三木特種製紙株式会社様
- 事業内容
- 特殊紙・機能紙・不織布の製造販売
- 従業員数
- 183名
- 設立
- 1947年10月
- 所在地
- 四国愛媛県
- 課題
- 離職率を下げていきたい
あしたのチームを導入した理由はなんですか。
代表取締役社長 三木 雅人氏
社長:当社は創業70年を超える会社なので、人事制度が古い。これを変えなきゃいけないと、前々から思っていました。でも労働組合があって、何十年間も続いてきた年功序列の賃金カーブを崩せない。優秀な若手社員がいても、個人の賃金を上げられない状況でした。
そんな問題意識を抱えていたとき、あしたのチームのセミナーを受講したんです。そこで知った制度こそ、まさに私たちが求めていたもの。個人の成果が給与に結びつく人事評価制度でした。そのコンセプトに共感して、導入を決めましたね。
Q.労働組合の反発はなかったのでしょうか?
社長:労働組合からも相当な反発を受けましたよ。当社の労働組合は製紙業界の労組連合会に加盟し、強い力をもっています。毎年、社員の昇給や賞与などは組合と交渉して決めていました。もし個人の成果と査定がひもづく人事評価制度を導入したら、労働組合の存在意義がなくなってしまいます。まずは役員と部長・次長クラスで相談し、管理職の合意を得ました。その後、労働組合と話しあい、新制度の目的をていねいに説明。最終的には「とりあえずやってみる」ということで、なんとか納得してもらいましたね。
常務:社員からの反発もありました。その大きな理由は“マイナス査定”が制度上ありうること。「賃金を下げるために人事評価制度を導入したんじゃないか」という不信感を招いたのです。実際、従業員向けの説明会が終わった後、ある年配社員から詰め寄られました。
Q.2017年2月から新制度の運用が始まったと聞きました。うまく回るようになったのは、いつ頃でしょう。
常務:一度の説明会だけでは、制度の仕組みを理解してもらえません。それで毎月のように研修を開催。評価者向けと被評価者向け、それぞれの研修を根気よく続けて、1年後には円滑に回るようになりました。
社長:最初は見切り発車でしたね。あしたのチームの“運用おせっかい”を受けながら、実地でシステムを学んでいきました。
導入後の効果・成果を教えて下さい。
会社外観
常務:当初の目的は年功序列を排して、若い社員を適正に評価すること。でも、それ以上にポジティブな変化がたくさん生まれました。まず社内コミュニケーションが活性化しました。毎月の面談が必須なので、自ずと上司と部下が業務について話しあいます。それまでは「上司が好きじゃないので、あまり話したくない」という社員がいるなど、意思疎通が不十分でしたから。
社長:昔は忘年会や納会にほとんどの社員が参加していましたが、最近は半数以下に激減。“飲みニケーション”がなくなり、世代間に溝が生まれていました。それが制度導入を機に埋まったんです。そもそも、社員の約8割は製造部。彼らは機械のオペレーターなので、自らの目標を設定して、明文化するだけで大変です。しかも、クラウドシステムを使うので、コンピューターに入力しなければいけません。そこで工場にWi-Fiを飛ばして、班ごとにタブレットを配布。すると、年配社員が若手社員に使い方を聞くようになり、世代を越えたコミュニケーションが生まれました。今後は当社もIoTを進める予定なので、全社員にITリテラシーが求められます。強制的にクラウドを使わせることで、その素地が整いました。
専務:工場は24時間稼働なので、製造現場は交代勤務です。従来は勤務時間の異なる班同士のコミュニケーションが不足していました。だから、同じ機械を使っているのに、各班がバラバラのやり方をしてしまう。それが新制度の導入で変わり、生産性も上がるようになりました。
Q.コミュニケーションの活性化によって、ITリテラシーや生産性の向上につながったんですね。
社長:当社は従業員から業務改善提案を募っているのですが、質・量ともに以前より向上しました。これもコミュニケーションの活性化によるものでしょう。やはり目標管理制度(MBO)が入ったので、自分の成績を上げるため、部署の成績を上げるために、どうすればいいかを話しあいます。すると、ムダな作業が減って、改善提案が増える。事例発表会もあるので、イチ部署の成功例が他部署にまで波及するようになりました。
人材育成に成功した秘訣を教えてください。
Q.評価制度の導入は、管理職の育成にもつながりましたか?
社長:ええ。一人ひとりの部下の状況を上長が把握し、その上の管理職も問題を認識できるようになりました。それまでは誰が何に悩んでいるのか、わかりませんでしたから。ただ、数十名をまとめる次長クラスは相当大変ですよ。目標を設定したと思ったら、すぐ中間面談がやってきます。その後に評価して、次の目標を設定して…と、PDCAサイクルを回し続けなきゃいけない。相当な時間をとられますが、そのエネルギーのおかげで問題の所在がわかり、改善策も行き渡るようになりました。
常務:次長の下の役職は、課長、係長と続きます。以前は彼らのコミュニケーションもうまくいっていませんでした。特に製造現場のベテラン係長は、若い課長とソリがあわない。この制度を導入してからは、課長が部署の方針を伝えて、それにしたがって係長が目標を立てるようになりました。
社長:四半期単位の目標設定によって、会社の方針もタイムリーに共有できるようになりましたね。会社全体の目標をもとに、部署の目標、個人の目標へとブレイクダウンしていきますから。
Q.印象に残っているエピソードを聞かせてください。
常務:あるベテラン社員の変化が強く印象に残っています。彼は50代の係長。最初の説明会では、机を叩いて怒っていました。「こんなこと、やってられるか!」って。でも会社命令には逆らえません。渋々取り組んでもらったところ、1年後には自部署の成功事例を発表するようになったんです。1年でここまで変わるのかと驚きましたよ。また、説明会のときに携帯電話をいじっていた若手社員がいました。彼は納得いかないことに反発するタイプ。人事評価制度の運用を始めると、直接不満をぶつけてきました。そのたびに説明を続けていたら、やがて納得するように。半期が過ぎた頃には、社内報で人事評価制度の特集記事を組んでくれました。彼が自主的に企画して、経営陣の想いや制度の目的を伝えてくれたんです。
Q.その頃には「賃金を下げられるんじゃないか」という疑念も晴れたんですね。
社長:そうですね。半年後に一度目の査定を行い、ほとんどの社員が昇給しました。会社の業績が上がり、自分たちの評価が上がり、それなりに賃金も上がる。それらが実証できたので、かなり理解が深まりました。最初のハードルが低かった側面もありますが、円滑に制度を移行するためには必要な投資でしょう。特に若手社員は先が長いので、伸びしろが大きい。「どうやったら、どれだけ給与が上がるのか」がわかるので、モチベーションも上がってきたと思います。なにより、基本的な姿勢を正されましたね。なにか問題が起きてから、「さぁやろう」と腰を上げるわけじゃない。一人ひとりが目標を設定し、3ヵ月ごとに評価するので、毎日階段を上るように少しずつ進歩していきます。1年経ってみると、会社全体のアウトプットが格段に増えました。