2017年現在、企業は深刻な人手不足に陥っているというニュースが、頻繁に報道されています。そして、人手不足を背景に、人材市場でも売り手が優位に立っているといわれていますが、果たしてそれは真実なのでしょうか。実は「売り手市場、人手不足」は政府の働きかけによるもの、という見方もあるのです。
正社員から非正規社員に雇用形態のシフトが進む
「人手」が足りないといわれていますが、そもそもそれはどういった人材なのでしょうか。雇用形態などに着目して、掘り下げて見ていきましょう。人手不足は政府の働きかけではないか、と見る根拠としてまず挙げられるのは、2003年3月に当時の小泉内閣の下で実施された労働者派遣法の改正です。
これにより、例外扱いで禁止されていた製造業および医療業務への派遣が解禁されました。また、専門的26業種は派遣期間が3年から無期限となり、それら以外の製造業を除いた業種では、上限が1年から3年に延長されました。
当時の日本経済が深刻なデフレに蝕まれていたこともあって、企業はこの法律改正に対応して派遣労働者の活用を推進し、実際に非正規雇用社員の数が急増しました。2005年には非正規雇用が雇用者の3割を占めるようになり、2016年には37.5%まで拡大しています(総務省労働力調査)。
その結果、多くの人たちが社会保険や労働保険などいったセーフティーネットの“蚊帳の外”となり、所得や教育の格差も拡大していきました。つまり、正社員と非正規社員の二極化が進んだというわけです。
その後迎えた2008年の金融危機の時期に、非正規社員は雇用調整の対象となります。2008年には大幅な人員削減に伴って路頭に迷う人が続出して、NPOや労働組合によって「年越し派遣村」が組織されたことが話題になりました。
このように生活に不安を抱えていては、自然とお金を使わなくなります。すると、企業は利益を出せず、雇用も生まれません。非正規社員の確保でその場をしのぐだけです。そうなると個人消費は伸びず、企業はいっそう利益を上げられないというデフレのスパイラルに陥っていきました。
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雇用や景況感に関する指標と実態には大きなかい離も
そこで、政府がこの状況を乗り切るために実施したのが株高政策でした。日本銀行がその後ろ盾となって、日経平均株価などに連動するETF(指数連動型上場投資信託)を大量に買い続けています。
株価が上昇すれば、個人の金融資産も拡大することになります。しかしながら、それらの資産を保有している人たちと非正規社員は、ほとんど一致しないのが現実でしょう。株高に伴って企業にはお金が回るようになりましたが、大半の個人のところまでは辿り着いていません。
このように、一般の人々が実感をもてない中で、戦後3番目の長さに達したといわれる景気拡大が続いていると国は指摘します。2017年3月の完全失業者数は188万人で、前年同月に比べて28万人の減少となり、完全失業率は2.8%まで低下しました。また、2016年度の平均有効求人倍率は1.36倍で7年連続の上昇となり、1991年(1.40倍)以来25年ぶりの高水準でした。
けれど、繰り返しになりますが、雇用の多くを占める非正規社員は、景気拡大の恩恵を受けていません。企業が求めている人手についても、非正規社員の割合が高いことも間違いないでしょう。明らかに数字と実態にかい離がうかがえるのが実情であり、だからこそ政府の演出ではないかと疑いたくなるわけです。
自社に本当に必要な人材を見極める
「売り手市場、人手不足」といった言葉がメディアを賑わすことも多いですが、経営者は自社が本当に必要な人材とはなにか、と定義し、そうした人材を採用するための計画を定め、運用していく必要があるといえるでしょう。
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