変わる。個人と企業の関係性。~クラウドワークス吉田社長 特別講演 前編~

ITを活用すれば、世界中の沢山の人に仕事と報酬を提供できる。そうしたアイデアのもと、時間や場所に縛られない働き方をする個人と企業をつなげているのが、(株)クラウドワークスです。3月6日に行われた「あしたの人事クラブ」交流会では、同社の吉田浩一郎社長がゲストとして登場。特別講演では、シェアリングエコノミー企業である同社が、どのような視点でいまの世の中を捉えているのか、企業と個人の関係性の変化を軸にお話しいただきました。


【Profile】
吉田 浩一郎(よしだ こういちろう)
株式会社クラウドワークス 代表取締役社長兼CEO / 新経済連盟 理事
1974年兵庫県神戸市生まれ。パイオニア、リードエグジビションジャパンなどを経て、ドリコム執行役員として 東証マザーズ上場を経験した後に独立。事業を拡大する中で、ITを活用した時間や場所にこだわらない働き方に着目、2011年11月に株式会社クラウドワークスを創業。翌年3月に日本最大級のクラウドソーシングサービス『クラウドワークス』を開始、「”働く”を通して人々に笑顔を」を ミッションとして事業を展開。2014年12月東証マザーズ上場。2015年には、経済産業省 第1回「日本ベンチャー大賞」審査委員会特別賞(ワークスタイル革新賞)を受賞、グッドデザイン・未来づくりデザイン賞受賞。2016年には、一般社団法人新経済連盟理事に就任。著書に『クラウドワーキングで稼ぐ! -時間と場所にとらわれない新しい働き方(日経新聞出版社)』『クラウドソーシングでビジネスはこう変わる(ダイヤモンド社)』などがある

■インターネットの登場が、働き方や価値観を変えた。

まず、私が申し上げたいのは、「今、働き方や価値観が変わりつつある」ということです。その理由は、産業構造の変化が大きく関わっているのではないでしょうか。

そもそも、インターネットの登場以前と以後では個人の立ち位置が劇的に変わっています。以前は、すべての情報は紙でやり取りしていましたので、“紙を集約すること”が上位に立つ方法でした。たとえば新聞は新聞社が集めた情報を個人に提供しています。同じように回覧板はどうでしょうか。これもまず行政が情報を集め、各家庭は順番に見ていくという方式ですね。企業活動においても、個人の営業日報の提出先である営業部長が、みんなの情報を握っているような構図です。このように、かつては情報を管理すれば優位に立てる時代だったと言えます。

ところがインターネット後の世界では、情報を発信・受信する意味において国家・企業・個人は対等の立場に変化しました。個人はブログで自由に意見を言うことができます。欲しい情報はネット検索で簡単に手に入ります。ですから、組織マネジメントにおける一番の変化は、相対的にみて“個人の価値”が上がっていることだと言えるでしょう。

21世紀は20世紀に比べて情報の受発信が活発になった時代です。企業の枠組み・仕組みの大部分は、インターネット以前である20世紀の高度経済成長期に構築されたものですから、時代にあわせて見直しを図っていく必要があるのではないでしょうか。

そんな変化の最たる例が「シェアリングエコノミー」です。
20世紀には、個人のものは企業を通さなければ流通できませんでした。個人が持つスキルは企業を通してしか流通しないし、個人が余っているモノは質屋を介さなければ流通しません。

それが、インターネットを使えば、「法人」を介さなくても個人のものが流通できるようになりました。「こんなものを提供できますよ」と個人が自由に発信できるのが、「シェアリングエコノミー」の本質。一見新しいものに思えるかもしれませんが、実は2000年代初頭からあるネットオークションも個人の余っている物をシェアするものですから、考え方自体はさほど新しいものでもありません。2000年代はモノの流通だけでしたが、形のないものの流通へと拡張しただけなんです。つまり、シェアリングエコノミーが勢いを増しているのは、先ほどご説明した産業構造の変化からみて、非常に根源的な流れだと言えます。

ここで、視点を少し世界に向けてみましょう。世界で有名なUberや、Airbnbなどのシェアリングエコノミー企業は、時価総額ランキングの上位に食い込んでいます。しかも、その評価額は日本企業でいえば、NECやANAやイオンと同程度の規模。こういった規模の企業がシェアリングエコノミーから誕生しはじめているのは、やはり20世紀型のピラミッド構造でビジネスを考えるのではなく、個人の持つリソースを束ねて商売した方がビジネスとして強い時代になっているのだと私は思います。

■クラウドソーシングによって、企業は人材調達・活用の選択肢が広がる。

さて、ここからはシェアリングエコノミーのなかでも、クラウドワークスが手掛ける「クラウドソーシング」についてご紹介していきます。
クラウドソーシングとは、一言でいえば世界中の個人のスキルをシェアするサービス。企業という枠組みに関係なく、個人のスキルを提供・活用しあえるサービスで、クラウドワークスでは現在約173万人のクラウドワーカーがいて、約200種類もの多種多様な仕事を依頼することが可能です。

クラウドソーシングと聞くと、「何となく聞きなれない」と不安に思われるかもしれませんが、考え方としては、モノを調達するための選択肢の広がりと同じです。たとえば、不動産は、「購入する」「借りる」という選択肢に加えて、貸し会議室のような必要な時だけ借りる「時間貸し」サービスも登場しています。マンガ喫茶やカラオケボックスも、場所を時間で区切って手軽に使えるようにしたサービス。このように従量課金型のサービスがうまれるのは一般的な流れであり、それを人材にあてはめたのがクラウドソーシングです。

逆に言えば、これまでは人材だけが企業経営においてオンデマンドで調達できなかったということ。クラウドソーシングの登場によって、企業はオンデマンドで人材やその人が持つスキルを活用できるようになりました。

一方で、スキルを提供する側の個人にとってクラウドソーシングとは何を意味するのでしょうか。

2015年に日本の労働人口における正社員比率は45.2%となり、50%を割り込みました。つまり、もはや正社員はメジャーな働き方ではありません。では、のこり55%の働くインフラが整備されているのかというと、まだ確立されたものがない。だからこそクラウドワークスは、新しいインフラをつくるためにクラウドソーシングを展開しています。

最近では、クラウドワークス経由の仕事の報酬だけで年収2,000万円を超える人が登場しました。つまり、スキルと稼ぐ意思がありさえすれば高収入を実現することも可能ですし、育児の合間に在宅で仕事をするなど、ライフスタイルにあわせて働くこと・稼ぐことができるようになっています。
また、パソコン一つで仕事ができるので、働く場所に制限もありません。クラウドワークスに会員登録しているユーザーの居住国は108ヶ国。海外駐在員の奥様が、クラウドワークスで日本の仕事をしているというケースもあります。極端な話、インターネットに繋がりさえすれば、ビーチで仕事をしたっていいのです。

実際に取ったアンケートでは、若者・女性・シニア・フリーランス…とあらゆる属性のひとたちが、クラウドワークスによって働く機会を手にしたことが分かりました。なかには80代のワーカーもいて、スキルを持っている人が年齢や立場に関係なく、それぞれの働き方で活躍していることがお分かりいただけるかと思います。

■個人が中心となる時代で大切な、8つの視点

さて、ここまではインターネットによる産業構造の変化や、クラウドソーシングの概念・成果をご紹介しながら、「個人を中心とした世界になっていく」ことをご説明してきました。では、そうした世界に向かっていくなかで大切となる視点とは何なのか。ここからは、私がクラウドワークスを展開するなかで感じる8つの視点についてご紹介してまいります。

1:歴史的にみて、人間は楽な方向にしか行かない。

洗濯がボタン一つで全自動になり、掃除はロボットが行うようになりました。車の自動運転機能も、世の中がマニュアル車からオートマ車へ移行したように、いずれスタンダードになっていくでしょう。他には、今やユーザーサポートや融資判断も人工知能が行う時代になっていますし、アメリカではロボットのPepperしかいない携帯ショップが登場しました。このように、ロボットや人工知能の方が楽で合理的なものは、次々と置き換わっています。今、二層式の洗濯機で生活できるでしょうか。オートマ車の感覚に慣れているのにマニュアル車を運転したいですか。ひとは、一回楽な方向に行くともう元には戻れないのだと思います。

2:「欲しいものを欲しいときに欲しいだけ」が当たり前の時代。

今の子どもたちを観察すると顕著です。「ドラえもんは金曜日の19時にしか見られない」という、テレビ放送の当たり前が通用しないようなのです。小さい頃からYouTubeや、HuluやNetflixといった動画サービスに親しんできた現代の子どもたちにとって、テレビ放送とは決まった時間にしか番組が見られない不便なものであり、マイノリティ。欲しいものを欲しい時に欲しいだけ手に入れてきた彼らにとっては、時間や場所を限定される方が不思議なのではないでしょうか。

3:世界は既視感に満ちている。

今やパソコンの画面を通せば大抵のことは分かる世の中になりました。その反面、きちんと体験してもらうことの難易度がとても上がったように思います。たとえば、アンコールワットの風景やナイアガラの滝を見るという体験は、現地に行かなくても実物の6~7割の視覚的情報が得られます。もちろん実物を見た方が良いのは間違いないけれど、「わざわざお金と時間をかけて体験しなくても、インターネットで満足した」という場合が増えているのではないでしょうか。企業は6~7掛けの体験で良いという人たちをどうマネジメントするのか、あるいは顧客にリアルの価値をどう感じていただくのか、そんな工夫が必要な時代に入っているのだと感じます。

4:記憶するという価値の変化

先ほど申し上げたPepperだけの携帯ショップのように、もはやロボットに働いてもらった方が合理的になりはじめています。なぜなら、ロボットは人間のスタッフと違って出勤初日からマニュアルを完璧に覚えているのですから。人が複雑な携帯料金プランを頭に入れるのは至難の業でしょう。記憶という能力だけで言えば、もう人間はロボットに勝てません。人は記憶する以外で差別化しないといけないのです。

5:働き方革命

世の中で叫ばれている働き方改革について、私は厳密に言うと「正社員×ホワイトカラーの構造改革」なのだと捉えています。機械やAIに自分の仕事が奪われるのではないかと抵抗するホワイトカラーもいますが、これは200年前に工業化の波がやってきた際に、機械を壊せば生き残れると訴えていた職人たちと同じです。これまでと同じ仕事をしていればロボットやAIと横並びで比較されるだけ。自分たちが新しい存在・新しい“カラー”にならなければいけません。人にしかできないことは、たとえばでたらめや思いつきや非連続性。つまり、計算できないものにこそ人は価値を発揮すべきです。
また、日本の労働人口の49%が担っている仕事は、今後技術的には人工知能で代替可能だと言われています。そうなった場合、正社員がやるべき仕事は、会社や組織の業務を俯瞰して見て、どの仕事をロボットがやり、どの仕事を社外のクラウドワーカーに担ってもらい、社内のスタッフはこれを行おう…とデザインしていくことなのかもしれません。

6:個人で社会的信用を積み重ねられる。

個人の信用を明確に保証するものは、いまだに運転免許証と社会保険証くらいしかありません。一方で、インターネットはたとえば「食べログ」のクチコミのように信用情報を貯められるものにもなり得ています。行ったことがない店に入ることの敷居が低くなり、お店にとってもマーケティング費用をかけずクチコミによって広くお客様を呼び込むことができるようになりました。これと同じような考えで、クラウドワークスでも個人であるクラウドワーカーをスコアリングする仕組みを導入。すると、高スコアのワーカーは企業から毎日のように仕事の依頼が舞い込むという状況をつくり出しており、個人もさながら「帝国データバンク」のスコアのように信用を得られる時代になってきました。つまり、これまでは「企業は信用できるが個人は信用できない」という世界でしたが、これからは「企業も個人も信用できる」という世界で、フラットにビジネスの協業相手を探せる時代になっていくでしょう。

7:信用インフラの多層化

6の概念は何もクラウドワークスだけでの話ではなく、世界中で起きています。たとえば、FacebookやTwitterのアカウントだけでお金を融資するサービスの登場。アメリカに入国する際に必要なESTAの申請も、SNSアカウントの登録がはじまりました。つまり、インターネット上の記録や交友関係を信用情報として使うことは、もはや手書きの履歴書よりも有効だということ。与信情報は20世紀のように垂直統合型で集まるものではなく、インターネットによってオープンに水平的に情報が集まる時代になりました。言い換えれば、個人単位で、どこにどんな情報を蓄積するかをデザインしなければいけないということ。「企業や国に情報を預けておけば個人を守ってくれる」という考えはもう通用しませんから、個人の働き方もキャリアも自分でデザインする必要があるのです。

8:共感とお金の境目がなくなる

たとえば、「クラウドファンディング」で支援する人たちは、厳密に対価を求めてお金を払っているのではなく、「そんなサービスが世の中に合ったら良い」と共感して応援をしています。「Spotify」のような定額音楽サービスも、アーティストに入るお金は再生回数のみによって決まるので、言わば共感の数だけお金になるサービスと言えるでしょう。裏を返すと、心に響かせることができなければ1円もお金が生まれない世の中になってきているということです。このように、インターネットやIoTによって、人間の共感や感情を課金する仕組みが可能になりつつあります。つまり、「物が先行する経済」から「共感を主体とした経済」への移行がはじまっているのです。

――後編では、「クラウド経済圏」を軸に、具体的な人材活用のあり方や、働き方の多様化によって解決できる課題、吉田社長自身の経営信念などもお話いただきました。

【オススメ記事】
「好き嫌い」こそ競争戦略だ。~一橋大学大学院 楠木建教授 特別講演 前編~
中小企業が「優秀な社員を逃さない」ためのカギは「給与査定」
辞めてほしくない社員が辞めてしまった、一番の理由とは?
社会の価値観が変容する、働き方改革の概要とは?
横並び主義の終焉。賃金の上がる人、上がらない人
人事評価制度のない会社が“ブラック”認定される

あなたにおすすめのお役立ち資料を無料ダウンロード

ダウンロードは下記フォームに記入の上、送信をお願いいたします。

【無料ebookプレゼント】あしたのチーム®サービスガイド

ダウンロードは下記フォームに記入の上、送信をお願いいたします。

【無料PDF】コーチングとは?企業の人材育成を成功させるビジネスコーチングの活用方法

ダウンロードは下記フォームに記入の上、送信をお願いいたします。

【無料PDF】知っておきたいボーナスのすべて

あしたのチームのサービス

導入企業4,000社の実績と12年間の運用ノウハウを活かし、他社には真似のできないあらゆる業種の人事評価制度運用における課題にお応えします。


人事評価制度の構築・運用支援、クラウド化。 これらをワンストップで提供することにより、企業の成長と従業員の育成を可能に。

ダウンロードは下記フォームに記入の上、送信をお願いいたします。

サービスガイド


あなたの会社の人事評価制度は運用しにくい制度かもしれません。人事評価制度を適切に運用するノウハウと、その理由をお教えます。

ダウンロードは下記フォームに記入の上、送信をお願いいたします。

あした式人事評価シート