労働人口の減少による人材確保の難化や、人材が業績の成果に直結するという考えの浸透を背景に、「タレントマネジメント」という人材戦略を取り入れる企業が増えています。
また、タレントマネジメントは、グローバル化やITによるビジネス環境の変化にともない、次世代リーダーやグローバル人材がますます必要とされている中で、高い効果を発揮すると期待されています。
今回は、タレントマネジメントの内容や具体的な導入手順を、企業の事例も交えながらわかりやすく解説します。
タレントマネジメントとは?
タレントマネジメントの「タレント」とは、社員が持つ資質や才能を意味する言葉です。
社員の能力やスキルを特定し、その情報を人事部が把握して、組織的・戦略的に人材を管理・育成していくことを「タレントマネジメント」と呼びます。
学歴や職務経歴といった形式的な情報だけでなく、ポテンシャル・資質や実績をあわせて管理することで、企業は膨大なメリットを得ることができます。
タレントマネジメントは、もともと欧米の企業で生まれ、特にリーダークラスの育成に活用されてきました。
日本でもグローバル化やIT化の影響で、事業がスピーディに変化するなど経営環境が大きく変わり、それに合わせて迅速に適切な人材配置をする必要が高まっています。
また、労働市場の変化や働き方の多様化により、これまでの人事マネジメントでは最大限に人材を活用して経営に活かすことが難しくなっていることを背景に、企業のタレントマネジメントの導入が活発化しているのです。
タレントマネジメントの種類とは
タレントマネジメントを実際に導入する際には、さまざま手法があります。
企業はどのようなことに注視したいかによって、大きく分けると3種類のどれかの手法を選ぶ傾向があるようです。
1. 優秀な人材をリーダー育成のため活用
限られた上層の優秀な人材を、タレントのある人材としてピックアップし育成するマネジメント方法です。
グローバルに展開している企業、海外拠点の多い会社に適用されやすい手法で、各拠点に経営層として登用することを前提としてキャリアアップを促します。
日本にはあまり馴染まない方法で、多国籍な文化が醸成されている企業に向いた方法でしょう。
2. 中間層以上の全体の底上げとして活用
中間層以上を対象に、それぞれの社員にタレントがあるとして、一人ひとりの能力を伸ばすことで、企業の総合力を高めようとする手法です。
各部門の管理者が感覚頼りで人材配置を行っていたところを、システムなどを活用し情報を一元管理し、計画的かつ適材適所に人材配置を行います。タレントマネジメントは、一部の優秀な人材に対して実施されると思われがちですが、対象は企業の目的によって変わります。
3. グローバル規模で優秀層は育成しつつ、全体の底上げとして活用
全世界的に優秀な層は地域を限定せずリーダーとして育成していきつつ、日本国内については中間層の全体的なボトムアップを目指すものです。1と2の両方を採用するタイプの手法でしょう。
1と同様に会社の規模や業種によって、実施できる企業には偏りがあります。
タレントマネジメントの目的
就労人口の減少に伴って、昨今の雇用市場は難化を極めており、今後もこの流れはますます強くなるものとみられます。
人材を確保することが困難な近年の情勢の中、たとえ大企業であっても、今後は優秀な人材の確保が熾烈を極めることが想定されるでしょう。
タレントマネジメントは、既存の社内リソースを最大限に活用し、社員のポテンシャルを引出し、優秀な社員へと育成することを目的としています。
タレントマネジメントによって社員一人一人の特性を把握し、評価制度や育成制度を見直すことで、人材不足による企業リスクを避けることを意図しているのです。
タレントマネジメントに期待できる効果とは
企業がタレントマネジメントを実施することには、下記4つの効果が期待できます。
人材の適材配置
社員一人一人の能力を分析し、把握することで、その能力を発揮しやすい部署やプロジェクトに登用することが可能になります。
能力が最大限に発揮されることで、タスクが円滑に進行できます。
リーダーの育成
企業にとって必要なポテンシャルを持った人材を見つけ出し、早期から経験を積ませることで、リーダーや管理職の育成がしやすくなるでしょう。
実際、リーダーの育成を目的にタレントマネジメントを導入する企業も少なくなく、グローバル企業では特定の人物に限ってタレントマネジメントを行う例もあります。
人事評価制度の見直し
勤続年数や過去の実績で管理職が選定される、従来の人事評価制度には疑問の声もあがっています。
タレントマネジメントの導入で候補社員の管理能力を可視化することで、制度の見直しをはかることができます。
社員の働きがいの向上
タレントマネジメントにより適材適所の人材配置が可能になると、プロジェクトが円滑に進むだけでなく、自身の能力が活かしきれることで社員の満足度向上が期待できます。
社員の働きがいが増すことで、人材流出の防止にもつながるでしょう。
タレントマネジメントの基本的な導入手順
タレントマネジメントの導入が決定した場合、具体的にどのように進めていけばいいのでしょうか。
ここでは、タレントマネジメントの基本的な導入手順を説明します。
Step1.導入の目的を設定する
タレントマネジメントを導入する際のよくある失敗として、方法論が先行してしまい「タレントマネジメントを導入して何を達成したいのか」という目的が見失われてしまうことがあります。
タレントマネジメントで重視したい目的は、「次世代のリーダーの育成」「IT人材の強化」「グローバル人材の創出」など、企業の目指すべき方向や現状によってさまざまです。
目的によって実施計画が変動するだけでなく、目的が定まっていないと単に人事制度をかき回す結果になってしまいかねません。
そもそも導入が本当に必要なのかという点を十分に議論し、導入目的を明確に設定しましょう。
Step2.タレントのある人の選定
マネジメント対象となるタレントの選定には、大きく3つの方法が考えられます。
1つ目は、マネジメントの対象を優秀な一部の人材に限るものです。
社員のうち、上位2割の優秀層をタレントとしてリストアップし、重要ポストの候補として育成・登用していきます。
ただ、これでは社員同士に優劣をつけるような状況になってしまい、他の社員のモチベーション低下につながりかねません。
そこで、対象をしぼり込まずに、すべての社員を対象として管理し、総合的に人材を育成していくことが2つ目の方法です。
適材適所で人材をポスティングしていきたいと考える企業で採用される方法です。
3つ目は、上記2つの方法を両方取り入れたもので、管理職候補の選定・育成を行いつつも、すべての社員のマネジメントも同時に行っていくものです。
タレントマネジメント導入の目的にあわせて、どの方法を採用するか決定します。
Step3.配置・育成プランを計画・実施する
タレントマネジメント導入の方向性を決めたら、次に計画しなければいけないのは「どのポストにつき、どのような仕事をさせるか」ということ。
タレントマネジメントを実施するには、人事評価と連携したマネジメントシステムを導入するのが一般的です。
システムを導入することで、可視化でできていなかった社員の能力や実績、適性を抽出して適切なキャリアプランニング・配置を決めていけます。
そういったデータを参考に、社員が達成する目標を定め、その達成のために必要なキャリアを洗い出し、適正に合わせて具体的なプランに落とし込んでいきます。
キャリア形成において適切なポジショニングは最も重要な点です。確実に実施までつなげていきましょう。
Step4.タレントを伸ばしやすい環境整備をする
企業は社員をポジションに配置したら、それで終わりではありません。
タレントマネジメントの効果を確実に出すためには、社内の制度など環境を整えることが大切です。
適切な人事評価制度の構築や、スキルを上げた社員を対象としたインセンティブの提供などを制度化していきます。
また、社員が積極的に参加しやすいよう、環境を整備していくことも視野にいれましょう。
Step5.モニタリングの実施
タレントマネジメント実施後はモニタリングを行い、アンケートなどでこまめに社員の反応を確認するようにしましょう。
導入直後は特に、計画や教育制度にアンマッチが発生する場合も考えられます。
タレントマネジメントは、社員の能力やスキルが十分に発揮できる仕組みを作り上げることが重要。
起ち上げ当初の内に、システムの活用を基点に社員がしっかりと参画できるようモニタリングを強化しましょう。
タレントマネジメントの実際の事例
ここでは、日立製作所が実施しているタレントマネジメントの事例を紹介します。
グローバル企業である日立製作所がタレントマネジメントを導入する目的は、多岐にわたる事業でトップに立てる人材を確保するため、これまで以上に多く優秀な人材を輩出することでした。
そこで、全世界に30万以上いる社員の情報をデータベース化。
どの事業でもリーダーを同じプラットフォームで育成できるよう、環境を整備しました。
また、仕組み作りで終わってしまうことを防ぐため、育成責任を上司におき、スピード感をもって実施されるよう人事制度の改革も同時に行っています。
タレントマネジメントを成功させる4つのコツ
タレントマネジメントは導入することがゴールではなく、その先の目的が達成されなければ意味がありません。
導入を成功させるには、どのようなポイントが重要なのでしょうか。ここでは4つのコツを紹介します。
選定への配慮「タレントマネジメント」と言わない
タレントマネジメントは、優秀層を選定して育成する場合には、その他の社員のモチベーション低下を招いてしまう可能性があることに、注意しなければなりません。
一部の社員のみを対象に特別な育成をとっていることが明確になってしまうと、社員の間で不公平感が生まれてしまいます。
優秀層の選定という印象を防ぐために、タレントマネジメントという言葉をあえて使用しない企業もあります。
社員への配慮を欠かさないように、選定の際は十分配慮しましょう。
適切なタレントマネジメントシステムの選定
タレント情報の管理には、何らかのマネジメントシステムを導入することが一般的ですが、自社の運用に合わせたシステムを選定することが重要です。
カスタマイズしてスモールスタートできたり、人事評価と連動できたりと、システムによって機能も多様です。
管理する情報がこれまで以上に膨大になりますので、プランにあわせて運用しやすいシステムを選定しましょう。
社員の動機付けに重きを置く
マネジメント自体は会社が行うものですが、社員自身の意思が伴わなければ意味がありません。
会社が先走って社員を置いてきぼりにせず、社員の動機づけがしっかりできていることを重視しましょう。
そのためには、マネジメントに社員が参加しやすい体制が望ましいです。
システムに自分で情報を登録できたり、育成プログラムにも積極的に関われたりできる制度を整えていきましょう。
PDCAをまわす
最も重要なのが、PDCAのサイクルを循環させていくことです。
計画だけで止まってしまったり、マネジメントを導入しても振り返りをせずに、せっかくの施策がうまく機能しなかったりというのは、よく見られる失敗です。
計画を立てて実施したら、社員を交えて見直しを行い、改善点を洗い出して再度プランの練り直しを行います。
このサイクルを定期的に回していける体制を、導入初期から構築することを意識しましょう。
タレントマネジメントを導入して次世代リーダーを着実に育成しよう
タレントマネジメントの目的や導入方法は企業によって様々ですが、立案したプランを確実に実施し、そして定期的な改善を行っていく体制まで構築することが、最も難しく重要な点です。
導入したことで満足してしまい、本来の目的達成まで至らずに鎮火してしまう企業は少なくありません。
そのために、長期的に運用可能なタレントマネジメントシステムを採用してください。
「あしたのチーム」は、企業のニーズに合わせて柔軟なカスタマイズが可能で、人事評価制度の構築までワンストップで実現できます。
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