アグリゲーターは、プロジェクトの遂行に必要なリソースを企業の枠を超えて集積・統制する役割で、2013年頃から注目されている新しい働き方です。
この働き方をいち早く取り入れたアメリカ合衆国のプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)社では、社外の技術を製品開発・マーケティングと組み合わせる手法(コネクト・アンド・デベロップ)で、商品の差別化に成功しています。
優れたアグリゲーターを迎えて、新たなビジネスチャンスを発掘していくことが、企業の永続には重要な戦略です。
人事担当者として知っておきたい、アグリゲーターの必要性と、求められる能力について解説します。
アグリゲーターとは
アグリゲーターはプロジェクトの中核として、企業の枠を超えて情報・技術や人材を集積し、適所に配置・統括する役割を持つ人材です。
英語のaggregateが語源の言葉で、直訳では「全体としての」「組み合わせる」という意味を持っています。
また、2013年に刊行された書籍「知られざる職種アグリゲーター 5年後に主役になる働き方(柴沼俊一・瀬川明秀著 日経BP社)」の中では、「短期間に社内外の多様な能力を集め・掛け合わせて、徹底的に差別化した商品・サービスを市場に負けないスピードで作り上げるやり方」をアグリゲートと定義しています。
つまり、アグリゲートする能力を持つ個人がアグリゲーターです。個人が持つ潜在能力を最大限引き出しながら、複数の企業を変革(イノベーション)に導く新しい働き方としても、脚光を浴び始めています。
アグリゲーターの役割
アグリゲーターには、組織の枠を超えた自由な発想と行動力を活かして、新たな企業価値を創造する役割が求められています。
プロジェクト遂行という共通目的を持ちながらも、相手の個性や特長を活かした柔軟な姿勢で協業を進めるため、アイディアを融合させる役割(インテグレーター)ではありません。
また、専門性と主体性を持って行動することから、中立的な立場による問題解決の支援(ファシリテーション)に留まらないのも特長です。
アグリゲーターは、経営者・管理者・実務者という3つの立ち位置を持っています。
経営課題を分析した上で自分のビジョンを明確に示し(事業の決定)、課題解決に必要なリソースや人材を集積・配分する行動は、まさに経営者の動きです。
その後、企業価値の創造を実現するため、自身が持つ高い専門性やコミュニケーション能力を駆使して新たな商品・サービスの開発を実務者として推進していきます。
同時に、広い視野でプロジェクト全体を見渡し、短期間で成果を出せるように最適化を図るマネジメントも実施します。アグリゲーターは、プレイングマネージャーとしての一面も持つわけです。
課題解決を確実かつスピーディーに進めるため、アグリゲーターを社外から選出する事例もみられます。
パラレルワークなど働き方の多様化が進む中、業種を横断する専門性を背景に、自社に所属しながら複数の企業と協働(コラボレーション)するアグリゲーターも増えることでしょう。
一定の条件のもとで兼業を容認する規程や、業務の成果を正当に評価する仕組みを作ることが、アグリゲーターが自社内で存分に活躍できる環境づくりの一環として大切なポイントです。
電力業界におけるアグリゲーター
電力業界では、電力会社と需要家(企業・家庭)との間に立ち、電力の需要と供給のバランスをコントロールする役割を担う事業者をアグリゲーターと呼んでいます。
アグリゲーターが用いる仕組みの一つが、「デマンドレスポンス(DR)」です。需要に応じた電気料金の設定や、ピーク時の節電協力に対しインセンティブを支払う(ネガワット取引)等の仕組みによって、電力の安定供給を図りながら節電を促す効果をもたらしています。
電力の小売自由化や太陽光発電の普及など電力供給源が多様化する中、様々な事業者がアグリゲーション事業に参入することによる、新たなビジネス展開も期待されています。
注目される理由と必要性
ビジネス環境の多様化・複雑化に伴い、市場ニーズへ柔軟に対応するためには、企業体質の変革が求められています。
また、SNSをはじめとするICT技術が発達する中、競合他社に勝ち抜くためには迅速な対応が重要です。
イノベーションの旗振り役ともいえるアグリゲーターが注目される理由と必要性について、掘り下げてみましょう。
1.ビジネス環境の複雑化
刻々と変化するビジネス環境に追随するため、プロジェクト(商品・サービスの開発)ごとに専門性豊かな人材を集結し、集中的に取り組む必要性に迫られています。
「VUCAの時代」と呼ばれるように、ビジネスを取り巻く環境は目まぐるしく変化しているからです。
ちなみに、「VUCA」は、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの単語の頭文字で造られた言葉です。
消費者ニーズの多様化や市場の変化に伴い、ビジネスモデルの再構築が行われるサイクルは短期化しています。既存の組織体質では機動的な対応が難しく、体質の変革に迫られるケースも出てくるでしょう。
また、新型コロナウイルス感染症の流行など予測不可能な事象にも対応できるよう、BCPなどのリスクマネジメントを行うこともビジネスを円滑に進めるために必要不可欠な要素です。
明確なビジョンを持ち、最新の情報を収集・分析しながら組織の枠を超えて行動するアグリゲーターは、企業の永続にとって欠かせない存在として注目されています。
2.ビジネスの迅速化
激しく変化する市場・消費者ニーズに対応し続けるためには、あらゆるリソースを駆使して迅速にビジネスを推進する必要があります。
ICT技術の発達に伴い、情報を収集・分析するスピードが飛躍的に高まっているからです。
商品・サービスの利用を決定する前に、SNSやブログで情報収集を行う流れも浸透しており、口コミを通じた戦略の変更も大いにありえます。
業務の内製化にこだわらず、信頼できるビジネスパートナーに外部委託することも迅速なビジネス遂行には大切な要素です。
iPhoneで知られるApple社では、付加価値が高い独自コンテンツの開発を推進する一方、ハードウェアの製造を外部委託することで、ハードウェア・コンテンツ双方の魅力を増すことに成功しています。
アグリゲーターは、社外の人材や情報・技術などを社内のビジネス戦略に応じて活用する橋渡し役としても注目されています。
3.新たなイノベーション
イノベーション(innovation)は、技術革新という意味の他にも「新たな価値の創造」や「経営革新」という意味合いも含んでいる言葉です。
他社が持たない強みを追求したり、外部の有力なビジネスパートナーと協働して新たなビジネスチャンスを開拓したりする行動は、商品・サービスの高収益化を実現するためには欠かせません。
企業経営を取り巻く環境や市場の動向を広い視野で見極め、既存の資産と社内の有力なビジネスパートナーをフル活用して企業価値の向上をめざすアグリゲーターは、まさにイノベーションを推進する役割です。
組織そのもののイノベーションとして、組織の改革から企業価値や生産性の向上を目指す「オーガニゼーション・イノベーション(organization innovation)」も注目されています。
人材不足や技術継承が経営上の課題となる中、特定の部署・職制にとらわれない働き方を模索する動きもみられます。
例えば、次世代型組織モデルといわれる「ティール組織」では、業務遂行に関する権限を個々の従業員に委譲(エンパワーメント)することで、自己成長と組織の革新を同時に目指していくのが特徴です。
アグリゲーターが自由に活動できる土壌を作る点で、画期的な組織だといえます。
アグリゲーターに求められる能力と資質
プロジェクトを短期間で成功に導くためには、アグリゲーターの強力なリーダーシップはもちろん、適材適所での人員配置が求められます。
人事評価制度を適切に運用し、メンバーの能力を可視化しておくことも、プロジェクトを戦略的に遂行する秘訣です。
アグリゲーターに求められる能力と資質について、確認しておきましょう。
1.人的リソースの集結力
人的資源(ヒューマンリソース)の集結力は、アグリゲーターに求められる能力として最も重要な位置づけです。
プロジェクトの遂行に必要な能力を持つ人材を多方面から集結させるため、人を見る能力(観察力・洞察力)の善し悪しがプロジェクトの成否を左右することになります。
また、複数の分野にまたがる専門知識を背景に、個人が持つ能力・個性を把握することも、適材適所へ人材を配置(アサイン)するにあたっては大切な要素です。
人事評価制度やスキルマップを用いることも、プロジェクト遂行に適した人材配置の検討には効果的といえます。
AIやIoTによる業務の自動化・効率化が進んだとしても、新たな価値を創造するプロセスにおいては人間の知見と判断が必須です。
2.プロジェクト推進力
アグリゲーターには、全体の動きを俯瞰した上で企業の利益につながる方向性をもってプロジェクトを推進する力も求められます。
プロフェッショナルといえども、時には能力の限界に気づき、自分が持つプライドや過去の実績を捨てて他のメンバーに特定の課題解決を委ねる場面もあるでしょう。
解決すべき課題ごとにPDCAを回し、他のパートナーの助けをいとわないことが、プロジェクト完遂という共通のゴールを目指すには大切です。
2020年4月の労働基準法改正に伴い、残業時間の上限が月45時間・年360時間(特別な事情がある場合でも年720時間が上限)に定められています。
プロジェクトを円滑に推進するために、プロセスごとのスケジュール管理を入念に行うよう心がけましょう。
3.強力なリーダーシップ
メンバー個々の専門性と主体性を尊重しながら、短期間でプロジェクトを完遂するためには、アグリゲーターのリーダーシップが肝心です。
プロジェクト成功後の姿(ビジョン)をメンバーへ明確に説明し、改善案などの意見を聞いた上でゴールに向かって誘導することは、リーダーであるアグリケーターだけが成し得るからです。
進捗状況をチェックし、必要に応じて経営層への支援を求めることも、リーダーとして重要な役割の一つです。
トラブルに遭遇した場合でも平常心を失わず、速やかに善後策を出せる胆力も、アグリゲーターとしては大切な資質だといえます。
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