「メンタルヘルス」が経営を左右する!? ~平成医会 島田理事長・伊藤理事 インタビュー前編~

2015年12月1日より、50名以上の事業場を対象として導入が義務化された、従業員の「ストレスチェック」。背景には精神不調から業務遂行が困難になる従業員の増加など、メンタルヘルスの重要性が高まっていることがあります。
個人の問題だと軽んじていると労使紛争に発展するケースもあり、頭を抱えている経営者や人事も少なくないのがメンタルヘルス。この問題に、ストレスチェック義務化の前から取り組んでいるのが「医療法人社団 平成医会」です。平成医会では、「メンタルアシストプログラム」によって導入企業の従業員が健全に働けるようサポート。ストレスチェック実施が義務ではない(努力義務)、50名未満の企業にも数多く導入しているといいます。
そこで今回は、平成医会 理事長の島田 潔先生と、理事であり「平成池袋クリニック」院長の伊藤 直先生にインタビュー。中小企業におけるメンタルヘルスケアの意義や実態をお話いただきました。

【Profile】
島田 潔(しまだ きよし)
医療法人社団平成医会 理事長 / 医師・産業医
帝京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院第4内科医局員を経て、1996年に訪問診療を目的とした板橋区役所前診療所を開設。当時まだ世に浸透していなかった在宅医療を広めるきっかけとなり、2006年に制度として整備された「在宅療養支援診療所」は島田氏が制度設計した。2013年、精神科専門医が企業のメンタルヘルスを全面的にバックアップすることを目的に医療法人社団平成医会を設立。現在に至る。

伊藤 直(いとう ただし)
医療法人社団平成医会 理事 / 精神科専門医・産業医
埼玉医科大学卒業 東京大学医学部大学院産業プログラムコース修了。
帝京大学病院、小群まきはら病院、吉祥寺病院、板橋区役所前診療所勤務を経て、2013年10月、平成池袋クリニックの院長に就任。精神科専門医として、平成医会が提供するメンタルアシストプログラムの総責任者を務める。

後編:今問われる、医療現場の人事評価制度

■昭和の“根性論”は、もう通用しない?

―まず、みなさんが企業のメンタルヘルスケアに取り組みはじめた背景を教えてください。

島田理事長(以下、島田):平成医会は2013年10月に立ち上げたメンタルヘルスのための医療法人で、私たちは国の制度として義務化される前からこの問題に向き合ってきました。もともと私は在宅医療を目的として独立開業していたため、介護系の企業とお付きあいが深かったのですが、「過酷な労働環境や人間関係が原因で休職・退職する人が増えている」と悩む企業が増えはじめていたんです。それは介護業界だけの話ではなく、他業界の経営者に聞いても同様の悩みは増えていました。みなさん対応に苦慮されている様子で、精神科の専門チームが企業をサポートしていく必要性を感じたのです。

―なぜ、メンタルの不調を訴える人が増えているのでしょうか。

島田:いくつかの要因はありますが、一番は精神疾患と昨今の「ブラック企業」というキーワードが結びつき、精神に不調をきたす原因が仕事や会社にあるという報道が増えたことだと思います。昔は、「自分の心が弱いからだ」と考える人も多かったですし、会社に申告すること自体が自分にとってマイナスだと考える風潮も強かった。「昇進に響く」「休職・退職すれば生活が苦しくなる」と、相談できずに抱え込むため、企業が把握できていないケースも多かったのでしょう。

―いまのお話は、終身雇用を前提とする「企業と個人の絶対的な上下関係」が崩壊したからとも言えますよね。「会社が雇ってくれる以上、多少の無理は個人がのみ込む」ではなく、「会社と個人を水平な関係で捉え、言うべきことは言う」という時代になったから、これまで潜っていたものが顕在化したのかもしれません。もはや「頑張れ」「気合いだ」で乗り切ってきた昭和の根性論が通用しなくなった象徴のようですね。

伊藤理事(以下、伊藤):そのように顕在化したことで、いま企業では新たな課題が増えています。象徴的なのは、うつ病などを発症した従業員の対応を任された人事の担当者自身がメンタルに不調をきたすケース。これまで対応したことがない問題に直面したことに加えて、そもそもセンシティブな問題ですからプレッシャーもかかるでしょう。知識や経験が少ない人が対応すると、負の連鎖反応が起き、組織に与える影響も甚大になっていきます。やはりメンタルヘルスの問題は専門家と協力して解決した方が良いですね。

―平成医会の「メンタルアシストプログラム」を導入するのは、どのような企業でしょうか。

伊藤:導入理由としては、メンタルヘルスを企業リスクとして捉えて、予防や早期発見に活用したいという場合が多いですね。また、最近ではリスクから防衛するという意味ではなく、「心の健康状態が良い職場は生産性も高く、人も育つ」という考えで導入する企業も目立ってきました。そういう意味では、“守り”にも“攻め”にも活用いただいているのが現状ですね。また、企業規模で言えばストレスチェックが義務化されている50名以上の企業に限った話ではなく、50名未満の企業でも数多く導入いただいています。

―なぜ、必須ではない企業の導入が増えているのですか?

島田:規模の小さい企業ほど1人が不調になったときのリスクが大きいからです。中小企業は従業員が1人抜けただけで業務がまわらなくなる可能性も高いですし、万が一訴訟に発展して賠償命令が下りると、事業継続が危ぶまれることもありえます。また、IPOを目指すベンチャー企業などは「今のうちに導入しておこう」と早めに動かれているケースもありますね。

伊藤:リクルーティングに役立っているという企業もあります。今や新卒採用は、親の意向も大きく影響する時代。特にブラック企業かどうかを心配する学生や親御さんも増えているようで、「専門の医療機関が従業員のメンタル面をサポートする」という内容が企業の従業員に対する姿勢として好意的に受け取ってもらえる側面もあるようです。

医療法人社団 平成医会 理事長 島田潔氏

■メンタルヘルス不調の要因は、長時間労働よりも「対人関係」。

―「ストレスチェック」をきっかけに受診される方は、何が要因の場合が多いのですか。

伊藤:一番多いのは、上司と部下の関係性です。上司の指導があまりにきつくて不眠症になってしまい、眠れずに心が安定しないというのが典型的なパターンですね。今、「働き方」の話題では長時間労働がよく問題になりますが、メンタルヘルスへの影響という意味に限っては、時間よりも圧倒的にマネジメントが原因です。たとえば毎日のように叱責され、「もっと自分は出来るはず」と必死に頑張るけれども、成果を出せずに病んでしまう。この場合、上司が適切に評価できていなかったり、マネジメントのやり方を間違えていたりすることも十分に考えられます。また、長時間労働をしている場合も、業務の内容に目を向けるとクレーム対応などの「辛い仕事」や「嫌いな仕事(向いていない仕事)」を強いられていることが原因の場合が多いです。つまり、根源的には上司が部下を適切にサポートしていないことや、適性を見極めた人材配置がされていないことが要因。やはり原因はマネジメントにあります。

―中小企業特有の傾向はありますか。

伊藤:中小企業の場合、対人関係に問題が起きても大企業のように配置転換で解決することが物理的に難しいですよね。たとえば異動によって上司・部下の関係を解消しても、オフィスが1フロアの会社だと毎日顔を合わせる関係は継続します。それが重症化や、回復が遅れる原因にもなり得る。だからこそ中小企業がメンタルヘルスを個人の問題として軽んじることは、危険だと思います。

―平成医会の「メンタルアシストプログラム」を導入したことで、企業はどんな効果を得られたのか、いくつか事例を教えてください。

伊藤:個人のケアと企業リスクへの対策が主な効果ですが、先ほど申し上げたようなリクルーティングのように、副次的な影響が出ているケースも多くあります。たとえば、“ハラスメントホットライン”を設けたことで、本社の人事では気づきにくい支社の実態が分かったという事例。その企業はM&Aが行われた直後で、現場では本社の対応に追われていたそうですが、地方の支社で起きている状況など、普段は見えにくい課題が見えてきたという声もいただいています。

島田:「メンタルアシストプログラム」では、ストレスチェック結果の組織傾向を分析・レポート化して対策の助言を行っています。その結果をみて人員配置の見直しやテコ入れを行うなど、事業運営上も有効に使われている企業がいらっしゃいます。

―最後に、企業が個人のメンタルヘルスケアを行う上で、何が大切になるのかを教えてください。

島田:「ストレスチェック」を単なるツールで終わらせるのではなく、企業の文化・風土を変えることとセットで考えていただくことが大切です。時代が変わったとはいえ、まだ世の中では、精神的な不調を訴えにくい空気は少なからずあるでしょう。だからこそ、これは個人の健康を守るための取り組みだと、従業員の皆さんにメッセージすることが大切です。また、「会社として従業員の心の健康を守る」「ハラスメントは許さない」という姿勢を経営者が率先して示すことは、パワハラなどに対する抑止力にもなります。そうやって風土を変えられれば、心の病を発症すること自体も減っていくはずです。

医療法人社団 平成医会 理事 伊藤直氏

―平成医会 島田先生・伊藤先生へのインタビューは後編に続きます。次回は、医療業界の働き方や人事評価についてお話を伺いました。

 

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