前回に引き続き、平成医会の島田 潔理事長と伊藤 直理事のインタビューをお届けします。
昨今の働き方改革でも時折話題に上がるのが、医療現場の労働環境。人命に関わるという特殊性から一般企業とは別に語られることも多いですが、当事者のみなさんは医療業界の働き方や人事評価をどう捉えているのでしょうか。
【Profile】
島田 潔(しまだ きよし)
医療法人社団平成医会 理事長 / 医師・産業医
帝京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院第4内科医局員を経て、1996年に訪問診療を目的とした板橋区役所前診療所を開設。当時まだ世に浸透していなかった在宅医療を広めるきっかけとなり、2006年に制度として整備された「在宅療養支援診療所」は島田氏が制度設計した。2013年、精神科専門医が企業のメンタルヘルスを全面的にバックアップすることを目的に医療法人社団平成医会を設立。現在に至る。
伊藤 直(いとう ただし)
医療法人社団平成医会 理事 / 精神科専門医・産業医
埼玉医科大学卒業 東京大学医学部大学院産業プログラムコース修了。
帝京大学病院、小群まきはら病院、吉祥寺病院、板橋区役所前診療所勤務を経て、2013年10月、平成池袋クリニックの院長に就任。精神科専門医として、平成医会が提供するメンタルアシストプログラムの総責任者を務める。
■大多数が「間接部門」という組織構造のため、人事評価が曖昧になりがち。
―医療機関のみなさんは、どんな人事課題をお持ちの場合が多いですか。
島田理事長(以下、島田):私たちのようなクリニックは、ほとんどの場合は新卒採用を行うことがありません。専門資格が必要な仕事ばかりですので、基本的には大学病院などからの転職組の中途採用になります。色々な職場で働いてきた人たちが入ってくるが常なので、異なるやり方や文化の人たちをどう束ねていくべきかという問題は、マネジメント上の課題として割と多く聞きますね。
また、一般の皆さんにとっては医療機関で働く人といえば、医師や看護師くらいしかイメージがないかもしれませんが、実際は事務スタッフや、臨床検査技師など様々な専門的な役割を担うスタッフが集まっています。しかし、患者さんの診療を行うのはあくまでも医師。一般企業にあてはめると、営業1人に対して10人のアシスタントが付き、それぞれが別の役割をしているような構造です。圧倒的大多数がサポート役なものの、誰もがいなければ医療は成り立たない。この人たちをどう評価したらいいかと悩みますね。
―つまり、一律・定量的な指標で評価をしにくい人が多数を占めているということでしょうか。
島田:そうですね。医師であれば診察した患者数など、定量的に評価しやすい部分もあるでしょう。しかし、組織としてマネジメントする対象としては圧倒的に間接業務を行っている人たちが多い。だから、敢えてはじめから評価をしないという医院もあります。私が運営するクリニックでも、これまでは家族的な雰囲気を大事にすることを優先してきました。いわば、安心・安全・平等な職場環境をつくることで、モチベーションを維持してきたんです。
ただ、このやり方は平等なようで平等ではありません。人一倍頑張って働いても、率先して仕事を工夫しても、まったく報われないからです。つまり、平等と言う名のもとに評価を放棄していると、出来る人ほど不公平に感じやすいということです。もはや家族的な雰囲気だけでスタッフのエンゲージメントを保てる時代ではないと感じていますね。
■目の前の人を救う仕事だからこそ、周囲と比較する評価はナンセンス。
―話は変わりますが、医療現場は長時間労働が常態化しているイメージが強いです。根底には人手不足が挙げられると思いますが、人命に関わる仕事であるからこそ働き方改革を進めづらいというような事情もあるのではないでしょうか。
伊藤理事(以下、伊藤):医師は、研修医時代に昼夜問わず働くことで技術や知識を会得するのが慣習のようになっていて、気づいたら長時間労働が当たり前になってしまうのも要因だとは思います。診療とは別に研究者として学会発表の準備をしている場合もあるし、通常業務以外の目的も含めて職場に長時間いるのが文化のようになっている部分もありますね。また、医師が働いていれば、結果的に周りのスタッフも残らざるを得ない…ということが起きやすい気はします。
島田:あとは、日本の医療制度の構造的な問題もでもあり、医療施設や法人単体では、働き方改革を進めようにも限界があるのは正直なところですね。もちろん、ロボットやAIの活用によって周辺業務を減らすなど、生産性を上げることも必要だとは思うのですが、抜本的な改革は法整備とセットになると思います。
伊藤:ただ、先ほどの研修医の働き方と共通しますが、「成長したい」「経験を積みたい」という想いが強くて長時間労働になりがちな面も大きいですね。医療の道に進んでいる以上、私たちが働く根本にあるのは「人の役に立ちたい、病やケガを治したい」という想い。長時間労働を肯定する訳ではありませんが、この仕事が好きで熱中している間に時間が過ぎてしまっている面も実際にはあります。ですので、国が策定した時間外労働時間の枠組みを守ったうえで、前回お話したメンタルヘルスのように、「嫌いな仕事」や「向いていない仕事」を削減したり転換したりするような働き方改革が理想なのかもしれませんね。
―これまでお話いただいたような背景もあって、いま平成医会では人事評価制度の導入を進められています。最後に、検討中の人事評価制度によって何を期待しているのかを教えていただけますか。
伊藤:人にはそれぞれ個性があり、一方的な評価やマネジメントでは上手くいかないことは、普段私たちが企業の「メンタルヘルス」をサポートしているうえでも明らかです。だからこそ、それぞれが目標を設定・可視化して頑張っていける仕組みが大切。それによってすべてのスタッフの働くモチベーションが向上していくことを期待しています。また、そもそも医療は、「周りがやっているから、やらないから」で行動しては成り立たない仕事。目の前の患者さんを救うというその一点で行動すべき仕事です。だからこそ、「他の人と比べて」ではなく、仕事の成果を正しく評価する「絶対評価」が活きる業界だと思います。
島田:私は医療において、何よりも大事なのはハートだと考えています。相手を想う気持ちがなければ医療は成り立たない。そうした理念を、部署やスタッフ一人ひとりの行動にまで結び付けていき、浸透させていくことこそ、私自身が人事評価制度の構築によって実現したい姿です。自分たちは何者で、どういう使命・役割をもった存在なのか。それを経営から投げかけるのではなく、現場・個人が自問し、ときには提案してくれるようなチームになっていくことを期待しています。
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