の第82条に記載されており、免職、停職、減給、戒告の4種類があります。それぞれの内容について以下で解説します。

・免職
職員本人の意思にかかわらず、その職を失わせることです。その中で、懲戒処分による免職を懲戒免職といいます。

・停職
一定期間において従業員・職員を職務に従事させず、その間は無給とする懲戒処分です。停職期間は、国家公務員の場合は最短1日から最長で1年までと決められています。地方公務員の場合、停職期間は自治体の規定により異なりますが、たとえば大阪市の場合は国家公務員と同様に1日から1年までです。

・減給
一定期間において、従業員・職員の給与を減額する懲戒処分です。減給処分に処する期間は国家公務員なら最長で1年、減給額は基本給の20%以下と決められています。地方公務員の場合、減給期間や減給額は自治体の規定により異なります。

例として、大阪市の場合、減給期間は最長で6カ月、減給額は月給と地域手当月額の合計額の10%以下です。

・戒告
社内規定など規則に違反したり、信用失墜行為をしたりした従業員・職員に始末書を提出させ、将来的に同様の行為を繰り返さないよう戒めることを目的として厳重注意を与える懲戒処分です。戒告は、文書または口頭で行われます。

懲戒免職と懲戒解雇の違い

懲戒免職が公務員に対する懲戒処分としてその職を辞めさせることを意味する一方で、一般企業の従業員に対する懲戒処分として解雇することを懲戒解雇といいます。つまり、辞めさせられる人が公務員であれば懲戒免職、一般人であれば懲戒解雇と、使われる用語が異なるのです。いずれも、懲戒処分の中で最も重い内容となります。

なお、公務員が懲戒免職されると所属先や氏名・処罰内容などが公表されますが、一般人が懲戒解雇されても個人を特定される内容が公表されることはありません。この点において、公務員が規定違反を犯して職を辞めさせられる場合は、一般人よりも厳しく処分されるといえるでしょう。

懲戒免職の判断基準

懲戒免職にするかどうかの判断基準は、国家公務員法第82条に基づき、懲戒処分の指針に照らし合わせながら決定されます。

人事院ホームページ「懲戒処分の指針について」によると、懲戒処分の基本事項とされているのは次の5つです。

  1. 非違行為の動機、態様及び結果
  2. 故意又は過失の度合いの程度
  3. 非違行為を行った職員の職責、および、非違行為に関する職責の評価
  4. 他の職員、および、社会に与える影響
  5. 過去の非違行為の有無

上記にくわえて、ふだんの勤務態度や非違行為後の対応なども含めて判断されます。また、場合によっては標準例(後述)の記載よりも処分が重くなったり軽くなったりする場合もあります。

・処分が重くなる可能性がある場合:
非違行為の動機や内容が非常に悪質な場合、重大な結果・影響などを招いた場合や、過去に同様の非違行為によって懲戒処分を受けている場合、複数の非違行為をしている場合など。

処分が軽くなる可能性がある場合:
犯した非違行為が発覚する前に職員が自ら申し出た場合、非違行為を行った経緯やその他の情状について特別な酌量が必要と認められる場合。

懲戒免職になる場合とは

ここでは、公務員が懲戒免職になる場合を、人事院ホームページ「懲戒処分の指針について」を基に紹介します。懲戒処分の指針は「一般服務関係」「公金官物取扱い関係」「公務外非行関係」「飲酒運転・交通事故・交通法規違反」「監督責任」の5つに分類されており、それぞれ、下記の行為をすると懲戒免職になる可能性があるとされています。

なお、処分が懲戒免職に限定されている場合もあれば、処分が免職・停職・減給・戒告のいずれかと規定されているものもあります。

一般服務関係

下記は、一般服務において懲戒処分の対象となる代表的な事項です。

・欠勤
正当な理由なく21日以上の欠勤をした場合、免職または停職となります。

・あおりやそそのかし
国家公務員法第98条第2項後段の規定に違反して、同項前段に規定する違法行為を企てたり遂行を共謀したりして、あおりやそそのかしを行った場合、免職または停職となります。

・秘密漏えい
職務上知った秘密を故意に漏らし、公務の運営に重大な支障を生じさせた場合、免職または停職となります。特に、自分の利益を不正に図る目的による秘密漏えいは免職の対象です。

・入札談合
国の入札に関して事業者に対し、談合をそそのかしたり、予定価格など入札に関する秘密を教示するなどして入札の公正を害する行為をしたりした場合、免職または停職となります。

公文書の不適正な取扱い
公文書の偽造または変造、虚偽の公文書作成、公文書の毀棄をした職員は、免職または停職となります。

・セクシュアル・ハラスメント
暴行または脅迫によってわいせつな行為をした場合、または、上司などの影響力を利用して性的関係を結んだり、わいせつな行為をしたりした場合は免職または停職となります。

また、相手の意に反することを認識したうえで、わいせつな言葉などの性的な言動を執拗に繰り返した結果、相手が強い心的ストレスを重積させて精神疾患に罹患した場合も、免職処分または停職処分の対象です。

・パワーハラスメント
パワーハラスメントにより、相手が強い心的ストレスを重積させて精神疾患に罹患した場合、免職、停職、または減給となります。

公金官物取扱い関係

下記は、公金や官物の取扱いにおいて懲戒処分の対象となる代表的な事項です。

・横領・窃取
公金または官物を横領・窃取すると免職になります。

・詐取
人を欺いて公金または官物を交付させると免職になります。

公務外非行関係

下記は、懲戒処分の対象となる公務外非行関係の代表的な事項です。

・放火・殺人・傷害・暴行
放火や殺人、傷害、暴行などをすると免職になります。

・横領・窃盗・強盗
横領や窃盗、強盗をすると免職または停職となります。特に、暴行や脅迫によって他人の財産を奪った場合は免職の対象です。

・詐取
人を欺いたり恐喝したりして財産を交付させた場合は免職または停職となります。

麻薬などの所持や使用・譲渡
麻薬や大麻、あへん、覚醒剤、危険ドラッグなどの所持や使用、譲渡等などをすると免職になります。

・淫行
18歳未満の人に金品などの利益を対償として供与したり、供与を約束したりしたうえて淫行をした場合、免職または停職となります。

飲酒運転・交通事故・交通法規違反関係

・飲酒運転

飲酒運転により交通事故を起こして相手を死傷させた場合は免職となり、酒気帯び運転をした場合は免職、停職、または減給となります。

飲酒運転をした職員に対し、車両または酒類を提供したり、飲酒をすすめたり、飲酒運転であると知りながら車両に同乗した場合、免職、停職、減給、戒告の対象になります(飲酒運転への関与程度を考慮して決定)

・飲酒運転以外での人身事故を伴う交通事故

交通事故により被害者を死亡させたり、重大な傷害を負わせた場合、免職、停職又は減給となります。

懲戒免職を含まない懲戒処分の指針はさらに多い

上記は懲戒免職処分を含む懲戒処分の指針を紹介したものです。懲戒処分の対象とはされていなくても、懲戒停職や懲戒減給、戒告の対象とされる行為が、さらに多数、規定されています。

たとえば、正当な理由なく11日以上20日以下の欠勤をした場合は、停職または減給の対象です。

懲戒免職は異議申し立てできるか

懲戒免職を受けて処分が重すぎると考える場合、異議申し立てが可能です。

懲戒免職などを含む懲戒処分は「不利益処分」と呼ばれます。国家公務員・地方公務員が不利益処分を受けた場合、人事院や人事委員会に対して審査請求を行い、処分の取り消しを求めることが可能です。ただし、審査請求の要件を満たす必要があります。また、審査請求できる期間は、処分の告知を受けた日の翌日に起算して3カ月以内です。

ちなみに、審査請求をした結果の判定内容に納得できない場合には、処分の取り消し訴訟を裁判所に提起することもできます。

懲戒免職時の退職金

懲戒免職になった場合、職員は公務員としての身分を喪失し、退職金の全額または一部が不支給となるとされています。ただし、実際には、ただちに退職金が全額不支給とされるとは限らず、ケースバイケースです。なぜなら、退職後の生活保障という観点上、退職金の全額不支給が適切であるとはみなされにくいためです。

なお、自己都合による退職(依願退職)の場合は退職手当が支給されるため、懲戒免職処分が予想される場合、依願退職しようとする人もいます。ただし、依願退職が認められる場合でも、懲戒免職以外の懲戒処分が適用されて退職金が減額される可能性も考えられます。また、逮捕など刑事手続きが始まっている場合などは依願退職が認められない恐れがあります。

懲戒免職の失業保険の支給

懲戒免職になった場合でも失業保険や年金は支給されます。ただし、懲戒免職は自己都合退職の扱いになってしまうため、失業保険の支給が開始されるまで数カ月間の給付制限があるほか、雇用者の都合によって退職するケースに比べると給付日数も少なくなります。

懲戒免職後は再就職できるのか

懲戒免職後の再就職は不可能ではないものの、困難であるといえます。一般企業における懲戒解雇では処分を受けた従業員の所属先や氏名、処分理由などが公表されることはありません。それに対し、公務員を対象とする懲戒免職では職名や氏名などが公表されるケースが多いため、再就職に向けた求職活動において不利となります。

また、国家公務員法第38条2号の規定により、国家公務員は懲戒免職処分を受けた日から2年間は国家公務員に就職できません。地方公務員の場合は、地方公務員法16条2号に基づき、懲戒免職処分を受けた日から2年間は、同じ地方公共団体に地方公務員として就職できなくなります。

懲戒解雇の注意ポイント

企業における懲戒解雇は公務員の懲戒免職に該当します。公務員に関する懲戒処分の内容と指針が人事院にて明確かつ詳細に規定されていることと同様に、一般企業においても就業規則に懲戒処分の指針を明記しておかなければなりません。また、企業側から一方的に処分を決定することはできず、事情聴取を行うなど、適切に対応する必要があります。

以下で、懲戒解雇をする場合の主な注意点4つについて解説します。

就業規則に懲戒処分の種類と指針が明記されているか

懲戒処分は企業内における刑罰のようなものです。そのため、懲戒処分をする前提として、就業規則にて従業員への明示が必要とされています。また、懲戒処分の種類として懲戒解雇を就業規則に記載しておかなければ、従業員にどれだけ非があると考えられるケースにおいても懲戒解雇をすることはできません。

一般企業における懲戒処分の主な種類は公務員と同様で、「懲戒解雇」「停職」「減給」「戒告」などです。くわえて、降格や論旨解雇を懲戒処分の種類に含めている企業もあります。

従業員の問題行動が就業規則の懲戒指針に当たるかどうか

従業員の問題行動が就業規則で規定している指針に該当しない場合は、懲戒処分はできません。労働契約法第15条で、客観的に合理的な理由がない場合、懲戒処分は無効であると定められています。

就業規則に懲戒指針が明記してあり、かつ、従業員がそれに該当する行動をした場合にのみ、懲戒解雇などの処分を行うことができます。従業員が懲戒処分を不服として訴訟を起こした場合、厳しく審査されるポイントは懲戒指針に該当するかどうかです。

懲戒処分の内容は適切か

就業規則に懲戒処分の内容と指針を明記しているからといって、必ずしもそれが法的に認められるとは限りません。労働契約法第15条では、懲戒処分の内容が「当該行為の性質・態様その他の事情に照らして社会通念上相当なものと認められない場合」は無効であると規定しています。

これは「懲戒処分の相当性の原則」と呼ばれます。就業規則に懲戒指針を記載していたとしても、従業員の問題行動の内容やこれまでの勤務態度などと照らし合わせて過度に重い処分を与えようとすれば、無効になります。

従業員からしっかりと事情聴取できているか

相当な手続きを経なければ、懲戒処分が無効になる場合があります。懲戒処分を決定する前に懲戒委員会を開催することが就業規則に記載されている場合、懲戒委員会の開催というプロセスを踏まずに懲戒処分をすることはできません。

また、就業規則に記載がない場合でも、従業員本人の言い分をしっかりと聴取しなければ、懲戒処分の指針に該当するかどうかの判断に信頼性を欠くことになります。

懲戒免職を予防するために日頃から啓蒙活動を徹底しよう

懲戒免職や懲戒解雇は、処分を受ける本人にとって不利益であることはもちろん、職場にとっても損失となります。

懲戒処分に関する規定の詳細を職員・従業員の間に周知しておくことによって、職員・従業員が懲戒免職やその他の懲戒処分の対象となる行為をしないように注意を促すことが可能です。懲戒処分に関する啓蒙活動を日頃から徹底して行いましょう。

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