「高プロ制度」は時期尚早。まずは管理職のスキルアップを ~株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長 小室 淑恵さん インタビュー後編~

 

前編に続き、株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵社長のインタビューをお届けします。安倍内閣の肝いり政策である「働き方改革」。企業によって進み具合に差が生じていますが、取り組みの成否をわける要因はなんでしょうか? さらに、導入の是非が議論を呼んでいる「高度プロフェッショナル制度」の問題点、今後の同社の取り組みなどついて話を聞きました。

 

自社の「働き方改革」が顧客に迷惑をかける?

―御社はさまざまな業界の働き方改革をサポートしてきました。特に取り組みがおくれている業界はありますか。

業界というよりも、企業の考え方によって大きな差がついている印象ですね。たとえば「長時間労働の原因は外的要因にある」と考えている企業はおくれやすい。「自分たちの取り組みによって、お客さまに迷惑がかかる」と思いこんでいるケースが多いんです。でも、経営トップが取引先の領域にまで働き方改革をふみこんでみると、意外に相手からありがたがられる。実際、私たちのクライアントはそういった経験をしています。

―具体例を教えてください。
では建設コンサルティング業の「パシフィックコンサルタンツ」さんの事例をお話しします。同社の主要顧客は国土交通省。約8割の仕事の納期が、年度末の3月に集中していました。その時期は、すさまじい長時間労働になっていました。

そこで経営トップが国交省に思いきって提言しました。「私たちが働き方改革をやらないと、建設業に集まる人材がいなくなります。案件の発注時期と納期を分散してください」と。すると国交省の技官は「実はうちの省も、長時間労働の悪評でいい人材が他省庁に流れてしまって困っていた。ともに取り組もう」と賛同を得て、発注時期の分散が年々進むように。納期が年度末に集中すれば、納品された仕事を確認する官僚だって長時間労働になっていたのです。

―自社の要望が顧客に迷惑をかけるとは限らないんですね。

むしろウェルカムな場合があります。大切なのは、経営者が信念をもってコミットするかどうか。「残業を減らせ」と現場に命じるだけではなく、経営者しかできない交渉をしてください。それによって、地道な業務改善の10倍の変化を一気に起こせるはずです。

もちろん、経営者だけが動いてもダメですよ。まずはトップの本気度を現場に伝えて、業務効率化を進める。そして、現場の努力を経営者がしっかり評価して、クライアントに交渉する。そんなふうに互いの気持ちが響きあうと、働き方改革は成功します。

 

 

「高プロ制度」を安易に使うと、優秀な人材が流出する

―「働き方改革」関連法案と一本化される予定の「高度プロフェッショナル制度」(以下、高プロ制度)が議論を呼んでいます。その異名も「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」「脱時間給制度」「残業代ゼロ制度」など多様ですが、この制度に対する見解を聞かせてください。

いま導入すると、企業にとってはデメリットのほうが多くなるでしょうね。なぜなら、現時点において、日本の管理職には「限られたリソースで最大の成果を出す」というスキルがありません。こうした部下の時間管理をできない職場にこの制度を入れてしまうと、上長の管理職が「やった!業務改善やめた!」となってしまいます。一部の優秀な社員(年収1075万円以上の専門職)の時間外労働をカウントしなくてもよいわけですから。

仕事の優先順位を見直したり、業務を削ったりするのは難しいもの。そんなことをせず、一部の社員に仕事を丸ごと乗っけてしまえばラクなんです。制度の対象は高年収の優秀な社員なので、がんばってはくれるでしょう。でも、ずっと自分ばかりに仕事が降ってくると「いいかげんにしてくれ」と反発するはずです。

そうすると、高度なスキルをもっている人たちは「この会社にこだわる意味がない」と他社へ流れてしまう。国内の同業種が同じ状況ならば、やがて海外へ飛び立ってしまいます。すでにこれだけの人材不足の日本で「優秀な人材から順に海外流出していく」なんて最悪のシナリオをさけるためには、まだ高プロ制度を導入しないほうがいいでしょう。

―管理職のスキルアップが先決だと。

ええ、大事なのは順番です。まずは労働時間の上限規制をかける。そのなかで限られたリソースをすみずみまで使い、管理職に時間あたりの生産性を高めるスキルを身につけてもらう。そこで一定の成果が出た後ならば、この制度を導入してもいいでしょう。「労働時間が短くても、成果を出している人は評価される」という本来のねらいを達成できますから。
私は、高プロ制度を懸命に推している方々に悪気があるとは思いませんが、日本の大多数の現場の管理職のスキルがそこまで低い現状をご存知ないのだと思います。

 

繁忙期の残業を「時間口座」に貯めて、閑散期に長期休暇を

―御社は時代に先駆けて、長時間労働の是正や生産性向上に取り組んできました。今後の目標や導入予定の施策があれば教えてください。

ドイツで行われている「労働時間口座」のような取り組みができるといいですね。これは繁閑の差が大きいドイツの工場で始まった制度。繁忙期の残業時間を「時間口座」に積み立て、貯めた時間を閑散期に使って長期間休める仕組みです。残業代ではなく、有給として報酬を受け取るわけです。

一方、日本企業は振替休日や代休の精算期間が短い。現在の労働法では年単位の調整が難しいんです。「残業ゼロを達成した企業」など、なにかしらの条件を入れたうえで時間口座のような仕組みを認めればいいと思います。サバティカル休暇のような大胆な休みをとる人材が増えれば、もっとイノベーションが起こりやすくなるでしょう。

――企業の実情をふまえた見地から「働き方改革」のヒントを多数いただき、ありがとうございました。

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