雇用形態にはさまざまな種類があり、誤解されやすい契約形態もあります。
人事部の担当者は、こういった違いを理解して仕事で役立てられるようにしなければなりません。
今回は、雇用形態の意味や種類、実務で知っておく必要がある社会保険料の適用範囲の違い、待遇の違いについて説明します。
雇用形態とは
そもそも雇用とは、労務者側(従業員側)が労務に服することを約束し、一方で使用側(企業側)が労務者に対して報酬を与えると約束することで成立する契約です。
仕事への対価として報酬を支払うという契約には他にも請負や委任などがありますが、雇用は労務者が使用者の指揮命令に従うという点で従属性が強いという特徴があります。
雇用形態とは、企業と従業員とが締結する雇用契約の種別です。雇用形態としてイメージしやすいのは正社員ですが、他にも短時間正社員や契約社員、パート・アルバイト、派遣社員などがあります。
一方、業務委託(請負)契約で働く労働者や家内労働者、自営型テレワーカーなどは雇用とは見なされないのが一般的です。
しかし、その実態によって実質的に労働者とみなされれば、雇用形態の1つであるかのように適切な対応が求められることもあるので注意が必要です。
雇用形態は何をもって定められるのか
雇用形態は、契約内容や契約期間、勤務時間などの条件によってその種別が決まり、労働契約が成立した時点で確定します。
雇用形態を分ける要素はいくつかありますが、主なものは契約期間です。例えば、正社員と契約社員は、契約に期間の定めがあるかどうかが大きな違いの1つになっています。
他には勤務時間で、正社員はフルタイムですが、時間制の場合にはパートタイマー・アルバイトといった区分がされるのが一般的です。
雇用形態の5つの種類
契約期間や労働時間によって雇用形態はさまざまです。ここでは5つの代表的な雇用形態とその概要を解説します。
派遣労働者
派遣労働者とは、派遣元企業と労働契約を結び、派遣先の企業で指揮命令を受けて働くという形態です。
労働者の指揮命令をして業務を行わせる企業と労働者に賃金を支払う企業は別で、労働者と雇用契約を結ぶのはあくまでも派遣元の人材派遣会社ということになっています。
トラブルは原則として派遣元企業が責任を持って対処する必要がありますが、派遣先企業も全く責任を負わなくてよいわけではありません。
このように複雑な形態なので労働者派遣法によってルールが細かく規定されています。
契約社員(有期労働契約)
契約社員とは、期間に定めがある雇用形態です。
雇用契約を結ぶ際に一定の場合を除いて3年を上限として契約期間を定めるもので、期間が満了すれば契約は終了することになります。
仕事内容や勤務時間については特に法的な決まりはなく、契約によって正社員と同じようにフルタイムで働くこともあれば時短勤務も可能です
。同じような意味で使われる用語に突出した技術を持つ人材や退職後の社員を雇用する際などに呼ばれる嘱託社員という雇用形態がありますが、これも法的な定めはありません。
一般的に契約社員はフルタイムで、嘱託社員は短時間勤務や非常勤勤務という傾向があるようです。
パートタイム労働者
パートタイム労働者とは、1週間の所定労働時間が正社員よりも短い短時間勤務とそれに合わせた業務内容を設定する雇用形態です。
パートタイマーやアルバイトといったさまざまな呼び方をされますが、パートタイム労働法によって定められている条件に一致すれば、一律にパートタイム労働者とされ、法律上は区別されません。
使用者は、労働者に対して労働条件などに加えて昇給、退職手当、賞与の有無などを書面によって明示することが義務付けられています。
また、使用者はパートタイム労働者に対して、公正な待遇の確保や正社員への雇用形態の変更に取り組むよう義務付けられているので注意が必要でしょう。
短時間正社員
短時間正社員とは、フルタイムの正社員よりも所定労働時間や所定労働日数が短い雇用形態です。
また、期間の定めがない労働契約を結んでおり、なおかつ時間あたりの基本給や賞与・退職金といった待遇の算定方法がフルタイムの正社員と同等であるという労働者が該当します。
そのため、パートタイム労働者は一般的な正社員よりも業務内容に合わせて待遇に違いがあり(正社員と同等の業務内容であればこの限りではありません)、契約社員は契約期間の定めがありますが、短時間正社員は一般的にどちらも当てはまりません。
正社員
正社員とは、長期雇用を前提としており、就業規則が定める所定労働時間をフルタイムで働く雇用形態です。
社会保険の対象となり、多くの企業では賞与や交通費、各種手当といった待遇が提供されます。
また、企業によってはキャリア形成のために人事異動や転勤などを求めるケースもあるのが特徴です。企業の中では中心的な役割を担い、長期的に安定した待遇を受けられるということになります。
雇用形態と誤りやすい契約形態
労務にはさまざまな契約形態があり、雇用形態と混同されやすいものもあります。ここでは誤解されやすい契約形態を紹介しましょう。
業務委託契約
業務委託契約とは、企業が個人事業主や外部企業に対して、特定の業務だけを委託して対価を支払う契約形態です。
法的に業務委託契約の定めはなく、正確には「請負契約」や「委任契約」「準委任契約」などと呼ばれます。業務委託契約は雇用契約を結ばず、指揮命令関係は発生しません。
あくまでも成果物に対して取り決めた報酬を支払うという契約です。そのため、雇用形態には含まれません。ただし、契約の実態が雇用関係に近いとみなされれば労働法規の適用対象になることがあるので注意が必要です。
家内労働者
家内労働者とは、委託者から物品の製造や加工などを個人で請負って工賃の支払いを受ける契約形態です。
家内労働者は事業主として扱われるため雇用契約ではなく、雇用形態には含まれません。
しかし、委託者と労働者の関係が、雇用契約を結んだ労使関係に近いことから、労働者を保護する目的で委託者に最低工賃などの遵守を求める家内労働法が定められています。
自営型テレワーカー
自営型テレワーカーとは、自宅やそれに準ずる場所で情報通信機器を活用して成果物を作成したり役務を提供したりする契約形態です。
似ている用語として在宅勤務がありますが、これは企業と雇用契約を結んでいる従業員が会社オフィスではなく自宅などで仕事をすることを指します。自宅型テレワーカーは、雇用契約を結ぶわけではないため在宅勤務ではありません。
自営型テレワーカーは、情報通信機器の発達とともに登場し、近年注目されてきている契約形態です。
雇用形態の種類による待遇の違いとは
雇用形態の種類によって、社会保険の適用有無などは異なります。ここでは社会保険の適用範囲や公平な待遇確保の必要性について紹介しましょう。
社会保険の適用範囲に違いがある
社会保険の種類によって、適用範囲となる雇用形態は異なります。ここでは順番に紹介しましょう。
労働災害保険
労働災害保険は、正規・非正規を問わず雇用関係がある全ての従業員に対して適用されます。
雇用保険
雇用保険は、正規・非正規問わず週20時間以上勤務する従業員に対して適用されます。
健康保険
健康保険は、正社員など常時雇用される従業員は自動的に適用されます。
契約社員やパートタイム労働者なども対象で、1週間の所定労働時間と1カ月の所定労働日数がどちらも一般社員の3/4以上の場合には被保険の対象です。
あるいは、3/4を下回る場合でも、1週間の所定労働時間が20時間以上、雇用期間の見込みが1年以上、月額賃金が8.8万円以上、学生でない、厚生年金保険の被保険者数が常時501人以上の法人・個人の適用事業所などといった5つの条件を満たす場合も適用されます。
厚生年金
厚生年金が適用される雇用形態とその条件は、上記の健康保険と同じです。
国民年金
雇用契約を結んでいるものの、厚生年金の適用対象にならずなおかつ被保険者の扶養にも入らない労働者は、国民年金だけに加入することになります。
国民年金は加入者個人が国に支払うものなので、厚生年金とは違って使用者である企業は特に関与することはありません。
雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
働き方改革関連法の施行により、パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法の改正が決定し、2020年4月1日から企業規模に合わせて順次、雇用形態を理由として不合理な待遇格差を設けることへの取り締まりが厳しくなります。
例えば、同一企業内において、正社員と非正規社員の間で基本給や賞与といった待遇についての不合理な差がある場合は是正しなければなりません。
特に、労働の量・時間が同一であれば、正規・非正規雇用を問わず賃金も同一であるべきだという同一労働同一賃金の方針は、今後ますます各企業で遵守する必要があります。
雇用形態の違いを正しく覚えてより良い日常業務を
雇用形態は種類が多く、一見すると雇用形態の一種に見えても、雇用として含まれない契約形態もあります。
人事部の担当者は、それぞれの雇用形態の仕組みや社会保険の適用範囲などを正しく理解しておくことが大切です。今回紹介した内容を、ぜひ、日常業務でお役立てください。
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