求職者支援訓練とは、雇用保険の資格がない求職者でも受講できる職業訓練です。
社会人として最低限必要なスキル・マナーを学べる基礎コースから、特定の職業で役立つ実務能力を習得できる実践コースまで用意されており、充実した就職支援を受けられます。
人事担当者や管理者は、キャリアで悩む従業員との相談や、人材採用においてこの制度を理解しておくと役立つでしょう。
今回は、求職者支援訓練の仕組みや公共職業訓練との違い、受講コースの例や手続き方法を紹介します。
求職者支援訓練とは
求職者支援訓練とは、雇用保険を受給できない求職者を対象として、必要な技能及び知識を教育することによって、早期に就職できるように支援するための訓練です。
求職者支援訓練の概要
求職者支援訓練は、求職者支援制度に基づいて実施されています。求職者支援制度とは、職業訓練やハローワークの就職支援を通じて離職者などの早期就職をサポートするための制度です。
職業訓練には公共職業訓練と求職者支援訓練の2種類があります。そのうち雇用保険を受給できない求職者を対象とするのが求職者支援訓練です。なお、要件を満たせば受講期間中に「職業訓練受講給付金」を受け取れる可能性があります。
訓練を実施するのは職業訓練について厚生労働大臣の認定を受けた民間機関です。カリキュラムは原則無料で、受講者は受講期間中から就職先の紹介なども受けられます。
受講する要件
求職者支援訓練を受講するにはいくつかの要件があります。
ハローワークに求職の申込みをしていること、雇用保険の被保険者や受給資格者でないこと、労働の意思と能力を持つこと、職業訓練などの支援を行う必要があるとハローワークが認めたことなどです。
これらを全て満たすと「特定求職者」となって訓練を受講する資格を得られます。
求職者支援訓練はカリキュラム内容が濃くハローワークからも就職支援を受けられるという充実した制度です。その分、参加するには熱心に取り組み、安定した就職を目指す人物でなければなりません。
そのため、訓練を遅刻、欠席、早退したり、ハローワークからの就職支援を拒否したりすると、受講停止や職業訓練受講給付金の給付取り消しになることがあります。
求職者支援訓練と公共職業訓練の違いとは
職業訓練には、求職者支援訓練と公共職業訓練があり、いくつか違いがあります。
訓練の対象者
公共職業訓練は主に雇用保険を受給している求職者が対象です。
職業能力開発促進法という法律に基づいて整備された仕組みで、従来から職業訓練と言えばこの公共職業訓練がメインでした。
公共職業訓練の財源は雇用保険が原資となっているので、対象は原則として雇用保険の受給資格者のみです。
一方、求職者支援訓練は雇用保険の被保険者や受給資格者でない特定労働者を対象としています。
就職氷河期や2004年の改正派遣労働法施行などを経て、非正規雇用あるいは継続的に雇用がされず雇用保険に加入する機会のない労働者が増加。
また、離職後に長期ブランクがあるために雇用保険を受給できない求職者もいます。こういった求職者は公共職業訓練の対象からは外れてしまい、再就職で不利になる状況が生まれました。
そこで救済的措置として設けられたのが求職者支援制度であり、求職者支援訓練なのです。
訓練の内容
公共職業訓練は、主に公共職業訓練校や委託された訓練機関が実施しており、訓練内容は介護や事務、生産など幅広い分野にわたります。
一方、求職者支援訓練は主に民間企業や学校、NPOなどが実施しており、訓練の内容は事務系や介護、医療、サービスなどが多いようです。
求職者支援訓練のコース例
求職者支援訓練は基礎コースと実践コースに分かれており、内容は受講する機関や地域によってさまざまです。
ここでは基礎コースと実践コースの特徴や、実践コースの中でも特色のある例を紹介します。
基礎コース
基礎コースでは社会人として必要とされる基礎的な能力を短期間で習得することができます。
例えば、パソコンスキルやキャリアプランの設計、ビジネスマナーといった内容です。
特にパソコンについてはマイクロソフトのワード、エクセル、パワーポイントといった定番ソフトの使い方を学びます。
実践コース
実践コースでは就職を希望する職種で必要となる実践的な技能を習得できるようになっています。
分野は介護系、情報系、医療事務系などさまざまです。情報系では、表計算や、アプリ開発といった専門的なスキルを学ぶコースもあります。
その他特色あるコース
地域や職業訓練機関によっては、実践コースとして特色があるコースを用意していることがあります。
例えば、WEB制作は人気のコースの1つです。関連して、WEBデザイナー、グラフィックデザイナーといったパソコンを使うクリエイティブ職向けのコースもあります。
地域の特色が反映されているものとしては、伝統工芸や地域特産品などの製造や、農業を学べるものなどさまざまです。
他には、海外との関わりで役に立つ貿易実務を学べる「国際ビジネス」、旅行業界での実務を学べる「トラベルビジネス」といったものもあります。
求職者支援訓練は職業訓練受講給付金の受給が可能
求職者支援訓練の受講者で一定の要件を満たす場合は、職業訓練受講給付金を受給できます。
この給付金には、職業訓練受講手当や通所手当、寄宿手当などが含まれており、上限はそれぞれ月額10万円、該当者のみ経路に応じた所定金額月額1万700円です。原則として1カ月間の支給期間単位ごとに支給されます。
支給要件は、本人収入が月8万円以下、世帯全体の収入が月25万円以下、世帯全体の金融資産が300万円以下、現住居以外に土地・建物を所有していないといったものです。
また、熱心な受講態度を前提としているので、全ての訓練実施日に出席し、やむを得ない事情があって欠席する場合でも80%以上の出席率が求められます。
他には、同じ世帯に給付金を受給している人がいないことや、過去3年以内に不正に給付金を受給したことがないことも要件です。
なお、求職者支援訓練は、原則として雇用保険の被保険者でない人が対象ですが、ハローワークで相談する中で求職者支援訓練の方が適していると判断された場合は、雇用保険(失業手当給付金)を受給しながら求職者支援訓練に参加できることがあります。
ただし、この場合は重複して職業訓練受講給付金を受給することはできません。
求職者支援訓練を受講するための手続き
求職者支援訓練を受けるには、ハローワークに出向き所定の手続きが必要です。ここでは主な手続き方法を紹介します。
制度説明
まずはハローワークで求職の申込みを行うのが最初のステップです。次に、ハローワークで職業相談を受け、就職活動の状況や希望などを伝えたり、求職者支援制度の説明を受けたりします。
次は方針決めです。相談の内容によって、職業訓練コースを受講する必要性が高いと判断されれば、マッチする職業訓練コースなどについて検討していきます。
ここで求職者は受講申込書などの必要書類を受け取り、求職者職業訓練の申込みに進むことになるのです。
なお、職業訓練受講給付金の受給を希望する場合は、職業相談の時に申し出て要件などを確認しましょう。
受講申し込み
制度の説明や職業相談を受けた結果、求職者職業訓練の受講を希望する場合は、ハローワークの窓口で受講申込みの手続きを行います。
なお、この時点でハローワークが職業訓練の受講が必要ないと判断した場合、基本的には受講申込みができません。
受講の必要性が認められた時は、受講申込書を受け取りハローワークの受付印を押印してもらってから自身で訓練実施機関に提出します。
提出した受講申込書は返却されないので自身で控えを保管すると安心です。その後は訓練実施機関で面接や筆記試験などの選考が行われます。
就職支援計画の交付
訓練実施機関から合格通知が届いた後は、就職支援計画の交付を受けることが必要です。
訓練開始日の前日までにハローワークに出向き、就職支援計画を受け取ります。これは「支援指示」と呼ばれるもので、これがなければ訓練を受講できません。
合格通知だけでは受講できないため注意が必要です。なお、支援指示は訓練開始日の前日までですが、ハローワークによっては日時を指定するケースもあるので事前に確認しておく必要があります。
訓練の受講開始
訓練が始まったら、カリキュラムを順次消化していきます。遅刻、欠席や早退をすると継続ができなくなったり職業訓練受講給付金が停止されたりすることがあるので注意が必要です。
なお、訓練期間中はカリキュラムの受講だけでなく、訓練修了の3カ月後までは原則として月に1度ハローワークで職業相談を受ける必要があります。
求職者支援訓練についてのまとめ
求職者支援訓練は、雇用保険の資格がない求職者でも受講できる職業訓練で、基礎から実践的内容まで豊富な種類のコースが用意されています。
また、ハローワークから充実した就職支援も受けられる他、要件を満たせば受講給付金が支給される点もメリットです。
手続きはハローワークにて職業相談を受けてから選考に通過する必要があります。人事担当者や管理者は、従業員とのキャリア相談や人材採用において知っておいて損はない制度でしょう。
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