スマホが変えた、日本の新卒採用 ―i-plug 中野社長インタビュー前編―

 

大卒求人倍率調査(2019年卒)によると、2019年3月卒の大学生・大学院生の大卒求人倍率は1.88倍となっています。しかし、従業員数300人以下の中小企業に絞ると、大卒求人倍率は9.91倍まで跳ね上がり、新卒市場において従業員規模の格差がいかに大きいかが読み取れます。今回は、企業から学生に直接オファーを送ることができる、新卒に特化したダイレクトリクルーティングサービス「OfferBox」を提供する株式会社i-plugの代表取締役社長 中野 智哉(なかの ともや)氏に新卒採用の変化などについてお話を伺いました。

【Profile】
中野智哉(なかの ともや)
株式会社i-plug 代表取締役社長
1978年兵庫県生まれ。
中京大学を卒業後、新聞折り込みの求人広告を扱う会社にて法人営業を経験。
その後株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)にて10年の間、
正社員からアルバイト、中小企業から東証一部上場企業の採用を幅広く経験する。
2010年にMBA取得のためグロービス経営大学院大学に入学。
山田氏(株式会社i-plug現CFO)と田中氏(株式会社i-plug現CHRO)に出会う。
「若者の成長を加速させるプラットフォームを創りたい」という想いから、
2012年の大学院卒業と同時に株式会社i-plugを設立。
新卒に特化したダイレクトリクルーティングサービス「OfferBox」を提供する。


日本の学生の就活事情は、ようやく変わり始めている

 

――時代の変化により、学生の就職活動も変わってきているのでしょうか?

学生が企業を選ぶ基準は、正直あまり変わっていません。

初任給や福利厚生といった労働条件や、企業の認知度。
新卒の場合は特に、その企業で長く働くことを前提に就職先を探しているので、
業界や会社の将来性も重視しています。

一方で、就活の方法は大きく変わっています。
というより、今までが「変わらなさすぎた」と言ったほうが正しいかもしれません。

海外の就活市場では、求職者と企業がマッチングするシステムで成り立っています。
国内の転職市場やアルバイトもそうです。

時代の流れに合わせて変化する中で、日本の新卒市場だけが取り残されていました。

しかし、ここ数年で日本の新卒採用も変化しつつあります。
きっかけは、スマートフォンの普及です。


スマホ普及により、コミュニケーションの取り方は大きく変わった

 

――なぜスマートフォンの普及が転機となったのでしょうか?

スマホとパソコンでは、使用方法が全く違いますよね。
まず、画面の大きさが違います。
更に、利用する場所や起動時間、利用する時間帯も違います。

パソコンを電車の中で利用する人は少ないですが、スマホを使っている人は沢山いますよね。

――当然、ほとんどの学生がスマホを利用して就職活動をしていると。

そうですね。当社のサービス「OfferBox」を利用している学生も、
リリース当初の6年半前はスマホからのアクセスは50%でしたが、今は90%に上がっています。

――スマホに変化したことに よりどんな影響があるのですか?

一般的にも言われていることですが、見せ方を変える必要があります。

スマホの画面はパソコンと比較してとても小さいです。
そして1ページあたり長くとも1分程度しか見られていません。

すぐスクロールされてしまうので、アピールポイントを明確にし、
目立たせなくてはなりません。

小さな画面に多くの情報を詰め込みすぎると、伝えたいことが伝わらず、
採用ページにすら入ってもらえないのです。

しかし、多くの企業が気づいていないことがほかにあります。

――多くの企業が気づいていないこととは?

就職活動で使うツールがパソコンからスマホに代わることは、画面の大きさの変化や、
いつでも検索することができて便利になるだけではないのです。

パソコンは手の上には乗りません。机の上に置いて使うものです。
しかし、スマホは手の中にあり、体との距離も近いですよね。
使用していないときにもポケットに入れて肌身離さず持っている人も多いと思います。

そうなると、だんだんと「直接体に連絡が届く」という感覚に近づいていくのです。

パソコンでメールを見ることは、ポストに郵便物を見に行く感覚に似ています。
自分でパソコンを立ち上げて、メールボックスを開かないとメールが見られません。

しかし、スマホだとどうでしょう。メッセージが来て通知が鳴ったらすぐに見ることができますよね。

わからないことがあれば 、今はスマホですぐ検索できますよね。
パソコンが主流だった時代は、まず自分で考えて、それでもわからないときにパソコンを立ち上げたはずです。

まるでスマホが体の一部かのようになっているので、それに伴いコミュニケーションの方法も大きく変わっています。

新卒採用に成功している企業は、その変化にも対応しています。

テクノロジーを活用し、スマートな採用活動を

 

――具体的にコミュニケーション方法はどう変化しているのですか?

スマホの普及と同時に、LINEなどのメッセージツールも普及しました。
LINEはメールより気軽に送れるので、一つのメッセージが短い。

メールのように一度に複数の要件を送るのではなく、一つのメッセージに一つの要件で、テンポよく会話できます。

問題は、学生がスマホで就職活動をしているのに対し、多くの企業はパソコンを利用して採用活動をしていることにあります。

これまでの習慣で、つい一つのメールにいくつも要件を入れてしまいがちですが、それをスマホの小さな画面で見るのはとても面倒です。

2000文字くらいのメールを送る企業もたまにありますが、例えばLINEに2000文字のメッセージがきたらどう思いますか?ちょっと読むのを躊躇いますし、いくつもある要件一つひとつに返事をするのも大変ですよね。

文章は短く、要件を絞ることが現代のコミュニケーションのスタンダードです。

――成功している企業はチャットツールなどを使ってこまめに連絡を取っていると。

はい。そしてチャット以外にも、ITを導入し始めています。

例えば、面接の日程調整 は採用担当者よりもBotに任せた方がいいでしょう。返事がすぐに返ってきますし、気も遣わない。

その後、チャットに移り、対面で面接を行うというように細かくフェーズを分けています。

※Bot(ボット)…インターネットボットの略。
インターネット上で自動化されたタスクを実行するアプリケーションソフトウェアのこと。

対面のコミュニケーションは昔から変わっていません。

テクノロジーが代替する部分とテクノロジーを活用する部分、対面でより深く関係構築をする部分を分けている企業が新卒採用に成功しています。

テクノロジーを活用しきれないと、どこかで必ず不具合が起きてしまうと思います。

求人倍率が右肩上がりの現代では、売り手市場だから、人がいないから採用に苦戦しているだけと考えている企業も少なくありません。

しかし本当にそうなのでしょうか?テクノロジーを活用すれば、チャンスはもっと広がるかもしれません。

 

――後編では、中小企業が新卒採用を成功させるためにできることについて、具体的にお伺いします。

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