バルセロナオリンピックで銀メダル、アトランタオリンピックで銅メダルを獲得した元女子マラソンランナーの有森裕子さん。日本を代表する女性アスリートとして一時代を築き、現在は国内外で様々な活動に尽力されている有森さんですが、実は高校・大学の陸上部では目立った成績が残せず、実業団に入ってからしばらくの間も無名の選手だったそうです。
そんな有森さんが歴史に残る偉業を実現した裏には、目標の立て方やモチベーションのマネジメント方法の秘訣が隠されていました。そこで今回は、有森さん自身のお話やスポーツ界の指導論について語っていただきながら、企業の人材マネジメントにも活かせるヒントをいただきました。
【Profile】
有森 裕子(ありもり ゆうこ)
1966年岡山県生まれ。就実高校、日本体育大学を卒業して、(株)リクルート入社。バルセロナオリンピック、アトランタオリンピックの女子マラソンでは銀メダル、銅メダルを獲得。
2007年2月18日、日本初の大規模市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。
1998年NPO法人「ハート・オブ・ゴールド」設立、代表理事就任。2002年4月アスリートのマネジメント会社「ライツ」(現 株式会社RIGHTS. )設立。国際オリンピック委員会(IOC)スポーツと活動的社会委員会委員、スペシャルオリンピックス日本理事長、日本陸上競技連盟理事、日本プロサッカーリーグ理事、他これまで、国際陸連(IAAF)女性委員会委員、国連人口基金親善大使、笹川スポーツ財団評議員、社会貢献支援財団評議員等の要職を歴任している。
2010年6月、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞。同12月、カンボジア王国ノロドム・シハモニ国王陛下より、ロイヤル・モニサラポン勲章大十字を受章。
部活として走るか、仕事として走るかで大きく変わった意識
―有森さんは、なかなか芽が出ない苦難の時期を経て国際大会で大きな成果を残されていますが、その変化は何が要因だったのでしょうか?
有森さん:私が陸上競技の選手として認めていただけるようになったのは、実業団に所属して以降のことです。それまでも高校・大学と努力はしていましたが、なかなか結果がついてきませんでした。それがリクルートの実業団に入り、お給料をもらいながら走るようになって、私のなかで何のために走るのかという意識が変わったんです。
アスリートは結果が全て。その意識は学生時代も社会人になってからも変わらないのですが、会社のお金で走らせてもらっている以上、私が生きていくためには「頑張ったけどダメでした」では通用しません。そういう厳しさも背中合わせにしたことで、私に与えられた仕事を全うしようという気持ちが芽生えましたね。
―それは、走るという「仕事」の目的がご自身の中で明確になったということでしょうか?
有森さん:そうですね。私は、よく「ライフワーク」と「ライスワーク」という言い方をするのですが、「ライフワーク」は人生をかけて誇りを持って成し遂げたいことで、どちらかというと「好きなこと」というニュアンス。「ライスワーク」は生きていくためにやる必要のある仕事という意味で使い分けています。実業団に入ってからの私は、走ることを「ライスワーク」だと捉えていました。だからこそ毎日の辛い練習にも必死になれて、結果に結びつくようになったと思います。
これは、企業で働く皆さんにも言えることではないでしょうか。仕事の目的が曖昧だと、日々の行動がぶれたり、迷いが出たりしますよね。それでは良い成果を出せませんし、「この仕事は自分には合わない」と辞めていく人も少なくないと聞きます。ですから、組織のトップやマネージャーのみなさんが「我々はどういう集団で、何を実現したいのか」をきちんと提示する必要があるのではないでしょうか。
高すぎる目標は掲げたことがない。「夢」と「目標」は似て非なるもの
―では、有森さんは仕事としてオリンピックを目標にされていたのですか?
有森さん:「オリンピック選手になれたらいいな」という夢は抱いていましたよ。でも、それはあくまでも「夢」であって、最初から「目標」だったのではありません。
実業団に入ったときの私の目標は、国体に出場すること。県代表として生まれ育った岡山に恩返しすることでした。その頃の私は「中学生より遅い」なんて言われるくらいで、周囲は私よりも優秀な選手ばかりでしたし、オリンピックなんて目標を立てられる実力もなかったんです。
だから、私はいつも目の前の目標だけを見ていました。それを一つひとつクリアするうちに、少しずつ手応えを感じていつしかオリンピックが目の前に現れたという感覚ですね。だから、掲げる目標は高くなくていいんです。いま頑張って実現できる目標を設定することが大切なのではないでしょうか。
―努力すれば届きそうな目標設定を繰り返すことで、大きな成果を実現していったということでしょうか?
有森さん:理想を高く持つのは悪いことではないと思いますが、人って「こうありたい」とのギャップが大き過ぎると、自信を失って落ち込んでしまいますよね。一番やってはいけないのは、「どうせできない」という心理状態になること。いきなり高すぎる目標を掲げると、挫けてしまう人の方が多いと思います。
―一方で、日々のモチベーションはどうコントロールしていたのでしょう?アスリートもビジネスパーソンも、モチベーションの維持・向上はとても大切なことだと思うのですが。
有森さん:確かにモチベーションには波があるものだし、調子が悪いときだってある。これも「どうせ」という気持ちになるきっかけですよね。当然私にだって最悪のコンディションの日はありました。でも、当時私を指導してくださった小出義雄監督からは、「最悪のときの最高を出してみようよ」とよく言われていましたね。
普段の力は出せなかったとしても、その日のベストを尽くそうと行動できるかどうかは大きな違いがあります。「今日のベスト」を諦めてしまったら、いつまでもベストは出せないんです。だから、スポーツにしろ会社での仕事にしろ、日々の個人を評価するうえでは結果の大小というより、今の実力を出しきっているか、真剣に向き合っているかといった行動をみてあげることが大切だと思います。
――インタビュー後編では、アスリートの監督やコーチに求められるスキルや、大きな舞台に立ったときの心構えといったエピソードから、上司と部下の良好な関係性づくりについてのヒントをいただきます。次回もお楽しみに。
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