これまでに出会った経営者・人事担当者は1,000人以上。転職を成立させたのは2,000件以上にものぼり、業界で知らない人はいないとも言えるカリスマ転職エージェントが、株式会社リクルートエグゼクティブエージェントの森本千賀子さんです。
主に経営幹部や管理職の採用支援、キャリア支援を手掛ける森本さんは、二児の母でもあり、2017年3月にはリクルートに在籍したまま株式会社morichを設立されたパラレルキャリアの体現者。女性活躍や副業といったテーマで語られることも多い「働き方改革」をどのように捉えているのでしょうか。インタビュー前編では、働き方改革の現状とパラレルワークについて、ご見解を伺いました。
【Profile】
森本 千賀子(もりもと ちかこ)
株式会社リクルートエグゼクティブエージェント エグゼクティブコンサルタント/株式会社morich 代表取締役 オールラウンダーエージェント
大学卒業後の1993年、(株)リクルート人材センター(現:(株)リクルートキャリア)入社。大手からベンチャーまで幅広い企業に対する人材戦略コンサルティング、採用支援、転職支援を手掛ける。現在は、(株)リクルートエグゼクティブエージェントにて、主に経営幹部、管理職を対象とした採用支援、キャリア支援に取り組む。
2012年、2013年、2015年とNHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。また、放課後NPOアフタースクールや一般社団法人ソーシャル・インベストメント・パートナーズの理事としてソーシャル活動にも注力。2017年3月、株式会社morichを設立し、さらに活動領域を広げる。
働き方改革=ワークライフバランスなのか?
―森本さんは、多数の経営者の方と人脈を持ち、採用にとどまらず経営に関する様々な話を聞かれる立場ですよね。経営者のみなさんは「働き方改革」をどのように捉えているとお感じですか?
森本さん:企業の規模や状況によって温度感は様々ですが、みなさん制度化やルールづくりの面で試行錯誤されている状況だと感じます。だからこそ、私にも「人事採用」のご相談をいただくことが増えていますね。それも従来の人事ニーズとは異なり、社会の時流や先進事例をキャッチアップしながら、戦略的な人事制度設計・改革を推し進められるような人を求めている場合が多いです。なかには社長直轄の部門を新設し、その責任者を求めているという場合もありますね。
―つまり、「働き方改革」を経営戦略上の要として、それを実行できるプロフェッショナル人材にも注目が集まっているということですね。
森本さん:そうですね。一方で、「働き方改革」がワークライフバランスのみで語られている世の中の風潮に疑問を感じている経営者の方もいらっしゃいます。これには私自身も違和感を覚えていますし、政府が立ち上げた改革プロジェクトの本質ともズレてきているのではないでしょうか。もちろん、ワークライフバランスをないがしろにはできませんが、ただ残業を規制して全員が一律に労働時間を短くすることが必ずしも正しいとは言えない気がします。
例えば、仕事の基礎体力を鍛える時期の20代は、ある程度時間や負荷をかけて習熟していくことが必要なタイミング。時間だけを基準にすると、どうしても今の実力で出来る仕事しか任せられなくなってしまい、本人も「苦難を乗り越えてやり切った」という経験も実感もないまま年を重ねてしまいます。これでは、責任あるポジションに就いたり、育児と両立する立場になったりしたときに、かえって苦労する人が増えてしまうのではないでしょうか。
だからこそ、みんなが右にならえの「働き方改革」は、少し危険かも知れません。理想は時間だけにとらわれ過ぎず、個人の状況に応じて柔軟な働き方ができることでしょう。だからこそ、制度やルールにすることが余計に難しく、今の人事部には解決のための充分な経験がない、と困っている経営者のみなさんが多いのだと思います。
パラレルキャリアは、会社でも家庭でもない「サードプレイス」を持つことにつながる。
―キャリア・転職を相談される個人の意識には変化を感じますか。森本さんの場合は、経営幹部や管理職といったハイキャリア人材を専門にされていますよね。彼らはハードな働き方も厭わないようなイメージがあるのですが。
森本さん:個人の意識も変わってきていますよ。経営幹部や管理職は、法令上も就業規則上も時間には縛られない人たちが多いですが、それでも「深夜に部下へメールしない」「土日はなるべく出勤しない」「自主的にノー残業デーをつくる」といった意識の人が増えています。
マネジメントを担う立場ですから、「部下が健全に働ける環境をつくるには、自らがロールモデルにならなければならない」という意識でいらっしゃるのだと思います。自分たちが率先して変わらなければ、若手も変われないし育たないという考え方ですね。
また、経営トップのみなさんも自社の経営にだけ向き合っていては、未来予測が困難な今の時代に生き残ってはいけないと感じ、自らの働き方を変えている方も多いです。様々な価値観に触れて広い視野・視座を持つことは、正しい経営判断を行う上でも重要ですよね。そういった意味で、優秀な経営者の方々は、会社でも家庭でもない「サードプレイス」を持ち、本業とは異なる活動もされている場合が多いですね。
―森本さんも今年3月にリクルートに在籍しながら起業されましたよね。退職して独立する人が多いイメージのあるリクルートで、敢えて「パラレルキャリア」の道を選ばれたのは、なぜですか。
森本さん:私は2009年に次男を出産し、2010年に復職して以降、本業の傍ら個人事業主としても講演活動や本の執筆を行ってきました。これはちょうど次男を出産し復職するタイミングで、夫のミッションが平日はほぼ不在(出張族)というワークスタイルに変わり、育児をある意味一人でこなさなければいけなくなったのがきっかけです。実の両親も実家が遠方の為、頼れない。私一人で子育てをしながらフルタイムで働くというパラダイムシフトが起こったことで、自分の生き方を見つめなおし、私自身のワークスタイルも変えました。復職と同時に自己完結型の「コンサルタント」ミッションにキャリアチェンジをし、ライフワークとして外向けの活動にも目を向け始めた2010年がまさに人生のターニングポイントになりました。2010年は3回だった講演も、昨年2016年は83回行うことができ、私自身の「サードプレイス」が確立してきたことを実感しています。
ありがたいことにリクルートは私のような働き方を認めてくれていますが、世の中の多くの企業はまだ副業を受け入れてはいません。だからこそ、私は新しいワークスタイルを発信する意味でも、本業であるコンサルタントの仕事を辞めずに起業する道を選びました。リクルートの私は、組織と人をマッチングさせていますが、株式会社morichの私は、「組織と人」だけでなく「組織と組織」のビジネスマッチングや「人と人」のご縁を繋ぐ人。兼業することでシナジーが生まれるからこそ、正・副の“副”業ではなく“複”業、“福”業を目指していますね。
―パラレルキャリアが世の中で広がるには、就業規則も絡んでくるため経営者の理解が前提ですよね。経営者は社員のパラレルキャリアをどう考えたらよいのでしょうか。
森本さん:「社外で報酬を得る」という行為にフォーカスすると話はやや複雑なのですが、それとは一度切り離して「社外での活動が個人を磨く」という観点でパラレルキャリアを捉えなおしてみると良いのではないでしょうか。例えば、ボランティア・NPO団体で活動することや、社外の勉強会に参加することで、個人の視野が広がり自社での仕事に還元されることもありますよね。
だからこそ、まずは会社以外の場所や人脈をつくることを奨励していっても良いと思います。さらに言えば、そういった「サードプレイス」の存在が、自分自身の人生を豊かにすることを経営者自身が体現してほしいですね。みなさん自身がロールモデルになることは、企業経営にも、社員一人ひとりにも還元されていくはずです。
――インタビュー後編では、森本さん自身も当事者である「女性活躍」や、多様な価値観・働き方を受け入れていくうえで欠かせない「人事評価制度」についてご意見を伺っています。次回もお楽しみに。
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