「適材適所」の人材配置は、企業の成長にとって非常に重要なものです。
従業員の適性や能力にマッチする仕事を任せればモチベーション向上や成果アップにもつながるでしょう。
定期的なジョブローテーションは長期的なキャリア形成に重要ですが、一方で従業員が不向きな仕事で悩み離職してしまうリスクもあります。この解決策の1つとしても期待されるのが適材適所です。
今回は、経営者や人事担当者が押さえておきたい適材適所の考え方やその効果、適切に人員配置するための具体的な方法を紹介します。
適材適所とは
そもそも、適材適所とは、伝統的な建築工法で日本家屋や寺社などを建てる際に、木材の種類・性質を活かして使い分けることを語源として生まれた言葉です。
そこから現在では、適材適所とは、人材の能力や個性、適性に応じて、その人にとってふさわしい仕事につけることを意味します。
人には、得意分野や性格といった個性があり、同じ仕事でも人によって得意かどうかは異なるのが普通です。
マネージャーや人事担当者は限られた人員を効果的に配置して組織を活性化する必要がありますが、組織全体のパフォーマンスを高めるためにはその人材に向いていない仕事を任せるよりも、能力を発揮しやすい役割を与えた方が効果的でしょう。
適材適所とは人材に合う仕事を検討し、その仕事で潜在能力を発揮させるという考えなのです。
仕事における適材適所とは
仕事で適材適所を実現するにはさまざまなポイントがあり、管理者や人事担当者はケースに応じて最適な方法を模索する必要があります。
仕事では適材適所の考え方が非常に重要です。この理由としては、ビジネスでアサインを誤ると生産性低下や離職につながるということが挙げられます。
例えば、エンジニアとしては優秀であっても、営業職に転換した途端に仕事の勝手が異なるため成果が出ず、プレッシャーで心身の不調を訴えるといったケースはよく耳にする話です。
ビジネスにおいては、部署や役職ごとに求められるスキルは異なるのが普通で、それに応じて適材適所を判断するのが重要と言えるでしょう。
例えば、営業部では社交性やプレゼンテーションスキル、調整力などが求められる傾向にありますが、技術職は探求力や好奇心、論理的思考力などが求められます。
また、どのような部署でも、組織でプロジェクトを進めるにあたってリーダーに向いている人とフォロワーに向いている人に分けられるのが一般的です。
適材適所が必要とされる背景
適材適所が必要とされる背景には、いくつかの要因が挙げられます。
事業環境の変化
IT技術の発達により、現在は事業環境が急速に変化していく時代です。高度なIT化はあらゆる業種に伝達スピードや作業効率のアップなどの変革をもたらし、その分事業環境についても急激に変化しやすくなりました。
このような状況では、人材が持てる力を十分に発揮し、急激な変化に対応またその変化をビジネスに利用できるよう、社員それぞれが十分に力を発揮することが必要であり、適材適所が重要となるのです。
人手不足
また、人手不足も大きな課題になりつつあります。国内は少子高齢化によって労働人口が減少している中、企業にとって人材の確保は大きな経営課題です。
事業を成長させるために必要な能力を持った人材を確保することが困難なだけでなく、そもそも事業の継続に必要な人材すら採用できないという問題も起こっており、事態は深刻度を増しています。そこで、限られた人材の力を最大限引き出す適材適所の施策が求められるのです。
限りあるリソースの最適化
平成21年から令和元年までの10年間で、東京都の最低賃金は791円から1013円へと上昇しています。
※出典:「平成14年度から令和元年度までの地域別最低賃金改定状況」(厚生労働省)
これは企業側から見ると、人件費が増加していることを意味します。
適材適所で人員配置を行うことにより、生産性を高め、人員数を絞ることが可能となり、人件費を削減することにもつながるのです。
限りあるリソースを最適化して活用しなくてはならない現代において、適材適所は非常に重要な考え方となります。
適材適所によって期待できる企業組織への効果
適材適所の考え方にもとづいて組織マネジメントや人事を実行すれば、組織への好ましい影響が期待できるでしょう。ここでは、企業組織にとっての適材適所の主なメリットを紹介します。
離職率の低下
適材適所の人事を実施すれば、仕事と本人とのミスマッチが減り、離職率の低下につながるでしょう。
従業員に任せる仕事が本人のスキルや性格とマッチしているかどうかは重要な問題です。本人とは合わない仕事を続けさせれば、仕事で成果が上がらないばかりか自信喪失やプレッシャーにつながり、離職という結果にもなりかねません。
一方、適性にぴったりの仕事であれば、主体性の促進、能力のさらなる成長、そして仕事への満足度アップが期待できます。本人の能力や個性を理解した上で力を発揮しやすい仕事を与えることは、離職を防ぐことになるのです。
仕事の効率化
仕事の効率化も期待できます。どのような人材であっても、仕事には向き不向きがあるものです。
向いていない仕事であれば仕事のパフォーマンスは上がりづらいばかりか、モチベーションの低下にもつながり、さらなる仕事の非効率化を招きかねません。一方、得意な仕事であればスピードは早く、なおかつ質も高くなるでしょう。
この傾向は、これまでの経験や培ってきた知識が活用できるような仕事であればなおさらです。
さまざまな知見を広げるといった目的があれば一時的に向いていない仕事を任せることも効果的な場合がありますが、効率を追求するのであれば適材適所は効果的と言えます。
組織の活性化
適材適所を徹底すれば組織のメンバーひとりひとりの生産性を高めることができ、それが積み重なった時には組織全体の活性化が実現できます。
企業組織は、個々人のパフォーマンスと集団効果の組み合わせが大切です。適材適所を実施することで、個々人の成果が上がりやすくなるだけでなく、心理的余裕や充実感も生まれます。
すると組織内のコミュニケーションにリソースを割けるようになり情報交換の質も上がるでしょう。結果的にチームワークが強化されて組織力の底上げにつながるのです。
企業としての成長、業績の向上
ここまで挙げてきたように、個々のパフォーマンスが上がり組織が最適化することで組織に良い影響をもたらすのが適材適所の人員配置です。
その結果、自社の成長や業績の向上にもつながることが期待できるでしょう。
適材適所で人員配置する方法4選
適材適所を実現するには、人材を正しく理解した上で能力を引き出すような人員配置をするというプロセスが欠かせません。ここでは適材適所で人員配置するための4つの具体的な方法を紹介します。
適性検査(ストレス耐性、能力、性格)を活用する
適材適所を実現するには、まず本人の能力や性格などを把握する必要があります。適性検査は書類だけでは分からないパーソナリティを見極められるのに加えて、担当者の主観が入り込む面接や人事評価よりも客観性が保てるので、本人を理解する上では効果的な手段です。
適性検査は、知的能力を測る目的のものと、パーソナリティを把握する目的のものに分かれます。
前者は計算や論理的思考能力を試すような問題で構成されており、情報処理能力を測定することが可能です。後者はストレス耐性や思考の癖、性格といった個性を把握することができます。
適性検査は、新卒・中途人材の採用選考で活用されることが一般的です。しかし、内部昇進試験や人事異動といったように、既存の従業員の適性を測る目的でも活用されることがあります。
ジョブローテーションでさまざまな分野の仕事を習熟するまで任せる
従業員に、ジョブローテーションとして、幅広い分野の仕事を習熟するまで一定期間行ってもらうことは適材適所に役立ちます。主な理由としては以下の2つのポイントがあります。
・幅広い分野の経験がスキルの発揮をさらに増幅させる
幅広い分野の仕事を任せることで、適材適所な場でスキルの発揮をさらに増幅させる効果があります。
これは、例えば営業職のスペシャリストがあえて一時的に流通部門に配属されると、流通の知見が広がることで営業職に戻った時により高いパフォーマンスが発揮できるという現象です。特定分野に優れている人材にあえて幅広いキャリアを積ませることは、適材適所を実現する上でも役立ちます。
・マンネリ化を防ぎつつ適性の有無が判断できる
一定期間でジョブローテーションを行うことによって、従業員のマンネリ化を防ぐことができます。
また、一定のスキルになるよう習熟するまで取り組むことにより、本人の適性を見て、そのポジションに向いているかどうか判断することが可能となります。
人が学習すればするほど習熟していくことを習熟効果と呼びますが、このプロセスには個人差があります。
ある仕事を習熟してマンネリ化してしまう人もいれば、習熟を継続して高いレベルにまで到達する人もいるのです。色々な仕事を経験させれば、本人の特性にマッチする「当たり」の仕事に遭う確率も上がり、適材適所に貢献するでしょう。
ただし、注意が必要なのは、他分野であっても習熟するまで仕事をしてもらう中で、本人にとって絶対に合わない分野・やりたくない分野というものも必ずわかってくること。そのため、ひとりひとりの社員の意向をこまめに確認しながらジョブローテーションを行うことが大切です。
本人が希望する仕事を確認する
本人が希望する仕事を確認することも大切です。仕事に対する向き不向きは、本人は少なからず把握しています。
仕事に向いている、向いていないといった本人の意見は適材適所において重要な検討材料になるでしょう。
そもそも、意見の中身そのものだけでなく、そういった仕事への向き合い方は企業が本人の適性を判断する上での材料になります。
本人の希望はモチベーションという点でも重要です。自分が希望した仕事を任されればモチベーションの向上につながり主体的な行動を期待できるでしょう。習熟度も高まり、適材適所を実現しやすくなります。
正しい人事評価・考課制度で評価する
人事評価制度や考課制度を整備して人材を正しく評価することも大切です。
適材適所を実現するには人材の能力やパーソナリティを正しく理解する必要がありますが、そのためには人事評価に用いる指標や到達度が適切に設定され、それぞれの人材の能力やスキル、経歴が可視化され共有されていることが必要になります。
仮に費用をかけて精度の高い適性検査を実施したりさまざまな仕事を任せたりしても、結果として人材の適性を正確に見極めたり、ふさわしい人材配置を実施したりできなければ適材適所は実現できないでしょう。
本人の能力を最大限発揮させるためには制度面の整備も欠かせません。人事評価・考課制度を整えてそれを人員配置にも生かしていくことが、正しい適材適所にもつながるのです。
適材適所の人員配置によるデメリット
適材適所が持つのはメリットばかりではありません。デメリット面についても理解し、うまく抑えながらメリット面が活かせるように考えていく必要があります。
潜在的な可能性を潰してしまうケースもある
適性はすぐにわかる場合もあれば、ある程度適性が顕在化するのに時間を要する場合もあります。
早期に適性を判断し配置を行うことによって、人材の潜在的な可能性を潰してしまうケースもあることは、教育的観点から考えるとデメリットと言えるでしょう。
潜在的な能力をどう見極めて判断するのかを事前に考慮した上で、ジョブローテーションは十分な時間をかけて行うことが必要となります。
従業員のモチベーションを落としてしまうことも
ジョブローテーションを行う過程において従業員と齟齬が生じた場合や、本人の希望と配置が異なる場合は、それがストレスとなりモチベーションを落としてしまうこともあります。
これを回避するには、本人の意向についても汲み取りつつ、企業としてその従業員に求めることを丁寧に伝えるなど、コミュニケーションを十分に取りながら進めることが重要です。
適材適所を成功させる2つのポイント
適材適所を成功させるには、従業員が自身のマインドセットと企業の目的とをすり合わせ、適材適所の取り組みについて理解してもらうことが大切です。ここでは、これら2つのポイントを紹介します。
マインドセットによる目的のすり合わせ
適材適所を成功させるためには、従業員が自身のマインドセットと仕事における目標をすり合わせることが大切です。
マインドセットとは、これまでの経験や教育、価値観などによって形成される思考や心理などを指します。
適材適所はそれ自体が目的ではなく、最終的には本人の能力を引き出して企業組織のパフォーマンスを向上させることが目的です。
適材適所で成果を出すには、前提として本人の価値観・人生の目的などのマインドセットとビジネスにおける目標とをすり合せ、従業員がイキイキと主体的に仕事に取組み、成果への意欲を持ってもらうことが求められます。
適材適所の意義の社内浸透
適材適所の意義を社内に浸透させることも重要です。
適材適所を実現するには、経営者や人事担当者だけでなく、従業員ひとりひとりが成長して役割を果たそうという意識を持たなければ成功しません。
そのためには、従業員が適材適所の取り組みを理解できるように、その意義やポリシーを企業側から伝えていく必要があります。
適材適所の人員配置には適切な人事評価制度が必要不可欠!
適材適所は、従業員のモチベーション向上やパフォーマンスの改善、そして離職率低下も期待できる取り組みです。
適切な配置によってそれぞれの従業員の能力が発揮しやすい環境が整い、組織が活性化されると、長い目で見たときに業績の向上も期待できるでしょう。
適材適所を実現し、その効果を十分に生かすためには、適切な人事評価、そして評価の可視化と共有が欠かせません。
「あしたのクラウド」を活用すると、自社に合った人事評価項目を設定し、クラウド上で情報の一元管理が可能となります。適材適所に必要不可欠な人事評価制度を適切に運用していくためにも、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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