中小企業の経営者が将来的に後継者をどうするか、地位や株式、不動産などの資産をどのように引き継ぐかを決めるのが「事業承継」です。中小企業の約29万社が1年間に廃業、うち後継者不足が原因とされる廃業は約7万社とも言われており、事業承継ができない現実がうかがえます。
中小企業庁の調査では、事業承継を行わずに「廃業もやむを得ない」と答えた中小企業は約7割に上っています。中小企業が事業承継でトラブルに陥らないための注意点を検討します。
事業承継で典型的なトラブル
中小企業が「事業承継」をする場合、どのように「資産」、「知的財産」、「人」が引き継がれるのかが重要で、そこから起こりうるトラブルを各テーマに分けて考えます。
中小企業が後継者を選び、育成するための準備には、かなりの時間が必要です。近年、職業についての意識や価値観が変わってきたために、親族が必ずしも後継者になるとは限りません。外部から経営の素養がある人材を後継者として招聘したり、優秀な従業員を後継者として内部昇格させる事業承継が多くなってきています。
いざという時に、後継者不在でトラブルを招かないよう、計画的に後継者を選び、育成することが大切です。後継者が自社株や負債を買い取る場合、かなりの金額、費用となるケースがあることを考えると、事業承継自体が難しくなることもあります。
経営者が親族内の後継者に事業承継させる場合には、株式や資産など相続財産の大半を譲渡することになります。ところが、事業用の株式や資産について、被相続人(経営者)の兄弟姉妹以外の相続人に対して留保された相続財産の割合(遺留分)を、別の相続人から主張される恐れもあります。
● テーマ別(資産・知的財産・人)
◇ 資産
中小企業の場合、会社の資産、負債と経営者個人の資産、負債の境目が曖昧で、判別しにくいケースが結構あります。会社のための運用資金として、経営者個人の資産を投入し、個人保証や不動産を担保に入れるほか、土地や建物を会社に賃貸している場合もよくあるケースです。
親族内での事業承継の場合には、あまり大きな問題にはなりません。しかし、従業員や外部からの第三者へ事業承継するケースでは、これらを明確にしておくことがトラブルを避けるために重要です。経営者個人の資産が第三者に渡るなどのトラブルを避けるためには、事業承継を進める際に会社と経営者個人の資産を区別し、資産と負債を明確にする必要があります。
◇ 知的財産
企業が生み出したアイデアやデザインなど、いわゆる特許権や意匠権、著作権、商標権などが知的財産です。通常、知的財産と呼ばれるものは、一見して分かりにくいため、事業承継が難しいと言われています。なかでも、親族内よりも外部の第三者に事業承継する場合は、知的財産を分かりやすくする意味でも可視化することが欠かせません。
◇人(経営、従業員)
会社で、人無くして経営は成り立ちません。無くてはならない存在が、従業員です。この従業員がいなければ、事業はもちろんのこと、企業として利益を生みだすことも不可能です。人材という言葉通り、従業員こそが一番の資産であると言えるかもしれません。
経営者は利益を追求する一方で、従業員やその家族の生活、暮らしを守っているものです。事業承継には、経営者が退いた後も後継者が継続して従業員の生活を守るという側面があります。後継者は経営者の思いや理念をきちんと受け止め、向き合うことで、従業員の信頼も継続するものです。
事業承継でリスクヘッジとしての人事評価制度
事業承継でトラブルを回避するために効果的なのが、人事評価制度の見直しとルールに則った運用です。中小企業の場合、よくある親族が後継者となるケースで、適切な人事評価制度の導入で、経営者から新社長、中間管理職へとスムーズに権限委譲できます。従来の文鎮型だった組織も、ピラミッド型の適正な形態に生まれ変わり、協力体制が取りやすくなるメリットも表れています。
公平で透明性のある人事評価制度を導入することで、適切な昇給や昇進が実現。人材の流出など離職にも歯止めがかかり、順調に組織が拡大しています。組織内の役割が明確になり、社員自らが目標設定し、それを上司と共有することが可能となっています。
円満な事業承継のために、社員のことを考え成長を繋げる人事評価制度。今では現状分析から構築、導入、運用のサポートまで含めて、リーズナブルに専門家のサポートを受けることもできます。中小企業にとって大きな節目となる事業承継では不可欠と言えます。
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