宗教法人 妙行寺様
- 事業内容
- 寺院の運営
- 従業員数
- 11名
- 設立
- 慶長12(1607)年
- 所在地
- 鹿児島県
- 課題
- 職員の主体性・自主性のある組織形成、職員のモチベーションアップ/ホスピタリティ高く門徒様を迎える風土作り
※インタビュー内容は、2023 年5月10日取材時のものになります。
人事評価制度を導入された背景を教えてください。
門徒様や地域の皆様をいつでもホスピタリティ高くお迎えするために、寺院として職員の方向性を揃えたい。そのために人事評価制度が必要だと思い導入しました。
一般的なお寺は家族経営が多いですが、うちの場合は少し規模が大きく納骨堂も2500名ほどいらっしゃり、それぞれのご家族からの様々な相談を受けています。家族だけでは手が足りず、僧侶、用務員などの職員も併せ10名ほどの組織で運営をしています。一般企業出身の方もいれば、僧侶一筋の方など経歴も様々です。僧侶は専門職ですから、どうしても個性が強くなり、寺院の想いや方針と違った行動をとることもありました。個性があることは、決して悪いことではありませんが、妙行寺という組織としての願いや方針もありますので、それらを踏まえた上で自分の色を出してくれると良いなと思っていました。
そんな悩みを持っている時に、副住職から人事評価の提案があり数社から話を聞きました。正直、各社がお話される評価制度の中身がどう違うかまでは詳しく分かりませんでしたが、担当者の対応が終始丁寧で信頼できると感じたあしたのチームさんに任せることにしました。
あしたのチームさんの提案を聞く中で、職員全員に妙行寺の願いや活動方針に沿った行動をとってもらうためには、漠然と方向性を示すだけではなく、「何を一番に取り組むべきなのか」を一人ひとりに対して具体的に確認することが必要なんだと気づかされました。そういった気づきをもらって具体的なビジョンに繋がったことも決め手の一つですね。
ちょうどその頃は、新型コロナウイルス感染症の流行によって世の中が大きく変動した時期でもありました。私たち組織も大きく変化し、お寺の行事を見直したり、「お寺がどうあるべきか」について考えたりしていたんです。日常の様々なことを見直す中で、「変化があることは当たり前だ」と思えたことも導入の後押しになりました。
人事評価制度を運用していく中で苦労したこと、また、その局面をどのように乗り越えたのかを教えてください。
職員に導入目的を理解してもらうことに苦労しました。
そもそも寺院の職員をしていて「評価をされる」という機会はこれまで無かったので、当然、「なんでこんなことするんだろう」と不安な気持ちが生まれますよね。そういった疑問や不安が邪魔をして、すんなり受け入れられなかったのだと思います。
まずはしっかり伝えることと、職員の不安・疑問を払拭することに注力しました。「どういう意図で、どういった評価をすることになったのか」を面談以外の時も話をし、頻繁に伝えるようにしました。全員が顔見知りの小さな組織だからできたことかもしれません。顔を合わせた時に評価制度の話題を出して話してみたり、職員同士が話している内容から評価制度に対しての反応を伺ってみたり、とにかく職員がどう感じているか?を細やかに気にかけました。
職員が不安に思っていることをキャッチしそれを解消することで、職員は「そういうことなんですね」「こういうことをしていけば良いんですね」と、徐々に評価制度を受け入れ、理解が深まったようです。今では、かなり積極的に取り組んでくれるようになりました。私は以前から「もっと職員とコミュニケーションを取りたい」と思っていましたので、それもこの評価制度導入をきっかけに叶ったように思います。
他にも、スタート時は目標設定や目標達成へのアプローチもどうしたら良いのか分からない状態でした。これに対しては、特別な対策はしていません。運用を繰り返し、目標設定や評価、面談での話し合いの回数を重ねることで、「私はこういうことをすれば良いんだ」「今後はこうしていきたい」と目指すべきことが明確になりました。「頑張ります」ではなく、「○○のために○○する」というような目標の立て方が自然と身に付いたようです。中には、苦手に思っている人もいるようですが、引き続き声をかけて気にかけながら運用を続けたいなと思います。
人事評価制度を導入後、どのような効果を感じていますか?
職員とのコミュニケーションが深まり、私の想いを伝えやすくなったことで組織としての一体感が高まったと感じます。
以前の状態は柔らかい組織と言いますか、上司部下という概念すらあまり無く、「全員で仲良く働こう」という感じで、職員に改善してほしいことがあっても、あまり指摘できない状態でした。当時は、指摘すると怒り出す人もいましたから。(笑)今思えば、少人数の運営のため何とか回っていましたが、門徒さんなど外部の方から見ると、職員によって方向性や対応が定まっておらず良い組織ではなかったかなと思います。
評価制度上で明確に『評価者』という役割を設定するため、想いや意見を伝えやすくなりました。目標設定や評価の面談で、「ここはもっとこうした方が良いんじゃない」「ここはもっとできると思うよ」など、アドバイスを伝えやすくなりました。
評価者から被評価者への想いを先述しましたが、逆も同じです。職員は、以前も職員会議などで自分の意見を発言できる機会はあったのですが、会議と個人面談は全然違いますね。会議で積極的に自分の意見や改善提案を発言できる人もいますが、苦手な人もいたので。今まで自分の意見を出せなかった人に対しても、個人面談であれば話を聞くことができます。全体目標だけでなく、個人別の目標や評価の話を軸に面談を進めるため、「何をやりたいと思っているのか」「どんなことに熱意をもって仕事しているのか」を知り、それがお寺としての方針に沿った内容であれば後押しできるようになりました。評価をすることで、一人ひとりの違った側面も見えるようになるんだなと実感しています。
そして、もう1つ効果として感じていることがあります。掲げているだけだったビジョン(方針)が、行動に現れ始めたことです。
導入前もお寺としての活動方針はありましたが、あくまで“掲げている”だけで、しっかりと個々人の行動にまで落とし込めていませんでした。しかし、現在は抽象的だったビジョンを具体的な指針として評価項目上に設定し、その選定理由も伝えますから、取り組んで欲しい目的や「誰のために」「何のために」を伝えられるようになりました。職員も自分の行動が「誰のためになるか」を理解できるようになり、自然と行動が変わったのだと思います。
例えば、評価項目のひとつに「ありがとうカード」というお礼報告の数を入れました。私どもは宗教法人ですから、「門徒さんがどれくらい増えたのか」は数えられますが、それよりも門徒さんを気持ちよくお迎えしてお帰りになる頃には笑顔になったり安心したりできるような、「門徒様の満足度」を大事にして欲しいと思っていました。これを数値化してみることにしたんです。この項目があることによって、別の職員や門徒さんへのこれまでの接し方を見直し、意識して改善できました。
最後に、これは法人としての変化とは話が逸れるかもしれませんが、評価制度を通して一番変わったのは私かもしれません。今まで以上に職員一人ひとりのことをよく見るようになりましたし、接し方も変わりました。元々、職員の良いところを見るように心がけていましたが、今まで気づけていなかった良いところや職員の良い考えを発見できました。
社会に出ると、よほど意識しない限り成長の機会があまりないと思うんです。評価制度は、私自身の成長のためにも役立っています。
今後、人事評価制度の運用により実現したいことを教えてください。
個々人が自分のお寺での役割を認識し、それぞれの目的に合った目標を掲げて達成することで、地域の方々や門徒さん、職員、皆さんにとってより良いお寺にしていきたいです。
今はまだ、全体的な目標と個人が自分で考えるパーソナルの目標にズレがあることがあります。しかし、評価制度を続けていくことで、お寺の方針の中で職員それぞれが担う役割や意義に気づき同じ方向を向けると考えています。常に「より良い」を求めるので、道のりは長くゴールももしかすると無いのかもしれませんが、これから先立ち止まることなくそれぞれの立場にとって良いお寺になることを期待しています。
人事評価制度を導入する企業に対してのアドバイスをお願いします。
すごく簡単に言いますね。(笑)とにかく、やってみたらいいと思います。
導入する前は、「反発があるんじゃないか」「戸惑ってしまうんじゃないか」など当然不安も多いかと思いますが、不安も全てひっくるめてやってみないと分からないんです。やってみないと何も変わらないです。
やってみてダメならやり直せばいい。踏み込んでみることで変化はありますし、上手くいかなくても何かしら得られるものはあると思います。
成長し続けていくためにも、勇気を出して踏み込んでみてください。