日本のプロバスケットボールチーム「千葉ジェッツふなばし」をご存知でしょうか?プロバスケットボールリーグである「B.LEAGUE」での成績はトップクラスで、観客動員数や収益でも他を圧倒している同チームですが、5年前は運営会社の預金残高が数百円という時期もあったほど危機的な経営不振に陥っていました。
そんな千葉ジェッツふなばしの経営再建に手腕を発揮し、いま最も勢いのあるチームへと変革したのが、株式会社千葉ジェッツふなばし代表取締役の島田慎二さんです。同社の経営に参画するまで、バスケットボールはもとよりプロスポーツチームの運営とは関連のないビジネスに身を置いてきたという島田さん。いわば畑違いから乗り込んできた状況のなかで、いかに事業を好転させていったのでしょうか。お話を伺いました。
【Profile】
島田 慎二(しまだ しんじ)
株式会社千葉ジェッツふなばし 代表取締役/公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(B.LEAGUE) ヴァイスチェアマン
1970年新潟県生まれ。1992年、(株)マップインターナショナル(現:(株)エイチアイエス)入社。95年に独立し、(株)ウエストシップを設立(共同経営)。2001年に同社を退任し、(株)ハルインターナショナルを設立。2010年、同社を売却し(株)リカオンを設立。2012年、プロバスケットボールクラブである「千葉ジェッツ」の運営会社、(株)ASPE(現:(株)千葉ジェッツふなばし)の代表取締役に就任。2017年、千葉ジェッツふなばしの経営に参画したまま「B.LEAGUE」のヴァイスチェアマン(副理事)に就任する。
小さな目標達成を続けることで、社員が上を向いて働ける組織に
―島田さんが社長に就任した当時の状況について教えてください。
島田さん:「千葉ジェッツ(現:千葉ジェッツふなばし)」は、私が社長に就任した2012年当時、深刻な経営不振に陥っていました。バスケットボールチームは、実を言うと2,000万円ほどの資金があれば立ち上げること自体は不可能ではないんです。しかし、事業として継続的に運営をしていくのは並大抵の努力ではなかなか難しい。千葉ジェッツはスポーツチームとしても、会社としてもこのままでは存続ができないという瀬戸際まで来ていました。
そこで私が改革の土台としてはじめに行ったのは、経営資源をどこに投資するかという選択と集中の判断。千葉ジェッツにとって商品・サービスにあたる部分、つまり選手や試合の魅力を高めていくには時間も必要ですし、私はバスケットボールを熟知している訳ではない。むしろ、運営組織のコンディションを良くすることが先決だと考えました。
―組織の何が問題で、どう変えていったのでしょうか?
島田さん:いくつかの課題を解決する必要があったのですが、一番は組織全体で諦めとも言えるムードが漂っていたことです。実際に財政は火の車でしたし、詳細を一人ひとりは知らないとしても薄々は感じていたように思います。この状態は、「みんなで頑張ろう!」と気持ちを鼓舞しても何とかなる次元の話ではありません。
まずは「もしかして自分たちでもやればできるかも?」という自信をつけること。みんながうつむいて働いている状況を変え、目線を上にあげていくことが必要だったのです。
そこで私が大切にしたのは、いきなり「日本一のクラブを目指そう!」と大きすぎる目標を掲げるのではなく、「まずは強豪チームに1勝しよう」「スポンサーを20社にしよう」のような小さな目標を立てること。一つひとつは小さなことですが、達成することで成功体験を積んでいくことを重要視していました。
経営理念から個人の目標まで。会社が掲げるすべてを連動させる大切さ
―「適切な目標設定」や「小さな目標達成の連続」を改革の鍵にされていた訳ですが、具体的にはどのように既存のやり方を変えていかれたのでしょうか。
島田さん:まず、人的リソースの問題を解消しました。以前の千葉ジェッツは、「広報 兼 営業 兼 ファンクラブ運営」というような一人が何役も務めていた状況。限りある経営資源のなかで運営していくには仕方がない側面もあったとは思いますが、この体制では人が疲弊しますし、例えば営業成績が振るわなくても「広報で忙しかったから仕方ないよね」とその人の仕事を正しく評価できない「逃げ道」になってしまう恐れがあります。つまり責任の所在がはっきりしない危うさがあるんです。そのため、潰れそうな状況でも敢えて人を増やし、原則的に役割を専任してもらう体制へと変えていきました。
それと並行して行ったのは、「千葉ジェッツを取り巻く全ての人たちと共にハッピーになる」という活動理念を掲げること。私たちが存在する意義を示し、すべての行動の指針となるものが必要だと考えました。その理念をもとに、ミッションや行動指針を策定。そこから具体的な数値目標や行動目標をつくり、個人目標へとブレイクダウンしていきました。また、年間目標は日々の数値やタスクに落とし込んでいき、目標が形骸化しないように週次でのプロセス管理も徹底するようにしました。
つまり、私が大事にしていたのは、会社のビジョンを働く一人ひとりの爪の先まで連動させていくこと。会社の目標達成は社員全員の努力が積みあがってできるものですが、会社の目標は個人一人ひとりにとっては少し遠い存在です。そのままの状態で下ろしても「自分事」に感じられないのではないでしょうか。だから、まずは小さな目標・日々の行動にしっかりと向き合える体制をつくり、自信をつけていくことに集中していたんです。
それでもすぐに会社が変わったわけではありません。1年目は半信半疑でも、2年立てばみんなに自信が備わってきて、そのタイミングではじめて「日本一」を掲げるようになりました。これらのプロセスを経たことで、結果的に事業としての業績は3年目にして当時のbjリーグで一番だった「琉球ゴールデンキングス」を超え、5年目にしてNBAでのプレイ経験もある人気選手、田臥勇太選手を擁する「栃木ブレックス」を超えることもできたんです。
―しっかりとスタッフのみなさんに向き合ったことが、ここまでの成長の土台となっているんですね。
島田さん:私の仕事は、「みんなの目標を達成させること」だと思っていますし、スタッフにもそう宣言しています。経営って雲をつかむようなもので、取り巻く環境の変化など不確定要素が多く「絶対」はありません。でも、その確率を上げることこそが経営の本質だという信念でいますし、そのためにも経営者はもっと社員に向き合うべきではないでしょうか。
千葉ジェッツの理念にある「全ての人たちと共にハッピーになる」には、もちろんスタッフも含まれています。社長が下手に社外の人脈づくりに精を出しても、スタッフを幸せにできていないのであれば、外に出るべきではありません。
100人くらいの会社なら、部長や課長に任せてしまうのではなく、社長自身が真剣に一人ひとりと向き合えるはずだし、そうすべきだと思いますね。
――インタビュー後編では、評価・報酬に関する島田さんの考え方や、「B.LEAGUE」の副理事に就任された背景にあるスポーツビジネスの労働環境などをお話いただきました。次回もお楽しみに。
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