9月下旬に開催予定の臨時国会へ向けて、戦後最大級といわれる労働基準法等の改正法案の提出準備が、急ピッチで進められました。
来たる国会では、2017年3月に働き方改革実現会議で決議された「働き方改革実行計画」に沿った改正と、すでに2015年に国会提出され、継続審議となっていた改正を一本化した法案が提出される見込みでした。ところが、早期の衆議院解散の見方が強まったことを受け、法案提出は先送りされる可能性が高くなりました。
とはいえ、すでに法案要綱は、政府諮問機関である労働政策審議会の了承を受けており、国会提出のタイミングを待つばかりの段階です。数ある改正点の中では、特に「残業時間の上限規制」と「正規・非正規の格差是正(同一労働同一賃金)」に注目が集まっています。
残業時間の上限規制は、罰則付きという厳しいものになります。併せて、規制の実効性を確保するために、三六協定の締結や労働時間管理に対する労働基準監督署の監督、指導を強化できるよう、法的な整備がなされます。
同一労働同一賃金の内容は、パートタイマーや有期契約・派遣社員などいわゆる非正規社員と正社員の間で、給与と福利厚生面で不合理な差を設けてはならないというものです。もし待遇差を設けるのであれば、その差に合理的な理由があることを説明できるようにしておかなければならなくなります。説明に納得できない非正規社員が、相談や苦情を行政窓口や紛争処理機関に持ち込むケースが増えると予想されます。
それ以外にも、中小企業にとって大きなインパクトがある改正が、継続審議扱いで今回の法案に吸収された項目に含まれています。ここではその内容を見ていきましょう。
中小企業でも見直される時間外労働の割増賃金
2015年に提出されていた改正法案のポイントは、次の4点です。このうち、4の「高度プロフェッショナル制度」に対して大きな反発があったため継続審議となった経緯があります。今回、政府与党は、連合から示された休日確保などの健康確保措置に関する要望をすべて受け入れ、法案を成立させる構えです。
1. 中小企業における月60時間超え時間外労働への割増賃金の見直し<2022年4月1日施行予定(注)>
2. 年次有給休暇の取得促進
3. フレックスタイムの見直し
4. 特定高度専門業務・成果型労働(高度プロフェッショナル制度)の創設
<2~4は、2019年4月1日施行予定(注)>
(注)施行日は法律の成立時期によって、ずれこむ可能性があります。
中小企業にとって、1の「中小企業における月60時間超え時間外労働への割増賃金の見直し」は、企業経営にも直結する問題です。この点を中心に解説していきましょう。
法定上限の残業なら月平均の最低賃金は東京都で23万6,000円に
簡潔に説明すると、就業者の残業が60時間を超過した部分については、1時間当たり賃金の1.5倍(50%増)の計算で割増賃金が発生するというものです。そして1時間当たりの賃金は、「最低賃金」を下回ることはできません。
最低賃金で働く人が改正後の割増賃金が適用された場合の月平均の給与額を、東京都のケースで計算してみましょう。
例えば、1ヵ月の所定労働時間数=170時間、1年のうち6ヵ月の残業時間を月45時間、残り6ヵ月は月75時間の残業とした場合で、東京都の1人当たり月平均最低賃金を算出してみます。なお、改正案による残業規制では、月45時を超える残業は年間で6ヵ月までしかできず、かつ1年間の残業は720時間が上限とされていますので、この設定で残業時間数の上限ぎりぎりとなります。(ただし法定休日の労働時間はこの上限時間に含まれません。この例では法定休日労働はないとします。)
・ {170時間+(45時間×1.25)}× 6ヵ月 = 1,357.5時間
・ {170時間+(60時間×1.25)+(15時間×1.5)}×6ヵ月 = 1,605時間
・ (1,357.5時間+1,605時間)÷ 12 = 246.875時間
・ 246.875時間×958円(東京都・最低賃金※)=23万6,507円
<※この最低賃金額は、2017年10月1日から適用>
次に、企業では従業員への報酬額が総体的にどの程度増えるのかを計算してみました。
東京都の従業員50人規模の企業が支払う年間賃金の増額(全員が前記同条件)は次の通りです。1ヵ月の残業が60時間を超えている6ヵ月間につき15時間分の割増賃金が0.25倍増加したことに伴い、増加する賃金は1人当たり3,592.5円(958円×0.25×15時間)です。
・3,592.5円(1人・1ヵ月当たりの増額)×6ヵ月×50人=107万7,750円
以上の計算によると、50人規模の会社で従業員全員が上限規制いっぱい残業するという働き方をすると、給与として支払う金額は年間で約108万円程度が上乗せされることとなります。さらに、賃金増加に応じて、労働保険料などの法定福利費も増加することになります。
「最低賃金」というとアルバイト、非正規雇用などの働き方にかかわってくる問題と思われがちですが、企業での就業実態をみるとそうではないことがよく分かります。実際のところ、社員全員が最低賃金ぎりぎりで働いている中小企業は多いといえます。中小企業の経営者の方々に「みなし残業を含めて支給していますか?」と尋ねると、7~8割の手が挙がるのが実情です。
みなし残業は採用時に給与条件を魅力的にみせる役割も果たしていました。月額17万円で求人を出しても人が集まらない、という状況に対し、残業代を30時間含めて「月額21万円」などと打ち出してきた経緯があったのが実情です。しかし、2016年12月からは固定残業代の表記も厳格化されています。
今後見込まれる労働関連法の大改正も含め、中小企業の人材確保は、一層の新たな取り組みが必要な時代となっているのです。
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